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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第5章 第182話 世界で走る二人

 カスタムカー部門の走行が終わると、十五台が次々とピットへ戻ってきた。


 エンジンを止めた車からドライバーが降り、メカニックたちは熱の残るタイヤやブレーキを確認していく。先ほどまでコースを満たしていた排気音に代わり、工具の金属音と参加者たちの話し声がピットに広がっていた。


 蓮のレイザーも、カイの前で点検を受けている。


「ブレーキは問題なし。タイヤも思ったより綺麗だな」


 右前輪を確認していたカイが立ち上がった。


「足は?」


「そこは少し触りたい。お前、後半かなり踏んだろ」


「せっかく走れるんだから試したいじゃん」


「壊すまで試すなよ」


 呆れた声を背に、蓮はピット脇の計測モニターへ向かった。


 悠斗もその横へ並ぶ。


 画面には、カスタムカー部門の結果が残っていた。


 最初の通常練習では、蓮は十五台中六位。


「六位か」


 完成したばかりのレイザーを初めてまともにサーキットへ持ち込み、最初の数周は挙動を確かめることに使っていた。それを考えれば悪い位置ではない。


 蓮は表示を切り替えた。


 通常練習のあとには、本番と同じ三十分の予選形式も試している。


 一位、神崎トオル――《ヴェクサーR》。


 二位、風間リク――《セルディア2000RS》。


 三位、榊原ユウ――《グリフォンRS》。


 四位、久我蓮――《レイザー》。


 五位、一般枠の高城ユウジ――《ブレイズGT》。


 六位、一ノ瀬ハルト――《アステラX》。


 七位、牧野ユウマ――《オルビスGT》。


「四位まで上がったんだ」


「ああ。二回目から、だいぶ車が分かってきた」


 蓮が見ているのは順位よりも上位とのタイム差だった。


「神崎さん、やっぱ安定して速いな」


「リクさんも?」


「速い。あの小さい車でこれは面倒」


「ユウさんも三位だね」


「ユウさんも普通に速いからな」


 蓮は自分の記録へ目を戻した。


「でも、思ってたより差はない」


「本番なら狙えそう?」


「狙う。まだレイザーに全部合わせられてないし」


「聞こえてるぞ」


 後ろから声がして振り向くと、ヘルメットを抱えたリクが立っていた。


「聞こえるように言いました」


「お前なあ」


「本番では抜きますから」


「まず予選で俺より上に来い」


 二人が一瞬睨み合い、すぐに笑う。


 その横を、一台のスーパーカーが低いエンジン音を響かせながら通り過ぎた。


 蓮の視線がそちらへ移る。


「始まるな」


     ◇


 スーパーカー部門の十五台が並ぶと、ピット前の景色が一変した。


 同じメーカーの車はいくつかあるものの、車種は一台も重複していない。


 NOX側の招待は、御堂一成の《アルシオン・セレス》、運転部門を任されている幹部・鷹宮セイヤの《ヴェルティアX12》、外部招待の柴崎レイが乗る《アルシオン・ネーヴェ》。


 SHIFT側は、エリック・クロフォードの《ラグナード・ヴェノム》、柊サラの《フェルゼン911R》、城ヶ崎レンの《グランディス・エッジ》。


 一般枠には、相沢ケイの《ヴェルティア・アストラ》、片桐シュンの《ラグナード・ディアボ》、鳴海ソウタの《フェルゼンGT4》、遠野レイジの《アルシオン・ヴェスタ》、倉田シンゴの《グランディス・ノヴァ》、藤崎ミナトの《セリオンNS》、瀬名タクトの《オルフェアV8》、真壁リョウの《レグルスZR》、叶ユウキの《アヴァロンSP》が並ぶ。


