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黒隻の簒奪者  作者: ちよろ/ChiYoRo
第5章

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第97話 エルフ狩り

「親方ぁ!失礼しやす!もうすぐ報告のあったエルフの隠れ家に着きますぜ!たぶん日が昇りきるまでにはやつらの寝床に着くみたいですぜ!」

「フンっ!そうか。……コレも飽きたな、てめぇにやるよ」


 親方と呼ばれた男は無造作に手に持っていた荷物を投げ捨てる。ソレは体中傷だらけの全裸の人族女性だった。首には縄でキツく絞められたように赤く痕がついており、息も絶え絶えであった。


「まじスカっ?!つってもエルフも最初は親方がヤルんでしょ?」

「当たり前だろうが。もし俺が手を出す前にヤってみろ、そいつには二度とヤれねぇようにしてやると伝えときな」

「へ、へい!失礼しやす!」


 親方に真正面から殺気をぶつけられた男は打ち捨てられた女を持って別のテントへと走っていった。そしてそれを見届けた親方と呼ばれた男も自身の威厳を示すために無駄に威嚇的なテントへと戻っていった。


「カカッ、ようやくエルフをこの手に出来るのか。全てに手を出してしまえば依頼者に殺されるからな。まぁ数人くらいならいいだろ」

「あまりやり過ぎると彼ら絶滅しちゃうわよ?」

「ふん、まだ他にも集落はあるんだろ?それも一つや二つ程度ではない数の。ならば一つくらい潰しても問題ないだろう」

「ま、それも捕らえたエルフから聞いた話だから本当かは分からないけどねぇ。もしここしか無かったらどうするのよ?」

「その時はその時だ。交尾できる数人だけ残して増やさせれば良いだろ。文句あるのか?」

「もう、結局無計画なんじゃない。ま、いいわ。私はあなたについていくだけだもの。文句なんて何もないわ」


 そう言ってテントの中にいたその女は親方へとしなだれかかる。その女はまるで色気そのものとも言える妖艶さを持つ、絶世と言えるほどの美女だった。


 腰まで伸びる黒髪は光を放ってもおかしくないほど艶めき、それに負けぬほど美しく凛々しい瞳に甘い唇。首はすらりと長く、肌は他に類を見ないほどの透明感を持っていた。


 それらで構成される全身のプロポーションは全ての女性が羨みを通り越して直視できないほど整っている。それは1度目にすれば全ての男性が魅了されてしまうと言っても過言ではないほどだ。


 しかし、この男にだけは通じなかった。どれだけ女の武器を使おうと決して誘いに乗らず、かと言えば性欲がないわけではないようで、そのあたりで拾う女はモノのように扱い、同族でもまるで容赦がない。


(私そんなに魅力ないのかしら?私には一切手を出してこないし……。ちょっと自信無くすわ)


 私は元々最初からこの傭兵集団にいたわけではない。それまでの女たちと同じく、途中で彼らに襲われ性欲を満たす道具とされるところだった。例に漏れず、私の仲間たちは慰み者にされここまでの間で散々使われた後、獣の餌とされた。


 では、なぜ私がここにいられるのか。それはこの男から側付きを言いつけられたからだった。最初は私の美貌に見惚れたのだと思った。


 だが、その予測に反して私には一切手を出してこず雑用を申し付けるばかり。私はこの不思議な男が何をしたいのか全く分からなかった。


 ちなみに私と一緒にいた仲間たちは今日初めて同じパーティーとして活動しようとしていたためか、不思議と全く悲しみはなかった。


「おいミレイヌ、喉が渇いた」

「はいはい、ちょっと待ってて下さいね。今ぶどう酒を持ってきますので」


 ここにくるまでの3日間ずっとこんな感じだった。







 ーーーーーーーーーーーーーーーー






 あれから時限通りに進み、少し辺りが白み始めた頃またも1人の男が俺のテントへ入ってきた。


「親方ぁ!失礼しやす!どっから聞きつけたのかエルフが向こうから来やしたぜ!!」

「何?ほう、向こうも馬鹿ではないというわけか。面白い、ただ蹂躙するだけではつまらぬ。伝えろ、者共、これは狩りだ。存分に暴れろ、とな」

「ひゃっはいー!了解でやす!!」


 俺が簡単に伝えると部下の男は顔に下賤な喜色を浮かばせながら奥の広い地へ戻っていく。どうやらすでに戦闘態勢は整っているようで、すぐに雄叫びが聞こえた。


 そして地鳴りのような音と地面の揺れが遠ざかっていく。やがて彼の周りには生物など消えてしまったかの如く静けさが覆った。


「ミレイヌ、お前の子飼いは?」


 俺は脇に立つ女へとふと問いかける。


「———……何のこと?」


 一瞬で取り繕ったが、俺の目は誤魔化せない。ずっとこの女が誰かと通信らしき行動をしているのは分かっていた。最初に見つけた時からこの女は同行していた者と空気が違ったのだ。


