『可能性』というものの定義
いやはや、今話は結構難産でした。最近、思う様に文が書けなくなってきて…
「……誘、拐?」
パルスィの口から出た言葉に、一瞬唖然とする。コイツの家に唯衣がいないのはわかっていたが…まさか、それが第三者の介入によるものだったとは。
相変わらず、どこまでも私の勘を上回ってくれる人間だ…いや、私も人間なのだけれど。
気持ちを整えている間に、ふと手の力が緩んでしまっていたらしい。強く掴んでいたパルスィの襟が手から離れ、彼女の後頭部が強かに地面へと叩き付けられる。
んぎゃ!という、日常生活ではあまり耳にする事の無い類の悲鳴が聞こえた。
「全くあの子は……で、どいつよ?事もあろうに唯衣を連れ去ったっていう、肝っ玉の据わった奴は。」
「いてて……全く、仮にも女の子が肝っ玉とか言わないの。…あぁ、わかったわよ。そんなに睨まないで。」
「…………」
「でもねぇ。これ、私が言って良いのかしら?ちょっと判断しかねる事柄なのだけど。」
少し目を泳がせて、きょろきょろと辺りを見回し始めるパルスィ。……そんなに恐ろしい妖怪が相手なのだろうか?
「別に構いやしないわよ。私の力は知ってるでしょう?」
「そうだけど…寧ろ、貴女だからこそ言いづらいと言うか。」
「はあ?…兎に角、言ってくれない事には進まないから、簡潔に言う。
見たんでしょ?なら言いなさいよ。」
「んー…………」
ここまで言ったにも関わらず、やはりどこか気乗りしなさそうなパルスィ。
それを見た私は、唯衣が連れ去られているという事態もさる事ながら、『パルスィがそれを不安に思っていない』という事に疑問を感じた。
(コイツ、もしかしたら私と同じ位に唯衣の事を気に掛けてるのかと思ったけど…買い被りだったかしらね。)
もしくはパルスィの見た犯人が、到底危険視するに値しない人物だったか……いや、やはりそれは無いだろう。その程度の相手なら私にとっては塵芥の如き雑魚だし、そもそもその時点でパルスィが撃退している筈である。
「………あぁもう、面倒臭い!さっさと話しなさいよ、私が負けるとでも思ってんの!?」
「い、いえ。そうなのだけど…」
私だって貴女が負けるとは思ってないわ、と、何処か不貞腐れた様に言うパルスィ。その口ぶりからは、現状に対する危機感よりも、それを不快に思う気持ちの方が強く感じられた。
「……アンタ、この期に及んでまだ何か隠してんじゃ無いでしょうね?」
「違うわよ。貴女にこれを伝えて良いのか、ちょっと頭の中を整理していたの。」
「はあ?」
「そして、それももう終わったわ。」
そう言って、パルスィは私の目を強く見つめる。特に睨み付けられているという訳でも無いのに、その翠の瞳へ何故か視線が吸い寄せられた。
「ねえ、博麗の巫女。」
「霊夢だっての…何よ?」
「貴女は、八雲紫が今何をしているか…知っている?」
その小さな唇から紡ぎ出されるは、少女特有の細い声。
しかし今の私には、ちょっと大声を出せば直ぐに掻き消えてしまう筈のそれが、まるで耳元で鳴り響いているかの様に感じられていた。
「紫が?知らないわね……ちょっとパルスィ、まさか、」
「ええ、その通りよ。」
パルスィは、私を心底憐れむ様に眉を顰め、その切れ長の目をすっと細めた。
そして、口を開く。
「唯衣君を連れて行ったのは、八雲紫の式神…八雲、藍よ。」
「………………」
開いた口が塞がらない。
「ど、どうしたの?」
完全に表情の消えた私を見て、パルスィが何か言っている…が、それも良く耳に入ってこなかった。
いや、それもそうだろう。彼が元の世界に戻る前から、何やら企んでいるなと思ってはいた…が、まさかのここで誘拐とは。
人の気を逆撫でするのが本当に大好きと見える、あのスキマは。
「………ふざ、け……」
ぶるぶると震える拳を握り締め、何とかこの胸に渦巻く思いを表に出そうと脳を掻き回す…が、言葉が上手く出てこない。私の頭が、感情について来られていないのだ。
そして遂にぷちん、と、頭の中で何かが切れた。それはもしかすると、堪忍袋の緒などと呼ばれる物だったのかも知れない。
「えっ…?」
「ふざけるな……巫山戯るな、あの馬鹿二人いいいいッッ!!」
ドカァァァァァァ……ン!
