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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第6章 第197話 最初のシノギ会議

 翌日の午後。


 NOX拠点の小会議室には、悠斗を含めて六人が集まっていた。


 蓮、ナナ、アキラ、シオン、玲奈。


 昨日の夜、玲司とカナメから幹部としての説明を受けたあと、悠斗が声をかけたメンバーだ。


 最後に部屋へ入ってきた蓮は、悠斗の姿を見つけるなり、わざとらしく背筋を伸ばした。


「お疲れ様です、幹部」


「……蓮までやめてよ」


 恭しく頭を下げる蓮に、ナナが堪えきれず吹き出す。


「絶対やると思った」


「だって幹部だぞ? ちゃんと敬意を払わねえと」


「昨日まで普通だったじゃん」


「昨日までと今日は違うんだよ」


「どうせ楽しんでるだけでしょ」


 ナナに即座に返され、蓮が笑う。


 アキラも椅子を引きながら口元を緩めた。


「しばらくそれ続きそうだな」


「本当にやめてほしいんだけど……」


 悠斗が呆れたように返す横で、シオンはいつも通り空いている椅子へ座った。


「始めないの?」


「あ、うん」


 玲奈もノートを机へ置き、席につく。


「昨日の夜に急に『上納金とシノギの話』って来たけど、何があったの?」


「それを今から話す」


 悠斗も椅子へ座った。


「昨日、玲司さんとカナメさんから、幹部になった後のことを説明してもらったんだ」


「やっぱ何かあんの?」


 蓮が身を乗り出す。


「うん。まず、幹部は毎月決められた額をNOXに上納しないといけない」


 一瞬、部屋が静かになった。


 最初に反応したのはナナだった。


「毎月?」


「うん」


「給料増えるとかじゃなくて?」


「むしろ逆っぽい」


 悠斗が苦笑すると、蓮が眉を寄せる。


「幹部って偉くなるだけじゃなくて、自分で金作らないと駄目なんだな」


「そうみたい」


「で、払えなかったら?」


 シオンが聞く。


「降格」


「厳し」


 蓮が短く言った。


 アキラも少し眉を寄せる。


「思ってたより、肩書きだけの話じゃないんだな」


「うん。僕も昨日ちゃんと聞いて初めて分かった」


 玲奈はノートを開きながら尋ねた。


「今回のフェスはどうなるの?」


「それも聞いた」


 そもそもRAVEN MOTOR FESTは、普通にNOXから与えられた仕事ではない。


 SHIFTの構成員が、SHIFTにも無断で悠斗たち五人の名前を使った件。その賠償として何を望むか聞かれ、悠斗自身がNOXとSHIFTの共同レースを提案したことから始まった。


