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東方迷人記〜空から降って来たのは男の子でした〜  作者: 長良
二章…すれ違い続ける者たち
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逆転劇



(何だ、もう終わりか…つまらないね。)

勇儀は名も知らぬ妖怪の家に突っ込んで行った霊夢を、上空から冷たい目で見下ろしていた。

(全く、前はもっと骨があったのに。)

たるんでるのかね、と呟いた彼女は、恐らく失神しているであろう霊夢を発掘しに下へ向かおうとし……そして、止まった。

そのまま霊夢の着弾地点を見ながら、背筋が凍る様な満面の笑顔を浮かべる。

「………ははっ、まだまだやれそうじゃないか…博麗の巫女?」


勇儀が目を向けた先には、瓦礫を押しのけながらやっとの体で立ち上がる、霊夢の姿があった。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「………ははっ、まだまだやれそうじゃないか…博麗の巫女?」


……目が覚めたら、何やら上から目線の勇儀が、余裕綽々と言った感じで話し掛けて来た。

巫山戯るな、『これから先』があるから温存しようとしただけ…と云うのは、恐らくただの言い訳になってしまうのだろう。全く以て、ついてない。

というか。

(そもそもあいつ、あんなに頭切れたっけ…?)


以前戦った時の勇儀は、真正面から力で押して来るタイプだった筈である。だからこそ戦い易かったし、私自身何より戦っていて楽しかった。

だが、今回のこの戦い方は…まさに、彼女が何より嫌っていたものの筈。

……そんな義理は無いけれど、少しばかりお灸を据えてやる必要があるかも知れない。

「……ッ巫山戯てんじゃ無いわよ、霊符『夢想封印』!」

スペルカードを宣言、展開。霊力を全開にして、巨大な虹弾を生み出す。

後の戦闘?知った事か、今は勇儀に一泡吹かせるのが先だ。

「良いね!ちまちました針なんてつまらない物より、やっぱりこっちの方が『らしい』よッ、博麗の巫女!」

「五月蝿い!私の名前は巫女じゃない、博麗神社の霊夢よ!」

私はそう叫ぶと同時に、周囲に漂う弾を一斉に発射する。ホーミング性能のあるそれは、その全てが弧を描いて勇儀へと飛んで行った。

そして視界の先では、やはり苛つく笑みを浮かべた勇儀が拳を腰だめに構え、迎撃の姿勢を見せている……あくまで、正面突破という事らしい。

確かにあいつの膂力なら、たかがでかいホーミング弾の一つや二つ、素手で破壊可能だろう。

だがしかし、こちらには「数」がある。全てを撃墜など、出来はしない。


「ああぁぁぁあぁああぁあーーーーーーっ!!!!」


……と、思っていた。つい先程まで。





(……ここまで出鱈目だと、流石に心が折れそうね……)

茫然自失。私の前では今、まさにあり得ない光景が繰り広げられていた。

四方八方から襲い来る霊弾の全てを、その拳一つ蹴り一つで確実に破壊して行く勇儀。まさに怪力乱神の申し子である。

私も負けじと弾を放ち続けてはいるが…もしかすると、このままでは本当に突破されてしまうかも知れない。


「……ちぇっ、作戦変更かしらね。」


最後に一際大きな虹弾を撃ち出し、私自身も空へと飛び立つ。目指す場所は勿論……勇儀の、背後。

「……夢符……」

(まばゆ)い光を放つ虹弾が上手く目くらましの役割をしてくれているのだろう、勇儀が近付く私に気付いている様子は無い。その間にも、私は次なるスペルの用意を続けていた。

そして少しの距離を保ちながら、勇儀の横をすり抜けようとした…その瞬間。

「……ッ!」

その切れ長の目が、ぎろりとこちらを向いた。そして、その口の端が小さく吊り上がる。


その刹那、私は頭の中がかっと赤熱した様な錯覚に囚われた。

これは恐らく、私に対する宣戦布告。つまりは「不意打ちなり何なり、好きにすると良い。返り討ちにしてやるから」と、そういう事なのだろう。

……ここまでコケにされて、黙っている訳にはいかない。敵が油断しているからには、その油断を百倍にして返すのが私の主義(モットー)である。


「……舐めてくれるわね。じゃあお望み通り、真っ正面から行ってやるわよ!

