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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

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第2章 第88話 予定外でも崩れない

 逃げる配送バンとの距離が、少しずつ縮まっていた。


 黒いヴァルカン・テンペストの運転席では、蓮が前方だけを見てハンドルを握っている。


 助手席には悠斗。


 後部座席にはシオンとケン。


 先ほどまで車列の先頭を守っていた白いSUVは、ユウの暗色セダンを右前部へ強く当てられたことで足回りを傷め、すでに隊列から脱落している。


 残るのは配送バンと、その後ろを守る濃紺のセダンだけ。


 最初より条件は良くなった。


 だからといって、楽になったわけではない。


『テンペスト、詰めすぎないで』


 無線からリサの声が飛んできた。


「了解」


 蓮がアクセルをわずかに戻す。


 その判断に迷いはなかった。


 配送バンは前方を走りながら何度も車線を変えている。後ろのテンペストを振り切ろうとしているというより、こちらが横へ出る隙を作らせないように走っているように見えた。


「運転手、慣れてるな」


 ケンが低く言う。


「たぶん」


 蓮も認めた。


 前方には夜の工業地帯が続いている。


 巨大な倉庫の壁。


 コンテナを積んだトレーラー。


 営業を終えた工場。


 ところどころで夜間作業の照明が白く路面を照らし、交差点を配送車が横切っていく。


 一般車もいる。


 その存在が、無理な追い越しを難しくしていた。


『ユウ、後ろどう?』


 リサが聞く。


『濃紺がバンへ戻ろうとしてる』


 ユウの声。


 悠斗がサイドミラーを見る。


 かなり後方。


 傷だらけになった暗色セダンが、濃紺の護衛車と並びかけている。


『右から抜こうとしてる』


『完全に塞がなくていい。時間だけ作って』


『了解』


 ユウが濃紺のセダンの前へ少しだけ車体を出した。


 護衛車はすぐに反応する。


 速度を落としたかと思えば、その直後には反対車線側へ出ようとする。


「抜けてくる?」


 悠斗が思わず言った。


『まだ』


 ナナの声が無線へ入る。


『ユウさんが前。リサさんたちはその後ろ。完全には止めてないけど、バンとの差は開いてる』


 悠斗は少しだけ息を吐いた。


 挟み込んで動けなくしているわけではない。


 護衛側も必死にバンへ戻ろうとしている。


 そのたびにユウとリサが位置を変え、数秒ずつ邪魔しているだけだ。


 それでも、その数秒が積み重なれば大きい。


「前、曲がる」


 シオンが言った。


 配送バンのウインカーが点滅する。


 右。


『対象右折』


 ナナ。


『その先、片側1車線。一般車1台』


 蓮は急いで距離を詰めなかった。


 配送バンが曲がる。


 一拍遅れてテンペストも交差点へ入る。


 改修した足回りが路面をしっかり捉え、少し高い速度で曲がっても車体が余計に揺れない。


「やっぱいいな」


 蓮が小さく呟いた。


「今それ言う?」


 悠斗が思わず返す。


「今だから分かるんだよ」


 後ろでケンが小さく笑った。


 緊張がほんの少しだけ和らぐ。


 その時、無線からナナの声が強くなった。


『警察動いた』


 悠斗の背筋が伸びる。


『さっきの発砲通報。港湾側と南部からパトカーが向かってる』


「近い?」


『まだ現場までは距離ある。でも時間かけると来る』


『了解』


 リサの返事は短い。


『全員、警察が来る前に終わらせることを考えないで。無理なら捨てる』


 その言葉に悠斗は一瞬だけ引っかかった。


 早く終わらせる。


 普通ならそう考えそうな場面だ。


 だが、焦って無茶をすれば、そこで全部崩れる。


 その直後だった。


「バン、来る!」


 蓮の声。