 だから今回だけは、少し扱いが違うらしい。


「最終利益が出たら、まずSHIFTと半分に分ける。そのあとNOX側の利益の三分の二を、僕の今月分の上納として入れる」


「三分の二?」


 ナナが少し目を見開く。


「結構入れるんだね」


「僕は全部上納するのかと思ってた」


「全部?」


 蓮が顔をしかめた。


「さすがに全部は嫌じゃね?」


「僕が持ってきた話ではあるけど、NOXとSHIFTであれだけ人も金も使ってるから、僕個人に残るとは思ってなかったんだよ」


「ああ、そういう意味か」


 アキラが納得したように頷く。


 玲奈が続けた。


「それで、残りの三分の一は?」


「次のシノギを作る元手として残していいって」


「なるほどね」


「今月はそれでクリア?」


 アキラが聞く。


「うん。次は来月末までに、新しい上納を作る」


 上納額そのものは、すでに決まっている。


 来月末までに、その分の利益を作らなければならない。


「それと、自分のシノギや仕事に構成員を使うこともできる」


「誰でも?」


 蓮が聞く。


「好き勝手にってわけじゃないよ。NOX全体の仕事があったらそっちが優先だし、他の幹部の仕事に入ることもある」


 悠斗は少し間を置いて続ける。


「あと、人を使えばその分だけ上納として認められるわけでもないみたい」


「どういうこと?」


 ナナが首を傾げる。


「例えば十人使ったのに、その十人にちゃんと取り分を出せないような仕事だったり、NOX側に利益がほとんど残らなかったら駄目って」


「そりゃそうか」


 アキラがすぐに理解する。


「人数だけ増やして、でかい仕事に見せるのはなしってことだな」


「うん。ちゃんと仕事として利益が出てないと駄目」


「結構ちゃんとしてんな」


 蓮が感心したように呟く。


 そこで悠斗は、蓮、ナナ、アキラ、シオンを見る。


「玲司さんたちから、四人は僕の仕事を優先して手伝ってもらっていいって言われた」


「俺ら?」


 蓮が自分を指差す。


「うん。予定が空いてれば、僕の仕事を優先していいって」


「へえ……」


 蓮は一度頷いた。


 だが、すぐに何かに気づいたように眉を上げる。


「ちょっと待てよ」


「何?」


「そもそもさ」


 蓮はナナたちを順番に指差した。


「名前勝手に使われたの、悠斗だけじゃねえよな?」


「今さら?」


 ナナが笑う。


「私も、蓮も、アキラも、シオンも使われてたでしょ」


「だよな?」


 蓮は今度は悠斗を指差した。


「それがきっかけでフェスやって、なんで悠斗だけ幹部になってんだよ。ずるくね?」


 悠斗は少し笑った。


「じゃあ、蓮やる?」


「は?」


「幹部」


「いや、それはまだいい」


「じゃあずるいって言わないでよ」


「それとこれは別だろ」


「別なんだ」


 ナナが吹き出す。


「蓮、文句だけ言いたかったんでしょ」


「違うって。俺らも名前使われたのに、悠斗だけ昇格してるから言ってんの」


「私たちも結構働いたしね」


 ナナが便乗する。


「俺も働いた」


 シオンも淡々と加わった。


「シオンまで言うの?」


「事実」


 アキラが笑う。


「まあ、フェス全体まとめてたのは悠斗だしな。そこは仕方ないだろ」


「分かってるって。冗談だよ」


 蓮も笑う。


 だが、そのまま笑い話で終わらせるつもりはなかったらしい。


「でもさ、俺らも実績作れば幹部になれるんだろ?」


「うん」


 悠斗は頷いた。


「構成員でも、NOXの仕事でちゃんと利益を出して組織に貢献すれば、それが実績になるって聞いた」


「だったら話早くね?」


 蓮が机へ肘をつく。


「悠斗のシノギをでかくして、俺らもそこで稼げばいいじゃん」


「僕の上納を増やすってこと?」


「それもあるけど、それだけじゃなくてさ」


 アキラが蓮の意図を先に理解した。


「俺たち四人もそこで仕事して、NOXに利益を残せば、俺たち自身の実績にもできるってことか」


「そう、それ」


 蓮が指を鳴らす。


「悠斗だけ毎月ぎりぎり払って終わりじゃなくて、もっと利益出すんだよ。そしたら俺らの分も実績作れるだろ」


 ナナも納得したように頷いた。


「じゃあ、悠斗のシノギを五人で大きくしていけばいいんだ」


「そういうこと」


 蓮は楽しそうに笑う。


「どうせなら、五人全員幹部まで行こうぜ」


「全員?」


 悠斗が聞き返す。


「悠斗だけ先行って終わりはなしな」


 ナナも笑った。


「いいんじゃない? どうせやるなら、それくらい目標あった方が面白いし」


 アキラも腕を組みながら頷く。


「俺も悪くないと思う。幹部になること自体より、そこまで実績を作れるようになれば、できることも増えるだろうし」


 三人の視線が自然とシオンへ向いた。


 シオンはしばらく黙っていたが、やがて小さく首を傾げた。


