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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

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第2章 第65話 噂を情報に変える

 ナナがMIRAGEとSHIFTについて調べ始めてから、三日が経った。


 けれど、最初から手応えのある情報が集まったわけではない。


 むしろ、調べれば調べるほど話は散らかった。


「今夜やるらしい」


 そんな噂が出た夜に何も起きなかったこともある。


 SHIFTの関係者が港の方へ集まっているという話を追えば、ただ車を受け渡していただけだった。


 MIRAGE側の人間が南部で揉めたという噂も、小規模な衝突だったらしい。


 本当の話に勘違いや憶測が混ざり、面白半分に膨らませた話まで同じように流れてくる。


 だからナナも、一つの噂だけで判断しなかった。


 SNSに上がった写真。


 街の知人から回ってきた話。


 レース界隈で知られているSHIFT関係者の車両。


 MIRAGEの人間が出入りしていると噂される店や倉庫の周辺。


 最近起きた小さな揉め事。


 直接関係があるかどうか分からないものまで一つずつ拾い、重なっている部分だけを残していった。


 その日の夕方。


 悠斗のスマートフォンが震えた。


【ちょっと話したい】


 ナナからのメッセージだった。


 数時間後。


 悠斗たち五人は、南部の通り沿いにある小さなカフェへ集まっていた。


 仕事帰りらしい客が何組かいて、店内には低い音量の音楽が流れている。


 カップを置く音。


 店員の声。


 窓の外を通り過ぎる車の排気音。


 そんな日常の中で、ナナはテーブルの中央にスマートフォンを置いた。


「一応、かなり絞れたかも」


 蓮がすぐに反応する。


「いつ?」


「待って。まだ『かも』だから」


「分かってるって」


「その顔、絶対分かってない」


 アキラが笑う。


「で、何が分かった?」


 ナナは画面を操作した。


「まず、今日と明日は可能性低いと思う」


 悠斗が聞く。


「何か理由ある?」


「一個じゃないよ」


 ナナは指を一本立てた。


「今日と明日は、SHIFTの関係者が何人かレース関係の予定に出るって分かってる。普段から顔が知られてる人たちだから、わざわざ隠してる感じでもない」


「抗争するなら、そっちに普通に出るのは変か」


「そう。それだけなら弱いけど」


 今度は二本目。


「MIRAGE側も、今日と明日は普段通り動いてる。関係あるって噂の店も閉める感じないし、人の動きもいつもとそこまで変わらない」


「じゃあ、怪しいのはその後?」


「うん」


 ナナが地図を開く。


「一番気になるのが三日後の夜」


「なんで三日後?」


 悠斗が聞く。


「まずSHIFT側。レース関係で顔が出てる人たちの予定が、その日だけ妙に空いてる」


 蓮が眉を上げた。


「偶然じゃない?」


「もちろん偶然かもしれない」


 ナナはすぐ認める。


「でも、それだけじゃない」


 地図を少し拡大する。


「レース界隈でSHIFTの関係者がよく使ってるって知られてる車が、ここ二日くらい南部から港の方へ何度も走ってる」


「同じ車?」


「何台か。全部じゃないけど」


「それも普段の移動じゃないの?」


「かもしれない」


 またナナは否定しない。


「でも、MIRAGEの関係者が出入りしてるって噂の倉庫や店でも、その辺りだけ最近人の出入りが増えてる」


 アキラが少し前へ身を乗り出した。


「同じ辺り?」


「完全に一緒じゃない。でもかなり近い」


 さらにナナは続けた。


「あと、知り合い経由で聞いたんだけど、その辺の倉庫で働いてる人が、夜に見慣れない車が増えたって言ってたらしい」


 蓮が腕を組む。


「全部合わせると怪しいってことか」


「そう」


 ナナは頷く。


「一個ずつなら弱い。でも三日後だけ、別々の情報が重なってる」


 画面には、南部と港湾地区の境界付近が表示されていた。


 倉庫や小さな工場が並ぶ一帯。


「この辺」


 悠斗も画面を覗き込む。


「結構広いね」


「広いよ。だから場所を特定したなんて言わない」


「でも、その辺りが一番怪しい?」


「今ある情報なら」


 ナナはそこで一度言葉を切った。


「絶対じゃないよ。今ある情報を全部重ねると、三日後の夜、この辺が一番怪しいってだけ」