 配送バンが急にテンペスト側へ車体を寄せてきた。


「うわっ!」


 悠斗の身体が反射的に助手席側へ傾く。


 蓮がハンドルを切った。


 テンペストが外側へ逃げる。


 バンの後部がすぐ横を通り抜けた。


 タイヤが短く鳴る。


 それでも車体は大きく暴れない。


「当てに来たぞ!」


 悠斗が言う。


「見りゃ分かる!」


「もう一回来る!」


「分かってるって!」


 普段より声が大きくなる。


 後部座席からケンの声が飛んだ。


「二人とも前見ろ」


「はい!」


「分かった!」


 一瞬で会話が止まった。


 悠斗は自分でも少し驚いた。


 これまでなら、そのまま何言か続いていたかもしれない。


 前を見る。


 配送バンは再び中央へ戻っていた。


 今度はこちらをただ逃げる相手とは思っていない。


 明確に追跡車を排除しようとしている。


『テンペスト、一回離れて』


 リサ。


「了解」


 蓮は素直に距離を取った。


「行けそうだったのに」


 思わず悠斗の口から漏れる。


 すぐに自分でも気づいた。


 目標が目の前にある。


 だから欲が出る。


『その“行けそう”が一番危ないよ』


 無線越しにリサが言った。


 聞こえていたらしい。


「……はい」


『次を見る』


 それだけだった。


 説教はない。


 悠斗は前方のバンを見つめ直した。


     ◇


 数十秒後。


 道路は倉庫と倉庫の間へ入った。


 片側1車線。


 左側には高いコンクリート壁。


 右側には大型トラック用の広い駐車スペースが続いている。


『ここ使える』


 ユウの声が入る。


『バン、この先で右へ抜けられる道が1本だけ』


 悠斗は作戦会議で見た地図を思い出す。


「そこ抜けられたら広い道に戻る?」


『そう』


「じゃあ、右に曲がらせたくない」


 言ってから、悠斗は少しだけ口を閉じる。


 自分が決める立場ではない。


 だが、リサはすぐに返した。


『同じこと考えてた。ユウ、後ろから右側へ圧かけて』


『了解』


『蓮は左。挟まないで、右折だけしにくくして』


「分かった」


 テンペストが配送バンの左後方へ寄る。


 まだ横には並ばない。


 前方の交差点が近づく。


 バンの右ウインカーが点いた。


「曲がる!」


 悠斗が声を上げる。


 その瞬間、後方から濃紺のセダンが一気に距離を詰めてきた。


『後ろ抜けた!』


 ナナ。


「え?」


 悠斗がミラーを見る。


 ユウの前を強引に横切り、濃紺のセダンがこちらへ向かってくる。


『リサさん!』


 アキラの声まで重なる。


『分かってる。無線被せない!』


 リサの一言で全員の声が止まる。


『ユウは追う。私は後ろから入る。テンペストはバンだけ見て』


 整理が速い。


「了解!」


 蓮が答える。


 悠斗も前へ向き直った。


 危なかった。


 後ろが気になり、一瞬だけ配送バンから意識が外れた。


 バンは右折しようとしている。


「蓮、右行く!」


「止める」


 テンペストが左側から少し前へ出た。


 右からはユウの暗色セダンが追いついてくる気配がある。


 配送バンの運転手が迷った。


 その一瞬で交差点が過ぎる。


「直進した!」


 悠斗が言う。


「よし」


 バンは右折を諦め、そのまま狭い道路へ入った。


 だが、終わらない。


 後ろから濃紺のセダンが迫る。


 護衛車はクラクションを鳴らしながらテンペストへ寄せてきた。


「右!」


 ケン。


 蓮がすぐに左へ逃がす。


 その隙に濃紺のセダンがバンへ近づこうとする。


『行かせない』


 ユウの暗色セダンが後ろから追いついた。


 濃紺のセダンの進路へ半車身だけ入る。


 相手も引かない。


 車体同士が擦れ、火花が散った。


『うわ、来たな』


 それでもユウの声は妙に落ち着いている。


『ユウ、壊しすぎないで』


『向こうに言って』