「俺は別に幹部じゃなくてもいいけど」


「え、シオンだけ?」


 蓮が笑う。


「肩書き興味ない」


「相変わらずだな」


「でも仕事はやる」


 シオンは悠斗を見る。


「みんなでやるなら、それでいい」


 それを聞いたナナが笑った。


「じゃあ実績だけ勝手に貯めとけばいいじゃん」


「それで幹部になったら?」


「その時考える」


「雑」


 今度は蓮が突っ込む番だった。


 悠斗も笑いながら四人を見る。


 五人全員が幹部になる。


 今まで考えたこともなかった。


 けれど、四人がそれだけの実績を作れるところまで行けるなら、悠斗のシノギも今とは比べものにならない規模になっているはずだ。


「じゃあ、目標は五人全員が幹部になれるくらいまで稼ぐこと?」


「それでいこうぜ」


 蓮が即答する。


「シオンは?」


「好きにして」


「それ賛成ってことでいい?」


「仕事はするって言った」


「じゃあ賛成」


 勝手にまとめる蓮に、シオンは何も返さなかった。


 悠斗はそのやり取りを見て笑う。


「じゃあ、みんなでそこまで行こうか」


「おう」


 そのあと悠斗は、玲奈にも視線を向けた。


「でも、僕はこれからもこの六人でやりたい」


 玲奈が少し首を傾げる。


「私はNOXの構成員じゃないけどね」


「うん。でも、一緒に仕事をするなら、玲奈にもいてほしい」


 玲奈が少しだけ目を丸くした。


「今までみたいに、何かやるなら六人で考えたい」


 蓮はすぐに笑う。


「俺らはさっき勝手に幹部まで目標にされたけどな」


「言い出したの蓮でしょ」


「そうだった」


 ナナが呆れたように笑う。


 アキラも肩をすくめた。


「ここまで一緒にやってきたしな」


「俺もいい」


 シオンの返事は短い。


 玲奈も少しだけ笑った。


「じゃあ、ちゃんと混ぜてよね」


「うん」


 六人でやる。


 そして五人は、いずれ全員が幹部になれるだけの実績を作る。


 まずは、そのためのシノギが必要だった。


 玲奈がノートの新しいページを開く。


「じゃあ問題は、何をやるかだね」


「そこなんだよね」


 悠斗が答える。


「僕、商売とか全然詳しくないし」


「全員詳しかったら私呼ばれてないでしょ」


「それはそう」


「で、何か候補あるの?」


 玲奈の問いに、最初に口を開いたのは蓮だった。


「車屋」


「カイの店あるじゃん」


 ナナがすぐ返す。


「別に競合したっていいだろ」


「整備できる人どうするの?」


「雇う」


「雑すぎ」


 アキラが笑う。


「車関係そのものは悪くないけど、今すぐやる必要はないだろ。カイとも付き合いあるし」


「じゃあ飯屋」


「誰が店立つの」


「雇う」


「全部人任せじゃん」


「オーナーってそういうもんじゃねえの?」


「たぶん違う」


 ナナに返され、蓮が不満そうに椅子へもたれた。


 玲奈は笑いながらノートへ何かを書き込む。


「毎月上納があるなら、一発だけ大きい仕事より、安定して入るものもあった方がいいと思う」


「例えば?」


「不動産とか」


 悠斗が少し首を傾げる。


「家を買うってこと?」


「家っていうより、アパートとかね。部屋を貸して家賃を取る」


「ああ」


「毎月ある程度決まった収入が入るなら、土台にはなると思う」


 アキラも頷いた。


「俺らが毎日そこに張り付く必要もないしな」


「そう。NOXの仕事が入るたびに店閉めます、みたいな商売よりは相性よさそう」


「アパート一棟って、いくらするんだ?」


 蓮が聞く。


「知らない」


 玲奈が即答した。


「知らねえの?」


「今出た話なんだから知らないよ。場所とか古さでも変わるでしょ」


「じゃあ買えるか分かんねえじゃん」


「だから調べるんでしょ」


「なるほど」


「そこで納得するんだ」


 ナナが呆れたように笑う。


 会話が少し脱線したところで、玲奈は別の候補も書き足した。


「資産管理とか、経理関係も後々はありかも」


「経理会社?」


「他の会社のお金とか帳簿を管理する仕事。すぐできるかは分からないけどね。そこも調べないと」


「イベントは?」


 ナナが口を挟む。


「イベント?」


「今回のフェス」


 ナナは悠斗を見る。


「あれ成功したんだから、それを仕事にできないの?」


 アキラもすぐ反応した。


「それはありかもな」


「僕たちがイベント会社やるってこと?」


「そこまではまだ分かんないけど、実績として使えるんじゃないか?」


 アキラは少し考える。


「あれだけの規模を一回回したって事実はあるし」


「レース以外でも?」


「内容が違っても、運営の経験そのものは無駄じゃないだろ」


 玲奈もノートへ「イベント運営」と書く。


「これは調べる価値ありそう」


「警備関係とかは?」


