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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

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第2章 第95話 逃走車を探せ

 翌日の昼過ぎ。


 悠斗の家の前に、青いレイザーが滑り込んできた。


 助手席の窓が下がり、運転席の蓮が片手を上げる。


「行くぞ」


「どこに?」


「車探し」


「場所は決まってるの?」


「だいたい」


 その答えに少し不安を覚えながら、悠斗は助手席へ乗り込んだ。


 後部座席にはシオンが座っている。


 今日は最初から二手に分かれていた。


 悠斗、蓮、シオンの三人はレイザーで南部を回る。アキラとナナは黒いクーペで別の地区を探している。


 五人で一か所ずつ見るより、候補を探すだけなら二手に分かれた方が早い。


「で、どんな車を探すの?」


 悠斗がシートベルトを締めながら聞く。


「速い。目立たない。四人か五人乗れる。ぶつけても泣かない」


「最後だけ急に雑だな」


「テンペストじゃできないだろ」


 蓮は真顔だった。


 それについては悠斗も同意する。


 テンペストは足回りとブレーキを仕上げたばかりだ。必要なら犯罪にも使うが、最初から傷つける可能性が高い役目へ持ち出すのは惜しい。


「セダンが無難?」


「俺はそう思ってる」


「SUVは?」


「重い」


 後ろからシオンが言う。


「押されたら強い」


「まあな。でも今回、押し合うって決まってないし」


 蓮がアクセルを踏む。


 青いレイザーは住宅街を抜け、南部へ向かった。


     ◇


 最初に目をつけたのは、古い四ドアセダンだった。


 色はくすんだ銀。


 外装には細かな傷があり、古い集合住宅沿いの路肩へ溶け込むように止まっている。


「これどう?」


 悠斗が言った。


「目立たないし、五人乗れる」


 蓮は少し黙ってから首を傾げた。


「遅そう」


「見ただけで分かる?」


「なんとなく」


「お前の基準、レイザーになってない?」


「逃走車だぞ?」


 後部座席からシオンが口を挟む。


「見つからなければ、速さはそこまでいらない」


 蓮が黙った。


「……正論で殴るなよ」


 悠斗は笑った。


 三人は少し離れた場所へレイザーを止め、歩いて車を確認する。


「タイヤ、怪しくない?」


 悠斗が右後輪を見る。


 空気が少し抜けているように見えた。


 蓮の表情が一気に曇る。


「これはなし」


「まだ走らせてもないじゃん」


「途中でパンクしたら終わるだろ」


「逃走中にタイヤ潰れたら、さすがに最悪だね」


「だろ?」


 シオンも右後輪を見て短く言う。


「やめた方がいい」


「じゃあ次探すか」


 最初の候補は、触る前に消えた。


     ◇


 二台目は黒いSUVだった。


「これはどう?」


 悠斗が言う。


「でかい。五人乗れる。タイヤもまともそう」


「目立つ」


 蓮。


「でも速そうじゃない?」


「さっきよりは」


 三人は小さな商業施設の裏手へ止まっているSUVを眺める。


 外装はかなり綺麗だった。


「これ、持ち主すぐ戻ってくるんじゃない?」


 悠斗が建物へ目を向ける。


「ありそう」


 シオンも周囲を見る。


 その時だった。


「おい」


 背後から声がした。


 三人が同時に振り返る。


 紙袋を抱えた中年の男が立っていた。


「俺の車の周りで何してんだ?」


「……」


 悠斗の喉が一瞬詰まる。


 別に何かをしたわけではない。


 それでも、知らない相手から突然問い詰められると、反射的に緊張してしまう。


「いや、えっと……」


 横から蓮が口を開いた。


「いい車だなと思って見てただけっす」


「三人で?」


「車好きなんで」


