↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/195

第2章 第44話 みんなの車

 利益の分け方について話した二日後、《仮》に蓮から一枚の写真が送られてきた。


『蓮:これ安くない?』


 写っていたのは、少しくたびれた濃紺のワゴンだった。


 塗装はところどころ艶を失い、前後のバンパーにも細かな傷がある。速そうにも高そうにも見えず、街中ですれ違っても悠斗なら気に留めないような、ごく普通の中古車だった。


『アキラ:何が』


『蓮:車』


『ナナ:見れば分かる』


『蓮:三千八百』


『アキラ:確かに安い』


 悠斗は安宿の机で昼食を食べながら、画面を眺めていた。


『悠斗:蓮が買うの?』


『蓮:いや、俺は別にいらない』


 少し間を空けて、


『蓮:でもこういうの一台あったら便利じゃね?』


 と続く。


『ナナ:何に使うの?』


『蓮:荷物運んだり、人数いる時乗ったり。毎回誰かの私物車出すのも面倒だし』


 悠斗は箸を止めた。


 蓮の青いクーペは、そもそも大人数向きではない。


 自分の銀色のセダンもあるが、以前の逃走と逮捕で警察に知られている。普段乗る分には問題なくても、何か怪しい仕事へ持ち込むのは避けたい。


 何より、どちらも個人の車だ。


『アキラ:みんなで使う車ってこと?』


『蓮:まあ、そういうの』


 その言葉に、悠斗は少しだけ胸がざわついた。


 まだ名前すら決まっていない。


 それなのに、「みんなで使うもの」という発想が自然に出てきた。


『ナナ:買う前に状態見た方がいいんじゃない?』


『蓮:だから明日見に行こうかなって』


『悠斗:俺も行っていい?』


『蓮:そのつもり』


 さらに蓮はタクミへ個別に連絡したらしく、少しして、


『蓮:タクミも来るって』


 と送ってきた。


 シオンからは、


『シオン:車は任せる』


 とだけ返ってきた。


 そのくらいの距離感の方が、今の自分たちらしかった。


     ◇


 翌日の午後。


 南部寄りの中古車販売店には、年式も色もばらばらな車が二十台ほど並んでいた。


 薄曇りの空の下、風に煽られた小さな旗がぱたぱたと音を立てている。敷地の奥にはプレハブの事務所があり、その前に古いセダンやバンが肩を寄せるように並んでいた。


 来たのは悠斗、蓮、アキラ、ナナ、タクミの五人。


 大河には声をかけていない。


 まだ毎回一緒に動くと決めたわけでもないし、今回は単に車を見るだけだ。


「これ?」


 ナナが写真と実物を見比べる。


「思ったより傷多いね」


「中古車なんてこんなもんだろ」


 蓮は気にした様子もなく運転席へ乗り込んだ。


 エンジンをかけ、しばらく音を聞く。


「別に速くはない」


「誰も速さ求めてないから」


 アキラが言う。


「俺は求めてる」


「蓮が自分で買うならな」


 悠斗は少し笑いながら、車の横へ回った。


 タクミは助手席側のドアを開け、車内を確認している。


「どうですか?」


「電装は今のところ普通。窓も動くし、警告灯も変なのは出てない」


「エンジンとか足回りは?」


「そこは俺より整備士に見せた方がいい」


 タクミはあっさり言った。


「俺は車も触るけど、本職じゃない。買うならちゃんと点検した方がいい」


 その言葉に悠斗は頷く。


 カイなら、もっと深いところまで分かるだろう。


 けれど、だからといって今回この車を持っていく気にはならなかった。


 カイは車なら見てくれる。


 ただし、犯罪の相談はするなとも言われている。


 この車が将来何に使われるか、自分たちにもまだ分からない。


 なら、無理に巻き込まない方がいい。


「普通に移動とか荷物運びに使うなら、こういうので十分じゃない?」


 アキラが荷室を覗き込む。


「五人乗れて、荷物積める」


「見た目も目立たない」


 ナナが言う。


「そこ大事?」


「普段使うなら大事でしょ。毎回派手な車で集まったら嫌でも覚えられるし」


 悠斗も濃紺のワゴンを見る。


 確かに目立たない。


 何か特別な車という感じがしない。


