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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

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第2章 第96話 条件が揃った夜

 それから二日後の夜。


 午後九時を少し回った頃、五人の通話にナナの声が入った。


『白いバン、来た』


 悠斗は銀色のセダンを大通りから外れた脇道へ入れ、速度を落とした。


「どこの店?」


『南側。最初にシオンが見つけたところ』


「人数は?」


『今見えるのは二人』


 助手席のシオンがスマートフォンの地図へ目を落とす。


 今日も五人は一か所へ固まっていない。


 ナナとアキラは黒いクーペで店舗側。


 蓮は青いレイザーで工業地帯寄りの道路。


 悠斗とシオンは銀色のセダンで、その中間を広めに見ていた。


『黒いSUVは?』


 蓮が聞く。


『今のところいない』


 ナナが答える。


『後ろにそれっぽい車もなし』


「警察は?」


『さっきパトカー一台通ったけど、そのまま北へ行った』


 アキラの声が続いた。


 悠斗は一度時計を見る。


 護衛なし。


 確認できる人数は二人。


 対象車両も見失っていない。


 周囲で大きな警察対応もない。


「まだ見るだけでいこう」


『了解』


 全員の返事が短く重なる。


 白いバンが店を出るまで、誰も余計に近づかなかった。


     ◇


『出た』


 十分ほどして、ナナが報告する。


「ケースは?」


『一個。二人とも乗った』


「蓮、そっち行きそう?」


『今の向きなら来る』


「通ったら確認だけで」


『分かってる』


 白いバンは大通りへ出た。


 アキラたちは距離を空け、そのまま別の道へ流れる。


 数分後。


『見えた』


 蓮の声。


『白バン。二人。後ろは今のところ何もなし』


「そのままで」


『了解』


 そこからさらに十五分。


 白いバンは二軒目のベッティング店へ入った。


 以前見た順番とは違う。


 それ自体はもう珍しくない。


『今日、かなり条件よくない?』


 アキラが言う。


「もう少し見よう」


『慎重だなあ』


「護衛付いた日もあったし」


『まあ、それはそう』


 シオンも外を見ながら短く言う。


「まだ早い」


 悠斗は頷いた。


     ◇


 午後十時半。


 白いバンは三軒目を出た。


 黒いSUVは現れない。


 二人のまま。


 近くでサイレンも聞こえない。


 ナナが確認した範囲でも、大きな事故や道路封鎖はなかった。


『悠斗』


 蓮の声が少し低くなる。


『そろそろ第一候補の車、見に行けるぞ』


 いよいよ、その話になった。


 悠斗は一度シオンを見る。


「どう思う?」


「今のところ問題ない」


「うん」


 胸の奥が少し落ち着かない。


 誰かに頼まれた仕事ではない。


 五人で見つけ、五人で調べ、五人でやると決めた。


 悠斗は通話へ声を入れる。


「茶色のセダン、まだあるか確認しよう。でも、まだ触らない」


『了解』


『それでいい』


 五人は一度、回収車から距離を取った。


     ◇


 工業地帯の外れ。


 数日前に見つけた薄い茶色の四ドアセダンは、まだ同じ場所に止まっていた。


 悠斗とシオンは少し離れた道へ銀色のセダンを置き、歩いて蓮と合流した。


 アキラとナナの黒いクーペも、さらに別の通りへ止めてある。


 普段乗っている車を一か所へ並べるのは避けた。


「まだあるな」


 蓮が茶色のセダンを見る。


 ナナも少し遅れて合流し、車を眺めた。


「改めて見ると、本当に地味」


「だからいいんだろ」


 蓮が答える。


 五人は遠巻きに状態を見る。


 目立つ傷はない。


 タイヤも潰れていない。


 少なくとも外から見える範囲では、前に見た時と大きな変化はなさそうだった。


「今夜の第一候補はこれでいい?」


 悠斗が聞く。


「俺はいい」


 蓮。


「目立たない」


 シオン。


 アキラも頷く。


「黒とか白より覚えにくそうだしな」


 ナナが周囲を見る。


「でも、まだ触らない方がいいね」


「うん」


 悠斗も同意した。


「白いバンが最後まで条件揃ってたら、その時に使えるか確認しよう」


「それでいい」


 蓮もすぐに納得した。