 アキラが無線の向こうで吹き出しかけた。


『今笑うとこじゃないだろ』


『ごめん』


 ほんの一瞬。


 それだけでも空気が少し緩む。


 すぐにナナが言った。


『警察、あと数分でこの辺入る』


 全員の意識が戻った。


『急がない。でも長引かせない』


 リサが言う。


『次の駐車スペースで止められなかったら撤退する』


 明確な線だった。


 悠斗は前方を見る。


 大型車用の広いスペースが近づいている。


 これが最後。


     ◇


「蓮、前へ」


『テンペスト前』


 リサの指示が重なる。


 蓮がアクセルを踏む。


 テンペストが配送バンの左側へ出る。


 バンの運転手も負けずにこちらへ寄せた。


「また来る!」


「分かってる!」


 蓮は一度引いた。


 バンが戻る。


 そこでもう一度詰める。


 今度は前へ出る。


 配送バンの正面を完全に塞ぐのではなく、右側の駐車スペースへ逃げるしかない角度を作る。


 バンは一瞬減速した。


 次の瞬間、逆にアクセルを踏んだ。


「突っ込んでくる!」


 悠斗の喉がひきつる。


「避ける!」


 蓮がテンペストを前へ逃がす。


 配送バンがその後ろを追う。


 だが、右側には駐車中の大型トラックが並び始めていた。


 左は壁。


 前にはテンペスト。


 速度を上げれば、逃げ道がなくなる。


 配送バンのブレーキランプが点いた。


 それでも完全には止まらない。


 テンペストへ追突しようとするように距離を詰める。


「蓮、右のスペース!」


 悠斗が叫ぶ。


「分かってる!」


 蓮が駐車スペース側へ入り、すぐに左へ戻す。


 配送バンは反射的にその動きを追った。


 そこで蓮が強くブレーキを踏む。


 テンペストは姿勢を乱さず速度を落とした。


 バンの運転手が慌ててハンドルを切る。


 逃げた先は広い駐車スペース。


 タイヤが甲高い音を上げた。


 配送バンが横向きになりかけながら停止する。


「止まった!」


『後ろ、あと20秒くらい!』


 ナナの声が飛ぶ。


 20秒。


 具体的な数字を聞いた瞬間、悠斗の心臓が一気に速くなった。


「行くぞ」


 ケンがドアへ手をかける。


 シオンも同時に動いた。


「蓮は車!」


「任せろ!」


 悠斗も助手席から飛び出した。


 夜気が頬へ当たる。


 シオンとケンは配送バンを遮蔽物にできる角度へ分かれた。


「手を見せろ!」


 ケンの大声。


 運転席の扉が開く。


 運転手が両手を見せながら降りてきた。


 だが、助手席は開かない。


「助手席!」


 悠斗が言う。


「見えてる」


 シオンが拳銃を向ける。


「手を出せ」


 反応がない。


『15秒!』


 ナナ。


 悠斗は道路を見る。


 遠くに濃紺のセダンが見えた。


 その前へユウが何度も割り込んでいる。


 すぐ後ろにはリサの車。


 時間を稼いでいる。


「早く!」


 悠斗の声が思わず強くなる。


 その瞬間、助手席の扉が少し開いた。


 男の片手が見える。


 もう片方は見えない。


「両手」


 シオンの声は低い。


 男が止まる。


 一瞬の沈黙。


 次に見えた右手は腰へ向かおうとしていた。


「動くな!」


 シオンの声が鋭くなる。


 男の動きが止まった。


 銃口と視線がぶつかる。


 数秒。


 男はゆっくり両手を上げた。


「降りろ」


 今度は従った。


 ケンが2人をバンから離れさせる。


「悠斗、外!」


「はい!」


 言われる前に見るべきだった。


 悠斗はすぐ道路側へ身体を向けた。


『10秒!』


 ナナ。


「シオン!」


「探してる」


 バンの後部扉が開く。


 荷物。


 工具箱。


 いくつかの箱。


「どこだ?」


 シオンが中を見る。


 悠斗の喉が乾く。


 濃紺のセダンが近づく。


 ユウの暗色セダンと接触しながら、それでもこちらへ来ている。