夢符『退魔符乱舞』!!」

スペルを宣言。そして次の瞬間、無数の御札(アミュレット)が勇儀に向かって射出された。


今回の攻撃は、先程の針とは当然、モノが違う。

私が直々に、その一つ一つに念入りかつ強力な霊力を込めた、言わば博麗印の破魔の札。しかもそれを速射、連射…まさに、真っ向勝負に最も適したスペルである。


「はっ、やっと骨のありそうなのを撃って来たね…良いだろう、相手になってやるよッ!四天王奥義『三歩必殺』!!」

対する勇儀も、先程と同じ様に構えた右拳に妖力を集中させ始める。込められた膨大なエネルギーに、身体がわずかに光を発していた。

どうやらあいつも、自身の持つ最高のスペルで正面から私の攻撃を迎え撃つつもりの様である。



スペルを発動させる直前、私はふと勇儀の手に目を向け…その拳が彼女自らの血に塗れているのを見て、少し、何かを思った。



「ああああぁぁぁーーーーっ!!!」

「うおおおぉぉあぁああぁッ!!!」


そして、刹那の時。

互いの弾幕が交差して、辺りを目眩い光が包みーーー



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜



「さて、と。私が勝ったんだから、きりきり吐きなさい。吐くものが無くても吐きなさい。」

「あんまし無茶言わないで…でもまぁ、私の知ってる事で良ければ手伝うよ。何なりと良いな。」

ぼろぼろの身体で地面に座して頬杖を突く勇儀と、その前に仁王立ちでふんぞり返る霊夢…勝敗は、一目瞭然だろう。

と、その時。


「ちょっと、あんた達!何ど派手にやらかしてくれてるのよ!?」


そこに慌てて駆け寄る、小さな影が。

「ん?何だ、パルスィじゃないか。いたのかいアンタ?」

そう…影の功労者、水橋パルスィの御登場である。

「ずっとそこにね!流れ弾が民家に当たらない様に全部叩き落としてたのよ!この、私がッ!」

「はいはいご苦労様〜」「割と適当!?」

「全く…そう堅い事言うなよ。火事と喧嘩は旧都の華、だろ?」

「そう言うなら、もっと控えめな喧嘩を心掛けて頂戴!少なくとも周りに迷惑がかからない程度には!!」

………今にも頭の血管がぷっつんしてしまいそうな勢いで怒っているパルスィだが、後日聞いた所によるとこれが彼女の日常らしい。恐ろしい限りである。

唯衣に癒しを求めた彼女を、果たして誰が責められるだろう。




その後もがーっと一通り叫んで、一応は落ち着いたらしいパルスィ。今度はため息を大きく吐くと、霊夢に向かって鋭い視線を向けた。

「巫女!貴女も貴女よ、こんな街中で喧嘩する馬鹿がどこにいるの!」

「えー、だって向こうから絡んで来たしー…」

「喧嘩ってのは、売る方も悪けりゃ買う方も悪いの!今更こんな寺子屋染みた事言わせないで頂戴!」

「はいはい…まぁ結果オーライだったんだからいいじゃない?」

「私 の お か げ で ね !」

パルスィ、怒髪天…いや、苛髪天。

「でもさ、パルスィ…」

「何よ!」


「……これから、もっと派手な事になるでしょ?」

「、ッ………」


一方的に白熱し始めた言い合いだが、それも霊夢の一言により水を打った様に静まり返った。

「……そ、そうとは限らな「限るわ。私の勘は絶対だもの。」……あ、そ。」

先程の賑やかな雰囲気とはまるで正反対の、どこか沈んだ感情に空気が満たされた。それは今後起こるであろう波乱への心配であり、不安である。

……だがそれに対し、いかにも不満そうな様子の者が一人。

