第1章 第25話 誰を連れていくか
ユウジから仕事の詳細が返ってきたのは、悠斗がカイの整備工場を出る少し前だった。
『港湾地区から南部まで荷物を運ぶ。依頼主は高城タツヤ。荷物は盗品。銃はいらない。警察に見つかる可能性はある。報酬は一件三千。二、三人連れてきてもいい』
銀色のセダンの運転席へ乗り込んだ悠斗は、エンジンをかける前に何度か文章を読み返した。
以前のユウジなら、「運ぶだけ」「詳しくは現地で」と済ませていたかもしれない。
悠斗が曖昧な仕事を断るようになってから、向こうも最低限の条件は先に出すようになったらしい。
それでも、まだ足りない。
『荷物の量と車は?』
返信はすぐに来た。
『木箱四つ。バンは向こうが用意する。お前の車は使わなくていい』
『誰から盗んだ物?』
今度は少し間が空いた。
『港の倉庫会社。ギャング絡みじゃない。少なくとも俺が聞いてる範囲では』
断言ではない。
それでも、分からないことまで分かったふりをされるよりはましだった。
悠斗は《仮》を開く。
『悠斗:内容来た。港から南部まで盗品運搬。用意されたバン。木箱四つ。銃なし。警察の可能性あり。報酬三千』
アキラがすぐ反応した。
『アキラ:三千って全員込み?』
悠斗はユウジへ確認する。
『報酬は一件三千? 一人三千?』
『一件』
『悠斗:一件三千』
『蓮:四人で割ったら750』
『アキラ:内容の割に高いけど、人数増やしたら一人分は普通になるな』
『ナナ:依頼主分かってるなら少し調べられる』
そこで悠斗は画面を閉じ、シオンへ個別に同じ内容を送った。
《仮》は、まだ悠斗、蓮、アキラ、ナナの四人だけだ。
しばらくすると、シオンから短い返信が届いた。
『行ける』
全員が行ける。
だからこそ、悠斗は困った。
誰を連れていくか。
これまでは、仕事先でたまたま顔を合わせ、その場で一緒に動くことの方が多かった。
今回は違う。
ユウジが仕事を寄越した相手は悠斗で、「何人か連れてきてもいい」と言っている。
つまり、誰と行くかを決めるのも悠斗になる。
少し考えたあと、悠斗は《仮》へ文字を打った。
『悠斗:一回会って決めない?』
送信してから、自分から全員へ集まろうと提案したことに気づく。
少しだけ緊張した。
それでも、取り消そうとは思わなかった。
◇
その夜。
悠斗、蓮、アキラ、ナナの四人は《SUNSET DINER》の奥の席に座っていた。
シオンも呼んだが、別件の仕事が長引いており、少し遅れるらしい。
窓の外では細かな雨が続き、濡れた道路を走る車のタイヤ音が店内まで低く響いている。
夕食の時間帯を少し過ぎた店内は、混雑の山を越えたところだった。厨房からは鉄板の音が聞こえ、ミオが空いたテーブルを順番に片付けている。
悠斗はスマートフォンをテーブルの上へ伏せた。
「細かい話、ここでして大丈夫かな」
アキラが眉を上げる。
「今さら?」
「いや……ミオさんの店だし」
悠斗は周囲を見た。
「ここを仕事の相談場所みたいにするのは、違う気がする」
蓮が頷く。
「それはそうかもな」
「じゃあ飯食ってから移動する?」
ナナが言う。
「うん。条件だけ確認して、細かい話は外でしよう」
そこへミオが注文を取りに来た。
「今日は四人?」
「あと一人来るかも」
「了解。決まったら呼んで」
それだけ言って、ミオは別の席へ向かった。
悠斗は少しだけ安心した。
この店は好きだ。
だからこそ、自分たちの犯罪仕事で店の立場まで曖昧にしたくなかった。
◇
食事を終えた五人は、ダイナーから少し離れた二十四時間営業の立体駐車場へ移動した。
最上階の一つ下。
夜の利用車が少ない区画に、蓮の青いクーペと悠斗の銀色セダン、シオンの黒いクーペが並んでいる。
雨音がコンクリートの天井へ細かく響いていた。
「で?」
蓮の車のボンネットへ腰を預けたアキラが、悠斗を見る。
「誰連れてく?」
「それを決めたくて」
「悠斗が決めるんじゃないの?」
「勝手に決めるのも違うかなって」
「そこ真面目だよなあ」
蓮が笑う。
悠斗はスマートフォンを開いた。
「俺は行くつもり。車を動かすなら、蓮が一番いいと思う」
「当然」
「自分で言うな」
ナナが即座に返す。
悠斗は続けた。
「依頼人と話すことになったり、警察に止められたりしたら、アキラがいた方がいい」
