↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

165/205

第5章 第165話 正式な幹部会談

 午後三時、黒い大型セダンがNOXの拠点を出た。


 運転席には黒川トウマ、助手席には悠斗。後部座席には東雲エマと早乙女カナメが座っている。四人とも、NOX御用達の店で仕立てた黒いスーツ姿だった。


 悠斗は窓の外を眺めながら、膝の上で手を組んでいた。名前を勝手に使われた当事者として同席するだけで、交渉役ではない。それでも正式な幹部会談へ出ると思うと、肩に力が入る。


「聞かれたことには、分かる範囲で答えればいいわ」


 後ろからエマが声をかけた。


「ただし、会談で口にした言葉はなかったことにできない」


 書類を確認していたカナメが続ける。


「何か提案するなら、先に俺へ話を通せ」


「はい」


 車は港湾地区に近いSHIFT所有のカスタムガレージへ入った。敷地には改造車や積載車が整然と並び、正面玄関の前では六人の構成員が待っている。


 全員が、赤を基調に肩や脇へ黒を差したレーシングジャケット姿だった。胸元にはSHIFTのエンブレムが刺繍されている。普段のレースで着るものより装飾を抑えた、正式な場での正装らしい。


 トウマが指定された場所へセダンを止めた。


 最初に運転席のトウマが降り、悠斗も助手席を出る。二人で周囲を見渡し、不自然な人影や車がないことを確かめた。


 悠斗はそのまま一歩下がり、助手席側の後部ドアを開けた。先にエマが降り、続いてカナメが姿を現す。


「お待ちしていました。アンダーボスと幹部がお待ちです」


 案内された事務棟二階の会議室には、SHIFTのアンダーボスである速水ケンゴと、三人の幹部が待っていた。


 車両・レース部門を預かる柊サラ、財務担当の瀬川ミナト、構成員管理を担当する荒瀬ゴウ。四人が着る赤と黒のレーシングジャケットは、入口の構成員たちよりも生地や刺繍が上質で、胸元と袖の意匠も異なっている。


 風間リクの姿はない。玲司が出席していない以上、SHIFTもボスではなく、組織のナンバー2と幹部三人を出してきたのだ。


「SHIFTアンダーボス、速水ケンゴだ。本件については、リクから判断を任されている」


「NOXアンダーボス、早乙女カナメ。こちらも同じだ」


 二人が短く握手を交わす。


 カナメの隣にエマ、反対側にトウマが座り、悠斗は端の席についた。


 トウマが机へ並べたのは、真壁コウタとユウジのメッセージ履歴、報酬の流れ、港の倉庫、海外の仲買人へ繋がる連絡先だった。


「こちらの調査結果とも一致している」


 速水が資料を閉じた。


「真壁の単独行動だ。SHIFTの指示ではない。本人も認めている」


 コウタは即時除名。SHIFTの名前や施設、人脈の使用も禁じられた。さらに、コウタ自身に車両の譲渡書類へ署名させ、売却金を被害者への補償に充てるという。


「銀色のセダンは点検を終えた。損傷がないことも確認している」


 瀬川が補償内容を記した書類をエマへ渡す。


「所有者はまだ警察へ被害届を出していなかった。車の返却に加え、使えなかった間の補償と迷惑料を支払うことで話がついている」


 現時点で警察沙汰にはなっていない。それでも、所有者が納得しなければ犯罪組織同士だけで終わらせられる問題ではなかった。


「リョウとケンジは?」


 カナメが尋ねた。


「悠斗たちから回された仕事だと信じていた。受け取った金も返している。SHIFTは二人を報復対象にしない」


「ユウジは別だ」


 トウマが言った。


「仕事がNOXから出たものではないと知りながら、俺たちの名前を使った」


「そこは否定しない。ユウジの扱いはNOXに任せる」


 ユウジが騙されていたのは、盗難車をSHIFTが使うという部分だけだ。偽の依頼元を名乗った責任まで消えるわけではない。


 噂についても、SHIFTと繋がりのある車屋、整備工場、レーサー、仲買人へ訂正を流す。盗難指示はコウタ個人によるもので、NOXや悠斗たちは無関係だと明言することで合意した。


「被害者への補償と噂の訂正は、最後までこちらで責任を持つ」


 速水がカナメを正面から見た。


「そのうえで、NOXへの詫びを決めたい」


 カナメが求めたのは、南部にあるカスタムショップ一店舗との関係をNOXへ引き継ぐことだった。


 店の所有権を奪うわけではない。SHIFTはその店の後ろ盾を降り、NOXを新たな後ろ盾の候補として店主へ紹介する。店主が断った場合は移管を強制せず、別の補償条件を改めて協議する。