 男の視線が悠斗、蓮、シオンの順に動く。


 明らかに怪しまれていた。


「触った?」


「触ってないです」


 悠斗が今度は答えた。


 それは本当だった。


 男はしばらく三人を睨んでから、SUVへ向かった。


「変なことすんなよ」


「しません」


 悠斗たちはその場を離れる。


 建物の角を曲がったところで、蓮が吹き出した。


「危なっ」


「だからすぐ戻ってきそうって言ったじゃん」


「俺、何もしてねえぞ」


「俺も」


 二人が同時にシオンを見る。


「俺も何もしてない」


「全員何もしてないのに怪しさだけすごかったな」


 悠斗も笑ってしまった。


 レイザーへ戻る途中、蓮が言う。


「アキラなら、ああいう時もっと自然に喋るんだろうな」


「多分ね」


 悠斗は素直に頷いた。


 自分も前よりは知らない相手と話せるようになった。


 それでも、アキラのように何の準備もなく言葉が出てくるところまではまだ遠い。


     ◇


 午後四時。


 二組が合流したのは、南部のガソリンスタンドだった。


 蓮がレイザーを給油機の脇へ入れると、少し遅れてアキラの黒いクーペが入ってくる。


 助手席からナナが降り、運転席からアキラが顔を出した。


「そっちどうだった?」


「一台目はタイヤが怪しかった」


 悠斗が答える。


「二台目は持ち主が戻ってきた」


 蓮が続けた。


 アキラが笑う。


「何してんだよ」


「見てただけだって」


「絶対怪しかっただろ」


「怪しかった」


 シオンが即答した。


「認めるんだ」


 ナナが笑った。


「そっちは?」


 悠斗が聞く。


 ナナは紙コップを片手に地図を開いた。


「何か所か見た。候補になりそうな場所はあったけど、昼は人が多いね」


「一台いいのあったぞ」


 アキラが言う。


「古い黒セダン」


「状態は?」


「遠くから見ただけ。近くに人いたから触ってない」


「じゃあ夜見に行く?」


 蓮が聞く。


「その前に、ナナが見つけた方も回ろう」


「それがいいと思う」


 五人は近くの店で軽く食事を取り、暗くなるのを待つことにした。


     ◇


 夕方を過ぎると、南部の空気が少し変わった。


 仕事帰りの車が減り、代わりに派手なスポーツカーやバイクが増えてくる。


 交差点では大音量で音楽を流したオープンカーが信号待ちをしていた。


 少し離れた通りを救急車がサイレンを鳴らして横切っていく。


 五人は二台のまま移動した。


 前を走るレイザーに悠斗、蓮、シオン。


 その後ろをアキラの黒いクーペがついてくる。


『次、右』


 通話越しにナナの声が聞こえた。


「了解」


 蓮がウインカーを出す。


 向かった先は、工業地帯の外れだった。


 倉庫、高いフェンス、資材置き場。その間を街灯の少ない細い道路が伸びている。


 少し先の空き地脇に、何台か古い車が止まっていた。


 五人は少し離れた場所へ二台を止める。


「昼に見たの、あれ」


 ナナが白い四ドアセダンを指した。


 少し古いが、外観は悪くない。


 派手な改造もなく、街中で見かけても特に印象には残らなさそうだ。


「こういうのでいいんじゃない?」


 悠斗が言う。


 蓮も今回はすぐ否定しなかった。


「タイヤは普通」


「判断基準がタイヤからになってる」


 ナナが呆れる。


「大事だからな」


 シオンが周囲を見る。


「目立った傷もない」


 アキラが車の横から眺める。


「見た感じは悪くないな」


 蓮は少し離れたところから車全体を見た。


「この型なら、速い方じゃないと思う」


「また見た目?」


「今度は車種の話だよ」


「本当に?」


「そこまで信用ない?」


 ナナが笑う。


「じゃあ候補には残す?」


 悠斗が聞いた。


「残す。少なくとも目立たないのはいい」


 蓮が答える。


「実際に使うことになったら、その時に状態確認でいいだろ」


「それがいいと思う」


 悠斗も頷いた。


