ドラゴンとの戦い
わたし達はひそひそと作戦会議を行い、準備ができたところでドラゴンに声を掛ける。お待たせして申し訳ございませんでした。準備が整いましたので、よろしくお願いいたします!
『……では行くぞ!』
戦闘開始直後にドラゴンの【咆哮】が響き渡る。こ、怖いっ! わたしはすくみ上ってしまったが、みんなには効果がなかったようだ。
カイン君は作戦通りにアシッドレインの詠唱を始める。剣の詠唱補助効果のおかげで、すぐに上空に魔法陣が展開された。徐々に体力を奪っていく雨が、静かに降り始める。わたしもダメージを受けてしまうが、みんなからの攻撃も受けているドラゴンのHPの方が先に尽きるはず! 作戦名は「アシッドレインでちょこちょこダメージ! 長期戦覚悟のひたすら耐える作戦」だ!
エステラは少し離れた場所から弓で攻撃をしつつ、みんなの体力回復係を担当してもらう。僅かではあるが、矢のダメージは通っているようで、ドラゴンが煩わしそうにエステラを一瞥する。
ルークスはパーティーの中で一番攻撃力も防御力も高いので、直接ドラゴンの相手をしてもらう。が、やはりレベル差もあって、真正面からの攻撃はなかなかドラゴンに当たらない。ドラゴンは余裕綽々とルークスの攻撃をかわし、口に炎を溜め始めた。
やばいっブレスがくるっ!! 恐怖で体がうまく動かないわたしは、せめてみんなに知らせねばっ! と、自分の顔を叩き、気合を入れる。
「ブレスがきますっ! みんなよけてください!」
ドラゴンは左から右へと、大きく首を振りながら激しい炎を吐き出した。ルークスはドラゴンの体の下へと滑り込み、ブレスをよけていた。……よけられたのはいいけど、そこ危なくない?
エステラはもともとブレスの射程距離外にいたので弓での攻撃を続けている。カイン君は新たな魔法の詠唱をしながら、ひらりとブレスをかわしていた。つまり、炎に包まれているのはわたしのみっ! 熱くはない! だが、ものすごく怖いっ!!
カイン君のブリザードが発動する。ドラゴンが右半身から凍り始めたが、自らのブレスで氷を溶かしていた。……そんなことできるんだ。ドラゴンが氷に気を取られている内に、潜り込んでいたルークスが、腹に剣を突き立てる。ドラゴンは忌々しげに前足でルークスを弾き飛ばすと、上空へ飛び立った。
「ルークス!」
エステラがルークスに駆け寄り回復魔法を唱える。ルークスは今の一撃で体力をかなり奪われたようだ。自動回復が追いついていない。
ドラゴンは上空で羽ばたきながら魔法を使ってきた。これは……【メテオ】だ! 火炎系の最上級魔法! ドラゴンの周りにいくつもの魔法陣が展開され、そこから隕石が召喚される。
あわわわ! ルークスが死んじゃう!
「エステラ! 癒しの風の詠唱に入ってください! カイン君はメテオ着弾と同時にルークスと自分の回復をお願いします!」
エステラは魔法攻撃無効の防具があるので大丈夫! カイン君も水の加護持ちだから、一撃で死ぬようなことはないと思う。問題はルークスだ。復活のアイテムも魔法もない今、死んでしまったら……かなり困る!
燃え盛る隕石が、連続で落ちてくる。凄まじい衝突音が辺りに響き渡り、衝撃で大地がえぐれた。……これゲームじゃなかったら星が滅ぶレベルじゃない? ほんとに大丈夫かみんな!?
わたしは砂塵が舞い、視界の悪くなった周囲から必死でみんなの姿を探す。……いた! エステラの体は光のドームで包まれ、無傷だ。魔法攻撃無効の魔法陣ってそういう感じなんだね! しかもエステラに膝枕されていたルークスまでもが、そのドームの恩恵にあずかれたらしく、メテオのダメージは見受けられない。……もうずっとくっついてれば?