 速水は三人の幹部と短く話し合った。


「分かった。その条件を受ける」


 エマと瀬川が、NOXに対する補償内容を書面へ落としていく。


 それを確認した速水は、今度は悠斗へ視線を向けた。


「これで組織同士の話は一つ片づいた。だが、NOXへの補償と、名前を使われた五人への補償は別だ」


 悠斗は背筋を伸ばした。


「五人から何を求めるかは聞いているか?」


 速水に問われたカナメが悠斗へ目を向ける。


「本人たちで決めさせてある。神谷、お前から答えろ」


「はい」


 悠斗は一度息を整えてから、SHIFTの四人を見た。


「俺たちは、個人で受け取る現金はいりません。噂を訂正して、盗まれた人への補償を最後までしてくれるなら、それでいいと五人で決めました」


「何も受け取らないということか?」


 速水の確認に、悠斗はうなずいた。


「はい」


 そこで初めて、サラが口を開いた。


「それだと、SHIFTは五人に対する借りを残したままになるんじゃない?」


 速水も同じ考えらしく、悠斗から視線を外さなかった。


「金でなくてもいい。何か一つ、五人への詫びとして受け取ってくれ」


 悠斗は壁へ視線を移した。そこには満員の観客席や、スタートラインに並ぶ改造車を写したレースの写真が飾られている。


 車を盗ませるために使われた自分たちの名前。それを別の形で使えないだろうか。


「カナメさん。一つ思いついたんですけど、提案してもいいですか?」


「まず俺に話せ」


 悠斗は声を落とし、考えたばかりの案を説明した。


 正式にサーキットを借り、観客を入れた大規模なレースイベントを開く。SHIFTには会場の確保、車検、競技運営、レーサーへの声かけを担当してもらう。NOXは主催者として宣伝、スポンサー集め、警備、観客対応を受け持つ。


 カナメは最後まで聞いてから確認した。


「今日は開催の基本合意までだ。費用と役割は双方で試算し、SHIFT側が負担する上限も書面で決める。それでいいな?」


「はい」


「分かった。NOXからの提案として出していい」


 許可を得た悠斗は、改めて速水たちへ向き直った。


「それなら、NOXとSHIFTでレースを開かせてください」


 サラの眉がわずかに動く。


 悠斗はカナメへ伝えた案を説明し、最後に続けた。


「今回、俺たちの名前は車を盗ませるために使われました。だったら今度は、その名前でちゃんと人を集める機会が欲しいです」


 沈黙を破ったのはサラだった。


「私は賛成。どちらが速いかも見られるし」


「遊びではないぞ」


「分かってる。正式なイベントだから面白いんでしょ」


 速水は三人の幹部と協議し、カナメを見る。


「基本合意までは受ける。開催日、費用、収益の扱いは、双方の試算を確認してから正式に決めよう」


「それでいい」





 会談を終えてNOXの拠点へ戻ると、玲司が執務室で報告を待っていた。


 カナメが盗難事件の処理とSHIFT側の補償、レースイベントの基本合意について順番に説明する。その間、玲司はほとんど口を挟まず、手元の書面へ目を通していた。


 すべてを聞き終えると、玲司は悠斗へ視線を向けた。


「お前が出した案だな」


「はい」


「言い出した以上、途中で投げるな」


 低い声に責めるような響きはなかった。それでも、街の第2位ギャングを率いる男から直接言われると、その言葉が持つ重さは違った。


「はい。最後までやります」


「ただし、一人で抱える必要はない」


 玲司は書面を机へ置いた。


「企画と運営は、お前たち五人を中心に進めろ」


 悠斗は一瞬、聞き間違いではないかと思った。


「俺たち五人が、ですか?」


「今回名前を使われたのは、その五人だ。お前だけの補償として始めるイベントでもない」


 玲司の言葉を引き継ぎ、カナメが説明する。


「神谷。お前はNOX側の実務責任者だ」


「実務責任者……」


「五人で話し合った内容をまとめ、進捗と問題を俺へ報告しろ。高額な予算、外部との契約、開催や中止に関わる最終判断は俺が持つ」


 イベント全体の責任を、悠斗一人へ押しつけるわけではない。それでも、仲間たちの意見をまとめ、組織の上へ伝える役目は悠斗に任された。


 半グレだった頃にも、何かあれば最後に全員から判断を求められていた。


 あの頃は、自然とそうなっていただけだった。


 今回は違う。NOXという組織の中で、正式に役目を与えられたのだ。


「分かりました」


 緊張で乾いた喉から、どうにか声を出す。


「五人で企画をまとめて、カナメさんに報告します」


「まずはそれでいい。細かな担当は、お前たちで話し合ってから決めろ」


 玲司は再び書面へ目を落とした。


「行け」


「はい」


 悠斗が執務室を出ると、廊下では蓮、シオン、アキラ、ナナが待っていた。


「遅かったな。どうなった?」


 蓮に尋ねられ、悠斗は四人の顔を順番に見た。


「SHIFTとの話はまとまった。それと、俺たちで大きなレースイベントを開くことになった」


「俺たちで?」


 ナナが聞き返す。


「企画と運営は五人が中心。俺がNOX側の実務責任者になった」


 四人の反応はそれぞれ違った。


 蓮は面白そうに口元を上げ、アキラは既に何かを考え始めたように目を細める。ナナは驚いたまま悠斗を見つめ、シオンはわずかに眉を動かした。


 最初に口を開いたのは蓮だった。


「で、何から始めんの?」


「……それを、今から五人で決める」


 答えながら、悠斗はようやく実感した。


 レースを開きたいと口にするだけなら簡単だった。


 本当に難しいのは、ここからだ。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。