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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

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第2章 第45話 最初のプール金

 《仮》のメモ欄に『プール金:0ドル』という項目が増えてから、三日が経った。


 数字は、まだゼロのままだ。


 悠斗は安宿のベッドへ腰掛け、スマートフォンの画面を眺めていた。


 最近の《仮》には、仕事とは関係のない話も増えている。


 アキラが昼飯の写真を送り、ナナが街で見つけた妙な看板を載せ、蓮が夜中に見かけた珍しい車の写真を送りつける。


 シオンは相変わらず反応が薄いが、ときどき短い返事をするようになった。


 以前なら、誰か同士のこうしたやり取りを悠斗は画面の向こうから眺めていた。


 今は、自分の端末に通知が届く。


 それが当たり前になりつつあることを、悠斗自身はまだ少し不思議に感じていた。


 新しい通知が鳴る。


『アキラ:仕事の話来た』


 悠斗はすぐに画面を開いた。


『蓮:内容』


『ナナ:先に全部聞いて』


『アキラ:分かってる』


 少しして、アキラから続けて情報が送られてくる。


『アキラ:閉店した衣料品店から荷物を倉庫に移す仕事』


『アキラ:明日の夜』


『アキラ:3~4人』


『アキラ:報酬2400』


『悠斗:依頼人は?』


『アキラ:前に一回仕事で会った奴。店の関係者らしい』


『ナナ:店名と名前送って』


 悠斗は画面を見ながら少し考えた。


 搬出作業だけなら、以前にも似た仕事を経験している。


 だが「似ている」だけで安全と決めつける気はなかった。


『悠斗:荷物の中身と、店を使っていい根拠は確認したい』


『アキラ:聞く』


『蓮:車いる?』


『アキラ:向こうでバン用意するって』


 数分後、アキラから追加が来る。


『アキラ:衣類と棚と備品だけ』


『アキラ:依頼人本人も現場にいる』


『アキラ:店の鍵と書類も見せるって』


 ナナからも返信が届いた。


『ナナ:店が閉店してるのは確認できた』


『ナナ:依頼人の名前も店の関係者として出てる』


 続けて、


『ナナ:でも所有権とか契約関係までは分からない』


 悠斗はその一文を見て頷いた。


 分からない部分は残る。


 だからこそ、現場で確認する。


『悠斗:じゃあ現地で書類見てから最終判断でいい?』


『アキラ:賛成』


『蓮:おけ』


 シオンからは、


『シオン:運ぶだけなら行かない』


 と返ってきた。


 タクミへも個別に聞いたが、


『機械使わないなら俺いらないだろ』


 という返事だった。


 悠斗は少し迷ったあと、大河へ自分から連絡した。


『明日の夜、搬出の仕事あるんですけど時間ありますか?』


 返事は早かった。


『あるぞ』


 少し間が空いて、


『重いのある?』


『たぶん棚とか』


『じゃあ行く』


 理由が分かりやすい。


 悠斗は思わず笑った。


     ◇


 翌日の夕方。


 仕事を受ける前に、四人は中央地区外れの駐車場へ集まった。


 空は薄い雲に覆われ、ビルの谷間を抜ける風が少し冷たい。仕事帰りの車が大通りを流れ、遠くからクラクションが聞こえてくる。


 集まったのは、悠斗、蓮、アキラ、大河。


 ナナは現場には来ない。


 アキラがスマートフォンを見ながら言う。


「依頼人から最終確認来た。報酬二千四百」


「ナナの分は?」


 蓮が聞く。


「調査で二百?」


 アキラが答える。


 悠斗も異論はない。


 以前と同じ程度の確認量だ。


「で、残り二千二百」


 大河が腕を組む。


「四人なら五百五十ずつか」


「その前にさ」


 蓮が言った。


「プール金」


 四人の視線が集まる。


 《仮》のメモに項目を作っただけで、まだ一ドルも入っていない。


「今回から入れる?」


 アキラが聞く。


「でも、いくら?」


 悠斗が言う。


「一人五十とかでよくない?」


 蓮が軽く提案する。


「五十なら四人で二百か」


 大河が計算する。


「ナナからも出してもらう?」


 アキラが聞いた。


 悠斗は少し考えた。


「今回は出さなくていいと思う」


「何で?」


「ナナは調査分として二百って先に決めてるから。そこからさらに引くのは違う気がする」


 アキラが頷く。


「じゃあ現場組の取り分からだけ?」


「今回は」


 悠斗は言った。


「これがずっと正しいかは分からないけど」


「また暫定だな」


 蓮が笑う。


「今の俺ら、暫定だらけじゃね?」


「名前からして《仮》だしな」


 アキラも笑う。


 大河が首を傾げた。


「その《仮》って、まだその名前なの?」


「そこ触れないで」


 悠斗が言うと、三人が笑った。


 話を戻す。


 現場組は一人五十ドルずつプール金へ。


 ナナには調査分二百ドル。


 残りは仕事が終わってから精算。


「あと一つ」


 悠斗が言った。


「プール金、誰が持つ?」


 前の自分なら、そこまで考えずに始めていたかもしれない。


 だが、金を残すなら、持っている人間が分からない状態にはしたくない。


「俺は嫌」


 蓮が即答する。


「早いな」


「なくしたら絶対文句言われる」


「自覚あるんだ」


 アキラが笑う。


 大河は、


「俺も毎回いるわけじゃないしな」


 と手を上げる。


 悠斗は少し考えた。


「じゃあ、とりあえずアキラが預かって、金額は《仮》のメモに全員が見えるように書くのは?」


「俺?」


「嫌なら別でもいいけど」