 その中でも、蓮は濃いグレーの一台から目を離さなかった。


「やっぱセレスだ……」


 御堂の《アルシオン・セレス》。


 低く滑らかな車体は派手に威圧するタイプではなく、軽さとバランスを重視した御堂らしい一台だった。


 そこへクロフォードが歩いてくる。


「やっぱそれ持ってきたか、一成」


「分かってたんだろ」


「一成が二時間、自分の車で走るって言ったら大体分かるよ。あれ結構気に入ってるし」


 サラが笑った。


「本当に分かるんだ」


「何回一緒に走ってると思ってんの?」


 クロフォードは今度は黒いレイザーへ目を向けた。


「あれ、さっき走ってた車だろ?」


「蓮の」


「結構速かったな」


「ありがとうございます、クロフォードさん」


 蓮の表情が急に硬くなる。


 横にいたアキラが吹き出した。


「顔やばいぞ」


「うるせえ」


     ◇


 最初は通常の練習走行だった。


 十五台が順番にコースへ入り、数周を使って車や路面の状態を確かめる。


 御堂もクロフォードも明らかに余裕を残していた。


 御堂は無理にブレーキを詰めず、タイヤを酷使するような動きもしない。それでもラインは綺麗で、前車との差が自然に縮まっていく。


 クロフォードも基本は抑えているが、時々遊んだ。


 前が大きく空いた直線だけ強く踏んだり、コーナー出口で軽くリアを動かしたりする。


 御堂の後ろへ入った時も、一度だけ距離を詰めると、抜きにはいかず再び離れた。


 ミラーを見た御堂が小さく笑う。


「……遊んでるな」


 クロフォードも前を走るセレスを見ながら楽しそうに呟いた。


「相変わらず綺麗だな、一成」


 ピットから見ていた蓮が言う。


「二人とも全然出してないな」


「分かるの?」


「ブレーキにも余裕あるし、挙動も全然乱れてない」


 それでも十分に速かった。


 悠斗には、抑えて走っている二台が周囲との差を自然に詰めていく光景の方が、かえって異様に見えた。


     ◇


 数周を終えたところで、運営から全車へピットインの指示が出た。


 十五台すべてが戻り、計測担当が機器を確認していく。


 車両識別、ラップ計測、ピット通過、順位表示。


 カスタムカー部門でも同じ確認は済ませている。


 三枝ソウがドライバーたちを集めた。


「ここから三十分、本番の予選と同じ形で回す。今日の結果は本番には関係ない。計測と進行確認が目的だ」


 好きなタイミングでコースへ出て、最速ラップを記録する。


 計測中の車が優先。


 三十分を過ぎても、それ以前に計測周回へ入っていれば、その一周は有効。


「ニトロは禁止。あとは本番と同じだ」


 開始の合図が出た。


 すぐにコースへ出る者もいれば、交通量を見ながらピットで待つ者もいる。


 序盤は一分三十四秒台を中心に、鷹宮、サラ、柴崎、一般枠の上位勢が何度も順位を入れ替えた。


 残り二十分を切った頃。


 御堂が前方に大きな空間を作った。


 蓮が気づく。


「御堂さん、行く」


 最終コーナーを抜けた濃いグレーのセレスが、それまでより鋭く加速する。


 派手な動きはない。


 それでもブレーキングは深くなり、コーナーを抜ける速度も一段違った。


 一周後。


 モニターの一番上が更新される。


《1:30.842 御堂一成》


「……は?」


 蓮が固まった。


 モニターに残るカスタムカー部門の記録と数字を見比べる。


「……カスタムカーより十秒近く速い」


 悠斗も画面を見る。


「そんなに違うの?」


「しかも、まだ全開じゃない」


 蓮は即答した。


 その頃、クロフォードの専属メカニックも同じ数字を確認していた。


『エリック。一成、一分三十秒八四二』


 無線を聞いたクロフォードが笑う。


「一成、ちょっと出したな」


『どうする?』


「じゃあ、同じタイム狙ってみるか」


 声はあまりにも軽かった。


 クロフォードは一度ペースを落として前方との間隔を作り、最終コーナーからヴェノムを加速させる。


 それまでより明らかに速い。


 だが、限界まで攻めているわけではない。ブレーキングにはまだ余裕を残し、車体の姿勢を崩さないまま速度だけを一段引き上げていく。


「来た」


 蓮がコースへ目を向ける。


 ヴェノムがコントロールラインを通過した。


《1:30.604 エリック・クロフォード》


 蓮が無言で数字を見直す。


 御堂との差は、〇・二三八秒。


「……マジで同じタイム狙ったのかよ」


 悠斗も驚いて画面を見る。


「狙ってこんなに近くなるの?」


「普通は無理だろ」


 蓮が呆れたように笑う。


 すぐに専属メカニックから無線が飛んだ。


『エリック。一分三十秒六〇四。〇・二三八速い』


「あー、ちょっとズレた」


 本人だけは軽かった。


 その次の周には、もう元の余裕あるペースへ戻っている。


     ◇


 残り時間が減るにつれ、ほかのドライバーたちもタイムを縮めた。


 サラは一分三十一秒台後半。


 鷹宮や柴崎、一般枠の速いドライバーも一分三十二秒台前半まで入ってくる。


 それでも一分三十秒台へ入ったのは、御堂とクロフォードだけだった。


 残り一分を切り、最後のアタックへ向かう車が続く。


 三十分を過ぎても、時間内に計測周回へ入った車のタイムはそのまま計測された。


 最後の一台がゴールラインを通過する。


「計測、問題なしです」


 スタッフの報告に、三枝ソウが頷いた。


     ◇


 走行を終えた御堂は車を降りると、すぐに専属メカニックとタイヤやブレーキの状態について話し始めた。


 クロフォードもピットへ戻り、ヘルメットを脱ぎながら上機嫌で車を降りる。


「いいな、このコース」


 少し遅れてサラも戻ってきた。


 車を降り、ヘルメットを外したところで計測モニターを見る。


 最上段に並んだ二つの数字を確認してから、クロフォードへ視線を向けた。


「エリック、本当に同じタイム狙ったの?」


「うん」


「〇・二三八差って……相変わらず気持ち悪い精度だね」


「惜しかっただろ?」


「普通、狙ってそこまで寄らないから」


 そこへ御堂も専属メカニックとの話を終えて戻ってくる。


 クロフォードが笑った。


「一成、同じタイム狙ったんだけどな」


「〇・二三八もずれてる」


「十分近いだろ」


「狙ったなら外してる」


「厳しいなあ」


「レーサーだろ」


 サラが吹き出した。


 少し離れたところでは、蓮がまだモニターを眺めている。


 悠斗が隣へ並んだ。


「あれで全力じゃないんだよね?」


「絶対違う」


 蓮は迷わず答えた。


 サラも、鷹宮も、一般枠の上位勢も十分に速かった。


 それでも世界で走ってきた二人は、そのさらに先にいる。


 本番では、今日以上に全員が攻める。


 カスタムカー部門も、スーパーカー部門も。


 今はまだ余裕を残している御堂とクロフォードも。

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