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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第5章 第172話 走るためのルール

「もしもし?」


 呼び出し音が二度鳴ったところで、聞き慣れた声が返ってきた。


「カイ、今大丈夫?」


『大丈夫だけど。どうした?』


 悠斗はスマートフォンを耳へ当てたまま、向かいに座るアキラへちらりと目を向けた。


 少し前まで使っていた資料やノートパソコンが、まだテーブルの上に広がっている。


《RAVEN MOTOR FEST》


 つい先ほど正式に決まった名前だ。


「今度、NOXとSHIFTで車のイベントやることになって」


『イベント?』


「うん。二時間耐久レースと車の展示が中心。ショップとか飲食店にも入ってもらう予定」


『思ったよりでかいやつじゃん』


「俺も最初はレースだけだと思ってた」


『で? なんで俺に電話してきた?』


「カイのところの整備工場も、何か参加できないかなと思って」


 一瞬だけ間が空く。


『ああ、そういうことか。でも俺に決められる話じゃないぞ』


「分かってる。店として興味あるか聞いてみたかっただけ」


『社長なら今日いるぞ』


 電話越しに金属の触れ合う音が混じった。まだ作業中らしい。


『今から来れるなら直接話す?』


「ちょっと待って」


 悠斗はそう断ってから、スマートフォンを耳から離した。


「アキラ。今から行けるって。社長もいるみたい」


「じゃあ行こう。直接話した方が早い」


 悠斗は再びスマートフォンを耳へ戻した。


「今から行く」


『了解。着いたらそのまま入ってきていいぞ。アキラも一緒?』


「うん」


『じゃあ話早いな』


 通話が切れる。


 アキラがノートパソコンを閉じながら立ち上がった。


「一軒目としてはちょうどいいな」


「まだ参加してくれるって決まったわけじゃないけど」


「当然。今日は決めてもらう必要もないだろ」


 アキラは椅子の背に掛けていた上着を手に取る。


「興味あるか確認して、具体的な話になりそうならエマさんにつなぐ。それで十分」


「そうだな」


 以前なら、断られた時のことばかりを先に考えていたかもしれない。


 今は違う。


 断られたら、次を探せばいい。


 それに今日は一人ではない。


 悠斗はスマートフォンをポケットへ入れ、アキラと一緒に部屋を出た。


     ◇


「予選の大枠は、この前決めたやつでいいんだよな?」


 同じ頃。


 NOXのガレージでは、蓮がタブレットを開きながら確認していた。


 向かいには三枝ソウ。


 テーブルの中央に置かれたスマートフォンからは、SHIFTのサラの声が聞こえている。


『各部門十五台。三十分のタイムアタック。ベストラップ採用。上位十台が決勝』


「そこはもう触らなくていい」


 ソウが短く答えた。


「今日は、そのままだと現場で揉めそうなところを詰めるぞ」


「ですよね」


『募集始めてから質問だらけになるのも面倒だしね』


 蓮は画面をスクロールした。


 予選形式そのものは、すでに決まっている。


 カスタムカー部門、スーパーカー部門ともに十五台。


 三十分の間なら、各レーサーは任意のタイミングでコースへ入ることができる。


 何周走るかも自由。


 記録されるのは最速の一周。


 上位十台が決勝へ進み、決勝のスタート位置も予選順位で決まる。


「まず、十五台同時に走るならこれ」


 蓮が画面を指で滑らせる。


「アタック中じゃない車が前塞ぐ可能性ある」


『そこは計測中の車優先でしょ』


 サラがすぐに返した。


「アウトラップとか、アタック終わって戻ってる途中の車はライン譲る」


「口頭だけじゃなく、ちゃんと書いとけ」


 ソウが言う。


「聞いてないって言う奴が出る」


「じゃあ、タイムアタック中でない車両は、計測中の車両を妨げないよう走行ラインを譲る」


『それでいいと思う』


「次。三十分終わる時」


 蓮が続ける。


「三十分になる前に計測周回へ入ってたら、その一周は最後まで有効」


『三十分過ぎてから新しくアタック入るのはなし』


