↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/165

第2章 第82話 五人の作戦

 共有車が南部の大通りへ出た頃には、夜の十時を回っていた。


 昼間の雨を残した路面には、街灯や店の看板が細長く映り込んでいる。工業地帯から出てくる大型トラックは少しずつ減り始めていたが、幹線道路沿いの飲食店やコンビニにはまだ明かりが残っていた。


 運転席には蓮。


 助手席の悠斗はスマートフォンの地図を開き、後部座席のナナが調べた内容を聞いていた。


「ベル本人については、そんなに新しい情報は出なかった」


 ナナが言う。


「よく名前が出るのは南部の東寄り。物流とか小さな仲介をしてる人との繋がりが多いみたい。最近、大きく揉めたって噂は見つからなかった」


「じゃあ、そこまで危ない奴じゃない?」


 蓮が前を見たまま聞く。


「それは分からない」


 ナナはすぐに否定した。


「私が見つけられなかっただけかもしれないし。分かるのは、目立つトラブルの噂を確認できなかったってことだけ」


「了解」


 悠斗も地図へ目を戻す。


 分からないことを、分かったことにしない。


 NOXと関わるようになってから、それだけでも以前より意識するようになった。


「場所は?」


 アキラが尋ねる。


 ナナがスマートフォンを悠斗たちへ向けた。


「候補は三つ」


 一つ目は幹線道路沿いの大型店舗の駐車場。


 二つ目は南部西側の倉庫街。


 三つ目は住宅地と工業地帯の境目にある、小さな商業区画の駐車スペースだった。


「最初から決めないで、実際に見に行こう」


 悠斗が言う。


「時間帯で全然違うかもしれないし」


「じゃあ近いところから」


 蓮がハンドルを切った。


     ◇


 一つ目の駐車場には十分ほどで着いた。


 敷地は広く、出入口も複数ある。大通りにもすぐ出られるので、車で動くことだけを考えれば悪くない。


 問題は人の多さだった。


 夜遅くでも買い物客が行き来している。


 家族連れ。


 仕事帰りらしい会社員。


 駐車した車へ戻る若い男女。


 店舗スタッフもカートを集めながら歩いている。


 悠斗たちは車から降りず、そのまま駐車場を一周した。


「ここはやめよう」


 シオンが言った。


「人多すぎる」


 アキラも周囲を見る。


「ベルからしたら普通の場所だから来やすいかもしれないけど、話してるところを見られる可能性が高すぎるな」


「何か起きた時に、関係ない人を巻き込む可能性も高いね」


 ナナが続けた。


 悠斗も頷く。


「次行こう」


     ◇


 二つ目は倉庫街だった。


 夜になると人通りはほとんどない。


 古い倉庫が道路の両側に並び、照明も少ない。使われていない資材や大型車がところどころに置かれ、雨上がりの地面には大きな水たまりができていた。


「今度は逆だな」


 蓮が低く言う。


「誰もいない」


 アキラが窓の外を眺める。


「俺がベルなら、NOXの金を二回延期したあとでここに呼ばれたら結構怖いけどな」


「囲まれると思う?」


「思うかも。少なくとも気楽には来られない」


 相手がどう感じるか。


 それはアキラらしい見方だった。


 一方、シオンは建物の隙間や停車している大型車の向こうへ視線を向けている。


「見えない場所が多い」


「大型車の影とか?」


 悠斗が聞く。


「それも。建物の間も奥まで見えない」


 相手が一人なのか。


 誰かが先に来ているのか。


 離れた位置に仲間がいるのか。


 確認しづらい。


「ここもやめよう」


 悠斗が言う。


「俺も賛成」


 蓮がそのまま共有車を走らせた。


 地図だけを見ていた時は、誰もいない方が安全な気がしていた。


 実際に来てみると違う。


 相手にとっても、自分たちにとっても、人気がなさすぎる場所には別の怖さがある。


     ◇


 三つ目へ着いたのは十一時近くだった。


 南部の住宅地と工業地帯の境目にある、小さな商業区画。


 昼間は数軒の店が営業しているらしいが、この時間にはほとんどのシャッターが下りている。