「買うとして、名義どうする?」


 ナナが尋ねた。


 そこで全員の動きが止まった。


「共同名義ってできないの?」


 悠斗が聞く。


 自分の車を買った時に、名義や保険が必要なのは経験している。


 だからこそ、誰か一人の所有物にするのではなく、複数人で持てないかと思った。


 タクミが首を振る。


「普通に個人で買うなら面倒だと思う。俺ら会社でも団体でもないし」


「じゃあ誰か一人の名義?」


 アキラが言う。


「俺でもいいけど」


 蓮が軽く答える。


「それだと蓮の車が増えるだけじゃん」


 ナナが返す。


「じゃあ悠斗?」


「何で俺?」


「連絡取りやすいから」


「それだけ?」


 アキラが笑う。


 しかしナナは笑わなかった。


「でも悠斗名義にしたら、何かあった時に悠斗だけ責任負うことになるよね」


 その一言で、場の空気が少し変わった。


 悠斗自身も、すぐに否定できなかった。


 すでに一度逮捕され、大きな罰金も払っている。


 タクシーの仕事もまだ停止されたままだ。


 これ以上、自分だけの名義に物を増やすのが正しいとは思えない。


「だったら、今日は買わなくてもいいんじゃない?」


 悠斗が言う。


 蓮が車を見る。


「売れたら?」


「別の探せばいいよ」


「気に入ってたのに」


「まだ乗ってもないでしょ」


 アキラが笑った。


「いや、こういう地味なの割と好きなんだけど」


「青いクーペ乗ってる奴が言う?」


 結局、その日は買わなかった。


     ◇


 販売店を出た五人は、少し離れたファストフード店へ入った。


 窓際には買い物帰りらしい家族連れが座り、レジ前には学生の列ができている。悠斗たちは奥の席を選び、車の話だけを続けた。


「でも一台欲しいのは欲しいな」


 蓮がバーガーの包みを開きながら言う。


「毎回俺か悠斗の車じゃ困る時あるし」


「買うなら誰がお金出すの?」


 ナナが聞く。


「均等?」


 アキラが答える。


「でもタクミは?」


 全員の視線が向く。


 タクミはポテトを一本取った。


「俺、そもそもお前らの固定メンバーになった覚えないけど」


「忘れてた」


「忘れるな」


 悠斗は苦笑した。


「じゃあ、使う人だけ出すとか?」


「それも面倒じゃない?」


 アキラが言う。


「誰が何回乗ったとか数える?」


「それは嫌だな」


 蓮が即答する。


 しばらく考えていた蓮が、ふと口を開いた。


「仕事の金、全部分けずにちょっと残すとか?」


「残す?」


 悠斗が聞く。


「車とか、みんなで使うもの買う用」


 ナナがすぐに反応する。


「プール金みたいな?」


「そう、それ」


 悠斗はその言葉を頭の中で繰り返した。


 プール金。


 個人の取り分とは別に、自分たちのために残しておく金。


「でも毎回勝手に引かれたら嫌じゃない?」


 アキラが言う。


「じゃあ仕事の前に決める」


 蓮が答える。


「今回の仕事は一人いくらプール金に入れる、とか」


「またルール増えるね」


 ナナが笑う。


「まだルールってほどじゃないでしょ」


 悠斗も笑った。


 今の自分たちには、固定の割合を決めるほど経験がない。


 仕事によって報酬も人数も違う。


「とりあえず、次に何かやる時に試してみる?」


 悠斗が言う。


「全員が納得した時だけ少し残す」


「それならいい」


 アキラが頷く。


「俺も」


 蓮も続く。


 ナナも異論はないようだった。


 タクミは、


「俺が参加する仕事なら、その時考える」


 とだけ言った。


 それでよかった。


 まだ全員が同じ立場ではない。


 だから無理に揃えない。


 店を出たあと、悠斗は《仮》のメモ欄を開いた。


 利益配分について。


 仕事前に役割と取り分を確認する。


 その下に、新しく一行だけ追加する。


『プール金:0ドル』


 数字はまだゼロだった。


 それでも悠斗は、その一行をしばらく眺めてから、少しだけ笑った。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。