 何か面白そうな不確定要素が出来るかと思い連れてきたが、予想通りだった。この俺に完全には従わず、どこかで何か出来るように手を打っているところなど特に良い。


「しらばっくれずとも詮索しようとは思わん。何をしようと構うまい。だが、動かせるなら少し貸せ」

「……はぁ、あなたって人は。何させる気?」

「奴らと餌の戦端が始まると同時に集落の裏から忍ばせろ」

「なるほどね、それくらいなら私が行ってくるわ」

「ならん、お前はここにいろ」

「……どうして?それは私を信用できないから?それとも私を舐めてる?」


 目の前の女が少し殺気を零す。だが、その濃度は見た目の妖艶さとは比較にならないほど濃い。


「そうではない、お前が行けば誰が俺の世話をするのだ?子飼いにやらせることは雑事だ。そのためにお前の子飼を数人貸せ」

「それが嫌なの察してよ、全く。はぁ、あなたには叶わないわ。……わかった、だからお咎め無しにしてね?あと、誰にも言わないで」

「ふん」


 そう言ってミレイヌは自身の指を噛み、テントの外に向けて血を飛ばす。その飛沫は地に着く事なく姿を鳥、猿、そして人間へと変え、左右の森の中へと消えていった。


「これでいいかしら?」

「あぁ、充分だ」


 俺が手招きするとミレイヌは呆れたような顔をしつつ、テントに戻り紅茶を注ぐ。そしてどこから取り出したのか茶色の柔らかそうな菓子を取り出して皿に盛り、俺へと差し出した。


「ふむ、甘いな」

「私の大好物なの、いいでしょ?」


 さて、やることは済んだ。ただ狩られるだけではつまらんぞ?何かして見せよ、エルフ。








 ーーーーーーーーーーーーーーーーー







「総員、放てぇーーー!!!」


 周りの木を飛び移りながら我々は前から迫る瀑布のような人間の群れへと矢や風の魔法を放つ。木の上から放つ矢や魔法は上からであることもあって威力を増して人間を襲う。


 しかし、彼らも無策で来ているわけではないからか、手に持つ盾や鎧に弾かれたり倒れた仲間を盾にしてがむしゃらに進んでくる。


 だが、恐ろしいことに運良く鎧の間に攻撃がささり着々と数を減らせてはいるが、彼らは恐怖を知らないのか、仲間が倒れても意にも介さず我々へと進んでくるのだ。


「く、くそ!こいつら本当に人間か?!」

「キャーー!!」

「ぐぁーーー!!

「リェンヌ!?レィバス!!くそ!下がれ!下がれーー!」


 我らは近距離が得意ではない。そのため距離を開けて攻撃を放つのだが、奴らは仲間の死を気にせず進んでくる。そうして奴らの攻撃が届く距離になると村長の言う通り、森への配慮など気にもせず、“火魔法”や火矢を放ってくる。


 そうして木から落ちた仲間はまるで腐肉に群がるゴブリンのように一斉に人間に襲われる。そして男女関係なく何人もの同胞が散々痛めつけられ、意識を失った彼らの手足を縛り人間に引きずられていった。


 なんとかそれを阻止しようと引きずる人間の頭を射抜くのだが、1人2人を倒した辺りから同胞を盾にし始めたせいで阻止も難しくなっていった。


 だからこれ以上そうならないためにもなるべく彼らと距離を開けなければならないのだが、あまり下がることもできない。なぜなら下がれば下がるほど村へと近づくからだ。しかし、火によって足場が無くなれば地に降りるしかなく、降りれば地獄が待っている。


 結果として前線を下げざるを得なかった。


「くそ!人間如きがっ!!リェンヌを返せぇぇ!!」

「おいっ!やめろ!ムベナト!!」


 1人の仲間が痺れを切らして皆が腰に持つナイフでもって上から人間の首を切り裂く。そしてそのまま横に立つ人間の手首を切りつけ今まさに連れて行かれようとしている同胞のもとへ走っていく。


「やめろ!帰ってこい!ムベナト!」

「よそ見してていいのかにゃあ!!」

「クソ!」


 必死に地へ降りた仲間を呼びかけるが、ほかの人間どもがそれを許さない。なんとか彼らの火矢を交わしつつ魔法を放つ。


「ぐぁぁ!!!」

「やめ、やめてっ!いやぁぁーー!!」


 遠くで同胞の悲嘆の声が聞こえる。向こうは魔法で森の延焼を抑える部隊だったはず。まさかそんなところにまで人間が行っていたなんて。


「下種どもが……っ?!」

「コーンニーチワー!!」

「な、何で……?!」


 怒りのあまり気が散ってしまったのか、目の前には先ほど自分に向けて火矢を放ってきた人間が居た。そして自分は目の前の男が振るう拳をモロに受けてしまった。


「がはっ?!!」


 突然のことに受け身を取ることも出来ず、背中から地面に落ちてしまう。


「っ!……っっ!?」

「人間飛べなくても魔法で跳ぶことは出来るんだよ。よそ見してっから落ちちゃいまちたねー!ギャハハ!!」


 当たりどころが悪かったのか、息が止まって呼吸が出来ない。自身の死が明確に近づいているのか、目の前の男の動きがやけにゆっくりに感じる。


 男の手には鈍色に血の混じる長剣が握られていた。

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