『銃出た!』


 アキラ。


 銃声が響いた。


 一発。


 二発。


「誰!?」


 悠斗が無線へ叫ぶ。


『向こう! こっち無事!』


 ナナ。


『ユウさんも無事!』


『悠斗、そっちだけ見て!』


 リサの声が強く飛ぶ。


「はい!」


 まただ。


 無線の声全部へ反応しそうになった。


 自分の役割はここを見ること。


 悠斗は道路へ拳銃を向けた。


「来る!」


 濃紺のセダンまで、もう遠くない。


「シオン!」


「見つけた」


 後ろから声。


 振り向く。


 シオンが黒いケースを抱えてバンから降りてくる。


「あった」


「戻る!」


『全員離脱!』


 リサの声が重なった。


 ケンが最後にバンから離れ、悠斗と一緒にテンペストへ走る。


「蓮!」


「乗れ!」


 悠斗が助手席へ滑り込む。


 シオンとケンが後部座席へ飛び乗る。


「全員?」


「いる!」


「出す!」


 蓮がアクセルを踏み込んだ。


 テンペストが駐車スペースを飛び出す。


 その直後、濃紺のセダンが入口へ入ってきた。


「後ろ来た!」


 ケンが振り返る。


 さらに遠く。


 赤と青の光が見えた。


「警察も!」


「最悪!」


 蓮が叫ぶ。


『予定通り分散!』


 リサの声。


『テンペストA、ユウB、こっちC!』


「了解!」


     ◇


 テンペストは工業地帯から住宅街へ入った。


 広い道路で速度だけを競えば、後ろの濃紺セダンも簡単には離れない。


 蓮は逃走ルートAへ向かっていたが、ミラーの奥には追手がまだ残っている。


 さらにその後方ではパトカーの赤色灯が点滅していた。


「まだ来てる」


 ケンが言う。


「見えてる」


 蓮の声から先ほどまでの軽さが消えている。


 前方の信号が赤になる。


「どうする?」


 悠斗が聞く。


「右」


「Aは直進だろ?」


「このまま行ったら追いつかれる」


 悠斗は一瞬迷った。


 決められた逃走ルートから外れる。


 でも、予定通りに走ることが目的ではない。


「任せる」


「了解」


 蓮が右へ曲がった。


 細い住宅街。


 道路脇には住民の車が並び、交差点も多い。


 当然、速度は落ちる。


「蓮、一般車!」


「見えてる!」


 横道から小さな車が出てきた。


 蓮が強くブレーキを踏む。


 改修された足回りとブレーキが効き、テンペストは大きく姿勢を乱すことなく止まった。


 一般車が驚いたようにこちらを見ながら通り過ぎる。


「行く!」


 再加速。


 後ろの濃紺セダンも住宅街へ入った。


 だが、こちらより明らかに動きが荒い。


 駐車車両を避けるたび速度が落ちている。


「距離開いてる」


 悠斗がミラーを見る。


「もう一本曲がる」


 蓮が左へ入った。


『テンペスト、状況』


 リサ。


「護衛1台まだ追ってます。警察も後ろ。でも距離は開いてます」


『ケースは?』


「ある」


 シオンが短く答える。


『警察が近い。合流地点には来ないで』


「了解」


『追跡切ってから連絡』


 そこで無線が切れる。


 悠斗は息を吐いた。


 焦って戻れば、全員を警察へ案内することになる。


 それくらい分かっているつもりだった。


 それでも、仕事が終わればいつもの集合場所へ戻るという感覚がどこかにあった。


 今日は、それも違う。


「後ろ」


 ケンが言った。


 悠斗が確認する。


 濃紺のセダンがいない。


 パトカーの光も見えなくなっている。


「切れた?」


「まだ決めるな」


 蓮が答えた。


「あと少し流す」


「珍しく慎重」


「今日それ何回言うんだよ」


「褒めてる」


「ならいい」


 狭い住宅街を抜けても、蓮はすぐ大通りへ戻らなかった。


 何度か道を変え、後方を確認する。


 数分。


 追手は現れなかった。


「たぶん大丈夫」


「たぶん?」


 ケンが言う。


