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東方迷人記〜空から降って来たのは男の子でした〜  作者: 長良
二章…すれ違い続ける者たち
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再会の再開

どうも、今回もだいぶ長引いてしまいました。

……もはや毎度お馴染みの挨拶になってしまっておりますね。如何ともしがたい。

巨大な地霊殿の周辺で、色とりどりの弾幕が飛び交い、光を散らす。


私が飛ばす(アミュレット)と、岡崎と名乗った女の放つレーザー。それらが互いを狙って交錯し、相殺し合い、爆発する。

端から見れば、賑やかで華やかな花火大会に見えなくもないかもしれない……かも。打ち上げている側からすれば、重労働もいいところだが。


「……チッ、さっさと落ちなさいよ!」

「あぁもう…何で当たらないの!」


私と岡崎、両者共に焦りが(つの)っているのがわかる。……その理由は、互いに違うものの様だが。

私は、門の鎮圧に早く向かいたいから。

岡崎は…私が、自分の弾幕に当たってくれないから。


(……素人くさい。その癖して、スペルカードだけは洗練されてる雰囲気だったわね。多分だけど、カウンターなんて仕掛けてくるくらいだし)

岡崎の弾幕を避けながら、私はふとこの女の行動パターンについて考えていた。

……やはりと言うべきかこの女、全くと言っていい程に戦闘経験が無いのだろう、と。そして同時に、この箱入りのお嬢様に戦い(弾幕ごっこ)を教えた、『何者か』の存在も。


「きりが無いわね。こうも互いに牽制ばっかりじゃ、いつまで経っても終わらないわ。」

「そりゃそうよ。まだお互いに二つずつしかスペル、使ってないじゃない。」

撃って、避けて、撃って、避けて……その過程でも、互いの挑発を込めたやり取りは続く。だが生憎私も彼奴も、あまり気が長い方では無い様で。

「あぁもう、時間が無いってのに……こうなったらさっさと決めるわ、かかって来なさい!」

「望むところよ、貴女にだけは負けないわ…博麗に、『博麗の巫女』にだけはッ!」

後ろで纏めた太い三つ編みを揺らしながら、岡崎がスペルカードを構える。

「博麗の、巫女……?」

本来なら、私もカードを取り出して応戦すべき場面。しかし、同じく戦闘態勢に入ったことを示す挙動を取りながらも、私の意識は全く別の所に向いていた。


そう…先ほど岡崎は、私の事を『博麗の巫女』と呼んだ。

博麗の巫女とは、つまり妖怪にとって絶対に倒せない、倒してはいけない者の代名詞であり、そして人間からすれば唯一妖怪に真っ向から立ち向かえる、言わば「正義のヒーロー」役ともとられがちな存在である。つまり人間である岡崎が『博麗の巫女』としての私に敵愾心を抱くという事態など、本来ならあり得る筈がないのだ。

しかし、先程の岡崎から発せられた怒気は、明らかに『博麗霊夢』ではなく『博麗の巫女』という存在そのものへと向かっていた。


「……あんた、紫に何か恨みでもあるの?」

自分でもどうかと思うが、心当たりはこの位しか無い。

「は…紫?八雲紫の事?」

「そう。実質、私ってものを作り上げたのはアイツじゃない。」

自分で言っていて虚しくなる様な台詞だが、これもまた一つの真実である。幻想郷というシステムそのものを作る上で『博麗の巫女』という立場を作り上げたのは、他ならぬあのスキマ妖怪なのだから。