 完全な無人ではない。


 一本向こうの大通りには車が流れており、少し離れた飲食店にはまだ客がいる。時折、歩道を通る人の姿も見えた。


 候補にしていた駐車スペースには車が二台停まっているが、どちらにも人影はなかった。


 蓮が一度通り過ぎ、そのまま周囲を回る。


「ここは?」


 アキラが聞いた。


「さっきよりいい」


 シオンが答える。


「見通しもある」


「車も出しやすい」


 蓮も言う。


「ただ、出口は実質二方向だな」


 一本は大通り側。


 もう一本は住宅地へ抜ける細い道。


 どちらかが塞がれば選択肢はかなり減る。


 ナナが周囲を見ながら言った。


「あと、飲食店の客がたまにこっちまで歩いてくるみたい」


「完璧ではないか」


 悠斗が言う。


「完璧な場所なんてないでしょ」


 アキラが肩をすくめる。


「ベルからしたら?」


 悠斗が尋ねた。


「悪くないと思う」


 アキラは少し考える。


「人の目が完全になくなる場所じゃないから、呼び出される側としても警戒しすぎなくて済む。かといって、店の駐車場みたいに人だらけでもない」


「三つの中ならここかな」


 ナナ。


 シオンも頷いた。


 悠斗も同じ考えだった。


「じゃあ第一候補にしよう」


「車の置き方だけもう少し見たい」


 蓮が言う。


「お願いしていい?」


「任せろ」


     ◇


 それから五人は周囲をもう一度確認した。


 どの道から車が入ってくるか。


 どこなら共有車を邪魔にならず止められるか。


 夜が深くなるにつれて、人通りがどう変わるか。


 蓮は共有車をすぐ出せる方向へ向けて止められる位置を探し、シオンは死角になりそうな場所を確認する。


 ナナは人と車の流れを見る。


 アキラは、ベルがどこから来れば余計な警戒をせずに済みそうかを考えていた。


 共有車へ戻ると、アキラが腕を組む。


「で、誰がベルと話す?」


 蓮が悠斗を見る。


「今回の窓口は悠斗だろ?」


「連絡は俺がしてるけど、話すのはアキラの方がいいと思う」


 悠斗はすぐに答えた。


「俺?」


「うん」


「理由は?」


「普通に12,000ドル持ってきてくれたら、たぶん渡して終わり。でも、払えないとか別の条件を出された時は、俺よりアキラの方が落ち着いて話せる」


 アキラは数秒考えたあと、頷く。


「了解。じゃあ俺が話す」


「俺も一緒に行く」


「悠斗は?」


「金を受け取る」


 シオンが口を開いた。


「俺は近くにいる」


「見える位置?」


「うん。二人を囲むようには立たない」


「それならお願い」


 ナナが手を上げる。


「私は車から周り見る?」


「うん。蓮と一緒に残ってもらっていい?」


「分かった」


 蓮がハンドルを軽く叩いた。


「俺はすぐ出せる向きで止めとく。何かあったら動く」


「逃げることになったら?」


 シオンが聞く。


 悠斗は少し考えてから答えた。


「金は諦める」


 全員が悠斗を見る。


「カナメさんも言ってた。危険なら12,000ドルは捨てていい」


「向こうが持って逃げても?」


 蓮。


「追わない」


「即答だな」


「今回は取り返すことより、ちゃんと判断できるか見られてる気がする」


 ナナが悠斗を見る。


「気がする?」


「……たぶん」


「まだ推測だからね」


「あ」


 悠斗が苦笑する。


「そうだった」


 小さく笑いが起きた。


「武器を見せてきたら取引中止」


 シオンが言う。


「それでいいと思う」


「人数が増えてたら?」


 アキラが聞く。


「まず車から降りる前に相談しよう」


「ベルが一人で来るって話はまだしてないしな」


「うん」


 決めることは、考えれば考えるほど出てくる。


 それでも少しずつ形になっていった。


「じゃあ明日は九時前に一回ここへ来る」


 悠斗が全員を見る。


「周りを確認して、大きく変わってなければベルに連絡。それでいい?」


 四人が頷いた。


 悠斗一人が作った作戦ではない。


