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東方迷人記〜空から降って来たのは男の子でした〜  作者: 長良
二章…すれ違い続ける者たち
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諸事情ありまして、だいぶ(どころではなく)時間がかかってしまいました、毎度お馴染み長良です。


実は結構前に、スマホからガラケーへと機種変致しまして…そのおかげで、小説というものからとんと離れた生活を、暫しの間送っていたのですがーーなんと、遂に我が家にWi-Fi様がいらっしゃいまして。これで時代の波に乗れたぜひゃっほいとばかりに、それこそ水を得た魚のごとく一日で書きましたのが、この回になります。

そんな訳ですので、頑張った副産物として誤字等ございましたら、申し訳ございません。そしてこれからも、東方迷人記をよろしくお願い致します。

「…………………」


私は、黙って歩を進める。目の前で幸せそうに抱き合っている二人へ。


諫早唯衣と、水橋パルスィ。なるほど、こうして考えてみれば、この二人には共通点が多く見て取れる。厄介になっている内に、お互い情が移ることもあるだろう。

……誤解の無い様に言っておくなら、決して焼きもちなどを焼いている訳ではないのだ。今更彼が心変わりをするとは思っていないし、そもそも目の前の二人からは、そういった雰囲気が全くもって漂って来ない。

ただ、私より先に、この橋姫が彼と出会っている。その事実が、単純に許せなかっただけの話である。

ーーはてさて、どう煮たり焼いたりしてくれようか。


「………と・に・か・く」


淡々と、あえて表情を全て消して、私は二人の元へと歩み寄る。

そのまま少し近寄ると、こちらに体を向けていた唯衣が、ようやく私の存在に気付いた。ぱあぁ、と眩い笑みが浮かぶ。……何だか急に、自分がどうしようもなく汚れている様な気がしてきた。

その上、今気付いたが、どうやらパルスィは涙を流しているらしい。何故かはわからないが、それを見ても、ちくりと胸が痛んだ。

頭の中がぐしゃぐしゃで、自分でも何を考えたらいいのかわからない。言いたいことややりたいことが多過ぎて、まるで手足に鉄の枷を嵌められたかのようだった。


……ここで、私がとるべき行動は。



(もういいわ、ぐちぐち考えるのは性に合わない…こうなったら)

私は彼に全速力で駆け寄り……その顔面に、思い切り拳を叩きつけた。

「帰ってくるのが遅いのよ、馬鹿ぁーーーーッ!!!」


「なッ!?へぶ、っ…」

「ゆっ、唯衣君!?」

情けない声を上げて真っ直ぐ吹き飛び、ごろごろと転がる唯衣。

ーーおや。紫が大層な口を利いていたから、てっきりこの程度は避けるかと思っていたのだが…思いの外クリーンヒットしてしまったようである。

「あら、ら…ま、鍛錬不足ってことで」

真正面からの拳を避けられない程度のザマで、どうして弾幕を回避出来ようか。私はそう考えて、無理やり自分を納得させることにした。


「さて、と…じゃあパルスィ、今度は私の番だから」

そして私は、呆然と立ち尽くすパルスィに、軽く睨み付けてサムズアップ。無言のまま冷や汗を垂らし、橋姫の少女はこくこくと頷いた。

行動だけを見ればどう考えても私が悪者だが……まあ、そんな事は気にしても始まらないだろう。

「全く…手をかけさせてくれるったら」

はぁ、と大きくため息を吐き、未だ寝転がっている唯衣の元へと歩み寄る。


こうなったら、さっさとあの馬鹿を起こして、異変を解決してしまわねばなるまい。積もる話は、全てが片付いた後に思う存分すればいいのだ。



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜



「……って訳なんだよ、霊夢」

「うーーーむ……なんか納得いかないのよね」

あの後私は、目を覚ました馬鹿の頬にもう一発張り手をぶち込み、それでようやく落ち着いた。だが本人の頭の上に未だ疑問符が浮かんでいたため、まず地面に正座させ、その後は……まあ、ここで語るべきものでは無いだろう。ちなみにその後の仕打ちは、推して知るべし。