 候補を探しているだけの今、余計なことをして目立つ必要はない。


     ◇


 その後も五人は周辺を回った。


 二台目。


 赤いワゴン。


「目立つ」


 ナナが即座に却下した。


「夜なら逆に目立たないとかない?」


 アキラが言う。


「赤は赤でしょ」


「ですよね」


 三台目。


 古いミニバン。


「五人余裕」


 アキラが褒める。


 蓮は少し眺めてから首を振った。


「これは嫌な予感する」


「また雰囲気?」


「見れば分かるだろ」


「今度は何が?」


「全体的に」


「結局雰囲気じゃん」


 悠斗が笑った。


 四台目。


 濃紺のセダン。


 悠斗には一番普通に見えた。


「これ良くない?」


「いいな」


 蓮も頷く。


 アキラが後ろへ回った。


「……トランクへこんでるぞ」


 右側がかなり潰れている。


「走れるなら問題なくない?」


 悠斗が言う。


「ちゃんと閉まるのか?」


「今は確認しなくていいんじゃない?」


 ナナが止める。


「候補だけ覚えとけばいいよ」


「そうだね」


 悠斗も同意する。


 五台目。


 薄い茶色の四ドアセダン。


 全員が車の前で立ち止まった。


「地味」


 ナナ。


「地味だな」


 アキラ。


「普通」


 シオン。


 蓮はしばらく眺めてから頷いた。


「こういうのでいいのかもな」


「速そう?」


「それは乗らないと分からん」


「成長した」


 アキラが笑う。


「うるさい」


 高級車でもスポーツカーでもない。


 街中ですれ違っても、しばらくすれば忘れてしまいそうな車だった。


 今回必要なのは、たぶんこういう一台だ。


「第一候補?」


 悠斗が聞く。


「今のところな」


「白い方は?」


「第二候補」


「濃紺は?」


「トランク閉まるなら考える」


「結局ちゃんと覚えてるじゃん」


「車のことだからな」


 蓮は当然のように答えた。


「当日なかったら別の候補を見る。それでいいだろ」


 ナナも頷く。


「毎日同じ車があるとは限らないしね」


 それで方針は決まった。


     ◇


 帰りも二台に分かれた。


 レイザーには悠斗、蓮、シオン。


 黒いクーペにはアキラとナナ。


 大通りへ出る直前、前を走っていたアキラの車が急に速度を落とした。


「何?」


 蓮もブレーキを踏む。


 道路の真ん中を、小さな古いハッチバックがゆっくり走っていた。


「遅っ」


 蓮が思わず声を漏らす。


 通話からアキラの声が飛んでくる。


『これ逃走車にする?』


「絶対嫌だ」


『目立たないぞ』


「最高速まで目立たなくてどうすんだよ!」


 ナナの笑い声が聞こえる。


 小型車は次の交差点でも悠々と走り続け、後ろにはいつの間にか何台もの車が列を作っていた。


「でも見た目だけなら今日の候補より地味かも」


 悠斗が言う。


「お前まで言うなよ」


「蓮が嫌がるから言っただけ」


「性格悪くなったな」


 そう言いながらも、蓮は笑っていた。


 赤信号で前を走るアキラの黒いクーペが止まる。


 レイザーもその後ろへ並んだ。


『悠斗』


 ナナの声が通話から聞こえる。


「何?」


『次、条件揃ったらどうする?』


 悠斗はフロントガラスの向こうを見る。


 南部の夜。


 店の明かり。


 行き交う車。


 遠くを横切るパトカー。


「回収車を確認して、条件が揃ってたら車を用意する」


『じゃあ、いよいよ?』


「うん」


 信号が青へ変わる。


 アキラの黒いクーペが動き出し、蓮もその後を追った。


「揃ったら、やろう」


 通話の向こうから、今度は全員の返事が返ってきた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

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