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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第5章 第159話 勝手に使われた名前

第5章 第159話 名前を使った男


 昼過ぎ。


 悠斗たち五人は、カナメに呼ばれてNOXの拠点へ集まっていた。


 最後に蓮がやってくると、カナメは五人を見回す。


「揃ったな」


「何かあったんすか?」


 アキラが尋ねる。


 カナメは前置きもなく聞いた。


「お前ら、ここ数日で誰かに車を盗ませたか?」


「……車?」


 蓮が眉を寄せる。


「盗難を依頼したかってことだ」


「してないです」


 悠斗が答えると、残る四人も続けて否定した。


「俺もない」

「してない」

「私も」

「俺もっす」


 五人の答えを聞き、カナメが小さく頷く。


「なら、変な噂が回ってる」


「噂?」


 ナナが聞く。


「『NOXの悠斗たちから回ってきた仕事だ』と言って、車を盗ませてる奴がいるらしい」


 一瞬、五人の間から声が消えた。


「……俺ら?」


 蓮が自分を指す。


「ああ」


「誰がそんなことしてるんですか?」


 悠斗が尋ねる。


「まだ分からん。実際に車が盗まれたのか、何台あるのか、誰が仕事を回してるのか。そこも確認できてない」


「じゃあ、本当に噂だけなんだ」


「今はな。ただ、別の筋から似た話が二つ入ってる。無視するには気持ち悪い」


「どの辺で出てる話ですか?」


「南部寄りだ。車関係の裏仕事をやってる連中の間で流れてるらしい」


 カナメは少し離れた場所にいた男へ視線を向けた。


「トウマ」


「はいよ」


 三十歳前後の男が歩いてくる。


 黒川トウマ。NOXに長く所属しており、人探しや聞き込みを任されることが多い男だった。


「神谷、雨宮、アキラ。三人連れて調べてこい」


「了解」


「俺とシオンは?」


 蓮が尋ねる。


「別でやってもらうことがある」


「分かりました」


 カナメは四人へ視線を戻す。


「まだ何も確定してない。NOXの名前を使って脅して回るな。噂の出所を探ってこい」


「はい」


 話が終わると、蓮とシオンはカナメのところに残った。


 悠斗たちが拠点を出ようとしたところで、トウマが呼び止める。


「待った。四人で同じところを回っても効率が悪い。最初から二組に分かれよう」


「その方が早そうですね」


 アキラが言う。


 トウマはナナへ目を向けた。


「雨宮、お前、情報を集める方をやってるんだっけ?」


「そうですけど」


「新人の情報担当ね」


 わずかに笑いが混じる。


 ナナが目を細めた。


「何ですか?」


「別に。せっかくだから、お前が相方を選べよ。神谷かアキラ」


 ナナは二人を見た。


「悠斗」


「即決じゃん」


 アキラが笑う。


「俺じゃないんだ?」


「アキラは話すのが上手いけど、自分でもどんどん聞くでしょ。私もそっちだから、二人とも聞く側だと被る」


 ナナが悠斗を見る。


「悠斗は相手が話してる間、ちゃんと待てるし、私が質問してる時は相手の顔を見てる」


「顔?」


「話しにくそうにしたところとか、急に答えが短くなったところとか覚えてるでしょ。後から『あそこだけ変じゃなかった?』って言うし」


 悠斗には、そこまで意識しているつもりはなかった。


「そんなに見てるかな」


「見てる」


 アキラが納得したように頷く。


「なるほど。ナナと役割が被らない方か」


「そういうこと」


「じゃあ俺はトウマさんで」


「余り物みたいに言うなよ」


 トウマが笑い、それからナナを見る。


「二組になるなら、どっちが先に使える情報を拾うか勝負する?」


「いいですよ」


「自信あるじゃん」


「そっちが言い出したんでしょ」


 情報を集める仕事を長く続けてきた自分が、新人二人に先を越されるとは思っていないらしい。トウマの表情には余裕があった。


「何か出たら連絡する。行くぞ、アキラ」


「了解です」


 トウマとアキラは、駐車場にあるアキラの黒いプラントSへ向かった。


 悠斗とナナが乗るのは、その少し離れた場所に停めてある黒いテンペストだった。


 《Placeholder》時代に五人で使っていた共用車で、この日は朝から悠斗とナナが移動に使っている。NOXへ加入してから出番は減っていたが、車内に残る細かな傷や、小物を置いた位置は以前とほとんど変わっていなかった。