 悠斗は頷いた。


「それで十分」


 ナナが少し顔をしかめる。


「十分って言われると怖いんだけど」


「確定だとは思ってないよ」


「ならいいけど」


 悠斗はもう一度、画面に表示された地図を見る。


 三日後。


 南部と港湾地区の境界。


 第3位と第4位のギャング。


 もしナナの読みが当たっているなら、その夜にかなり大きな衝突が起きる可能性がある。


 そこまで考えた時、別の疑問が浮かんだ。


「……ちょっと待って」


 四人が悠斗を見る。


 アキラが聞く。


「何?」


「もし本当にMIRAGEとSHIFTが大人数でやり合ったら、警察ってどうなる?」


「どうなるって?」


「どれくらいそっちに集まるのかなって」


 少し間が空く。


 蓮が先に答えた。


「かなり行くだろ。3位と4位だぞ」


 アキラも頷く。


「銃撃戦になったら、普通のパトカーだけじゃ済まないだろうな」


 シオンも短く口を開いた。


「人も車も動く」


「だよな」


 悠斗は椅子の背にもたれた。


 生前に見ていた配信でも、大きな事件が起きれば警察車両やヘリが一つの地域へ集まり、街の別の場所の動きまで変わっていた。


 もちろん、この街から警察が消えるわけではない。


 けれど、人員には限りがある。


 大規模な抗争が始まれば、少なくとも普段と同じ配置ではなくなる。


「だったら……」


 悠斗はそこまで言って、一度止まった。


 頭に浮かんだ考えを、そのまま口にしていいのか少し迷う。


 抗争そのものへ近づくのは危険だ。


 MIRAGEやSHIFTに関わる必要もない。


 むしろ、関わらない方がいい。


 でも。


 だからこそ、その二つが別の場所で勝手に大きく動くなら。


「別の場所は、普段より動きやすくなるかもしれない」


 ナナが悠斗を見る。


「もしかして、抗争に合わせて何かする気?」


「まだ決めてない」


 悠斗はすぐに答えた。


 本当に、まだ具体的な計画はない。


 ただ一つ、情報の使い方が見えただけだ。


 以前にも、自分たちで店を選んで強盗したことはある。


 だが今回は、それとは少し違う。


 目の前にある店を選ぶのではなく、街全体の動きを見て、その隙に合わせて仕事そのものを組み立てる。


 それなら、これまでより大きなことができるかもしれない。


 シオンが静かに聞く。


「利用する?」


 悠斗は少しだけ迷い、それから頷いた。


「できるなら」


「何を?」


 蓮の問いに、悠斗はすぐには答えなかった。


 警察が少なくなりそうだから、とりあえずどこかを襲う。


 そんな雑なことをするつもりはない。


「普段だったら、警察のこと考えてやめるような仕事」


 悠斗は言葉を選びながら続ける。


「ちゃんと準備して、条件が揃った時だけ」


 アキラが腕を組む。


「それなら規模も上げられるかもしれないな」


「うん」


「でも、五人で足りる?」


 その言葉に、悠斗は黙った。


 そこまで考えていなかった。


 今までより大きな仕事を狙うなら、必要な役割も増える。


 今の五人だけでは足りない可能性は高い。


「……そこも考えないとだね」


 悠斗が答える。


 蓮が少し笑った。


「なんか、急に本格的になってきたな」


「まだ何も決まってないけどな」


 アキラが返す。


 ナナは悠斗を見た。


「一応言っとくけど、私の読みが外れる可能性は普通にあるよ」


「外れてたら、その時点でやらないよ」


 悠斗は即答した。


「ナナの情報が間違ってたって責めるつもりもない」


 ナナは少しだけ驚いた顔をする。


「そこまで言ってないけど」


「でも大事だから」


 悠斗はそう返した。


 今回の話は、ナナが確実な未来を見つけたわけではない。


 いくつもの弱い情報を重ねて、可能性が高い場所と時間を絞っただけだ。


 そこを勘違いしてはいけない。


 やるかどうかを決めるのは、自分たちだ。


 悠斗はもう一度、地図を見る。


 三日後の夜。


 本当に抗争が起きるかは分からない。


 けれど、もし起きるなら。


 悠斗はゆっくり顔を上げた。


「……その時間なら、普段は無理な大きい仕事ができるかもしれない」


 今度は誰も笑わなかった。


 五人の間に、これまでより一段大きな仕事を考える空気が生まれていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

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