「それでいい」


 ソウも頷いた。


「事故時は?」


『イエローからだね』


 サラが言う。


「イエロー出た時にアタック中だった奴、タイム損するけど」


「救済入れる?」


「入れたら面倒になる」


 ソウは即答した。


「誰が何秒損したかなんて、そのたび正確に出せねえ」


『残り一分でイエロー出た人だけ延長、とかにしても絶対揉めるよ』


「じゃあ個別救済なし。予選時間も延長なし」


『その方がいい』


「タイミングも含めて予選ってことで」


 蓮が項目を追加する。


「レッドは?」


「事故でコース塞がった時とか、走行続けるのが危ない時」


『その場合は全車減速してピット戻りでしょ』


「予選時計は?」


「止める」


 ソウが答えた。


「イエローと違って全員まともに走れねえからな」


『そこは分けた方がいいね』


「レッド提示後は全車減速。追い越しなし。運営の指示に従ってピットへ戻る。予選時計停止。安全確認後、残り時間から再開」


「それでいい」


 蓮が入力する。


「ニトロは?」


『禁止』


「禁止」


 二人の答えが重なった。


「そこだけ毎回答え早いな」


『逆に使わせる理由ある?』


「ないけど」


「予選だけ許可して決勝は禁止とかにしたら余計ややこしい。両クラス、予選も決勝も禁止。それで統一」


「了解」


 蓮が最後の項目を打ち込んだ。


 予選の大枠そのものは変わっていない。


 ただ、実際に十五台を同じコースへ入れた時に起きそうな問題を、一つずつ潰していく。


「予選はこれでほぼ終わり?」


「参加者へ出す分としては十分だろ」


『じゃあ次、決勝』


「二時間耐久な」


 蓮が新しいページを開いた。


     ◇


 カイが働く整備工場は、いつ来ても静かとは無縁だった。


 シャッターは大きく開け放たれ、店先には作業待ちと思われる車が二台。中では一台のスポーツカーがリフトに載せられ、その隣には外されたタイヤが積まれている。


 壁沿いには工具やホイール、各種パーツのサンプルが並び、奥ではエンジン音が短く響いた。


 悠斗とアキラが入っていくと、カイが作業場から顔を出した。


「おー、来たな」


 黒い作業着の袖を肘までまくり、指先には薄く油汚れが残っている。


「早かったな」


「近かったから」


 悠斗が答える。


「アキラも久しぶり」


「そうでもないだろ」


「いや、お前がここ来る時、大体なんか壊してる時だから」


「今日は壊してない」


「今日は、な」


「余計だって」


 二人のやり取りに、悠斗は思わず笑った。


「社長は?」


「いる。軽く話しといた」


 カイが店の奥を親指で示す。


「呼んでくるから待ってて」


「ありがとう」


「その辺の車、勝手に触るなよ」


「悠斗じゃなくて俺見て言っただろ」


「当たり前だろ」


 アキラが言い返す前に、カイは奥へ消えた。


 アキラは工場内を見回す。


「こうして見ると、展示に持っていけそうなのもありそうだな」


「まだ何も決まってないぞ」


「候補として見てるだけ」


 普段ならただの整備工場として見ていた場所も、イベントへ呼ぶ側の目線で見ると少し違って見える。


 どんな車を置けるか。


 どういう形なら店側にも得があるか。


 そんなことを考えているうちに、カイが四十代ほどの男を連れて戻ってきた。


「社長。この二人」


「話は聞いたよ」


 社長は作業場の様子を一度確認してから、悠斗たちの前で足を止めた。


「NOXとSHIFTでイベントやるんだって?」


「はい」


 悠斗が答える。


「《RAVEN MOTOR FEST》って名前で、車のイベントをやることになって」


 そこからアキラが自然に引き継いだ。


「カスタムカーとスーパーカーで二時間耐久をやります。それ以外にも、レース車両のピットウォーク、ショップのデモカー展示、飲食店の出店を入れる予定です」


「結構やるんだな」


「その予定です」


「で、うちには何してほしい?」


 アキラもすぐに答える。


「まだ一つに決めてません。レースに出場でも、イベントへの協賛でもいいですし、出場する車やレーサーのスポンサーでもいい。デモカー展示でも、整備関係で協力してもらう形でも大丈夫です」


