↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/170

第2章 第94話 狙える日、狙えない日

 翌日。


 五人は前日と同じように南部へ散った。


 ただし、配置は変えている。


 同じ車が毎日同じ場所にいれば、それだけで目につく。悠斗は銀色のセダンで西側を流し、今日はシオンが助手席。ナナはアキラの黒いクーペに乗り、ベッティング店を二か所確認する。蓮は青いレイザーで、前日に白いバンが通った道路を広めに見ることになった。


 午後八時過ぎ。


 悠斗は古い商店が並ぶ通りの路肩へセダンを寄せた。


「昨日より静かだね」


 フロントガラス越しに通りを眺める。


 雨上がりの道路へ看板の光が滲み、時折通過する車のタイヤが濡れた路面を鳴らしていた。


「平日だからかも」


 シオンが答える。


 悠斗はスマートフォンをホルダーへ戻した。


 まだ白いバンは現れていない。


 通話も静かだ。


 そんな時だった。


 後ろから短くサイレンが鳴った。


「え?」


 ミラーを見る。


 一台のパトカーが赤と青のランプを点滅させている。


「……俺?」


「多分」


 シオンが言った。


「何もしてないんだけど」


 そう言いながら道路脇の標識へ目を向ける。


 時間帯によって駐車禁止になる区画だった。


「あ」


 逃げる理由はない。


 悠斗はハザードを点け、そのまま車内で待った。


 運転席側へ警察官が近づいてくる。


 窓を下げると、見覚えのある顔が覗き込んだ。


「こんばんは」


「……アリサさん」


「神谷さん」


 桐生アリサは一度悠斗を見てから、助手席のシオンへ視線を向けた。


「今日は何してるんですか?」


「えっと……」


 一瞬だけ言葉が詰まる。


 下見です、とは言えない。


「ドライブです」


「この場所で?」


「少し休憩してました」


 嘘ではない。


 少なくとも今は何もしていない。


 アリサは道路脇の標識を指した。


「ここ、八時から駐車禁止ですよ」


「今気づきました」


「でしょうね」


 呆れたように息を吐かれる。


「最近、この辺で違法駐車が増えてるんです。配送車が曲がれないって苦情も来てるので」


「すみません。すぐ動かします」


 アリサは悠斗の免許を確認してから、銀色のセダンをちらりと見た。


「今日はちゃんと普通に走ってくださいね」


「今日は、って……」


「この前、一緒にいた人が速度で止められてたでしょう」


 蓮のことだ。


「俺は止められてませんよ」


「だから、そのままでお願いします」


「……はい」


 アリサは軽く手を振り、パトカーへ戻っていった。


 今回は注意だけで済んだ。


 悠斗が車を発進させると、シオンが隣で言った。


「顔覚えられてる」


「前からだよ」


「便利?」


「犯罪者側からしたら全然便利じゃない」


 シオンが小さく笑った。


 珍しい反応に、悠斗もつられて笑う。


 通話を繋ぎ直すと、すぐに蓮の声が飛んできた。


『どうした? パトカー見えたけど』


「駐車場所ミスった」


『捕まった?』


「注意だけ」


『俺より軽いじゃん』


「比べるなよ」


『アリサだった?』


「うん」


『じゃあ余計気をつけろよ。顔覚えられてんだから』


「この前止められた人に言われたくない」


 ナナとアキラの笑い声が通話に混じった。


     ◇


 その日は、白いバンが前日より一時間近く遅れて現れた。


 しかも、昨日とは別の店から回り始めた。


『来た』


 ナナの声が変わる。


「どこ?」


『北寄りの店。今出たところ』


「人数は?」


『二人。昨日と同じに見える』


 アキラも続ける。


『ケースは二個。昨日より多い』


「車は?」


『同じ白いバン』


 悠斗は地図へ印をつけた。


「蓮、そっち行きそう?」


『分からん。昨日のルートなら来るけど、今日もう順番違うし』