「テンペストで動くの、久しぶりだね」


 助手席へ乗り込んだナナが、懐かしそうに車内を見回す。


「うん。前は毎日のように乗ってたのに」


 悠斗は運転席へ座り、使い慣れたハンドルへ手を置いた。


「最初は中古パーツ店でいい?」


「うん。お願い」


 先にプラントSが駐車場を出る。


 悠斗もテンペストを発進させると、トウマたちとは反対方向へ向かった。


     ◇


 二人が最初に訪れたのは、南部にある小さな中古パーツ店だった。


 ナナがブルームーンで働いていた頃、何度か話したことのある客がそこで働いている。


 悠斗が狭い駐車枠へテンペストを入れ、二人で店へ入ると、棚を整理していた男がすぐにナナへ気づいた。


「お、ナナ。久しぶり」


「久しぶり」


「店辞めたんだって?」


「うん。ちょっと聞きたいことあるんだけど」


「何?」


「最近、車の裏仕事で私たちの名前が出てるって聞いたことない?」


 男の手が止まった。


「……『NOXの悠斗たち』ってやつ?」


 悠斗とナナが顔を見合わせる。


 噂そのものは、本当に存在していた。


「どこで聞いた?」


「ダイスケ。近くの洗車場にいる奴」


「ダイスケさんが仕事を受けたの?」


「いや、そこまでは知らん。そういう話が回ってるって聞いただけ」


「誰が仕事を回してるかは?」


「昔から車とか運びの仕事を持ってくる奴が間にいるらしいけど、名前までは知らない」


「ダイスケさんなら知ってる?」


「俺よりは詳しいんじゃない?」


「ありがとう」


 必要なことだけ聞くと、二人は店を出た。


 再びテンペストへ乗り込み、数分ほど走る。交通量の多い通りを抜けると、洗車機と作業スペースが並ぶ店が見えてきた。


 近くの空いている場所へ車を停める。


 ダイスケを見つけるのに時間はかからなかった。


「ダイスケさん?」


 ナナが声をかける。


「そうだけど」


「最近、『NOXの悠斗たちからの仕事』って車の話が回ってるって聞いたんですけど」


 男の表情が僅かに強張った。


「俺はやってないぞ」


 ナナは追及せず、落ち着いた声で続ける。


「誰かがやったとはまだ聞いてません。私たちも噂の出所を探してるだけだから」


「……そういうことか」


「どこで聞いたんですか?」


「南のダイナー。何人かが話してた」


「その人たちは、悠斗たち本人から頼まれたって?」


「いや。仕事を回してる奴がいるって話だった」


「その人のことは?」


「知らない。昔から運びとか車の仕事を仲介してる奴らしい」


「ダイナーで話してた人たちは?」


「顔は分かる」


「名前は?」


「マサト。あそこでよく飯を食ってる奴だ」


 悠斗はマサトの名前と、ダイスケから聞いた外見の特徴をスマートフォンへ記録した。


「マサトさん、また来ます?」


「夕方から夜なら結構いる」


「分かりました。ありがとうございます」


 二人は洗車場を離れ、道路沿いに停めたテンペストへ戻り始めた。


 しばらく歩いたところで、ナナが足を止める。


「悠斗。ちょっと気になる」


「何が?」


「二人とも同じ言い方した」


 ナナがスマートフォンのメモを開く。


「『NOXの悠斗たち』」


 悠斗も先ほどの会話を思い返した。


「もし悠斗本人から直接頼まれた人が話を広めてるなら、『悠斗から頼まれた』って言わない?」


「あ……」


「アキラならアキラ、蓮なら蓮。でも二人とも『悠斗たち』って言ってる」


「俺たちの誰かと直接繋がってる人が流した話じゃない?」


「多分ね。それに、二人とも昔から車や運びの仕事を仲介してる人がいるって言ってた」


「同じ人のことかもしれない」


「うん。そこまで辿れば、誰が私たちの名前を使い始めたのか分かるかも」


 噂だったものが、少しずつ形を持ち始めていた。


 その時、悠斗のスマートフォンが鳴る。


 トウマだった。


『どう?』


「こっちは少し出ました」


『こっちも何人か当たった。南で車の仕事を探してる連中がいるところまでは拾った。そっちは?』


 悠斗はナナへスマートフォンを渡した。


「『NOXの悠斗たち』って名前で話が回ってるのは確認できました」


『もう取れた?』


「二人から。それと、私たち本人から直接仕事を受けたって人は今のところ出てません。昔から車とか運びの仕事を仲介してる人が間にいるみたいです」


『……そこまで出たのか』


「はい。次は、その話をしてたマサトさんが来るダイナーに行きます」


『どうやって繋げた?』


 ナナは最初の店から洗車場までの流れと、二人が同じ言い回しをしていたことを説明した。


『雨宮』


「はい?」


『お前、思ったよりやるな』


 ナナの眉が上がる。


「やっぱり舐めてました?」


『新人だからな。正直、もうちょい時間かかると思ってた』


「今は?」


『まだ勝負の途中だろ』


「じゃあ先に行ってきます」


『ダイナーの場所を送れ。こっちも聞き込みが終わったら向かう』


「分かりました」


 通話を切り、ナナがスマートフォンを悠斗へ返す。


「見る目変わってたね」


「まだちょっとだけ」


「十分じゃない?」


「勝負はまだ途中でしょ」


 トウマの言葉をそのまま返すように、ナナが笑った。


 二人は黒いテンペストへ戻る。


 悠斗が運転席、ナナが助手席へ乗り込んだ。


「行こう、悠斗」


「うん」


 テンペストは再び南部の通りへ出ると、マサトがいるはずのダイナーへ向かった。

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