「レースにも出られるのか?」


「応募はできます。ただ、希望したらそのまま出場できるわけじゃないです」


 アキラはそこで一度区切った。


「カスタムカー部門もスーパーカー部門も、予選に出られるのは十五台までなんで。一般応募が多ければ選考になります。店から出したい車があるなら、一般応募の候補として出してもらう形ですね」


「じゃあ、うちがイベントに協賛したからってレース枠が貰えるわけじゃない?」


「そこは別です」


 アキラははっきり答えた。


「協賛や展示をしてもらっても、それを理由に一般応募の選考を優先することはしません」


 社長は小さく頷いた。


「その方がいいな。金出した店から優先で走れるなんてなったら、レースの方で揉める」


「俺たちもそこは分けたいと思ってます」


 悠斗も横から答える。


「ただ、店として直接レースに出なくても、出場が決まった車やレーサーのスポンサーになる形ならできます」


 アキラが続けた。


「車に店のロゴを入れたり、レーサー紹介でスポンサー名を出したり。そこは出場する側とスポンサー側で条件を合わせてもらう形になると思います」


「なるほどな」


 社長が少し考える。


「イベント全体に協賛するのと、特定の車に付くスポンサーは別ってことか」


「はい。両方でもいいですし、どっちかだけでも」


「それなら選択肢は多いな」


「一つの形に決める必要はないと思ってます」


 その横で聞いていたカイが口を開く。


「だったら整備ブースも出したら?」


 全員の視線が集まる。


「整備ブース?」


 悠斗が聞き返す。


「車かなり集まるんだろ?」


「予選だけでも三十台」


「それに展示車も来るんだろ。なら絶対何か起きるぞ」


 カイは指を折る。


「タイヤ、空気圧、バッテリー。軽いオイル漏れとか、走った後にちょっと調子悪いとか」


「本格修理じゃなくて、簡単な整備だけ?」


「そう。重いやつは店まで運べばいい」


 アキラが少し考える。


「イベント共通の簡易整備ブースか」


「それなら誰でも使えるようにすりゃいいだろ」


 カイが答える。


「店の宣伝にもなるし」


 社長もすぐには答えず、工場の奥へ視線を向けた。


「悪くはないな」


 悠斗の意識が自然とそちらへ向く。


「ただ、今ここでやるとは言えないぞ」


「はい」


 アキラがすぐ頷いた。


「区画の広さも分からない。電源が使えるのか、何人出す必要があるのか、搬入時間はどうなるのか。出店扱いか、協賛扱いか、それとも整備協力として別になるのかも分からない」


