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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

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第2章 第43話 仲間だからこそ

 翌日の昼前、《仮》のグループチャットには、仕事の依頼ではなく金の話が流れていた。


『アキラ:昨日の続き決めない?』


『蓮:何を』


『アキラ:取り分』


『ナナ:毎回その場で決めるの、後で面倒になりそう』


『蓮:昨日は揉めてないけど』


『ナナ:揉めてからじゃ遅いってこと』


 悠斗は安宿のベッドへ腰掛けたまま、画面を眺めていた。


 昨日は、現場へ出た四人が五百ドルずつ、事前に調べたナナが二百ドル。


 全員が納得して終わった。


 それでも、次も同じでいいとは限らない。


『悠斗:一回会って話す?』


 送ると、すぐに返事が続く。


『アキラ:それが早い』


『ナナ:夕方なら空いてる』


『蓮:飯は?』


『シオン:場所』


 金の話をする以上、人の多い飲食店は避けたかった。


 結果、中央地区から少し離れた立体駐車場の屋上へ集まることになった。


     ◇


 夕方の屋上には、五人以外ほとんど人影がなかった。


 低いコンクリート壁の向こうにビル群が見え、その隙間へ沈みかけた夕日が赤い光を落としている。下の道路からは絶えず車の音が響いているものの、屋上まで上がってくる車はなかった。


