↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/165

第2章 第85話 速さだけじゃない

 翌日の昼前、悠斗が新しい部屋のキッチンでコーヒーを淹れていると、インターホンが鳴った。


 玄関を開けると、蓮が右手に折り畳み式の椅子を抱えて立っている。


「よ」


「……本当に持ってきたの?」


「昨日言っただろ」


「どうせまた来るしって?」


「そう。それ」


 蓮は当然のような顔で部屋へ入ると、椅子をリビングダイニングまで運んだ。


「どこ置く?」


「そこはちゃんと聞くんだ」


「勝手に置いたら怒るだろ」


「冷蔵庫は勝手に使うのに?」


「それとこれは別」


 結局、使わない時は壁際へ畳んで置くことになった。


 昨日まで四脚しかなかったダイニングの椅子が、もう一つ増えた。


 蓮は満足そうにそれを眺めたあと、冷蔵庫から自分の名前を書いた炭酸飲料を取り出す。


「あ、それ本当に飲むんだ」


「そのために置いたんだけど」


「二日目でもう普通に冷蔵庫使ってるな」


「悠斗も名前書いとけば?」


「俺の冷蔵庫だよ」


 悠斗が呆れると、蓮は笑いながらソファへ腰を下ろした。


 少しすると、またインターホンが鳴った。


 先にやってきたのはアキラとナナで、それから少し遅れてシオンも部屋へ入ってくる。


 今日は新居を見に来たわけではない。


 悠斗が四人へ連絡していた。


 NOXから受け取った仕事の報酬を分けるためだ。


 昨日も五人は揃っていたが、引っ越し初日で、そのまま仕事帰りのカイも加わって夕食になった。金の精算は急ぐ必要もなかったため、今日改めて集まることにしていた。


「じゃあ、これ分けようか」


 悠斗は引き出しから封筒を取り出し、ダイニングテーブルの上へ置いた。


 オスカー・ベルから回収した12,000ドルは、すでにNOXへ渡している。


 今ここにあるのは、その仕事を終えたあとにカナメから渡された自分たちへの報酬だ。


 5人で2,000ドル。


「一人400ドルずつ」


「了解」


 アキラが頷く。


「燃料代は?」


 ナナが聞いた。


「プール金からでいいだろ」


 蓮が答える。


 以前なら金の分け方一つでも話し合いになったが、最近は仕事に必要な経費をプール金から出し、残りを参加者で分ける形が少しずつ定着している。


 悠斗は紙幣を数え、四人へ400ドルずつ渡した。


 シオンとナナは受け取った金をすぐにしまう。


 蓮だけは手元の紙幣を見ながら笑った。


「椅子代引いても余裕だな」


「その椅子、買ったの?」


 ナナが聞く。


「家にあった」


「じゃあ一ドルも減ってないじゃん」


「気分の問題」


「意味分かんない」


 アキラが笑う。


 その横で、シオンが悠斗へ顔を向けた。


「車、今日?」


「うん。昼過ぎに持っていく」


 共有で使っている黒い車。


 以前、地下の整備士に見てもらった際、ブレーキや足回り、走行時の安定性を中心に手を入れるなら5,800ドルと言われていた。


 エンジン強化やニトロは後回しにして、今の自分たちに必要な部分を先に整える。


 その方向で五人の意見はすでに揃っている。


「俺と悠斗で持っていく」


 蓮が言う。


「分かった」


 ナナが立ち上がる。


「飛ばしすぎないでよ」


「工場まで持っていくだけだって」


「蓮だから一応」


「信用ないな」


 そんな軽口を交わしながら、アキラたちはそれぞれ部屋を出ていった。


     ◇


 午後。


 二台の車が南部の工業地帯を走っていた。


 前を走るのは、蓮が運転する黒い共有車。


 その少し後ろを、悠斗の銀色のセダンがついていく。


 昼を過ぎた工業地帯には大型トラックの姿が多く、古い倉庫や工場の間を、荷物を積んだ車が途切れることなく行き交っている。


 悠斗は前を走る黒い車を見ながら、一定の距離を保って走った。


 蓮も無理に前へ出ようとはせず、周囲の流れに合わせて走っている。


 共有車を工場まで運ぶだけなのだから、急ぐ理由もない。


 やがて二台は、表通りから一本外れた場所にある小さな整備工場へ到着した。


 悠斗が銀色のセダンを敷地の端へ止める。


 蓮も黒い共有車をシャッター前へ入れ、エンジンを切った。


 待っていた整備士が、黒い車へ近づいてくる。


「来たか」


「お願いします」


 悠斗が挨拶すると、整備士は車の周囲を一度見回した。


「前に話した内容でいいんだな?」


「はい。ブレーキと足回り、安定性を優先で」


「エンジンは?」


「今回はそのままで」


 蓮が答えた。


 整備士が蓮を見る。


「前はそっちも気にしてただろ」


「気にはしてる」


「なら一緒にやるか?」


「金かかるだろ」


「そりゃな」


「だったら今はいらない」


 蓮は黒い車へ視線を戻した。


「ちゃんと止まって、曲がって、帰ってこられる方が先」


 整備士は一瞬だけ黙ったあと、小さく笑った。


「分かった。前の見積もり通り、5,800ドルだ」


「お願いします」


 悠斗はプール金から用意してきた金を支払った。


 作業には時間がかかるため、共有車はそのまま工場へ預けることになる。


 必要な確認を済ませると、二人は悠斗の銀色のセダンへ向かった。


 悠斗が運転席側へ回ろうとすると、蓮が何気なく言う。


「帰り、俺が運転しようか?」


「なんで俺の車まで運転する気なんだよ」


「暇だから」


「理由になってない」


「じゃあ助手席で我慢する」


「最初からそうして」


 蓮が笑いながら助手席へ乗り込む。


 悠斗も運転席へ座り、エンジンをかけた。


 工場を出て大通りへ向かう。


 午後の日差しがフロントガラス越しに差し込み、前方では何台もの車が信号待ちをしていた。


「さっきの、いいと思う」


 悠斗が前を見たまま言った。


「何が?」


「帰ってこられる方が先ってやつ」


 蓮は助手席の窓へ肘を置いた。


「別に普通だろ」


「前はエンジンとかニトロの方が優先だったじゃん」


「今も欲しいって」


「そこは変わってないんだ」


「当たり前だろ。速い車は好きだし」


 蓮は少し笑ったあと、前方へ視線を戻す。


「でも、仕事で使う車だからな」


「うん」


「レースなら速い方がいい。でも仕事で事故って帰れなかったら意味ないだろ」


 悠斗は少しだけ笑った。


「何笑ってんだよ」


「別に」


「絶対なんか思ってるだろ」


「思ってないって」


「嘘つけ」


 信号が青へ変わり、悠斗はゆっくりアクセルを踏んだ。


 銀色のセダンが交通の流れへ戻っていく。


 バックミラーの向こうには、もう整備工場は見えない。


 まだ小さな半グレグループにとって、5,800ドルは安い金ではなかった。


 それでも、速さを求めるより先に、全員が無事に帰ってくるための部分へ金を使うことを選んだ。


 一緒に仕事を重ねるうちに、変わっているのは悠斗だけではなかった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。