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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第5章 第169話 レースの設計図

 サーキットからNOXの拠点へ戻った頃には、街の空はすっかり暗くなっていた。


 会議室の長机には、見取り図や現地で撮影した写真、サーキットから受け取った見積書が広げられている。席についているのは悠斗たち五人とカナメ、エマ、黒川トウマ、それにNOXの警備責任者だ。


 見取り図の横には、SHIFTから提供された過去のレース運営資料も置かれていた。受付や車検、車両誘導、無線連絡など、使える手順は今回も活用する予定になっている。


 カナメは資料へひと通り目を通すと、悠斗を見た。


「サーキットを借りられるのはいつだ?」


「来月なら、第二土曜か第四日曜です」


「どちらがいい?」


「第二土曜では、参加者の募集から本番まであまり時間がありません」


 黒川が答え、手元の資料をめくった。


「専用口座の開設、参加料や協賛金の管理、出店者との契約まで考えると、第四日曜の方が余裕を持てます」


「警備計画も同じです。観客数を見積もってから、警備会社へ必要な人員を依頼しなければなりません」


 警備責任者の意見に、エマもうなずく。


「警備会社や救急との調整、各種契約まで含めれば、私も第四日曜を勧めます」


 カナメは全員を見回し、反対意見がないことを確かめた。


「NOXは第四日曜を希望する」


 悠斗は予定表の第四日曜へ印をつけ、SHIFTへ伝える項目へ書き加えた。


「次に費用だ」


「サーキットから受け取った見積書です」


 悠斗が差し出した書類へ目を通し、カナメは黒川の前へ置いた。


「会場にかかる費用はこれで確認できる。警備、救護、賞金、宣伝、展示も加えて、イベント全体の予算を出せ」


「分かりました」


「では、運営方法を聞こう」


 悠斗が視線を向けると、蓮は見取り図のコース部分へ指を置いた。


「レースは一日で二部門。午前がカスタムカー部門、午後がスーパーカー部門で考えてる。決勝はどちらも二時間耐久だ」


「車両区分は?」とエマが尋ねる。


「登録されているクラスで分ける。スーパーカーとして登録されている車はスーパーカー部門。それ以外の車はカスタムカー部門だ」


 ナナが申込書の案へ、車種、車両クラス、登録番号の欄を加えた。


「申し込みの時に登録情報を出してもらえば、部門分けで揉めることもなさそうだね」


「ああ。持ち主には選ばせない」


 スーパーカーもレースへ出る以上、足回りや制御系を含めた調整が施されている可能性は高い。改造の有無ではなく、車両そのものの登録クラスを基準にする方が明確だった。


 蓮は時刻を書き込んだ予定表を中央へ寄せた。


「各部門、予選は十五台。三十分間のタイムアタックで、一番速かった一周を記録にする。上位十台が、その部門の決勝へ進む」


「一台ずつ走らせるのか?」とカナメが確認した。


「いや。三十分の間なら、いつコースへ入ってもいい。最初から走るか、空くまで待つか、何周するかはレーサーに任せる」


 混雑する前に記録を残す者もいれば、コースが空くのを待ち、少ない周回へ賭ける者もいる。入るタイミングまで含めて予選の戦術になる。


「走ってる途中で事故が起きて、イエローフラッグが出ても?」


 アキラの問いに、蓮はうなずいた。


「減速や追い越し禁止には従ってもらう。そのせいで記録を出せなくても、個別の救済はなし。残り時間を見て、走り直すかどうかも本人の判断だ」


「全員に走り直しを認めたら、予選が終わらなくなるもんね」


「そういうこと。決勝の並びは予選タイム順。一番時計が先頭で、十番手が最後尾だ」


 午前九時半から十時までがカスタムカー部門の予選。十一時から十三時まで、二時間耐久の決勝を行う。


 午後は十四時半から十五時までスーパーカー部門の予選。十六時から十八時まで、同じく二時間耐久の決勝を行い、その後に二部門の表彰式を行う。


「参加資格は?」とカナメが尋ねた。


「サーキットの走行経験がある奴だけ。初心者や初めてサーキットを走る奴は参加させない。過去の走行歴も申込時に確認する」


 そこまで答えた蓮は、予定表とコース図を見比べた。


「でも、経験者でも本番当日に初めてこのコースを走るのは危ない。本番前の水曜か木曜に、練習走行会を入れた方がいいと思う」


 蓮は予定表の本開催日前を指した。


「平日なら週末より使用料を抑えられるだろうし、警備も本番ほど必要ない。参加者にはメカニックも連れてきてもらって、コースと運営ルールを確認する」


 練習走行会に観客は入れず、参加者とメカニック、最低限の運営、警備、救護だけを置く。参加を必須とし、危険な運転を繰り返す者や指示に従わない者は、本番への出場を認めない。


