紫の企み、霊夢の推理
いやあ…他のシリーズと同時進行していますので、どうしても更新が遅くなってしまう……申し訳ございません。
でも、この話には結構いろいろと詰め込んだので、注意して読んで下さいね。
「ん………」
「……ぅ、っ…」
それから、何秒…いや、何分経っただろう。
口を離した瞬間、息をする事すら忘れていたかの様に、身体中が酸素を求めて荒い呼吸を繰り返していた。
……でも、まだまだ足りない。
もっと唯衣を感じていたかった。
「……っ、はぁ…もっ、と……」
「………わかった、わかったからそんな目で見ないでよ。」
そうして、再び私達の唇が重なろうとした、その瞬間ーーー
「……チッ、今度は防げなかったか。」
「「!?」」
スキマから上半身のみを出して、すこぶる機嫌が悪そうに腕を組む八雲紫がいた。
「えっと…いつから、そこに……?」
「……さっき来たところよ。貴女達がべろちゅーしてた、丁度その時。」
そう言って目を逸らす紫の頬は、隠しようが無いほど赤くなっていた。
本人すら意図していなかったシーンに直面してしまい、流石に恥ずかしかったのだろう。
そして、私はと言うと。
「……ま、見なかった事にして頂戴。」
不意打ちを喰らってしまいはしたが、今のところなんとか平静を保つ事が出来ていた。
紫は昔から世話になっていた、言わば母親代わりの様な存在である。この前は例外としても、取り乱している姿を見せるのには抵抗があった。
「そう言うのなら、せめてお互い離れて欲しいものだけど。」
「え?」
だが紫にそう言われて、やっと気付く。迂闊なことに私はまだ、唯衣の身体に手を回したままだったのだ。
「………っ!ッッ!」
まるで弾かれる様に離れた。
そんな私を見て、また溜息をつく紫。
「全く、そんなに恥ずかしいのなら境内でそんな事してるんじゃ無いの。…誰かに見られでもしたらどうするのよ。」
「……わざわざこんな所にこのタイミングで来る奴なんて、あんた位のものでしょ?ゆか、り………!?」
ここまで口にしたところで、言い表しようの無い悪寒が背筋を駆け抜けた。
(待てよ……私と唯衣が同居してるって事は他の妖怪にも知られてる筈。だとすると、こういう事が無いかどうか見張ってる阿呆が……!)
心当たりは、一つだけあった。
360度、周りを見回す。神社の軒下から遥か遠くの妖怪の山まで。
………いた!
博麗神社から約十間程離れた位置。
黒い翼を広げながらカメラを構え、あろうことかこちらに向かってピースサインなどしている、その姿は。
「射命丸、文ぁぁぁぁッ!!!」
清く正しい(らしい)幻想郷の新聞屋、射命丸文。彼女の書く新聞は、眉唾もののネタが多い為あまり信用されてはいない。だが、流石に写真まで付けられてしまうと……
(……ッ、まずい。これは全私のプライドに賭けても止めなきゃ…!)
曲がりなりにも相手は幻想郷最速。恐らく追いつけはしないだろうが、それでも私は全力で飛び出し「待ちなさいな、霊夢。」た………え?
「紫…?」
私の肩を掴んで引き留めた紫は、指先に手のひら大の小さなスキマを作った。そして、その中に手を突っ込む。
しばらく何かと格闘していた様だが、十秒程の後、紫が勢い良く腕を引き抜くと…その手には、黒く四角い物体が握られていた。
「あ、カメラ…!」
そう、紫はスキマを使って、彼女の手からカメラを掠め取ったのである。
「便利でしょ?」
「本当ね…」
そして紫は、カメラから器用にフィルムのみを取り出して、その二つをスキマの中へ乱雑に放る。
小さなスキマの向こうから「わわっ、落ちる落ちる!」などと声が聞こえてきたが、無視。仮にそれでカメラが落ちて壊れたとしても、身から出た錆。自業自得である。
どこぞの河童にでも直して貰え。お値段異常の。
「……哀れ新聞屋さん……」
隣でその様子を見ていた唯衣が、ぼそりと呟いた。
「甘いわね、自分達に危害を加えようとした相手には容赦なんてしちゃ駄目よ。…ほら、いつかの夜、言ったでしょう?油断は百倍にして返すものなのよ。」
「いつ聞いてもえげつないね…」
唯衣は、顔を青くしながらぶるりと震えた。
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その後、私達は、境内裏の儀式場へと向かって歩いていた。
「……成る程。つまりあなた達も、丁度今から儀式場に向かうところだったと言う訳ね。」
「そうよ。…まさか、あんたと鉢合わせになるとは夢にも思ってなかったけど。」
「色んな意味で、かしら?」
紫のからかう様な顔を見た瞬間、先程の記憶がフラッシュバックして顔に火が点く。
「あ、あれはもう忘れて!お願いだから!!」
早口でそれだけ叫びそっぽを向く中、ちらりと唯衣を伺うと、やはり彼も顔を朱に染めて俯いていた。…その事実に妙な安堵を覚え、それに少しの疑問を抱く。
が、そんな事を今更気にしても仕方ないのだろうし、つまらない考えは直ぐに頭から追い出した。
その時、恐らく私の表情が硬くなったのが見えたのだろう。紫が、感情を感じさせない面持ちで言った。
