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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第5章 第164話 盗難車の行き先

 日付が変わってから二時間近くが過ぎても、NOXの拠点には明かりが残っていた。


 ユウジは一階の応接室でトウマから事情を聞かれ、リョウとケンジは別室で待機している。三人を離したのは、話を合わせられないようにするためだった。


 悠斗たち五人は二階の会議室に集まり、銀色のスポーツセダンを確認しに向かった構成員からの報告を待っていた。


「まだ貸し倉庫にあったって」


 ナナが端末を見ながら言った。


「誰かが取りに来ないか、そのまま見張ってるみたい」


「見つかったなら、ひとまず良かったな」


 蓮が椅子の背もたれへ身体を預ける。


「でも、SHIFTで使う車をどうして港へ運ばせたんだ?」


 アキラの疑問に、誰も答えられなかった。


 コウタは車や部品の運搬を任される程度の下っ端だ。組織の車を独断で調達し、貸し倉庫まで用意する権限があるとは思えない。


「お前らはもう帰れ」


 会議室へ入ってきたカナメが言った。


「SHIFTには連絡した。向こうも真壁を捜してる。話が動くのは日が昇ってからだ」


「ユウジたちはどうします?」


 悠斗が尋ねる。


「三人はここに残す。証言と端末の確認が終わるまでは帰せない」


 カナメは五人を見回した。


「お前らが名前を使われた当事者なのは分かってる。だが、SHIFTの人間には勝手に連絡するな。午前十一時にもう一度集まれ。それまでは家で休め」


「はい。あと、一ついいですか?」


 退出しかけたカナメが足を止める。


「何だ?」


「テンペストにも、NOXのステッカーを貼っていいですか?」


 悠斗は窓の下に停めた黒い車へ目を向けた。


「Placeholderの頃から使ってきた共用車です。今日みたいに何人かで動く時にも使えるので、NOXの共用車として登録したいです」


「整備は?」


「この前、点検したばかりです。問題ありません」


 カナメも窓越しに車体を確認してから頷いた。


「分かった。車両台帳に追加して、ステッカーを貼っておけ」


「ありがとうございます」


 五人は車両保管庫から白いNOXのステッカーを受け取り、駐車場へ下りた。


「どこに貼る?」


 蓮が台紙を持って、テンペストの周りを歩く。


「蓮には任せたくない」


 アキラが即答した。


「何でだよ」


「一番目立つ場所へ貼ろうとするから」


「ギャングの車なんだから、目立っていいだろ」


「共用車なんだから、全員が納得する場所にして」


 ナナまで加わり、三人が貼る位置を相談し始める。悠斗は少し離れて見ていたシオンへ顔を向けた。


「シオンはどこがいい?」


「曲がってなければどこでもいい」


「一番難しい条件を最後に足すなよ」


 蓮が振り返り、アキラが笑った。


 相談の末、近くからなら所属が分かり、車体の印象も崩さない位置へ貼ることになった。アキラが角度を確かめ、最後に悠斗が台紙をゆっくり剥がす。


 黒い車体へ、白いNOXの文字が加わった。


 蓮のレイザー、アキラのプラントS、シオンのレンジャー、ナナのセブンⅡには、すでに同じ組織の印がある。半グレ時代から五人を運び続けたテンペストも、これで正式なNOXの共用車になった。


