ドラゴンとの戦い・決着
「カイン君、この前見せてもらったみたいに、できるだけ大きなアイシクルエッジを作れますか?」
「うん、ちょっと時間がかかるけどできるよ」
よし、ではカイン君はアイシクルエッジを大きくしながら、ルークスと一緒に前線で攻撃。わたしは……トリモチを頑張ってくっつける!
ルークスはドラゴンと交戦中だ。わたし達も早く向かわなければ! 走って行くには距離があるので、わたしはせっかく作った台車をキックボード代わりにして乗っていくことにした。結構早かった。
わたしよりも一足早く、走ってたどり着いたカイン君は、さっそくドラゴンの後足に斬りかかった。ドラゴンは尾を使って、後ろから近づくわたし達を薙ぎ払おうとする。鞭のようにしなる尾が、ひゅっとわたしの頭をすり抜けた。……これ、普通だったら首が飛んでるよね? カイン君はタイミングを見計らって、しゃがんでよけていた。ルークスは剣で受けていたが、あまりの衝撃で膝をついた。まずい。しばらく間、一人でドラゴンの相手をしていたルークスはすでに瀕死状態だ。……瀕死…………攻撃力UP!
わたしは急いでドラゴンを鑑定する。
【レッドドラゴン】
LV :99
HP :48876/99999
MP :98700/99999
攻撃力:9990
防御力:8320
素早さ:7580
スキル:【薙ぎ払う】【飛行】【咆哮】【ファイヤブレス】【詠唱短縮】
魔法 :【トルネード】【イラプション】【メテオ】
HPはやっと半分といったところか……。アシッドレインで定期ダメージが入っているのが大きいな。防御力は高いが、最強装備と瀕死攻撃力UPに加え、攻撃力二倍のクリティカルさえでれば、それなりに削れるはず。ルークスには悪いが、なるべくこのまま瀕死状態を保ってもらうことにしよう。
エステラからの絶え間ない攻撃と、カイン君からの連続攻撃、それに鬼気迫るルークスの攻撃を受けて、ドラゴンはたまらず上空へ飛び立とうと翼を広げた。……いまだっ!
「カイン君、お願いします!」
合図とともに、鋭く尖った巨大な氷柱がドラゴンの翼へと命中する。ドラゴンの叫び声がして、両翼には大きな穴が開いた。これで空を飛ぶことはできないだろう。ふっ、やっとわたしのターンだっ!
わたしはドラゴンの元へ近づき、踏みつぶされながら少しずつトリモチを足の裏にくっつけていく。後ろ足をくっつけ終わったら次は尾の方へ。徐々に範囲を広げていき、ドラゴンは前足を残し、お座り状態で動けなくなった。
それでもまだ諦めず、ドラゴンはブレスで攻撃を仕掛けてくる。だが、先ほどまでの攻撃範囲と比べると雲泥の差だ! 首は真後ろにまでは回らない。ずるいと言われるかもしれないが、わたし達は背中側からドラゴンをフルボッコにした。
「とどめだっ!」
本当にとどめを刺してもらっては困るが、気分的なものだろう。ルークスが大きく振りかぶってドラゴンの首に一撃を加える。ドラゴンはゆっくりと地面に前のめりに倒れた。
『見事だ、人の子よ……戦法が若干卑怯な気もするが……負けは負けだ。主らの力を認めよう』
満身創痍のドラゴンと瀕死のルークスを、カイン君とエステラが手分けして回復していく。傷だらけでもルークスは嬉しそうだ。憧れのドラゴンだもんね。わたしも内心テンションが上がっている。
実質ゲーム上最強のドラゴンを倒したことにより、全員のレベルもかなり上がった。移動手段もできたことだし、次は精霊の加護集めに回ろうかな?
翼の穴もすっかりふさがったので、南の森にいったん戻ることにした。わたしは座席と安全ベルトを創り、ドラゴンに取り付けさせてもらう。これで少しは怖くないよ!
みんなが座席に乗り込んで安全ベルトを装着する。……おっと忘れるところだった。わたしは地面にさしておいた杖を取りに戻る。今のところ有効な攻撃手段ではないので、邪魔にならないところに置いておいたのだ。
まったく……安かったので文句は言えないが、期待外れにもほどがある。座席に乗り込み安全ベルトを締めてから、わたしは杖をもう一度鑑定してみた。
【木の杖・改】
なんの変哲もない木の杖……だったものを賢者が戯れに禁術の落書きを施したことによって、持ち主の魔力を吸い取りながら成長を続ける呪われた杖となった。
だからその成長っていうのが……あれ? 下にまだスクロールできる。
一定魔力が溜まりました。成長させますか?
はい・いいえ
……任意で成長させるタイプの杖だったんですね。完全にこちら側の落ち度です。すみません。
わたしは「はい」を選択した。まっすぐだった杖はしゅるしゅると捻じれていき、ただのコブだった上の部分は、少し伸びるとくるりと渦を巻いた。うわー、より魔法使いっぽくなったー! 魔法、使えませんけどね!
わたしは形の変わった杖を鑑定してみる。
【魔術師の杖・改】
持ち主の魔力を吸い取りながら成長を続ける杖。魔法の効果がアップする。殴られると痛い。
いや、変わってないしっ!! 攻撃力も10だったのが15になっただけだしっ!! まさかこれが最終段階ってことはないよね? はぁ……もう少し育ててみるか。
座席がついたことによって更に快適さを増したドラゴンの背にのり、南の森に戻った。わたし達はドラゴンを正式に使役するため、了承を得てから魔獣の首輪をつけることにした。本人たっての希望で、ルークスをドラゴンの主人として登録する。これでどこにいても主人の居場所がわかるらしく、呼び出せば文字通り飛んできてくれる。
呼び出しは念じるだけで良いのだが、ルークスはそれっぽく、指笛で合図を送ることに決めたらしい。先程からピーピーピーピー練習をしている。ちょっとうるさい。
ドラゴンはこの度の経緯を報告したい相手がいるらしく、飛び立っていった。わたし達は泉の周りでドラゴンの帰りを待つ。
泉の周りは柔らかな草が生えていて、ジャングルだった森の中とは少し様子が違う。可愛らしい小さな花も咲いていて、妖精でもでてきそうな雰囲気だ。地面に目をやっていると、掘り起こされたばかりの土を見つけた。先程ぽきゅぽきゅの種を埋めた場所だ。わたしは泉の水を手ですくい、土にかける。……どんな花が咲くんだろう?
しゃがみこんで種を埋めた場所を見つめていると、若干土が盛り上がった。ん?
盛り上がった部分から、ぽんっと双葉が生えた。……早くない? わたしは驚きつつも、再び泉の水をかける。双葉はむくむくと大きくなり、本葉が生えた。……早くない? こうなったら、どこまで成長するのか見てみたい。わたしはどんどん泉の水をかけ続ける。それに応えるように、茎はどんどん背を伸ばしていき、わたしの身長と同じぐらいの高さに成長し、一つの白い大きな蕾をつけた。
「ユーリ、何やってるの?」
異常な成長を見せる花に、みんなが集まってくる。
「……いや、ぽきゅぽきゅの種を埋めたところに、泉の水をかけたらどんどん成長するので……調子にのってしまいました」
三人はなんともいえない表情になり、顔を見合わせる。え? なんかまずかった?