今は何だかんだで切羽詰まっているが故に、説教は手早く済ませて、恐らく紫より詳しい説明を受けているであろう唯衣から、この異変の顛末を聞き出すのが最優先である。

「ええっ、もう三度目だけど?説明」

「そういうのじゃなくて!何かこう、釈然としないのよ。上手くピースがはまらないっていうか……あぁもう、これから鬼神の駆除に行かなきゃならないってのに!」

「そんな害虫みたいな……」



今の地底の状況は、紫曰く、厳密には異変とは違うものらしい。岡崎夢美・(おぼろ)ペアによるものではなく、そのタッグに不信をつのらせた(暴れる場所を欲しがっていた、というのも大きそうだが)血の気の多い地底の住民達による『ただの暴動』なのだから、と。


『……あれ?それじゃあ、鬼神を退治する必要なんて無いんじゃないの?』

『その人が反撃さえしなければ良かったんだけどね…と言っても、あの状況で黙ってろっていうのも無理な話だっただろうし、これは言わばケジメの様なものだって言ってたよ』


……との事。

確かに、集団を統制する上で『上の者』が取るべき責任という概念は理解できるし、それに意を唱えるつもりは無い。私もこの幻想郷という巨大なシステムに組み込まれた歯車なのだから、何を今更という話である。

ただーー

(貧乏くじを引かされる側の身にもなりなさいっての……全くもう)

博麗の巫女。それは、人妖入り乱れるこの幻想郷に於いて絶対の中立を保ち、異変によってどちらかに傾きつつある天秤を、再び水平に戻す役。その視点からすれば、異変の解決だけなら、言ってしまえば巫女の仕事のうち約八割と言ったところである。

そして勿論、残りの二割は『後始末』。普段なら首謀者を呼びつけて、結界の効いた神社で宴会ーーで済むのだが、どうも今回は、もう少し面倒臭そうな予感がする。

そして今回の私は、紫によって体良くそれを押し付けられた形になるのだ……こうして考えてみると、改めてむかっ腹が立ってきた。今度会った時は夢想封印をぶち込んでくれよう、と静かに決意を燃やす私だった。

「ともかく、ちゃっちゃと鬼神を倒して神社に戻りましょう。唯衣とは話したいことが沢山あるし」

「うん、そうだね。僕もこの一ヶ月、霊夢に話したいことがいっぱいあったし」

「私だってそうよ。幻想郷における唯衣の扱いとか、私達のこれからの付き合い方とか……」

「「えへへへへ……」」


「………何だこのバカップル……」

どこか呆れたようなパルスィの声が聞こえたが、気にしない。

こちとら折角の再会に水を差されて、密かに(?)怒り心頭なのだ。この程度の役得、許されて然るべきだろう。



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「…………遅い」

一方、その頃。

地霊殿の門柱の上に立ち、威圧を込めて周囲を睥睨する、浅葱色の袴の大男…夢美からは童子さん、周囲からは鬼神や幻、彼の正体を知る一部の者からは矜羯羅と様々な呼び名を持つ彼は、直立不動の姿勢を崩さぬまま、静かに溜息を吐いていた。

(先程、勇儀ともう一つ、強力な力の衝突を感じた。あれが博麗の巫女だとするなら、もうここに辿り着いていてもおかしくはないだろう…一体、どこで寄り道をしている)

しかも、と幻は考える。

(夢美殿と戦っている、あの妖怪…一体、何者だ?確かに弾幕戦闘(ここのルール)そのものには不慣れでこそあるが、彼女も相当な力の持ち主。それを圧倒し得るレベルとなると……)

