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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第5章 第153話 青から黒へ

 NOXの拠点へ着いてしばらくすると、蓮は車両置き場にいるソウを見つけた。


 黒いセダンのタイヤを確認していたソウへ近づき、声をかける。


「ソウさん、ちょっといい?」


「何だ」


「レイザー、黒くしたい」


 ソウはしゃがんだまま蓮を見上げた。


「やっとか」


「その言い方ひどくない?」


「仕事で使いたいって言ったのはお前だろ」


「そうだけど」


 少し離れた場所には、青いレイザーが停まっている。


 周囲に並ぶNOXの車は黒が中心なので、鮮やかな青いクーペだけが嫌でも目立っていた。


 話を聞きつけた悠斗たちも自然と集まってくる。


「塗装するの?」


 ナナが聞く。


「そのつもり」


「ラッピングじゃなくて?」


「どうせ変えるならちゃんとやりたい」


 蓮の答えを聞いたソウが立ち上がった。


「安く外だけ塗る方法もあるが、元が青だからな。ドア開けたら内側だけ青とか嫌だろ」


「それは絶対嫌」


「だと思った」


 ソウはレイザーへ歩き、運転席のドアを開ける。


 縁やヒンジ周辺を確認してから、フェンダーやルーフにも視線を流した。


「外せるもん外して、見えるところまできっちりやるなら数日は預ける」


「いいよ」


「金もかかるぞ」


「そこも大丈夫」


「即答だな」


 アキラが笑った。


「中途半端にやって後悔する方が嫌だろ」


 蓮はそう言って車体後部へ回る。


 そこには、まだPlaceholderの白いステッカーが残っていた。


 ソウも気づく。


「これは外すんだな?」


「もちろん」


 答えに迷いはない。


「捨てるの?」


 悠斗が聞く。


「いや。できれば綺麗に剥がして残したい」


 蓮がステッカーへ指を伸ばしかけ、すぐに手を引っ込めた。


「自分でやって失敗したら嫌だから、店で頼む」


「そこは慎重なんだ」


 ナナが笑う。


「これは別」


 Placeholderだった時間まで捨てるつもりはない。


 ただ、これからNOXの看板を背負って走る車に、以前のステッカーを残すつもりもなかった。


「で、黒は?」


 ソウが尋ねる。


「普通の艶あり」


「メタリックとかマットは?」


「マットは手入れ面倒なんでしょ?」


「まあな」


「じゃあ艶あり」


「そこは意外と普通なんだね」


 ナナが言う。


「その代わりロゴ入れたい」


「やっぱり」


 アキラが笑った。


 蓮はボンネットではなく、車体の右側へ回る。


 少し離れて全体を眺めてから、右前のドアを指差した。


「ここ」


「ドア?」


 悠斗が聞く。


「右前。ここに白の正式ロゴをでかめに入れたい」


 ナナも反対側から覗き込む。


「ボンネットじゃないんだ」


「ボンネットに大きいのって結構あるだろ。だったら横から見た時に一発で分かる方がよくない?」


 蓮がドアへ手を添える。


 ソウも少し距離を取って、レイザーを横から眺めた。


「悪くないな」


「でしょ?」


「ただし、ドア一枚いっぱいまで広げるな。車の線が潰れる」


「じゃあ余白残して大きめ」


「正式ロゴ使うなら、最終的なサイズと位置は勝手に決めるなよ。案を作ってカナメさんに確認だ」


「了解」


 アキラも車体の横へ回る。


「右前だけ大きくするなら、他は抑えた方がいいな」


「サイド後ろとか何もなし?」


「入れても小さい文字ロゴぐらい。リアも小さめでいいと思う」


 蓮は少し考えてから頷いた。


「それいいな」


「アキラに任せた方が早そう」


 ナナが言う。


「俺の車なんだけど?」


「蓮だけに任せたら、そのうち右側全部ロゴになりそうだし」


「ならねえよ」


 四人が黙って蓮を見る。


「……多分」


 悠斗は吹き出した。


     ◇


 そのあと、ソウが付き合いのある板金塗装店へ連絡を入れた。