「追加の使用料は、レースの運営経費から出したいです」


 悠斗が言うと、黒川が暫定予算へ項目を加えた。


「空き状況と一緒に、練習走行会を加えた見積もりも確認しましょう」


 警備責任者はSHIFTの資料と見取り図を重ね、入口と観客席へ印をつけた。


「基本配置は過去の運営を使える。ただ、今回は来場者が増える可能性がある。入口、観客席、ピットへの進入管理は増員が必要だ」


「開催概要が固まったら、警備会社と救急にも相談します」


「二部門の時間、想定する観客数、警備と救護の配置まで用意してから話を持っていけ」


 カナメの言葉に、悠斗はうなずいた。


 続いて、実施することだけ決まっていた車両展示の詳細を詰める。


 レースへ出る車は、予選終了後から決勝準備までの間にピットウォークで公開する。レース中にも観客が見られる展示車は、入口からレース場へ向かう途中の広場へ並べることになった。


「NOXとSHIFTの幹部が持ってる自慢の車を集めたら、かなり見栄えがすると思います」


 アキラが広場を指した。


「玲司さんたちNOX側の幹部だけじゃなく、リクさん、アンダーボスのケンゴさん、サラさんにも声をかける。カーショップやカスタムショップからも、デモカーの展示を受け付けたいです」


「俺の車は出さないぞ」


 カナメが先回りすると、アキラは口元を緩めた。


「まだ頼んでませんよ」


「頼むつもりだっただろ」


「展示の許可は?」


「構わない。所有者本人の了承を取り、警備方法も決めてから並べろ」


 カナメ自身の車は断られたが、企画の許可は下りた。車両の募集やショップとの交渉はアキラ、展示区画の警備はシオンと警備責任者が担当する。


 ナナと黒川は告知と参加受付。蓮は競技規則、車両の流れ、ピットウォーク。悠斗は全体の進行を見ながら、SHIFTとの調整を受け持つ。


 悠斗はメモを読み返した。


 NOXの希望日は第四日曜。二部門の競技方式と時間割。平日の練習走行会。ピットウォークと広場での車両展示。


「SHIFTへ伝えておくことは、これで全部ですか?」


 追加の意見がないことを確認し、悠斗はSHIFTの運営担当へ電話をかけた。


「NOX側の案がまとまりました。まず開催日ですが、第四日曜を希望します」


『第四日曜ですか。こちらもリクや運営側で話して、同じ日を希望していました』


「それなら、本開催日の仮押さえをお願いします。それと、本番前の水曜か木曜に練習走行会を開きたいと考えています」


『練習走行会ですか』


「参加者だけで走ってもらい、車両と運営手順を確認します。空いている日と、追加分の見積もりも確認してもらえますか?」


『分かりました』


 悠斗は続けて、二部門の時間割や予選方式、車両展示の案を説明した。SHIFTの運営担当は内容を記録し、リクたちにも共有すると答えた。


 通話を終えたあと、会計の話へ移った。


 悠斗は玲奈へ電話をかけ、決まった内容を伝えた。黒川とカナメによる身元確認はすでに済んでいる。玲奈は契約書と暫定予算を確認し、条件へ納得してから正式に仕事を受けると答えた。


「イベント専用の口座を作るまでは、参加料も協賛金も出店料も集めないでほしいそうです。収入と支出は全部そこへまとめて、玲奈さんにも確認できる権限を持ってもらいます」


「報酬、支払い時期、追加業務の扱いは契約書へ入れろ。口座から金を動かす権限を、一人だけに持たせるな」


「エマさんに内容を確認してもらってから、玲奈さんへ送ります」


 黒川の返答に、エマもうなずいた。


 その時、悠斗のスマートフォンが震えた。SHIFTの運営担当から、サーキットへ確認した結果が届いている。


「第四日曜の仮押さえが完了しました。練習走行会は、その前の水曜と木曜がどちらも空いているそうです。追加分の見積書も出してもらえるとのことです」


 蓮は予定表の水曜を指した。


「練習は水曜がいい。何かあった時、木曜を予備日にできる」


「水曜を第一候補、木曜を予備日ですね」


 悠斗が二つの日付へ印をつけると、白かった予定表は文字と線で埋まった。


 カナメは資料を重ね、悠斗へ返す。


「日程と運営の骨組みはできた。次は契約と予算、それから警備会社と救急へ見せられる計画書だ」


「はい」


 以前の五人なら、机を囲んで相談するのは、どの店を狙い、どの車で逃げるかという話ばかりだった。


 今は二つの組織を繋ぎ、レーサーや整備士、ショップ、警備員、救急隊まで関わる催しを作ろうとしている。


 悠斗が見取り図を丸める横で、蓮は参加条件を整理し、アキラは展示を頼む相手を書き出し始める。シオンは警備責任者と配置を話し、ナナと黒川は申込書を挟んで意見を交わしていた。


 まだ一台もスタートラインへ並んでいない。


 それでもレースはもう、五人だけの思いつきではなくなり始めていた。

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