「……話がわからないんだけどね。ってかその前に巫こ…霊夢。私に何か、尋ねたい事があったんじゃないのかい?」

そう。豪放磊落を旨とする鬼の四天王が一人、星熊勇儀である。

「隠れてこそこそしてんじゃないよ、どうせなら派手にやりな!」

「これだから話したく無いのよッ!?」

状況を全く把握出来ていない勇儀の言葉に、半ば悲鳴じみた声を上げるパルスィ……無理も無いだろう。霊夢と違って、彼女は普段からこのテンションに付き合わされているのだから。

「兎にも角にも、私に出来る事があれば手伝ってやろうって言ってるんだよ。きりきり話しな。」

若干鬱陶しくなり始めた霊夢に、早く話せと勇儀が迫る。先程とはまるで逆の互いの立場に、パルスィがため息を吐いた…丁度、その時。


「あ、終わりましたか霊夢さん?じゃあさっさと唯衣さん捜して地上に戻りますよ!主に私が!」


……今まで何処に隠れていたのか、物陰からひょこりと某烏天狗が顔を出した。

が、その笑顔も直ぐに引き攣る事となる。

「おや、さっきの天狗か…どうだい?私はもう一戦行けるけど「御遠慮させて頂きますッッッ!!」……あれま、逃げ足は早いんだね。」

「何しに来たのよあいつ…」

嵐の様な烏天狗の登場・そして退場により、一瞬にしてまた元のぐだっとした空気に戻ってしまった三人である。


どこかたるんだ空気を変えるべく、勇儀がこほん、と小さく咳払い。そして、真剣な面持ちで霊夢に問うた。

「……で、アレかい霊夢?訊きたい事ってのは、さっきの天狗が言ってた『唯衣さん』とやらの事かい?」

「…そうよ。私が今、捜している人間。」

探る様な勇儀の目にも全く動揺の色を見せず、きっぱりと言い放つ霊夢……視界の端で唇を噛むパルスィには、気付く由も無かったが。

そしてそれを聞いて、勇儀は少し意外そうな顔をする。

「人間ん?そんなモン、あっという間に喰われちまうに決まって……あ。いや、待てよ。

霊夢、ちょっとその人間の特徴を教えてくれるかい?」

「…っ、心当たりがあるの!?」

「おぉう!?ど、どうしたよ急に。

……いや、あくまで『心当たり』さ。ま、とにかく話しとくれ。」

突然変わった霊夢の態度に、すこし引き気味の勇儀。

それも霊夢と唯衣の関係を知っていれば納得したのだろうが、勿論、彼女らはそんな事は知らない。片方に至っては全く逆の勘違いをしている有様である。


「ぼさっとした茶色の髪、肌は真っ白で目はちょっと垂れ気味…で、全体的にヘタレな雰囲気。」

霊夢が、ぼそりと呟いた。

「……え?」

「そいつの特徴よ。見覚えがあるかしら?」

そう尋ねる霊夢の顔は、今までのどんなものよりも真に…悪い言い方をするなら鬼気迫るものがあり。

それに少し気圧されながらも、勇儀は霊夢に向かって、普通に言った。

そう、彼女にとっては普通の事を。



「見覚えがあるも何も…そいつ、パルスィの所に居候してた餓鬼だろう?本人に訊けば良いじゃないか。」

「……………………は?」

やっと…やっと、戦闘描写という名の修羅場を乗り越えた……いや、まだこの先どんどん出て来るのですけれども。


さて、今回はちょっとパルスィの常識人キャラを前面に押し出して書いてみました。メンバーがメンバーですからね。

やっぱりパルスィさんは、縁の下の力持ち的なキャラがすごく似合うと思うのですよ。僕的に。

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