「ま、自分で選んだ結末なのだから、霊夢の好きにしたら良いわ。……でも、貴女に後悔する権利は絶対に無い。それだけは覚えておきなさいな。」
「……わかってるわ。後悔なんてしたら、それこそあいつに失礼じゃないの。」
「なら良いのよ。私から言う事はそれだけだわ。」
……全く、素直じゃない。私も、紫も。
だが、優位に立たれっぱなしも趣味じゃない。そろそろ、その澄ました顔に一矢報いてやるのも悪くないだろう。
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境内裏にある、儀式場。
最早境内裏と呼ぶのも躊躇う程、神社とは離れた位置にあるが…それはまあ、言葉の綾というものだろう。
「さてと…唯衣。ここで、外の世界と幻想郷を繋げる儀式を執り行うのよ。……でもその前に、私はちょっと紫と話があるから、あなたはここで待っていてくれる?」
私は、横でごくりと唾を飲む唯衣に声を掛け、その場を後にする。
紫と、話をする為に。
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賽銭箱の前に、再び戻って来た私達。
『話って何かしら?』とでも言いたげな紫の顔が視界の端に映り、頭の血管が切れそうになった。
「紫。あんた、唯衣に何したの?正直に白状しなさい。」
「……何の事かしら?私があの子を弄って何かメリットがあるとでも…?」
そしらぬ顔で、しゃあしゃあと嘘を吐く紫。
その笑顔には表情と言える表情が浮かんでおらず、それが寧ろ紫が嘘を吐いているのだという証拠となっていた。
こちとら子供の頃から一緒にいるんだぞ、付き合いの長さ舐めんな。
「そんなモン知らないわよ。でも…もし紫が唯衣に危害を加えたりしたなら、私はアンタを許さない。」
「おお、怖い怖い。」
「(……イラッ)」
無言で、懐から札と針を取り出す。
それを衝動のままに投げる事が無かったのは、辛うじて残った私の理性が緩衝材として働いてくれたからだろう。
「わかったからお札を仕舞いなさいな、霊夢。私だって、あの子を無闇に危険に晒したい訳じゃ無い訳だし。」
「……なら、何をしようとしているのか、私に話せるわよね?」
うーん、と紫は少し考え込む様な素振りを見せて、
「それは無理。」
当たり前の様に、そう口にした。
「………ッ!」
思わず、紫の胸ぐらを掴み上げる私。
見かけ以上に軽いその身体は、私が軽く力を込めただけでも持ち上がってしまう程のものだった。
(……あれ、紫ってこんなに軽かった?)
僅かな疑問が浮上して来るが、慌ててスルー。今は、目の前にいるこの妖怪に全神経を集中すべきだ。
私は紫の胸ぐらを掴んで持ち上げたまま、前々から考えていた最悪の可能性を問うた。
「ねぇ、紫。アンタ……唯衣を、外の世界に戻すつもり、無いんじゃないの?」
自分でも意外な程の怒りが籠もった問いに、紫は少し目を瞬かせながらもゆったりと否定した。
「……?何の事を言っているのかわからないわ。ちゃんと帰すつもりよ?元の世界まで。幻想郷の管理者の名の下、責任を持って断言しましょう。」
「じゃあ、言い方を変えるわ。……諌早唯衣、あの子は……本当に『外の世界』の人間なの?」
「……………」
黙り込む紫。…残念、ここで黙るのは最悪の選択だ。
ここからの会話は、私のターン。
「一昨日ね、神社に保存されている文献を漁ってみたの。…内容は、外来人について。」
「面倒だから過程の説明は省いて頂戴。……で、結果は?それを見て、貴女はどう判断した?」
紫の目からは、私がそれに気付いた事に対する諦観と、そして意地の悪い賞賛が見て取れた。
「クロ、よ。唯衣は、少なくとも私達の知っている方法でここへ来た、いわゆる『外来人』では無い。
そもそも、空から降って来た人間の記述なんて一つも無かったもの。それに、たかだか座標・時間軸指定の計算程度でアンタがあんなに長い時間をかけるなんてありえないわ。何か不具合でもあったのかしら?」
私が畳み掛ける様にそう言うと、紫は僅かに目を逸らしながら、諦めた様に呟いた。
「ッ………そこまで、か。それはお得意の勘、かしら?」
「いいえ、こればっかりは違うわ。……勘じゃなくて、推理よ。簡単な話だわ。」
「ふーん……」
「……ま、どうせ今日であの子は帰ってしまうのよ。貴女にとっては悲しいかもしれないけど、私にとっては何でもない事。……神社の近くとは言え妖怪が出ない訳では無いわ、早く戻ってあげましょう。」
紫は少し考え込んだ後、私の瞳を見つめ直して、静かにそう促した。
「……まだ聞きたい事があるんだけど?」
「儀式が終わった後、ね。」
「はいはい、わかりましたよ。」
「計画通り……とでも、ニヤつくべきなのかしら?」
やっと、ほんの一部ですけど世界観を解放する事ができました。ここまでが長かった……
さて、唯衣が元の世界に戻る事で霊夢の日常はどの様に変化するのか、そして紫様が画策している事とは一体……?