私が叫ぶと同時に、何かが大きく爆発する様な音が響いた。
そしてそれが収まるにつれて、今度は小さな悲鳴が沢山木霊し始める。
それは丁度、地霊殿の方から聞こえて来た、様な。
「「…………えっ?」」
えっ?
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
ーーその頃、魔法の森ーー
「………お、遂に治まったか。」
わざわざバランスを取りながら箒に乗る様な気分(体調とも言う)でも無かったので、自らの力のみでそこらをふよふよと浮遊していた魔理沙。
普段は極めて利己的な彼女が、何故今回に限って地底の異変に首を突っ込もうとしなかったのか…その理由の一つに、前々から続いていた頭痛があった。
その原因をとある偶然により知ってしまった魔理沙は、これから先起こるであろう波乱に備えて、霊夢が忙しいのを良いことに手柄の独り占めを目論んでいたのである。……結局のところ自分本位、利己的と言えなくも無いだろうか。
そして、先程述べた彼女の頭痛。それが治ったという事は、つまりその原因となる物が取り除かれたという事。
「ったく、どれだけ待たせれば気が済むんだよ……しかもここから『そいつ』を捜しに行かにゃならんと来る。」
やれやれだぜー、とかぶりを振る魔理沙。先程まで脂汗を垂らしてふらふらしていた人間と、とても同一人物とは思えない姿だった。
と、その時。
「その必要は無いわ。」
澄んだ、高い声が響く。
それは魔理沙の真後ろから、全く気配を感じさせないままに聞こえていた。
「何故なら、貴女の行動は既に筒抜けだったのだから。」
「………ッ!?」
バッ!と後ろを振り向く魔理沙。
「そうでしょう?霧雨、魔理沙ちゃん。」
そこに居たのは、魔理沙のそれよりも簡素な作りの装束を羽織った、金髪の少女。
「ちゃんって呼ぶな、同い年だ。
……それに、筒抜けだったのはそっちだろう?だからこそ私が、お前達の存在に気付く事が出来た。」
「あらあら、まさかこの私が盗聴されるだなんて。簡単なミスをしちゃったものだわ〜……ま、そんな訳無いんだけど。」
魔理沙よりも少し背の高い少女は、まるでその僅かな差で勝ち誇っているかの様に、魔理沙の事を見下ろしていた。
見下していた、と言えるかも知れないが。
「大体、さっきの台詞からしておかしな事だらけだ。お前…実は何もわかってないだろ?」
だがそんな少女の態度にもひるまず、あまつさえ更に挑戦的な口調で応戦する魔理沙。
それを見た少女はつまらなそうに鼻を一度鳴らした後、底意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「随分と察しの良いご様子ね。でも、そんな貴女ならわかる筈。私が何も知らないというこの状況こそが、貴女の劣勢を何より分かり易く表しているという事に。」
「…………………」
魔理沙は、何も言い返せない。少女の言っている事は、現状をこの上なく理解した上で尚、正しいものだったのだから。
仮に先程から魔理沙の行動を見ていたのだとしても(しかも本人はそれでも悟られない様にあえてふよふよと遊弋していたのだし)、それだけで彼女の本当の目的を探るなど、ほぼ不可能と言って良いものである。逆に言うなら、それが出来たという事は、目の前の少女は少なくともそのレベルの頭脳を有しているという事で。
単純な頭脳戦では、魔理沙に勝ちの目などあり得る筈がなかった。
「……チッ、それがどうした。弾幕はパワーだろ。
なぁ、お前もそう思わないか?霧雨セカンド魔理沙さんよ。」
「勝手に二代目扱いしないで頂戴、私も貴女もおんなじなのだし。それに、私は名乗った覚えは無いのだけど?