「警察に止められた時は、話術で全部どうにかなると思うなよ」
「分かってる」
「ならいい」
アキラは笑った。
悠斗はシオンへ視線を向ける。
「シオンは……今回は外した方がいい気がする」
「理由は?」
「戦う仕事じゃないし、人数を増やすほど目立つから」
少し言葉を選んでから続ける。
「シオンが役に立たないって意味じゃなくて、今回は蓮とアキラの方が必要な場面が多そう」
シオンは一度だけ頷いた。
「分かった」
「怒ってない?」
「なんで?」
「いや……」
アキラが笑う。
「そこまで気にすんなって」
シオンも淡々と付け足した。
「必要な時に呼べばいい」
「……うん」
悠斗は少しだけ肩の力を抜いた。
「ナナは?」
蓮が尋ねる。
「私は現場に行くより、先に調べる方が役に立てそう」
ナナはスマートフォンを操作しながら答える。
「依頼主の名前と倉庫の場所、もう少し詳しく分かれば探してみる。公開情報と噂くらいだけど」
「じゃあ聞く」
悠斗はユウジへ送る。
『港のどこ? 高城タツヤの拠点か店も分かる?』
返信は数分後だった。
『第七码頭の倉庫十八。受け渡しは明日二十二時。高城は南部で中古品の買い取りやってる』
悠斗はナナへ見せる。
「これで何か分かる?」
「少し待って」
ナナが画面を追う。
数分ほどしてから、首を傾げた。
「同じ名前で中古工具とか家電の買い取りをしてる店は出る。でも本人かは断定できない」
「噂は?」
「匿名掲示板に『盗品も流してる』って書き込みは何件かある。あと、二週間くらい前に『代金で揉めた』って投稿もあるけど、誰が悪かったのかまでは分からない」
「同姓同名の可能性もある?」
「ある。だから参考程度」
「それで十分」
悠斗は頷いた。
確定していない情報を、確定したものとして扱わない。
それだけでも以前とは違う。
「支払いは高城から?」
アキラが聞く。
「あ、それ確認してない」
悠斗はすぐユウジへ送った。
『支払いは誰から?』
『俺から。完了確認したら即日』
「ユウジからだって」
「なら現地で金の話まで揉める可能性は低いな」
アキラが頷く。
「じゃあ、行くのは俺と蓮とアキラでどう?」
「俺はいい」
「俺も」
蓮とアキラが答える。
ナナが手を上げた。
「で、私は?」
「え?」
「調べたけど」
悠斗が固まる。
「あ……」
言われるまで、現場に行かない人間の報酬を考えていなかった。
アキラが笑う。
「出たな。利益配分」
「笑うなよ」
「いや、でも大事だぞ」
三千ドル。
現場へ出る三人。
事前に情報を調べるナナ。
今回は参加しないシオン。
全員同じでは違う。
でも、ナナの仕事を無料にするのも違う。
悠斗は少し考え、口にした。
「ナナに二百。現場の三人が九百ずつ。残り百はガソリンとか駐車場代とか、仕事で使った分にしない?」
アキラがすぐ計算する。
「二百足す二千七百で二千九百。残り百が経費。分かりやすい」
「俺はそれでいい」
蓮も頷いた。
ナナも笑う。
「私もいいよ」
悠斗はシオンを見る。
「今回はシオンには何もないけど……」
「参加してない」
「うん」
「ならいらない」
あっさりした返事だった。
悠斗は小さく息を吐く。
たった三千ドルを分けるだけでも、考えることは多い。
誰を連れていくか。
誰を外すか。
現場へ出ない人間の仕事をどう扱うか。
経費をどうするか。
配信で見ていた頃より、ずっと細かい。
けれど不思議と嫌ではなかった。
「明日、二十一時半に集合でいい?」
蓮が尋ねる。
「どこ?」
悠斗は少し考えた。
「ここにしよう」
足元のコンクリートを軽く見下ろす。
「ダイナーは飯食う場所にしたいし。仕事の集合場所にはしない方がいいと思う」
「俺もその方がいい」
アキラが頷く。
「じゃあ明日、ここ」
「了解」
「遅刻した奴、飯奢りな」
「なんでそうなるんだよ」
蓮が笑う。
まだ正式な犯罪チームではない。
名前もない。
細かなルールもない。
それでも初めて、悠斗が人を選び、それぞれの得意なことを考え、金の分け方まで話し合った仕事が始まろうとしていた。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマークや評価をいただけると励みになります。
そして本日はここまで明日も5話投稿します。
よろしくお願いいたします。