「これなら誰かの車が使えない時でも動けるね」


「五人で乗れるのも大きいな」


「俺のレイザーに五人で乗ろうとするなよ」


「誰も言ってないだろ」


 アキラに返され、蓮が不満そうに口を尖らせる。


 帰りは悠斗がテンペストを運転してナナを送り、アキラはプラントS、蓮とシオンもそれぞれの車で拠点を離れた。


     ◇


 午前十一時前。


 悠斗がテンペストでナナを迎えに行き、NOXの拠点へ戻ると、蓮、シオン、アキラも到着していた。


 五人が会議室で遅い朝食を広げていると、カナメが入ってくる。


「真壁を押さえたと、SHIFTから連絡があった」


 サンドイッチを取り出しかけていた蓮の手が止まった。


「向こうの上も関わってたんですか?」


「今のところ、真壁一人の独断らしい」


 カナメがテーブルへ数枚の写真を置いた。


 港湾地区の貸し倉庫と、その中に停められた銀色のスポーツセダン。ナンバープレートは外され、後部座席には工具と梱包材が積まれている。


「SHIFTが真壁の端末を確認した。こいつは盗ませた車を自分たちで使うつもりじゃなかった」


「じゃあ、何のために?」


「海外のブローカーへ流す予定だった」


 ナナが写真へ目を落とす。


「密輸するつもりだったの?」


「ああ。港から貨物に紛れ込ませる話を進めてた。買い取り価格や指定された車種も端末に残ってる」


「SHIFTには黙って?」


「向こうの上は知らなかった。報酬も組織の金じゃない。真壁が自分の金からユウジへ払ってる」


 盗難の報酬を差し引いても、海外へ売れば十分な利益が残る。コウタはSHIFTで得た車の知識や人脈を、自分の金儲けに利用していたのだ。


「じゃあ、ユウジにも嘘をついてたんだ」


「そうなる。ユウジにはSHIFTで使う車だと伝えていた。もっとも、あいつがNOXの名前を故意に使った責任は消えない」


「どうして俺たちの名前だったんですか?」


 悠斗が尋ねる。


「お前たちが銀行強盗で名前を売り、そのままNOXへ入ったことが気に入らなかったらしい。それに、無所属の犯罪者へ盗難をさせるなら、名前が知られていて、逆らいにくい相手を依頼主にした方が都合がいい」


 カナメは銀色の車が写った写真を指で押さえた。


「成功すれば、真壁は車を売って儲けられる。失敗して実行役が警察に捕まれば、依頼主としてお前たちの名前が出る。出頭されるか、失敗した仕事の噂が広がれば、お前たちとNOXへ責任を押しつけられる。どちらへ転んでも、自分へ疑いが向きにくい仕組みだった」


 コウタとは会ったことも話したこともない。それでも相手は一方的に悠斗たちを知り、その名前を金儲けの道具だけでなく、失敗した時の盾にまで使おうとしていた。


「銀色の車は?」


「SHIFTとこっちの人間で回収した。所有者も判明してる。大きな損傷はないが、プレートを外して輸出の準備を始めていた。点検と修理をしてから返す」


「賠償は?」


「SHIFTが引き受けると言ってる」


 カナメは写真をまとめた。


「今日の午後、SHIFTの上と会う。真壁の処分、被害者への賠償、NOXの名前を使った件について話をつける」


 そう告げると、会議室を出ていった。


     ◇


 拠点奥の部屋では、玲司がカナメから報告を受けていた。


「午後の話し合いには、神谷を連れていけ」


 玲司の指示に、カナメが僅かに眉を寄せる。


「まだ早いと思います。あいつは正式な会談へ同席した経験がありません」


「だから連れていく」


「今回はNOXとSHIFTの問題です。発言一つで条件が変わる可能性もあります」


「NOXの判断はお前がしろ。神谷には、名前を使われた当事者として話を聞かせる」


 玲司は椅子へ深く腰掛けたまま、カナメを見る。


「何を見て、どう判断するか経験させろ。失敗させないように遠ざけていたら、いつまで経っても覚えない」


 カナメは少し考えた末、頷いた。


「……分かりました。連れていきます」


     ◇


 会議室へ戻ったカナメは、五人の前で足を止めた。


「神谷。午後のSHIFTとの話し合いには、お前も来い」


「俺がですか?」


「ああ。名前を使われた当事者として座ってもらう」


 それ以上の理由は説明せず、カナメは五人全員へ視線を向けた。


「それと、SHIFT側は、お前ら五人への賠償についても話すつもりらしい。金を求めるのか、別の条件を出すのか、何も受け取らないのか。会談までに決めておけ」


「分かりました」


 カナメが部屋を出ると、アキラが最初に口を開いた。


「俺たちへの賠償、どうする?」


「金を取る?」


 蓮の問いに、ナナが首を横へ振る。


「私はいらない。私たちの仕事じゃないって、噂をきちんと訂正してくれればいい」


「俺も」


 シオンが短く同意する。


「被害に遭った車の持ち主には、ちゃんと払ってもらわないと駄目だけど、俺たちまで金を取る必要はないかな」


 アキラも同じ考えらしい。


「じゃあ、俺たち五人については、誤解を解いてもらえれば賠償はいらない。それでいい?」


 悠斗が確認すると、四人が頷いた。


「ただ、話し合いがどうなるか分からないだろ」


 蓮が言う。


「向こうから別の条件を出された時は、悠斗に任せる」


 ナナの返事も早かった。


「その場の雰囲気を見て決めて」


「俺一人に責任を背負わせないでよ」


「どうせ最後に決めるの、悠斗だろ」


 アキラとシオンまで、当然のように悠斗を見る。


「……分かった。でも、後から文句言うなよ」


「言わないって」


 軽く任せたように見えて、四人は本当に悠斗の判断を信じている。その信頼が嬉しい反面、結果まで背負わなければならない重さもあった。


 銀行の中で警察と交渉した時とは違う。


 今度向き合うのは、街第4位のギャングだった。

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