急がば回れ、つまり急ぐな
どうも。薄氷の上を全力ダッシュする気概で書いております、長良です。
さて、今回はようやく『あの方』達の影が出て参りました。この先どういう風に異変が始まり、そして終息を迎えるのか…どうぞお楽しみに、お読み下さい。
〜地底、旧都〜
「……ッ!?何かしら…」
台所で料理をしていた、金髪緑眼の少女…水橋パルスィは、唐突に聞こえて来た爆発音に眉を顰めた。
「洗濯物がああ……くそぅ。」
すわ乱闘か、それとも鬼の喧嘩か。自分より小物だったら腹いせに殴ってくるのも良いかもしれない、などと考えながら、彼女は窓を開けて外を眺める。
…………と。
「畜生、覚えてろよぉぉぉ!!」
そこには丁度、錐揉み飛行で吹き飛んで行く友人の姿が。
(…………見なかったことにしよ……)
哀れヤマメと心の中で合掌し、ぱたりと窓を閉める。
そしてその直後、未だ聞こえてくる激しい戦闘音に、パルスィは一抹の不安を覚え始めた。
ついさっき地底の天井に凹みを作った、パルスィの友人…黒谷ヤマメ。彼女は、種族的には妖怪としてそれなりの上位に位置している。それに普段はおちゃらけているが、実戦にも強い方だった筈だ。
そのヤマメが、恐らくだが一方的に倒された。それの意味する事は明確である。
……これは、自分が殴りに行くどころでは無い。むしろタコ殴りにされに行く様なものだ。
(ただでさえ最近の地底は荒れてるってのに……全く、迷惑な輩もいたものね。)
長らく留守にしていた、鬼神にして四天王の一角・幻の帰還により、ここ一月程の地底ではちょっとした騒ぎが起きていた。
……そしてその『騒ぎ』をエスカレートさせている、もう一つの面倒事。それが、幻と一緒に現れた『とある人物』である。
(しかし、あの赤い女……アレ、人間じゃないの。あんなのを連れて来て、幻様は何をするつもりなのかしら?)
長い間姿を消していた幻の、唯一の手土産…それは、見たこともない赤装束に身を包んだ、不気味な人間の女だった。
獲物、愛人…様々な憶測が飛び交うも、それらの悉くは幻本人によって否定された。そもそも彼が全くその女について喋らない上に、女自身が地霊殿に篭って出てこないのだ。その女に…ひいては幻に対する不信感が地底の民の間で蔓延するのは、当然の帰結と言えただろう。
(このままじゃ、いずれ面倒な事になるのはわかり切っている。あの人がそれに気付かないとは思えないし、というかそもそもあの女が何を考えているのかわからない……何なのかしら、この状況?)
現状は、とても不安定な均衡の下に成り立っていた。……そう、今日までは。
溜息をついて、一息つこうと水を口に含んだ、丁度その時。
「パルスィ!助けてぇぇ!!」
「ッッッ!?」
バンッ!と扉を開けて転がり込んで来たのは、先程天井の染みになった筈の友人。
「………っ、ぷはぁ…」
そして危うく口の中のものを吹きそうになったパルスィはと言うと、顔を真っ赤にして何とか水を飲み込む事に成功していた。
「あっっぶないわね!ノック位しなさい!………って、どうしたのよヤマメ?」
沸き立つ怒りのままに怒鳴り散らし、拳骨の一つでもくれてやろうとヤマメの元にずかずかと歩み寄るパルスィ。だが、友人の尋常では無い様子に、思わず歩を止めて尋ねた。
その服には所々に穴が空き、自慢の亜麻色の髪は乱れに乱れている。息も整っておらず、呼吸をする度にひゅうひゅうと不穏な音が漏れていた。
「だ、大丈夫……?」
パルスィの手渡した水を一息に飲み干すと、喋るのもやっとといった体のヤマメが、ゆっくりと口を開いた。
「……こが……」
「え?」
「巫女が攻めて来た…!前回みたいな、あんな軽いモンじゃない。今回は見境無しに妖怪をぶっ飛ばしながら、真っ直ぐ地霊殿に向かってる!」
……その報告を受けて、三秒の後。言葉の意味を理解し、さっと青ざめるパルスィ。
「地霊殿!?まずい、あそこには今……ッ!」
「そうだよ、多分アイツの狙いは幻様だ!」
さしものパルスィでさえ、こうしてはいられないと急いで外へ向かう準備を始めた……その時。
「……残念。違うのよ、これが。」
「「………え゛?」」
ふと気付けば、ヤマメの後ろに小さな影が。
それは何処かで見覚えのある様な、凛とした立ち姿でーーー
「人探しをしているんだけど……協力、してくれない?」
その声は恐らく、相手を威圧する為にわざとドスを効かせていて。
だがそんな事を考察する余裕もないヤマメの精神は、それを聴いた瞬間、限界に達した様だった。
「ちょっ、ヤマメ!?しっかりして!」
「気絶してるだけでしょ?放っときゃ起きるわよ。」
「元凶が偉そうに…ッ!」
倒れたヤマメを、まるでゴミでも見るかの様に見下ろす巫女…博麗霊夢。
不遜な態度を崩そうともせず立つ彼女を強く睨み付けたパルスィだが、その態度に微塵の揺らぎも無いのを見て、諦めと共に目を離した。
「で、何の用なんだっけ?…っていうか、外の騒ぎは全部貴女?」