しかし、私がそう言っても、岡崎は少し首を傾げて訝しげな顔をしただけだった。

「…………何のことを言ってるのか、全くわからないけれど。兎にも角にも、私は貴女を倒さなければならないの。」

岡崎のこの言葉を聞いた時、私の中の何かが、音を立てて切れた。こいつとは話をしても無駄だ、と本能が悟ったのかもしれない。

「……ふーん。会話が噛み合わない様だけど、もう良いわ。一撃で堕としてあげる。」

「ええ、来なさい。真正面から潰してあげるわ。」

互いにスペルカードを手に持ち、今まさに弾幕を放たんとした、その時。


異様な妖力を感じて、私はその場から飛び退いた。

「「スペルカードッ………って、なぁ!?」きゃあッ!?」

刹那。

ドドドドッ!と激しい音を立てて、私と岡崎の間の壁に無数の穴が穿たれる。

「…………」

そこに刺さっているのは、よく見れば鋏、包丁、ナイフ…とりあえず何でもいいから刃物を、とでも言いたげに集められた、ただの(なまくら)達。

……そう。このやり口には、あまりにも覚えがあり過ぎる。いつも飄々とした笑みを崩さず、嘘の一つも吐かぬままに人を翻弄する、あの妖怪による独特の攻撃。


「やめなさい、この馬鹿共ッッ!!地霊殿を崩すつもり!?」


私達の立ち尽くすその更に上空から、天をも揺るがすのではという叫び声が轟いた。

それを聞き流しつつ、私はそこに佇む妖怪を見据えて、この上なく憂鬱な気持ちで口を開く。


「出てくるのが遅すぎるのよ………紫。」


「ふん、少しくらい遅れたって良いじゃない。貴女のおかげで色々と…それはもう色々と忙しかったのよ?」

私の言葉に、憮然とした表情を隠そうともせず答える紫。

はて、私が何かしただろうか?全くと言っていい程、覚えが無い。

「あぁ…もう良いわ。とりあえず、貴女は門へ行って鬼神を討って来なさい。このエセ魔法使いは私がやるから。」

「はいはい、じゃあこっちは任、せ………って、ちょっと待って。」


……目の前に紫が現れたことで、頭の隅に沈んでいた記憶が、むくりと鎌首をもたげるのを感じた。

私は、やはり馬鹿なのだろう。あまりにも重要な事を、すっかり忘れていた。目の前で起きている異変にかまけて、一番忘れてはならない事を失念していた。

そう。紫が連れて行った、私の恋人の事を。


「紫、アンタ唯衣はーー」

「わかってるわ、もう地底(ここ)にいるわよ。」

「えっ?あぁ、そうなの。」

また適当にはぐらかされるかと思っていたので、少し拍子抜け。ようやく会えるのだという歓喜の情も勿論湧かない訳では無かったが、こうも上手くいくと素直に喜べない。

……だが、そんな余裕も、続く紫の言葉に打ち砕かれる結果となる。

「幻想郷トップクラスの化け物達が念入りに、それはもう念を入れて魔改造したから、多分だけど貴女に匹敵する戦力になっている筈よ。」

「……………あ゛?」

頭の中に雪崩れ込んでくる情報のモノがモノだったため、いまいち理解に苦しむ事になった。いや、こんな時に何をやっているのか、この馬鹿妖怪は!というか唯衣の誘拐事件というのは、まさかこれの為だったのか?

……だとするなら、どこまでも救えない話である。

「………まあ、良いわ。アイツの上達っぷりを確認しに行くのも悪くない。」

「そうそう、その意気よ〜。じゃ、頑張りなさいな。」

私にそう笑いかけて、そのまま『岡崎の方を向く事なく』紫が霊弾を放った。点というよりも面で構成された弾幕が、狙い過たず岡崎へと向かう。

「へ?きゃ、ッ!!」

何とか全ての弾を、紙一重で躱す岡崎。……反射神経は意外とあるらしい。学者などと言っているから、ついインドアなキャラクターを想像していたが。

「ちょっと、何を惚けているの?さっさと下へ向かいなさい、霊夢。今まさに、貴女の大事な彼が危険に晒されているかもしれないのよ?」

紫のその言葉に、意図せず身体が震えた。先程のコイツの言葉通りだとすれば、そんな滅多な事は無いだろうが…それでも、これはそういう問題では無いのだ。

「はいはい、わかったわよ。唯衣はどこにいるの?」

「行ってみればわかるわ。早く行ってあげなさいな。」

わかってるから、とでも言いたそうな、紫の微笑ましげな視線がどことなく恥ずかしい。

熱くなり始めた頰を誤魔化そうと後ろを向いた、その時。


「……ゆい………?ゆい、君?」


後ろから、小さく呟く様な声が聞こえた。

「……岡崎だっけ?まだ何か用なの?」

心底うざったく感じながらも、ここはあえて振り向いておく。こんな奴でも敵なのだ、何か情報を得られれば御の字だろう。

だが、そこで私に、もう一つの声がかかった。

「霊夢、貴女はさっさと行きなさい。この小娘の相手は私がする…そう言ったでしょう?」

今更の様に扇子で口元を隠しつつ、威圧を込めて言う紫。

………………まあ、それもそうか。

見たところ岡崎はかなりの直情型な様だし、紫なら問題無いだろう。適当に踊らせるにしても、紫なら上手くやってくれる筈である。

「……どうやらそういう事らしいわ。頑張ってね、二人とも。」

そして、私は再び、岡崎に背を向けた。

「待ちなさい、巫女!ゆいって、まさかこっちにもあのーーーッ!?」

ドドドドッ、という音と共に、岡崎が息を呑む気配が伝わってきた。ナイス、紫。



後ろで響きだした戦闘音をも置き去りにする勢いで、私は門への道筋を駆け抜けた。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「くっ…これは酷いわね。」


はやる気持ちを抑えつつ下に降りてみたは良いが、あまりの悲惨さに、不謹慎と思いながらも辟易する羽目になった。

見渡す限り、門に集っていた妖怪共が倒れている…まさに死屍累々とでもいうべき様相。もう少し、ちゃんと心の準備をしておくべきだったかもしれない。

(でも一応、死んでる奴はいないのね…手加減したのか、それとも最初からアレ、スペルカードだったのかしら?)