 それぞれが気づいたことを出し、それを繋げただけだ。


 その形が、今の五人には一番合っていた。


     ◇


 翌日の夜。


 八時四十分。


 共有車は商業区画から少し離れた場所に止まっていた。


 昨日と大きな違いはない。


 閉まった店。


 まだ営業している飲食店。


 大通りを流れる車の音。


 時折歩道を通る人。


 蓮が運転席。


 ナナが助手席。


 後部座席には悠斗、アキラ、シオンがいる。


「今のところ大きな変化なし」


 ナナが周囲を見ながら言う。


「じゃあ連絡する?」


 アキラが聞く。


 悠斗は時計を見る。


「九時過ぎてからにしよう。向こうも九時以降って言ってたし」


「了解」


 五人はそのまま待った。


 八時五十八分。


 悠斗はスマートフォンを取り出した。


「そろそろかける」


 ベルの番号へ発信する。


 二度目の呼び出しで繋がった。


『ああ』


「昨日連絡した者です」


『場所決まったか?』


「はい」


 悠斗は待ち合わせ場所を伝えた。


『分かった。十五分くらいで行く』


「一人で来ますか?」


『一人だ。そっちは?』


「五人です。ただ、車から降りるのは三人です」


 一瞬だけ間が空いた。


『三人?』


「はい」


『12,000ドルを渡すだけだろ』


「その予定です」


 悠斗はそれ以上、余計な説明を加えなかった。


 相手を脅すために行くわけではない。


 金を受け取り、問題がなければそれで終わる。


『……分かった。十五分くらいで着く』


「分かりました」


 通話が切れる。


「やっぱ警戒するよな」


 蓮が言う。


「そりゃするだろ」


 アキラが苦笑した。


「NOXに金払う側からしたら、五人来るって聞いたら何されるのか考える」


「でも人数隠して、現地で驚かせる理由もないよね」


 ナナが言った。


「うん」


 悠斗も頷く。


 今回必要なのは、ベルを怖がらせることではない。


 12,000ドルを受け取って帰ることだ。


     ◇


 九時十二分。


 一本向こうの道路から、灰色のセダンが曲がってきた。


 ナナが前方を見る。


「来た」


 蓮も視線を向ける。


 灰色のセダンはゆっくりと待ち合わせ場所へ入り、そのまま端へ止まった。


 運転席のドアが開く。


 四十代くらいの男。


 資料で見た顔と似ている。


 片手には小さな黒いバッグを持っていた。


「ベルっぽい」


 ナナが言う。


「助手席は?」


 シオン。


「誰もいないように見える」


 後部座席にも人影は見えない。


 ベルらしき男は車の横で立ち止まり、周囲を一度見回した。


 悠斗がドアへ手を伸ばす。


 その時、ナナが小さく声を上げた。


「待って。車来た」


 悠斗が手を止める。


「どれ?」


「向こう」


 一本向こうの道路を、暗い色の古いワゴンがゆっくり走ってくる。


 ワゴンはそのまま通り過ぎるかと思われたが、待ち合わせ場所から少し離れた道路脇へ寄り、停車した。


 誰も降りてこない。


「今の、気になる?」


 蓮が聞く。


「気にはなる。でも、まだそれだけ」


 ナナはワゴンから目を離さずに答えた。


「ベルが来た直後に近くへ止まった。でも、ベルと関係あるかは分からない」


「中は?」


 シオンが聞く。


「ここからだと見えない」


 悠斗もワゴンへ視線を向けた。


 ベルは一人で来ると言った。


 実際、灰色のセダンから降りてきたのは一人だけだ。


 その直後、少し離れた場所へ別の車が停まった。


 偶然かもしれない。


 近くの店にいる誰かを待っているだけかもしれない。


 現時点で、ベルの仲間だと決めつけられる材料はない。


「どうする?」


 アキラが小さく聞いた。


 悠斗はドアノブに置いた手をそのままに、すぐには答えなかった。


 初めて自分たちで組んだ仕事は、始まる前から答えのない判断を求めてきた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。