そうだっ! カイン君は!? カイン君は無事!? わたしは立ち上がり、カイン君の姿を探して回る。アシッドレインはまだ降り続いているので、術者であるカイン君が生きていることはわかるのだが、ダメージはどの程度なのだろうか?
だんだんと視界がクリアになっていく。エステラの癒しの風が発動して、わたしの体を光り輝く風がくるくると取り巻き始めた。お願いです風の精霊さん! わたしはどうせ回復しないので、その分カイン君を回復してあげてくださいっ! 無駄だと分かっていても一応お願いをしてみる。ふと見ると、わたしの他にも光る風が向かっていった場所があった。わたしは急いでその風を追いかけると、そこにカイン君が倒れていた。
カイン君の体を光る風がくるくると舞い、傷を癒していく。まだ意識は戻っていないようだ。わたしは急いでポケットから予め渡されていた薬草を取り出し、残った傷口に押し当てた。直撃は免れたようだが、露出部のやけどと裂傷がひどい。カイン君の顔に傷が……! わたしはありったけの薬草を取り出し、べたべたと張っていく。
作戦会議は待ってくれたが、戦闘に入ってからのドラゴンは容赦がないようだ。地面に魔法陣が展開されたかと思うと、溶岩が勢いよく噴き出してきた。……まじか。メテオに次ぐ、火炎系上級魔法【イラプション】だ。
とにかく逃げなきゃ! わたしはカイン君を抱えて、迫りくる溶岩から逃げようとしたのだが……細く見えても、意外と重い。わたしの力ではカイン君を持ち上げることができない。どどどどうしよう!?
えーとえーと、なにか運べるもの……台車? 台車だ! わたしは会社で資料を運ぶときに使用していた台車を創りだすと、カイン君をずりずりと引きずって乗せ、急いで逃げた。
溶岩はすぐそこまで来ている! 足に自信はないが、カイン君の命がかかっているのだ。わたしは今だかつてない速さで台車を押しながら溶岩から逃げるっ! しばらく走っていると、癒しの風の効果か、薬草のおかげか、はたまた台車の振動の所為なのかはわからないが、カイン君が目を覚ました。
「……う……いたっ……」
カイン君は顔をおさえてむくりと起き上がる。良かった! 意識が戻った!
「……え? なにこれ? え?」
まだ現状が把握できていないらしく、戸惑っているカイン君。わたしは走りながら、かいつまんで現状を説明した。
「うわ……ごめん、ユーリに迷惑かけちゃったね。……もう大丈夫だから」
カイン君は自分にウォーターヒールをかけると、すぐにまた詠唱をはじめ、ブリザードで溶岩を冷やした。熱を奪われた溶岩は見る見るうちに黒くなり、固まった。
「す、すごいですね!」
「うん、ここだけならなんとか……でもイラプションの方が上級魔法だし、全部を冷やすのはきついかな……」
カイン君は引き続きブリザードで溶岩を冷やし続ける。そのうちに溶岩は冷えて固まった部分も含めて消えてなくなった。上空を見ると、エステラが弓でドラゴンを攻撃している。そのせいでドラゴンの気が逸れたのだろう。
「あのドラゴン、一つの行動しかできないんだね」
カイン君がドラゴンを見上げながらつぶやく。
「え? 普通はそうじゃないんですか?」
わたしも一つの行動しかできないけど? マルチタスク機能なんか搭載されていませんけど?
「そうなのかな? 僕、同時に魔法使ったり、詠唱しながら剣で戦ったりできるけど、ドラゴンはどっちかしかしないよね。集中するタイプなのかな?」
なるほど。ドラゴンが使用するのは上級魔法ということもあって、集中力が必要なのかもしれない。じゃあエステラに弓で攻撃をし続けてもらえば、魔法攻撃は防げるということだろうか? 正直、メテオをもう一度受けるよりは、物理攻撃を受けたほうがまだましだ。
ついでに言えば飛行能力もなんとかしたい。わたしの手の届く範囲にいてくれれば、トリモチをくっつけることができる。
……よし、作戦変更! 物理攻撃でガンガンいこうぜ!