 アキラは数秒考える。


「まあ、いいよ。金額だけちゃんと全員で確認するなら」


「使う時も勝手に使わない」


 蓮が言う。


「それ大事」


 悠斗も頷いた。


 また一つ、試しの決まりが増えた。


     ◇


 南部にある衣料品店へ着いた頃には、日は完全に落ちていた。


 シャッターの下りた店が並ぶ通りで、目的の店だけ裏口付近に明かりがついている。


 依頼人の男は約束通り現場にいた。


 アキラが店名と本人の名前を確認する。


 鍵。


 店の閉店を示す書類。


 倉庫への搬出予定。


 悠斗にも詳しい法律までは分からないが、少なくとも「勝手に店へ入って荷物を持ち出す」ような状況ではなさそうだった。


「どうする?」


 アキラが小声で聞く。


 悠斗は蓮と大河を見る。


「俺はいいと思う」


 蓮。


「俺も」


 大河。


 悠斗も頷いた。


「やろう」


 作業が始まった。


 店内には服がほとんど残っておらず、壁際に畳まれた段ボール箱と、分解された棚が積まれている。


 大河は大きな棚板を二枚まとめて持ち上げた。


「それ一人で持つんですか?」


 悠斗が驚く。


「持てるからな」


「腰やりますよ」


「二十二だぞ、俺」


「年齢関係ないでしょ」


「悠斗に心配される日が来るとはな」


「何でですか」


 大河が笑う。


 一方、蓮は荷物を運ぶよりも、依頼人が用意したバンへ隙間なく積むことに妙なこだわりを見せていた。


「そこ横」


「入らないって」


「入る」


「蓮、パズルじゃないんだから」


「荷崩れしたら困るだろ」


 アキラは依頼人と倉庫側へ連絡を取り、受け入れ時間を確認している。


 悠斗は一瞬、皆の動きを見渡した。


 何も指示していない。


 それでも、それぞれが自分でできることをしている。


 以前なら、自分が何かしなければと思っていたかもしれない。


 今は、任せた方がいいところまで分かるようになってきた。


     ◇


 問題が起きたのは、作業の半分を過ぎた頃だった。


「悪い」


 依頼人が店の奥から戻ってくる。


「追加でこっちも頼めるか?」


 示された先には、聞いていた分とは別に十数箱の荷物が積まれていた。


 大河が見る。


「結構あるな」


 アキラがすぐに聞く。


「最初の話にはなかったですよね?」


「ああ。倉庫に入れる予定が変わった」


「中身は?」


「服と備品。開けて確認していい」


 アキラが悠斗を見る。


 悠斗も少し迷った。


 追加の荷物。


 以前なら、それだけで嫌な記憶が蘇ったかもしれない。


 実際、聞いていない物を後から出された仕事では何度も問題が起きている。


「追加分は別料金にできますか?」


 悠斗が依頼人へ聞いた。


 自分から条件を口にしたことに、少しだけ緊張した。


 男は荷物の量を見て、


「二百追加でどうだ?」


 と答える。


 アキラが四人を見る。


「俺はそれなら」


 蓮。


「中身見て問題ないなら」


 大河。


 箱を確認し、不審な物はない。


 悠斗も頷いた。


「お願いします」


 追加作業まで終えた頃には、予定より一時間近く遅くなっていた。


 大河が腰を伸ばす。


「さすがに腹減った」


「結局それ」


 蓮が笑う。


     ◇


 最終報酬は二千六百ドル。


 ナナへ事前調査分の二百ドル。


 残り二千四百ドル。


 そこから四人が五十ドルずつ、合計二百ドルをプール金へ残した。


 現場組の取り分は、一人五百五十ドル。


 仕事を終えた駐車場で、アキラが金額を一枚ずつ確認しながら分けていく。


「ナナ、二百」


「プール、二百」


「残り四人で二千二百」


 大河が受け取った紙幣を数える。


「ちゃんと先に決めた通りだな」


「追加報酬あったけど、プール分は増やさなくていい?」


 蓮が聞く。


 悠斗は少し考える。


「今回は最初に一人五十って決めたから、そのままでいいんじゃない?」


「俺もそれでいい」


 アキラが頷く。


 先に決めたことを、都合よく変えない。


 それも大事なのかもしれない。


 アキラが小さな封筒へ二百ドルを入れた。


「これが最初のプール金」


 たった二百ドル。


 中古車を買うには全然足りない。


 大きな道具だって買えない。


 けれど誰の財布にも入らず、四人が同意して残した金だった。


「使う時は全員に聞くんだよな?」


 大河が確認する。


「うん」


 悠斗が答える。


「少なくとも今は」


「また暫定」


 蓮が言う。


「もうそれでいいだろ」


 アキラが笑った。


     ◇


 安宿へ戻った悠斗は、《仮》のメモ欄を開いた。


『プール金:0ドル』


 その数字を消す。


『プール金:200ドル』


 続けて、


『保管:アキラ』


『使用時は事前に相談』


 と書き足した。


 送信して数秒後、蓮から返信が来る。


『蓮:車まであと3600』


『ナナ:気が早い』


『アキラ:封筒なくすなって言うなら俺に言うなよ』


『蓮:絶対なくすなよ』


『アキラ:お前が言うな』


 悠斗は画面を見ながら、声を出さずに笑った。


 数字は、たった二百。


 けれどゼロだった場所に、自分たちで初めて残した金がある。


 それだけで、少しだけ形になった気がした。

お読みいただきありがとうございます。

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そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

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