 準備ができているからといって、今ここで余計なことをする必要はない。


     ◇


 午後十一時前。


 白いバンは四軒目へ入った。


 五人はそれぞれの車へ戻り、少し離れた場所から最後の確認を続けていた。


 茶色のセダンには誰も触れていない。


『白バン、出た』


 ナナの声。


「人数?」


『二人』


「後ろは?」


『今のところ何もいない』


 悠斗は息を整える。


「シオン?」


「こっちは問題ない」


「アキラ?」


『店側も変化なし』


「蓮?」


『道は空いてる』


 全部揃っている。


 悠斗が口を開こうとした、その時だった。


『待って』


 ナナの声が鋭くなった。


 全員が黙る。


「どうした?」


『白バンの後ろ。さっきいなかった車が出てきた』


「どんなの?」


『濃いグレーのセダン。一台』


 蓮がすぐに聞く。


『ついて来てる?』


『まだ分からない』


 悠斗は何も言わず待った。


 数秒がやけに長く感じる。


『一個目の交差点、同じ』


 ナナの声。


『次も同じ』


 シオンが短く言った。


「護衛かもしれない」


 アキラが息を吐く。


『でもSUVじゃないぞ』


「車が違うだけかもしれない」


 悠斗が答える。


『偶然だったら?』


 蓮の問いに、悠斗は一瞬だけ黙った。


 今日まで何日も見てきた。


 条件も揃っていた。


 逃走車の候補も残っている。


 ここでやめれば、惜しいと思う。


 それでも、最初に決めたことは変わらない。


「今日はやめよう」


 一瞬、通話が静かになる。


『了解』


 最初に答えたのはシオンだった。


『私もそれでいいと思う』


 ナナが続く。


『まあ、分からない時はやらないって決めたしな』


 アキラ。


 最後に蓮が小さく息を吐いた。


『……了解』


 悔しそうではあった。


 それでも反対はしなかった。


「茶色のセダンもそのままにしよう」


『了解』


「一回離れて、あとで合流しよう」


     ◇


 三十分後。


 五人はミオのいるダイナーへ集まっていた。


 窓際のテーブルには水の入ったグラスとメニューが並び、厨房からは油の弾ける音が聞こえてくる。


 蓮は頬杖をついた。


「惜しかったなあ」


「かなりね」


 アキラも同意する。


「あとちょっとだったのに」


 ナナはスマートフォンを見ながら言った。


「グレーのセダン、途中までは白バンと同じ方向。その先は見失った」


「本当に護衛だったかは分からない?」


 悠斗が聞く。


「分からない」


「ならやめてよかった」


 シオンが言う。


 蓮が顔を上げる。


「まあ、最初にそう決めたしな」


「うん」


 悠斗は水を一口飲んだ。


 本音を言えば、今日はやりたかった。


 何日もかけて調べた。


 車も探した。


 条件もほとんど揃っていた。


 それでも、一つ分からないことが増えた。


 その時点でやめる。


 今はそれでいい。


「何の話してるの?」


 料理を運んできたミオが、テーブルへ皿を置きながら聞いた。


「何でもない」


 五人の声がほぼ同時に重なる。


 ミオがぴたりと手を止めた。


「五人揃ってそう言う方が怪しいんだけど」


「本当に何でもないから」


 悠斗が苦笑する。


「まあ、店の中で変なことしないならいいけど」


 ミオはまだ少し疑わしそうに五人を見てから、厨房へ戻っていった。


 蓮が声を落とす。


「余計怪しまれたな」


「お前らが一斉に言うからでしょ」


「悠斗も言ってたけどな」


 五人の間に小さな笑いが広がった。


 仕事はしていない。


 金も一ドルも増えていない。


 それでも、無理をして失敗するよりはいい。


 悠斗がフォークを手に取る横で、ナナがスマートフォンを操作していた。


「そういえば」


「何?」


 悠斗が見る。


「明日、別のベッティング店で大きい試合のイベントあるみたい」


 蓮がすぐに顔を上げる。


「客増える?」


「多分。ただ、回収が増えるかは分からない」


「警備増える可能性もあるか」


 アキラが言う。


「それもある」


 ナナが頷いた。


 悠斗は少し考えた。


「じゃあ明日も見るだけ見ようか」


「また条件悪かったら?」


 蓮が聞く。


「その時はやらない」


 少し間があって、蓮が笑った。


「だよな」


 今度は、全員が迷わず頷いた。

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