「そこは一回持ち帰ります」


「レース出すなら車も考えないとな」


 社長がカイを見る。


「お前、出たいんじゃないのか?」


「出られるなら出たいですよ」


 返事が早かった。


 アキラが笑う。


「絶対そう言うと思った」


「車好きなら普通だろ」


「どっちの部門?」


「まだ車も決まってないのに何で部門から決めるんだよ」


「店の車借りる気満々じゃん」


「社長がいいって言えばだろ」


「俺を勝手に巻き込むな」


 社長が呆れたように言う。


 悠斗も笑ってしまった。


「条件まとまったら、もう一回来てくれ」


 社長が改めて言った。


「分かりました」


 決定ではない。


 それでも、話は確実に次へ進んだ。


     ◇


「じゃあ決勝」


 蓮がタブレットに新しいページを開いた。


「まず、二時間で何周できるか。ここは決まってる」


『終わり方だけちゃんとしとこう』


 サラが言う。


「二時間になった瞬間に止めるわけじゃねえんだろ?」


 ソウの確認に、蓮が頷く。


「はい。二時間になった時点で走ってるその周回までは有効です」


『例えば一時間五十九分五十秒でゴールライン越えたら?』


「その時点で次の周回に入る。その周回が最後」


「二時間を過ぎてからゴールしても、その周回までは数える」


 ソウが続ける。


「そのゴールの後に新しい周回には入らない」


「じゃあ――」


 蓮が入力する。


「制限時間は二時間。二時間経過時点で各車両が走行中の周回を最終周回とし、その周回を完了するまで有効。最終周回のゴールライン通過後、新たな周回には入らない」


『それならいい』


「順位は?」


「完了した周回数が多い順」


『同じ周回数なら、その周回数に先に到達した方が上』


「リタイアした車も同じ扱いでいいな」


 ソウが言う。


「じゃあ、同一周回数なら最後の有効周回を先に完了した車両が上位」


「それでいい」


「ピットインは自由。ピットレーンは四十キロ以下」


『速度制限区間では、ね』


「超えたらペナルティ」


「そこは明記」


 次へ進む。


「ドライバー交代はなし」


『代理もなし』


「予選走った本人が決勝も走る」


 異論は出なかった。


「給油と修理はピットで可」


 蓮が言うと、ソウが続ける。


「コース上での修理はなし」


『危ないしね』


「大きく壊れた車は?」


「安全にピットまで戻れるなら戻る。無理ならそこでリタイア」


 ソウが言う。


「運営が危険と判断した場合も、ピットインか走行終了を指示できるようにしとけ」


「了解」


「次、コースアウト」


「自力で安全に戻れるなら続行」


『逆走して戻るのはなし』


「ショートカットして得した場合は?」


 ソウが聞く。


「安全に位置戻す。それが無理ならペナルティ」


『それでいい』


「自走できない場合はリタイア」


 蓮が書き込む。


「接触」


 少しだけ空気が変わった。


「故意の接触と、明らかな危険運転は失格」


『そこはいい』


「普通の接触は?」


「最初に決めてた通り、基本は双方ピットスルー」


 蓮が答える。


 サラが少し間を置いた。


『でも片方が明らかに突っ込んだ場合まで両方は変じゃない?』


「それはそうだな」


 ソウが腕を組む。


「接触したらレースはそのまま続行。運営が確認する。故意か、明らかな危険運転があればそいつを失格」


「それ以外の、どっちも決定的に悪いとは言えない接触なら双方ピットスルー」


『本格レースみたいに毎回細かい過失割合見るわけじゃないし、そのくらい単純な方が運営は回しやすいね』


「じゃあそれで」


 蓮が入力する。


「ペナルティは?」


「警告、ピットスルー、周回減算、順位降格、失格」


『同じ違反何回もやったら重くする』


「違反の内容と危険度、故意かどうか、繰り返しかどうかで運営判断」


「十分だろ」


 ソウが頷く。


「周回遅れ」


『絶対譲る』


 サラの返事が早かった。


「そこだけ圧強くない?」


『周回遅れに塞がれるの本当に嫌だから』


「ただ、急ブレーキで譲るのは禁止だな」


 ソウが言う。


「安全に譲れる場所で速やかに」


『ストレートとか広いところでライン外す感じ』


「じゃあ、後方から上位車両が接近した場合、周回遅れは安全な場所で速やかにラインを譲る。故意に妨害したらペナルティ」


「それでいい」


「レッドフラッグ」


 蓮が最後の大きな項目を開く。


「事故とか障害物で、そのまま走り続けるのが危ない時」


『出たら全車減速』


「追い越し禁止」


 ソウが加える。


「そのまま運営の指示に従ってピットへ戻る」


「時計は止めない」


 サラが少し考える。


『予選は止めるけど、決勝は止めないんだね』


「決勝は二時間固定でいきたい」