神の末席に名を連ねる者か、それこそ自分に匹敵する力の持ち主か。

その考えが浮かんだ瞬間、彼はぞくりと身を震わせた。

斯様(かよう)な妖怪が平然と力を振るうか…それが許されている時点ですでに『詰み』であると、何故気付かない。此処は、我々妖怪を護るための楽園ではなかったか」

幻は頭上を飛び交う『緑髪の』妖怪をしかと見据え、そう呟く。そしてその『赤いチェック柄の服』を目に焼き付けながら、心に誓った。


「此度の戦いが終わり次第…是非にも、貴様とは話をしてみたいものだな」



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜



そして、その少し後。霊夢と唯衣はーー


『…………アレが幻?なんかいかにもって感じの外見ね』

『うーわ…なんか一瞬で叩き潰されそうな気がしてきた。あんないかにもカタギじゃなさそうな人、倒せるの?霊夢』


ーー隠れていた。

あからさまな威圧を放つ幻を遠巻きに眺めながら、二人は声を潜めて話し合う。

『倒すしかないでしょ。男の妖怪ってのは珍しいけど、見た感じ力そのものは紫よりも弱いはず。本来なら私一人でもいけるレベルよ』

すっかり怯えきっている唯衣を元気付けるべく、自信満々に言い放つ霊夢。……といっても、彼女自身本気の紫とは戦ったことが無いため、あくまで推測に過ぎないのだが。

『そうかなぁ…わかった。スペルカードルールも一応練習してきたんだし、頑張ろう』

そんな霊夢の言い分にしばらく渋っていた唯衣だったが、すこし考え込んだ後に強く頷いた。

だが霊夢は、そんな彼の表情を見ても不満げな顔を隠そうとしない。

『……あなた、実戦経験は?というかそもそも、どんな訓練してたってのよ』

多少の棘が含まれたその言葉に対し、唯衣は困ったように少し考え込んで、言った。

『えーっと…ミスティアちゃんに鳥目にしてもらって、ずっと神奈子さんとか輝夜さんの弾幕を避けてた』

『うわぁ……』

想像以上のスパルタぶりに、若干頰を引きつらせる霊夢。

『うーん…でも、それでも私には届かないんじゃない?文の情報を信じるなら、最大でも十日ってところでしょ。それじゃ短いと思うんだけど』

『輝夜さんの能力で時間も遅らせてもらって、大体二ヶ月間やってたから』

『うわぁ、それは……』

攻撃はどうか知らないが、回避能力だけなら自分を凌ぐかもしれない。

霊夢はそんな事を考えて、その鬼畜メニューを見事こなした唯衣に、少し不謹慎な、尊敬の念を抱いたのだった。

ーーーと、その時。


「……こそこそと、何をしている?よもや奇襲の打ち合わせなどと、無意味な行いではあるまいな」


二人の頭上から、想像よりも涼やかな、低い声が聞こえた。


「「………え?」」

慌てて見ると、幻の姿は既に門柱の上にはなく。

「どこを見ている…拙者は此処に居るだろう」

「………」

恐る恐る振り向いた二人は…額に青筋を浮かべた、文字通りの鬼神を目にすることとなった。

「今か今かと待っていたが、まさかこの様な場所に隠れていたとは。拙者が考えるほど、上等なものでは無かったのか?博麗の巫女という存在は」

腕組みをして二人を見下ろしつつ、吐き捨てるように言う幻。

「……ちぇ、こうなったらもうどうにでもなれ、ね。あとアンタの期待なんて、こっちは欠片も欲しちゃいないわ。私は私のやりたい様に生きるだけ」

「“巫女”としては、その時点で失格以外の何物でもあるまい。その程度の事もわからんか」

「……ッ」

ギリッ、と歯噛みの音が周囲に響く。そして霊夢だけでなく、唯衣も幻に向かって厳しい視線を向けた。

彼らの心の中で渦巻いている感情を言葉にするなら、この一つに集約されるだろう。……『何故ここまで言われなければならないのか』という、周囲の見方や「集団の一員としての自分」というものに対する考慮を丸ごと欠いた、ある種エゴイズムの塊の様な一言に。