「無理に合わせなくていいよ」


『了解』


 その後、バンは昨日通らなかった住宅街側へ抜けた。


 途中で一度見失い、しばらくして別店舗の近くでシオンが再び見つけた。


 だが、その日は前日にはなかったものもいた。


「後ろ、黒いSUV」


 シオンが言う。


「どれ?」


「バンの二台後ろ」


 悠斗もミラー越しに確認した。


 黒い大型SUV。


 前日には見ていない。


「関係あるかな」


「分からない」


 バンが右折する。


 SUVも右折した。


 次の交差点でも同じだった。


 悠斗はそれ以上近づかず、距離を空ける。


 やがて二台は同じベッティング店の裏手へ入っていった。


「関係ありそうだね」


「うん」


 悠斗は通話へ声を入れる。


「今日は護衛っぽいSUVがいる」


『マジ?』


 アキラの声が返る。


「バンと同じ裏口に入った」


『何人?』


「まだ分からない」


『じゃあ、今日が実行日だったら嫌だったな』


 蓮が言う。


「うん」


 もし昨日の情報だけで動いていたら、このSUVの存在は知らないままだった。


     ◇


 三日目。


 今度はさらに違った。


 白いバンが来ない。


 午後九時。


 十時。


 十一時。


 店が閉まり始めても、シオンが最初に見つけた車は一度も現れなかった。


『今日休みじゃね?』


 蓮が言う。


「店は開いてたよ」


 ナナが返す。


『じゃあ回収なし?』


「別の車かも」


 アキラの声が入る。


『俺のところ、灰色のバン来たぞ』


「白じゃなく?」


『灰色。二人。ケース持ってる』


 全員が少し黙る。


「前と同じ人?」


 悠斗が聞く。


『一人は似てる。遠いから確実じゃないけど』


「写真撮れそう?」


『遠くからなら』


「無理しなくていいよ」


『分かってる』


 少しして、グループチャットへ画像が届く。


 灰色の商用バン。


 車種も白いバンとは違う。


 その横には男が二人立っていた。


「車替えてるのかな」


 ナナが呟く。


「毎日同じじゃないんだ」


 悠斗は画面を見つめた。


 同じルートでもない。


 同じ時間でもない。


 護衛が付く日もある。


 車まで変わる。


『思ったよりちゃんとしてんな』


 蓮の声がした。


「現金運んでるんだから、そりゃそうか」


 悠斗は苦笑する。


『じゃあやめる?』


 アキラが聞く。


 悠斗はすぐには答えなかった。


 簡単ではない。


 だが、狙えないと決まったわけでもない。


「今日終わったら、一回整理しよう」


『了解』


     ◇


 深夜。


 五人は悠斗の家へ戻っていた。


 テーブルには三日分の情報が広がっている。


 ナナがまとめた店舗一覧。


 車が現れた時間。


 確認できた人数。


 白いバン。


 灰色のバン。


 黒いSUV。


 蓮が見た道路状況。


 アキラが店で拾った話。


「店員から聞けたのは、大体こんな感じ」


 アキラが言う。


「毎日必ず同じ時間に来るわけじゃないっぽい。忙しい日は回収が増えることもあるらしい」


「時間は?」


 ナナが聞く。


「店員も細かい時間までは知らないってさ。少なくとも、何時に絶対来るって感じじゃなかった」


「どうやってそこまで聞いたの?」


「普通に賭けながら話した」


「負けた?」


「……ちょっと」


 蓮が笑う。


「情報料じゃん」


「必要経費だ」


「いくら?」


「言わない」


「結構負けてるな」


「うるさい」


 悠斗も笑いながら、三日分の情報を見直した。


「決まってないこと、多いね」


「多い」


 ナナが頷く。


「でも、今のところ共通してる場所はある」


 彼女が地図の一点を指した。


 南部と工業地帯の境目。


 複数の大きな道路が交わる場所だった。