 NOXの正式ロゴを入れる車を、知らない店へ好き勝手に持ち込むわけにはいかない。普段からソウが使っている店なら、余計な説明も必要なく、車の扱いにも慣れている。


「持って行くぞ」


「今日?」


「空きがあるって」


 ソウが答える。


 ナナとシオンは別の作業を頼まれて拠点に残り、アキラも車両関係の書類を手伝うことになった。


「ロゴ案できたら見せて」


 アキラが言う。


「口出す気満々じゃん」


「変なの出来たら嫌だからな」


「俺の車だぞ?」


「分かってるって」


 結局、レイザーには悠斗が同乗することになった。


 ソウの黒いSUVを先頭に、青いレイザーが工業地区へ向かう。


 赤信号で停まったところで、悠斗は助手席からボディを眺めた。


「これが最後の青い状態かもしれないね」


「そう言われるとちょっと寂しいな」


「かなり気に入ってたもんね」


「そりゃな」


 蓮はハンドルへ手を置いたまま笑う。


「でも黒いレイザーも楽しみなんだよ。右ドアにロゴ入ったら絶対雰囲気変わるだろ」


「もう次の姿の方考えてるじゃん」


「そりゃそうだろ。そのうちホイールも変えたいし」


「また金使うの?」


「車に使う金はいいんだよ」


「その感覚は分からない」


「そのうち分かるって」


 信号が青へ変わり、レイザーがゆっくり走り出した。


     ◇


 板金塗装店は工業地区の一角にあった。


 敷地へ入ると、バンパーを外されたセダンや古いマッスルカーが並び、奥の作業場からは工具の音が聞こえてくる。


 派手な黄色のスポーツカーの前では、若い男が店員と何やら言い合っていた。


「ホイールまで黄色はやりすぎだって」


「全部揃えた方がいいだろ!」


 蓮がそちらを見る。


「すげえ色」


「人のこと言える?」


 悠斗が笑う。


「俺の青は上品だろ」


「自分で言うんだ」


 ソウが先に店の奥へ進む。


 ほどなく、作業着姿の店主らしい男が出てきた。


「ソウ、これか?」


「ああ。色替えだ」


 男はレイザーを一周し、少しもったいなさそうにボディを見る。


「綺麗な青だな」


「それ今言います?」


 蓮が眉を寄せる。


「惜しくなったか?」


「塗ります」


「即答じゃねえか」


 店主が笑った。


 希望を伝えると話は早かった。


 艶のある黒へ全塗装。


 外から見える場所に青が不自然に残らないよう、必要な部品は外して施工する。


 Placeholderのステッカーは、できる限り傷めず剥がして保管。


 右前ドアには大きめの白い正式NOXロゴを入れる予定だが、塗装後に実車へ仮合わせし、サイズと位置を確認してから施工する。


「ロゴの案が出たら俺にも送れ」


 ソウが言う。


「カナメさんに確認する」


「了解」


「数日は預かるぞ」


 店主が言った。


「大丈夫です」


 蓮はキーを差し出す。


 店主が受け取り、作業員を呼んだ。


 レイザーのエンジンがかかる。


 青いクーペがゆっくりと作業場へ向かっていく途中、黄色いスポーツカーの持ち主がこちらを見た。


「その色変えんの?」


 蓮が振り返る。


「黒に」


「もったいねえ!」


「今日それ二回目!」


 知らない相手にまで言われ、蓮が思わず声を上げる。


 男は笑いながら自分の車へ戻っていった。


「ほら、やっぱ青いいんじゃん」


 悠斗が言う。


「もう預けたから!」


 そう返しながらも、蓮は作業場へ消えていくレイザーを最後まで見送った。


 少し惜しそうではある。


 けれど、それ以上に次の姿が楽しみなのだろう。


「右ドアのロゴ、どのくらいの大きさが一番いいかな」


「もうそれ考えてるの?」


「当たり前だろ」


 蓮は楽しそうに言いながら、ソウのSUVへ向かう。


 悠斗もその後を追った。


 次にこの店へ来る時、青いレイザーはもういない。


 その代わり、黒いボディの右側に白いNOXの看板を背負った、新しいレイザーが待っているはずだった。

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