仮にあの爆発をスペルカードで再現するなら、それこそ(うつほ)レベルの地力が必要となる筈。しかも紫の言、そして私の勘とパルスィの証言の全てが符合していた場合、これから私達が相手をするのは『あの』鬼神である。

「……うーわ、荷が重………」

はあ、と溜息を吐く。


兎にも角にも、唯衣を捜さねば…というか、本来の目的はそれだった筈なのだが。

しかし、これもまた紫の言葉を額面通りに受け取るなら、彼を戦力として数えた場合、私達の合計戦力はかなりのものになるだろう。今はこの場にいない文、勇儀…まあついでにパルスィ(本人が協力してくれるかはわからないが)を加えれば、鬼神との戦闘でも、そして仮にその後何らかのハプニングがあったとしても、苦労する事なく切り抜けられるだろう。

「全く、世話の焼ける…おーい、唯衣ー?どこにいるのよーー!」

倒れている妖怪達をこれでもかとばかりに踏み締めながら(たまに下から呻き声が聞こえてくる。実に耳障りだ)、私は唯衣を探し歩く。


……そうだ。もう少しで、二度と会えないと思っていた少年との再会が叶う。

それを自覚した瞬間、かっと全身が熱を帯び、目が潤み出すのを感じた。普段なら全身がむず痒くなる様な感覚だが、不思議と今は不快には思わない。むしろ今は、この身体中に走る疼きを噛み締めていたかった。

(唯衣………ッ)

脳裏に浮かぶのは、最後に見た彼の笑顔。目の前の全ての現実を受け入れ、それでも尚、前に進もうとする強い眼差し。

……そして、ついさっきパルスィに諭された時の、あの言葉。


そうだ、いい加減認めなければ。

あの少年は…あの非力だった筈の少年は、私などよりもよっぽど強いのだと。


……彼のどこに惹かれたのかという問いに関しては、やはりと言うべきか答えは出ない。ただ、一つだけ言えるのは、今の唯衣のどこを取っても、私が彼を嫌いになる要素など無いのだろうということ。

それだけで、充分なのだろう。

互いの違いを認め合おうと、少なくとも私だけは、『あの時』にそう思ったのだから。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「唯ーー衣ーーー?どこ行ったってのよー?」

いつの間にか、門の前からは離れていた。というか、そろそろ地霊殿の周りを一周してしまうのではないかと危惧を覚えた…丁度、そんな時。

「…………っ!」

ざわっ、と全身の毛が逆立った…様な気がした。

『あっちにいる』。私の本能とも呼ぶべき勘が、何故かここにきていきなり発動した。間違いない…地霊殿から少し離れた辺り、そこに唯衣がいる!


いても立ってもいられず、全力で走った。途中で空を飛んだ方が早いと気付き、そこからは音をも追い越す勢いで飛んだ。

そして私は、一分も経たずにそこへ辿り着く。もう先程の様な確固とした感覚は消えていたが、それでも何とは無しにわかった。近い…のだと。

きょろきょろと、周囲を見渡す。……と、大体二十間ほど先の道の影に人影を見つけた。


「唯衣!……………………………………………………………………ふぁ?」


確かに、そこにいるのは唯衣だった。今の私なら遠目でもわかる。あれは唯衣だ。


……じゃあ、その胸に飛び込んで胴に手を回しているのは、果たして誰だ?まるで娘を案ずる母親のような顔をした唯衣に、頭を撫でられている、あれは誰だ?

………………うん。やはり、そうだ。見間違いで無ければ、あの様な特徴的な服装は他にないだろう。



一時期私が『ライバル』候補に挙げていた、水橋パルスィ以外に。

………はい、そうです。どうしても綺麗な再会シーンが描けなかったので、無理やり気味に修羅場展開へ逃げた長良です。どうぞ罵って下さい。


しかし、今話を書きながら意図せず再認識する事になったのですが…やはりどうしても、霊夢は直情型にはできませんね。

いや、むしろ僕の頭の中の霊夢像はどちらかというと単純なところも大きい子なのですが、あくまで『東方迷人記の主人公』としての霊夢の場合は、作品そのもののテーマ(今はまだナイショです)もあって、結構ぐちぐち考えちゃうタイプなのです。そしてその性格を活かしつつ、いざという時はストッパーになれる…そういう役柄として、彼女に似て非なる存在の唯衣君を投入した、と。実はプロット段階で、こういうエピソードがあったりします。


僕は、キャラクター達にはできるだけリアリティ溢れる動きをしてもらいたいと思っているので(どの口が言っているのか)、物語が進むにつれて『あぁ、あの時似た様な事言ってたな!』みたいな衝撃を、これまた出来得る限り作中に詰め込みたいと思っております。

やはりキャラクターの言動は一貫させないとダメでしょうし、何より『人間の思考』というものに対して、少し考えてみたいので。

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