 蓮は自分の車のボンネットへ寄りかかり、缶飲料を開ける。


「俺は昨日みたいなのでいいと思うけど」


「その『昨日みたいに』を毎回どうするか決めたいんだけど」


 ナナが言う。


「現場に出た人が基本多め。調べたり準備した人にも払う。それでよくない?」


「その額が毎回適当じゃん」


「じゃあ何ドルなら正解なんだよ」


「だから、それを話してるの」


 まだ喧嘩というほどではない。


 けれど、いつもの軽口より少しだけ声が硬い。


 金の話になると、空気が変わる。


 アキラが腕を組んだ。


「俺は、仕事持ってきた奴も多少考えていいと思うけどな」


「紹介料?」


 蓮が聞く。


「別にそういう名前じゃなくてもいいけど。依頼人と何回も連絡して、条件詰めて、当日も話して。それでも運転だけの蓮と同じってのは――」


「運転だけ?」


 蓮の声が少し低くなった。


 アキラも言ったあとで気づいたらしい。


「あー、いや、そういう意味じゃなくて」


「じゃあどういう意味?」


 悠斗は二人を見た。


 何か言わないと。


 そう思ったのに、すぐには言葉が出てこない。


「……蓮も、運転だけっていうのは違うと思う」


 二人の視線が悠斗へ向く。


「逃げる時とか、車を出す人の責任は大きいし。アキラも依頼人と話すのに時間使ってるし……」


 自分でも少し歯切れが悪い。


 どちらが正しいとも言えない。


「だから、その……同じ金額が絶対に公平とも言えないし、違うとも言い切れないというか」


 アキラが少し笑った。


「悠斗、珍しくまとまってないな」


「だって難しいでしょ」


「まあ、それはそう」


 蓮も少しだけ表情を緩めた。


 ナナが口を開く。


「危ない役をした人が多めっていうのは?」


「それも難しくない?」


 悠斗が言う前に、ナナ自身が続けた。


「現場に出てなくても、何時間も調べることはあるし。結局何も見つからなかったらゼロっていうのも変じゃない?」


「先に決めとけばいい」


 シオンが言った。


 全員がそちらを見る。


「後で揉めるなら、仕事受ける前に言う。誰が何するか。いくら取るか」


 シオンはそれだけ言って、また壁へ背を預けた。


「……それが一番分かりやすいな」


 アキラが頷く。


「途中で仕事増えたら?」


 ナナが聞く。


「その時また話す」


「シオン今日よく喋るな」


 蓮が言う。


「帰る」


「ごめん」


 空気が少し緩んだ。


 悠斗は自分のスマートフォンへ視線を落としながら考える。


 完全なルールを今ここで作るのは無理だ。


 まだ仕事の数も少ない。


 人数だって固定されていない。


「とりあえず、今の段階だけ決めるのはどう?」


「今の段階?」


 アキラが聞く。


「うん。仕事を受ける前に、誰が参加するか決める。その時に役割と取り分も話す」


「経費は?」


「大きい出費は先に引く、とか」


「大きいってどこから?」


 蓮が聞く。


「……そこは仕事ごとに?」


「もう適当になってるじゃん」


 ナナが笑った。


「だから暫定」


 悠斗も苦笑する。


「完璧に決めるんじゃなくて、一回それでやってみる。問題出たら変える」


「それならいいんじゃない?」


 アキラが言う。


「現場に出ない人でも、調査とか準備で動いたら先に取り分を決める」


「うん」


「車壊れたら?」


 蓮。


「その時考える」


「道具なくしたら?」


 ナナ。


「その時考える」


「怪我したら?」


 アキラ。


「……その時考える」


 言うたびに、悠斗自身も笑えてきた。


 結局、今の自分たちには経験が足りない。


「何も決まってなくない?」


 蓮が笑う。


「最低限は決まったでしょ」


「仕事前に話す、ってだけだな」


「それでいいんじゃない?」


 悠斗はそう思った。


 生前、画面越しに見ていたギャングたちも、金の分け方で何度も揉めていた。


 当時の悠斗は、


 ちゃんと最初に決めればいいのに。


 そう簡単に思っていた。


 実際に自分がその場へ立つと、誰かの時間や危険を数字に変えることが思っていたよりずっと難しい。


 だから今は、完璧な仕組みより、話さずに進めないことの方が大事なのかもしれない。


「じゃあ、今はこれで」


 悠斗が言う。


「合わなくなったら、その時また全員で変えよう」


 全員が頷いた。


 正式な規則というより、試しに始める約束だった。


 それでも、一つ前へ進んだ気がした。


     ◇


 話が終わりかけた頃、蓮がふと思い出したように言った。


「大河にも伝えといた方がいいんじゃない?」


「昨日一緒にやったしな」


 アキラも頷く。


 大河はまだ《仮》には入っていない。


 それでも、昨日同じ仕事をして、同じ取り分を受け取った。


 次にまた誘うなら、今日決めたことを伝えておくべきだろう。


「俺から言う」


 悠斗はそう言った。


 以前ならアキラに頼んでいたかもしれない。


 けれど、大河へ声をかけたのは自分だ。


 なら、自分が話した方がいい。


「珍しく即決」


 ナナが言う。


「俺が誘ったから」


「そういうとこだよな」


 アキラが笑う。


「何が?」


「別に」


 それ以上は言わなかった。


     ◇


 屋上を出る前、悠斗は大河へ電話をかけた。


 文章でも伝えられる。


 それでも金の話を短いメッセージだけで済ませるのは、少し違う気がした。


 呼び出し音が鳴る。


 一回。


 二回。


『もしもし?』


「大河さん、今大丈夫ですか?」


『大丈夫。どうした?』


 胸の奥が少しだけ固くなる。


 電話が好きになったわけではない。


 今でも、かける直前にはほんの少し迷う。


「昨日の仕事の取り分のことで、今日みんなで少し話したんですけど」


『おう』


「次から、仕事を受ける前に役割と取り分を決めようって。まだ試しなんで、変わるかもしれないですけど」


 悠斗は、さっき決めたことをなるべく分かりやすく説明した。


 大河は最後まで聞いてから、


『いいんじゃねえの』


 と軽く答えた。


「勝手に決めた感じになってたらすみません」


『別に。俺まだ毎回一緒にやるって決めたわけでもないしな』


「あ……そうですよね」


『でも次呼ぶなら、先に言ってくれりゃそれでいい』


「分かりました」


『あと飯代』


「それは経費にしません」


 思わず即答すると、電話の向こうで大河が笑う。


『言うようになったな、悠斗』


「そこは関係ないでしょ」


『また声かけろよ』


「はい」


 通話を切る。


 悠斗はしばらく画面を見たまま立っていた。


 苦手な電話を一本かけただけだ。


 金の話をしただけ。


 それでも以前の自分なら、こういう面倒な話ほど誰かへ任せたくなったはずだった。


 《仮》へ戻り、


『悠斗:大河にも話した。次から先に決めれば大丈夫だって』


 と送る。


 少しして、アキラから返事が来た。


『アキラ:結局そういう面倒なの悠斗がやるよな』


 悠斗は画面を見て少し考え、


『悠斗:今回は俺が誘ったから』


 と返した。


 すぐに蓮から、


『蓮:今回は、ね』


 と続く。


 悠斗は意味がよく分からず首を傾げた。


 けれど、そのまま聞き返すことはしなかった。


 仲間が増えれば、楽しいことも増える。


 その分だけ、面倒なことも増えていく。


 今の悠斗は、その両方を少しずつ引き受け始めていた。

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