「白いバンを見た二日は、回収のあとこの辺を通ってる。今日の灰色のバンもここは通った」


「毎回ここってわけじゃないよね?」


 悠斗が確認する。


「まだ三日だから、そこまでは言えない。ただ、今のところは三回とも通ってる」


 蓮が地図へ身を乗り出した。


「道は多いな」


「その分、人も多い」


 悠斗が言う。


「信号もあるし、防犯カメラもありそう」


「正面から無理に止める場所じゃない」


 シオンが短く言った。


「うん」


 アキラが腕を組む。


「じゃあ結局どうする? やるのか、やめるのか」


 悠斗は少し考えた。


「やる日を先に決めるんじゃなくて、やらない条件を決めない?」


「例えば?」


 蓮が聞く。


「護衛がいた日」


「それはなしでいいと思う」


 ナナがすぐに頷いた。


「人数増えてた時も?」


 アキラが聞く。


「俺はやめたい」


 悠斗が答える。


 シオンが視線を上げた。


「一人増えるだけでも?」


「うん。金額も分からないのに、わざわざ相手が多い日にやる理由ないし」


 シオンは少し考えてから頷く。


「分かった」


「途中で車見失ったら?」


 蓮が聞く。


「その日は終わりでいいんじゃない?」


 ナナが答えた。


「別の車に入れ替わってる可能性もあるし」


「じゃあ警察が近くで大きい対応してたら?」


 アキラ。


「それもやめよう」


 悠斗が言う。


「逆に警察そっち行ってるならチャンスじゃない?」


「別の事件が終わった瞬間にこっち来られても困る」


「それもそうか」


 五人で一つずつ条件を決めていく。


 護衛なし。


 確認できる相手は二人。


 対象車両を途中まで把握できている。


 周辺で大きな警察対応がない。


 それらが揃った日にだけ、実行を考える。


「ずっと揃わなかったら?」


 アキラが聞いた。


「その時は別の仕事探そう」


 悠斗が答える。


「宝石店?」


「違う」


「高級車?」


 今度は蓮。


「それもまだ」


「じゃあ何だよ」


「その時また考えればいいでしょ」


 五人の間に笑いが広がる。


     ◇


「で、車どうする?」


 蓮が話題を変えた。


「テンペスト?」


 ナナが聞く。


 一瞬、全員が黙った。


 蓮が真っ先に首を振る。


「嫌だ」


「即答」


「五千八百入れたばっかりだぞ」


「プール金だけどね」


「金の問題だけじゃない。あれぶつけたくない」


 悠斗も同じ気持ちだった。


 テンペストはブレーキも足回りも仕上げたばかりだ。


 今回の仕事で必要なのは、傷つけても惜しくない車かもしれない。


「別の車用意しよう」


 悠斗が言う。


「盗む?」


 アキラが聞く。


「それも候補」


 蓮の表情が少し楽しそうになる。


「じゃあ次は車探しか」


「壊れても困らないやつね」


「遅いのは嫌だぞ」


「贅沢言わない」


「逃げ切れなかったら意味ないだろ」


「それはそうだけど」


「五人乗る?」


 ナナが聞く。


 悠斗は少し考えた。


「そこもまだ決めなくていいかも。何人が車に乗るかで必要な車も変わるし」


「じゃあ先に候補見る?」


 蓮が身を乗り出す。


「それがいい」


 いつの間にか、話題は完全に車へ移っていた。


 どんな車なら目立たないか。


 どれくらい速さが必要か。


 大きすぎる車はどうか。


 盗むならどこから持ってくるか。


 話し始めると、また決めることが増えていく。


 悠斗はそれを聞きながら、少しだけ笑った。


 誰かに渡された仕事ではない。


 五人で調べて、考えて、やるかどうかまで決めている。


「じゃあ次、車を見ようか」


 悠斗が言う。


 蓮がすぐに身を乗り出した。


「それは俺に任せろ」


 今度は誰も反対しなかった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。