あと私は、弾幕は技巧あってこそだと思っているわ。」
その発言を聞いた瞬間、魔理沙(一代目)の口に笑みが浮かんだ。
勿論、持論を否定されて喜んだ訳では無い。
「やっぱり気付いてなかったんだな。お前、呼ばれてただろ?『れいむ』から、魔理沙魔理沙って。」
「………ッ!?」
ぎりっ、とセカンド魔理沙(以下霧雨)の顔が顰められる。
「あ、貴女……」
「そーゆーこと。よりにもよってお前の無線と波長が合うとは…全く、幸運だったぜ。」
「……………」
今度は、霧雨が黙り込む番である。
「お蔭でお前達の計画の全貌も知る事が出来た…それも、奇襲が成功する前提での作戦をな。」
「………どこまで、知っているの?」
「『れいむ』の指示により、お前達がこの幻想郷でひと暴れしようとしてるってとこまでだ。今地底にいるのは、鬼神の幻に岡崎夢美とかいう化学者。……化学者、ねえ。まだいたんだな、この時代。」
すらすらと、台本でも読み上げるかの様に魔理沙は語る。
「んでもって、これは言う必要が無いかも知れんが…まあ念の為。お前達は所謂『平行世界』の、その中でも例外的に私達の影響を受けていない世界からやって来た。おうけい?」
「半分イエスであり、残り半分はノーでもあるわ。私達のいた世界は、別に例外でも何でも無い…この世界と同じ確率で存在する、夢見曰く『可能性の枠を超えた同率世界』ってやつ。それ以外は、概ね間違っていないわ。」
「……そうか。」
恐らく、事前に勉強してきた知識が根底から覆されたのだろう。魔理沙は霧雨の話を、今までに無い程真剣に聞き始めた。
「他に、何か無いか?」
「これ以上何を話せって言うのよ?それに、わざわざ敵に渡してやる情報など無いわ。」
にわかに好奇心の光を帯び始めた瞳を強気に見返し、きっぱりと告げる霧雨。魔理沙のしてやったりな表情に対する不快感からか、彼女の顔が微かに歪んだ。
「その割にはぺらぺら喋ってくれていたけど、まぁ良いさ。
で、こうなったからには……なぁ。お前も、わかってるんだろう?セカンド魔理沙さんよ。」
「はいはい……」
脳筋の相手はやってられないわ、と一言こぼし、どこからともなく不思議な植物の蔦を伸ばし始める霧雨。そしてそれと同時に、彼女の髪の毛が夕焼けの様な紅に染まり始めた。
周囲に、凄まじい密度の魔力が漏れ出して行く。
「おぉう……中々に禍々しいぜ。」
霧雨の突然の変貌に、ちょっと引き気味の魔理沙である。
「うふふ…あははは!私達は魔女なのよ?この位が丁度良いってものでしょう。」
「残念。私は魔女じゃない、普通の魔法使いなんでね…魔女のお話なら、紅魔館にでも行ってするんだな。」
チッ、と。
互いに小さく舌を打ち、その二人の動きが一瞬、静止。
「「………スペルカードッ!!」」
そして、次の瞬間。
徹底的に相容れないらしい二人の、恐らく凄まじい激しさになるであろう戦いが幕を開けた。
やっと…やっとダブル魔理沙の活躍が描けるのですね!(歓喜)
と言っても、今まで書いて来た中で一番の難キャラなのですよねこの子…俄然気合が入るかも?とにかくまぁ、頑張ろう。うん。