幻の言っていることに、間違っている要素は一つも無い。しかし、そうだからといってその言葉に素直に頷けるほど、彼らの精神はまだ成熟してはいなかった。

「……拙者は、これ以上の問答は無用と考える。どうだ、やるか?貴様が考案したという『弾幕ごっこ』とやらを。なんなら、拙者という反逆者の捕り物の代わりにしても良い」

「……………」

考え方によっては挑発的ともとれる幻の言葉に、霊夢は強く歯を噛み締めた。そしてたっぷり間を空けた後、吐き捨てるように次の言葉を口にする。

「……本来なら、戦意を持たない相手に向けるカードは無いんだけど」

「霊夢!?」

相手の挑発にあえて乗ろうとした霊夢を、唯衣は慌てて押し留めようと手を伸ばした。しかしそれも、彼女の腕の一振りですげなく払われてしまう。

「……霊夢、ここは一旦退くべきだよ。紫さんももうすぐ来るはずだし、時間稼ぎがベストだと思う」

「紫は岡崎だとかって赤い女と戦ってるから、多分しばらく来ないわ。強くはないけど、やたらしぶとそうな奴だったし」

やれやれとばかりに肩をすくめ、ためいきを吐く霊夢。唯衣は頭を抱え、俯いた。

「紫さーん……おっけ、わかったよ。僕も参加した方が良い?」

「あら、できるの?」

「メンタルの強化も含めて、一まとめのカリキュラムだったからね。まぁ、足手まといにはならないと思うよ」

手と首の関節を鳴らしつつ、姿勢を整える唯衣。その似合わない挙動に、霊夢はどこか毒気を抜かれたような気分をおぼえた。

自分が冷静さを取り戻せていることを確認し、そして彼女は、鋭い目で幻を見やる。

「上等よ。鬼神さん、じゃあそういうことだから」

「応。ならば、先制はくれてやろう。……来るがいい」


その言葉が、皮切りとなった。

霊夢の身体が、濃密な霊力に包まれる。そして次の瞬間、彼女は勢い良く地面を蹴り、幻を目掛けて飛び立った。




〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜



ーーその頃、魔法の森ーー


「……なによ。大口叩いてたわりに、意外なくらい弱っちいのね」

「こちとら病み上がりなんだ。少しくらい、手加減してくれたって良かったんだぞ?」

「口だけは減らないのね、まるでどこかの誰かさんみたい。

……まあ良いわ。じゃあ私、急いでるから」

「何でだ?これだけ被害を撒き散らしたんだ、今頃は妖精どもが大騒ぎだろ」

「私の用事は、ここでただ暴れ回ることだけじゃないの。もう一つ、探し物があってここへ来たのよ。あとこの自然破壊の三分の二は、貴女が放ったなんとかっていうぶっといレーザーでしょ」

「なるほど、『人探し』、ね…ご苦労なようだが、お探しのものは、今はここには無いぜ」

「………まだ、何か知ってるの?」

「へへっ、これでも伊達に人間やってないんだよ。お前もわかるだろ?

…人間の武器は、短い生であるが故の、ギラギラした分析力だ」

「……あ、そ。じゃあ、私は行かせてもらうわよ」

「動けない相手に挨拶とは、律儀なもんだな」

「そういう教育を受けてきたからね」

「……あぁ、そうかよ。くそッ、さっさと行っちまえ」

「ええ、言われなくても。……あぁ、そうだ。妖怪に襲われないように、結界を張っておいてあげるわ。私、殺生はしない主義なの」

「……………」

「……全く、貴女ねえ。負けて泣くくらいなら、最初から戦わなければ良かったんじゃない?」

「それじゃ、意味が無いんだよ…その程度で生きてちゃ、私自身が救われないんだ」

「知らないわ、そんなこと。

……貴女は、本来ならもっと軽い人間の筈よ。ひと時の感傷に浸るのは良いけれど、自分を見失っちゃ駄目。ただでさえ地盤が不安定な貴女の心は、この異変のおかげでもうガタガタなのよ?」

「知ってるよ、それこそ余計なお世話だ。私は、私のやりたいように生きるさ」

「私にも影響があるからやめろって言ってるの。貴女だけのものじゃないのよ、貴女という存在は」

「………善処するよ」

「それで良いわ、これ以上ブレないようになさい。

じゃあ、私は行かせてもらうわ」

「……なぁ、セカンドさんよ。あんまり、『ここ』を荒らしてくれるな」

「荒らすつもりなんて、それこそ産毛の先ほども無いわ」

「そうかい…ならもう、好きにしろよ。私にお前を止める権利は無いからな」

「ええ、その通りよ。じゃ、さよなら」

まえがきで述べました通り、これからは以前と同じく、何の支障もなく執筆活動ができるようになりました。

ですのでこれからも、是非ともゆっくり読んでいってください。

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