「……もう少し見る」


「学習したな」


 後部座席から低い笑い声が聞こえた。


 悠斗も少し笑った。


     ◇


 それから20分ほどして、全員が別の倉庫へ集まった。


 最初に戻っていたのはユウ。


 暗色セダンはさらに傷が増え、左側面には濃紺のセダンと擦れた跡が長く残っている。


 それでもユウ本人は平然としていた。


 次に戻ったのがリサたち。


 アキラもナナも怪我はない。


 最後にテンペストが敷地へ入った。


 蓮が車を止めると、真っ先に外へ出て車体を一周した。


「傷なし」


「そこ最初に見る?」


 悠斗が笑う。


「5,800ドルかかってるんだぞ」


「はいはい」


 シオンが黒いケースをリサへ渡した。


 リサは外側だけ確認し、無線で短く連絡を入れる。


「全員いる?」


 悠斗が何となく周囲を見る。


 蓮。


 アキラ。


 ナナ。


 シオン。


 ユウ。


 リサ。


 ケン。


 怪我をした人間はいない。


 それを確認したところで、倉庫の入口からカナメが入ってきた。


「終わったか」


「ケース確保。全員無事」


 リサが答える。


「車は?」


「仕事用セダンが結構へこんだ」


 ユウが自分の車を見る。


「走れるか?」


「まだ余裕」


「なら問題ない」


 反応は淡々としている。


 アキラが思わず笑った。


「もうちょい成功を喜んでもよくない?」


「報酬が出る」


「そういうことじゃないんだけどな」


「仕事だからな」


 カナメは悠斗たちへ視線を移した。


「どうだった」


 悠斗は少し考える。


「……俺たちだけだったら、最初にバンが目の前にいた時、そのまま行ってたかもしれません」


「だろうな」


 即答だった。


「そこまで分かるんですか」


「半グレはだいたいそうだ」


「酷い」


 アキラが横から言う。


 カナメは気にしない。


「目標が見えると、それまで決めた撤退条件を忘れる。金を見ても同じだ」


 悠斗は何も言い返せなかった。


 実際、さっき「行けそう」と思った。


「作戦通りに動くことが仕事じゃない」


 カナメが続ける。


「ケースを取る。全員戻る。そのために作戦がある」


「はい」


「今日は取れた。それでいい」


 短い。


 でも、十分だった。


「報酬は約束通り40,000ドル。あとで分ける」


「やった」


 アキラの表情が明るくなる。


 蓮もすぐ反応した。


「これでレイザーの足やれるな」


「もう使う話してる」


 悠斗が呆れる。


「俺の5,000ドルだろ」


「全部使う気?」


「全部とは言ってない」


「顔が全部使う顔してる」


 ユウが横から入ってきた。


「ヴァルカン・レイザーだったな?」


「そう」


「足やるなら知ってる店あるぞ」


「マジ?」


 つい数十分前まで銃撃を受けていたとは思えないくらい、蓮の顔が明るくなる。


 カナメが二人を見る。


「車の話は外でしろ」


「はい」


 蓮が素直に返す。


 悠斗は思わず笑った。


 倉庫の外には、傷だらけになった暗色セダンと、無傷で戻ったテンペストが並んでいる。


 同じ仕事へ出た車なのに、片方はぶつけるために使われ、もう片方はケースを運んで戻ってきた。


 悠斗が眺めていると、カナメから名前を呼ばれた。


「神谷」


「はい」


「明後日、また5人で来い」


「仕事ですか?」


「話がある」


 悠斗は少しだけ眉を上げた。


「分かりました」


 カナメはそれ以上教えなかった。


 振り返ると、蓮とユウはもうテンペストの横で車の話を始めている。


 アキラは報酬を何に使うかナナへ話し、シオンはいつものように少し離れた場所で聞いていた。


 悠斗も、その輪へ歩いていく。


 今日初めて一緒に動いたNOXの三人まで、その中に自然と混ざっていた。

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