 ナナが続けた。


「今回、警備会社との調整も結構やったでしょ」


「警備会社そのものをやるのは別物じゃない?」


 悠斗が聞く。


「たぶんね」


 玲奈が頷く。


「人も必要だろうし、専門的なこともありそう。そこは簡単にできるとは思わない方がいいかも」


「でも候補には入れとく?」


「調べるだけなら」


 ノートに「警備関係」と付け足される。


 不動産。


 資産管理。


 経理。


 イベント運営。


 警備関係。


 こうして並べてみると、それなりに選択肢はある。


 ただ、どれもその場で決められるほど簡単ではない。


「結局、全部調べないと分かんないな」


 蓮が言う。


「最初からそうでしょ」


 玲奈が返す。


「まず、どれくらい金が必要なのか。どれくらい利益が出るのか。人がどれくらい必要なのか。その辺見ないと決められないよ」


「確かに」


 悠斗も頷いた。


 そこで、昨日から考えていたことを口にする。


「もし会社を持つことになったら、僕が表の社長になるのはやめた方がいいと思う」


 玲奈が顔を上げる。


「なんで?」


「僕、NOXの幹部だから」


「それは知ってるけど」


「僕が会社の代表までやってたら、警察とか取引先に、NOXがやってる会社だと思われるかもしれない」


 玲奈の表情が少し真面目になる。


「普通の会社として仕事を取ろうとしても、裏社会と繋がってる会社だと思われたら不利じゃない?」


「それはあると思う」


 アキラも頷く。


「イベント系なら企業とか会場側との信用も必要だろうし」


「銀行とか保険会社も警戒するかもね」


 玲奈も考えながら言う。


「実際に普通の仕事してても、代表がギャングの幹部って分かったら、それだけで避けるところはありそう」


「だから、会社を作ることになったら僕はオーナー側にいたい」


「じゃあ代表は?」


 ナナが聞く。


 悠斗は玲奈を見る。


「その時は、玲奈にお願いしたいと思ってる」


「……私?」


「うん」


 蓮がすぐ横から口を挟む。


「社長じゃん」


「まだ会社すらないから」


 玲奈が即座に返した。


「気が早すぎるでしょ」


「でも、お願いするなら玲奈がいい」


「なんで?」


「フェスでもお金のこと任せられたし、数字も僕より分かる。商売のこともちゃんと考えられるし」


 悠斗は玲奈を見た。


「だから、玲奈に任せたい」


 玲奈は少しだけ目を見開いた。


 すぐには答えず、机の上のノートへ視線を落とす。


「……会社が本当にできるなら、その時ちゃんと考える」


「うん」


「今ここで社長やりますって言って、結局会社ありませんでしたは嫌だから」


「それはそうだね」


「あと、やることになったら名前だけ貸すつもりはないから」


「分かってる」


「本当に?」


「そこは分かってるよ」


「ならいいけど」


 玲奈はノートを自分の前へ引き寄せた。


「とりあえず、まず調べるところからだね」


「不動産?」


「それも。イベント関係も。会社をゼロから始める場合と、別の方法があるのかも含めて」


「別の方法?」


「今ある会社に入るとか、引き継ぐとか、そういうやり方もあるかもしれないし。私も詳しくは知らないから調べる」


「ああ」


「あと、フェスの最終精算もまだだから。残る三分の一が実際いくらになるか分からないと、何ができるか決めようがない」


「それもそうか」


 悠斗が頷くと、蓮が椅子にもたれた。


「じゃあ今日は何も決まってねえじゃん」


「六人でやるのは決まったじゃん」


 ナナが返す。


「あと五人全員幹部」


「シオンは?」


「俺はどっちでもいい」


「ほら、四人半くらい」


「半って何だよ」


 アキラが笑う。


「何するか分かってないのに、今日全部決める方がおかしいでしょ」


 玲奈が呆れたように言う。


「確かに」


「今日何回目、それ」


 また笑いが起きる。


 まだシノギと呼べるものは一つもない。


 会社もない。


 物件もない。


 何をやるかさえ決まっていない。


 けれど、一つ目標はできた。


 悠斗だけではない。


 蓮も、ナナも、アキラも、シオンも。


 いつか五人全員が、NOXの幹部になってもおかしくないだけの実績を作る。


 そのために、自分たちの仕事を大きくしていく。


「じゃあ、玲奈が調べてくれてる間に、僕たちも候補考えよう」


「また蓮が飯屋とか言い出すよ」


「飯屋の何が悪いんだよ」


「だから誰が働くの」


「雇う」


「それは禁止」


 ナナの即答に、部屋の中へまた笑い声が広がった。


 幹部になって、最初のシノギ。


 まだ形はない。


 けれど、その一歩目だけは、六人で確かに踏み出していた。

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