お茶は出さないわよ、と霊夢に水を渡し、パルスィは机を挟んで彼女の対面に腰掛けた。
ヤマメはその横に転がっている。ただのしかばねのようだ。
「……ここ、水道なんてあるの?便利なのね。」
「地下水脈に直接繋いであるから、いつでも新鮮な水が飲み放題よ。……妬ましいかしら?」
「妬むとか、そういう次元の話じゃないわね。無い物ねだりしたってどうなる訳でも無いし。」
「無欲なのね…実に妬ましいわ、あぁ妬ましい。」
顔を歪めてそう呟いたパルスィ。それに対し霊夢は露骨に眉を顰め、嫌悪感も露わに言う。
「相変わらず陰気な妖怪ね、アンタも。」
「安心して良いわ、自覚はしてるから。」
「あっそ……で、何だっけ。私の用…だったかしら。」
そう言った瞬間、霊夢の纏う雰囲気ががらりと変わった。先程までの凛としたオーラはまるで無くなり、産まれたての子鹿の様な弱々しさが、その表情に見え隠れする様になった。
パルスィはその姿にかつての同居人の姿を重ねてしまい、慌ててかぶりを振る。
「………どうしたのよアンタ、大丈夫?」
それを見て訝しげな顔をする霊夢だが、もうその姿から以前の覇気を感じる事は出来なくなっていた。
「………巫女。貴女、弱くなった?」
意図せず、思考が口から漏れてしまう。
それを聞いた霊夢は目を吊り上げ、パルスィを強く睨み付けた。
「あ?なんならここで一戦してあげても良いのよ?」
「遠慮させて頂くわ。」
どうせ勝てないしと付け加え、大きく溜息を吐く。
「以前…地霊異変の時よりって意味よ。それに、私の言う弱さっていうのは腕っ節の事じゃないわ。」
「………どういう事よ。」
「私は橋姫、嫉妬の緑眼を持つ妖怪よ?……精神関係は、私の十八番。」
「………………」
霊夢はスカートの裾をぎゅっと握りしめ、俯いた。
「……あぁもう、博麗の巫女が聞いて呆れるわ。
さっさと要件を話して頂戴。話を止めてしまったのは謝るから。」
「あんたねぇ……」
重くなって来た話を適当に切り上げようとしたのがバレたのか、霊夢は先程よりも強い、怒りの込められた視線を送って来た……しかし、それも直ぐに逸らされる。
「どうにもアンタはやりづらいわ……まぁ良いや、とにかく話すわよ。
私は今、この地底に一人の人間を捜しに来ている。それについての情報を、言葉なり弾幕言語なりで提供してくれると有難いわ。ちなみに異変解決はそのついでよ。」
「一人の……人間?」
心当たりは、一つしか無かった。
「人間なら、今は地霊殿にいるけど。」
「いや、それはもう聞いたのよ。結果はシロ、大外れもいいとこだったわ。」
「あらら…それは残念ね。」
全く残念そうな素振りも見せず、肩を竦めるパルスィ。
(しかし……となると、他に人間なんている筈が……………あ、ッッ!?)
そこで、パルスィは一つの可能性に思い至った。そして、それと同時に思考がぐるぐると回り、頭の片隅にあった記憶が高速で展開される。
何故、あの少年は自分の出自を隠そうとしたのか。
何故、あの少年をよりにもよって八雲藍が攫って行ったのか。
何故、あの少年は地上へ行きたがらなかったのか。
……答えは、一つ。
(巫女に……追われていたから?)
短い間とは言え、一度は一つ屋根の下で暮らした仲である。
パルスィの中に『唯衣の事を正直に話す』という選択肢は、当然無かった。
「うーん…悪いけど、知らないわね。」
パルスィのその言葉を聞くや否や、霊夢はすっくと立ち上がり、戸口へ歩いて行く。
「それならもう、ここに用は無いわ。……水、地上のより美味しかったわよ。」
じゃあね、とだけ言って去ろうとする背中に、パルスィは一つ呼び掛けた。
「待って!「あ?」……異変の解決って言ってたわね。それって、幻様達の事?」
「………幻、様?」
ぐるん、と首だけで振り向いた霊夢。「ひっ!?」
「なーに萎縮してんのよ。そこの…えーっと……」
「水橋よ。水橋パルスィ。」
「あぁ、そうそう。そこのパルスィ、ちょっとついて来なさい。事情は、地霊殿に向かいながら聞かせてもらうわ。」
「……………は?」
〜〜〜その頃の射命丸〜〜〜
「ほらほらっ、堕ちろぉ!」
「うわあぁ!?勘弁して下さいよ勇儀さん!」
「お前が本気を出せば良いだけの話さぁ!その気になれば、そこらの鬼よりは強いんだろう!?」
「今回の私にはちゃんと役目があるんです!ここで立ち止まってる暇は無いんですよ!!」
「そんなモン、あたしには関係無いね!四天王奥義『三歩必殺』ッッ!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!」
……うぅむ。もしかすると、書いていて一番楽なのはパルスィかも知れない。
何せ基本的には常識と良識がありますし、家庭的な面も申し分ありません。それに希少なツッコミ要員の一人ですし…もうこれは沢山登場させろっていうフラグですよねッッ!!(発狂