 蓮が答える。


「赤旗中もその時間込み」


「長引いても?」


「はい」


 ソウが数秒考える。


「なら最初から明記しとけばいい」


『私もそれならいい』


「再開は?」


 蓮が聞く。


「レッドが出た時点の順位は維持する」


 ソウが答える。


「ただ、一台ずつ数秒間隔で出して元の差まで再現とかはやりすぎだな」


『イベントレースだしね』


「順位順で並ばせて、運営の合図で再開でいいんじゃない?」


 サラが言う。


「それが一番分かりやすい」


 ソウも頷いた。


「じゃあ、レッド提示時点の順位を基準に再整列。安全確認後、運営の指示で再開。時計はその間も止めない」


「それでいい」


「セーフティカーは?」


『なし』


「なし」


「ニトロも予選と同じで両クラス禁止」


 最後まで入力し終えると、蓮はタブレットを少し遠ざけた。


「……今度こそ、これでレースできる?」


「できなきゃ困る」


「ソウさん厳しいな」


『でもかなりちゃんとしたじゃん』


「最初からちゃんと考えてましたけど?」


『最初、二時間走るしか決まってなかったじゃん』


「大枠が大事なんだよ」


「細かいところ決めるのが今日の仕事だろ」


「ソウさんまでそっち側なんすか」


 蓮が不満そうな顔をすると、スマートフォンの向こうでサラが笑った。


『まあ、実際走ったらまた気になるところ出ると思うけど』


「それは走行会で見ればいいだろ」


 ソウが言う。


「コースの危ない場所も、ピット入口と出口も、その時に実際走って確認すればいい」


「じゃあ走行会で確認ですね」


『それなら無駄ないね』


 蓮がタブレットの隅に短く《走行会で実地確認》と書き足した。


 画面には、予選から決勝まで一通りの規則が並んでいる。


 まだ全部が完成したわけではない。


 それでも、ただ「二時間レースをやる」と言っていた時とは違う。


 実際に走らせるための形が、少しずつ出来上がっていた。


     ◇


 整備工場を出る頃には、日が少し傾き始めていた。


 悠斗とアキラが駐車場へ向かう後ろから、カイも見送りに出てくる。


「条件まとまったら連絡して」


「うん」


「俺個人としては面白そうだと思うけどな」


 悠斗が振り返る。


「イベント?」


「そりゃそうだろ。NOXとSHIFTで車イベントやるのに、見に行かない理由ないし」


 アキラが笑う。


「見る側で済む?」


「出られるならレースも出たい」


「やっぱり」


「選考あるんだろ?」


「ある」


「なら車決まったら応募する」


「社長の許可取ってからな」


「分かってるって」


 車の話になると、カイは昔から変わらない。


 悠斗は笑って、


「また連絡する」


と言った。


「おう」


 車へ乗り込み、ドアを閉める。


 助手席に座ったアキラは、すぐにスマートフォンを開いた。


「エマさんに送っとく」


「何て?」


「レース参加、整備ブース、デモカー展示、スポンサー関係に興味あり。条件整理後に再交渉」


「協賛も?」


「可能性はある。ただ今日は何をやるか決める段階じゃない。まず反応ありって共有で十分」


「だな」


 送信した直後、今度は悠斗のスマートフォンが震えた。


 蓮からだった。


『予選の細かいとこと決勝ルール、ほぼ決まった』


 その下に続けて、


『細かい動きは走行会で確認する』


 さらに少しして、


『ソウさんとサラ細かすぎ』


『でも必要だったわ』


 悠斗は思わず笑った。


「何?」


「蓮」


「ルール?」


「予選の細かい部分と決勝まで決まったって。細かいところは走行会で確認するみたい」


「それが一番いいだろ。実際走らないと分からないこともあるし」


「うん」


 アキラがシートベルトを締める。


 悠斗はエンジンをかけた。


 会議室で名前を決めた時には、まだ輪郭しかなかった。


 今は、競技のルールができている。


 最初の店にも話を持っていった。


 別の場所でも、それぞれが自分の役割を進めている。


 以前の悠斗なら、自分でもっと何かしなければと焦っていたかもしれない。


 けれど今は、それでいいと思えた。


 任せられる相手がいる。


 必要な時だけ、自分が間へ入ればいい。


「一回戻る?」


 アキラが聞く。


「うん。エマさんにも直接話そう」


「了解」


 悠斗はゆっくり車を駐車場から出した。


 夕方の道路へ合流すると、フロントガラスの向こうを何台もの車が流れていく。


《RAVEN MOTOR FEST》。


 名前しかなかったイベントに、少しずつ中身が増えていた。


 次は、それを街へ広げていく番だった。

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