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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第5章 第152話 黒い服でいつもの店へ

 仕事を終えて拠点を出る頃には、空が少しずつ夕方の色へ変わり始めていた。


 港まで往復して荷物を運び、昼も食べ損ねたせいで、さすがに全員腹が減っている。


「肉」


 駐車場へ出たところで、シオンが言った。


「まだ言ってんのかよ」


 アキラがプラントSの鍵を取り出しながら笑う。


「ステーキ」


「要求上がってない?」


 ナナが呆れたように見る。


「ステーキがいい」


「今日はもう食わせないと収まらなそうだな」


 悠斗も笑いながら白いヴェローチェのロックを解除した。


 仕事で使ったNOXの車は返却済みだ。


 ここから先は私用の時間なので、悠斗はヴェローチェ、アキラは黒いプラントS、ナナはセブンⅡへ向かう。


 蓮も自分の青いレイザーへ乗り込んだ。


 レイザーはまだ青いボディのままで、Placeholderのステッカーも残っている。NOXの仕事で使うなら黒基調へ変える必要があるが、今は私用車として乗っている。


「シオン、乗る?」


 アキラが助手席を指した。


「乗る」


「じゃ、行くか」


 蓮がレイザーの窓を下ろす。


「誰が一番先に着くとか言い出さないでよ」


 ナナがすぐ釘を刺した。


「言ってないだろ」


「顔が言ってる」


「顔で分かるの?」


「分かる」


 シオンまで短く言い切った。


「お前まで?」


 向かう先は、以前から何度も利用しているダイナーだった。


     ◇


 店へ着いた頃には、仕事帰りらしい客が増え始めていた。


 駐車場にはピックアップやSUV、年季の入ったセダンが並んでいる。


 悠斗がヴェローチェを空いている区画へ入れ、その隣へアキラのプラントSが滑り込む。


 少し離れた場所には青いレイザー。


 ナナは店に近い端へセブンⅡを停めた。


「やっぱ青いと目立つな」


 アキラがレイザーを見ながら言う。


「いい色だろ?」


 蓮は満足そうだ。


「黒くするんでしょ?」


 ナナが聞く。


「仕事で使うならな」


 蓮は一度レイザーを振り返る。


「だから今のうちに乗っとく」


「そのうち見納めだもんな」


 悠斗が言う。


「そういうこと」


 店の扉を開けると、焼いた肉とコーヒーの匂いが流れてきた。


「いらっしゃ――」


 カウンターの奥にいたミオが、五人を見て言葉を止める。


 視線が黒いロンTへ移った。


 悠斗とアキラの左胸には、小さな白いNOXの文字ロゴ。


 蓮の胸元には大きな文字ロゴと派手な意匠。


 ナナは正式ロゴを大きく使ったデザインで、シオンが少し横を向けば、その背中にも大きなNOXの文字が見える。


「……それ、NOX?」


「うん」


 悠斗が答える。


 ミオが一度瞬きをした。


「え、ちょっと待って。あんたたち、NOX入ったの?」


「入ったよ」


 ナナが答えた。


「いつの間に?」


「少し前」


「いや、初耳なんだけど」


「言う機会なかったし」


「そういう問題?」


 ミオは呆れたように五人を見る。


 銀行強盗で捕まる前から、この店には何度も来ていた。刑務所から出てきたあとだって、顔を見せている。


 そんな五人が揃って有力ギャングのロゴを身につけて立っているのだから、驚くのも当然だった。


「ほんとにギャング入ったんだ」


「うん」


「まあ……そのうちどっか入るとは思ってたけど」


「そんな風に見えてた?」


「見えてたよ」


 即答だった。


 蓮が笑う。


「俺なんか最初からギャング向いてたでしょ」


「それは知らない」


「そこは肯定してよ」


 ミオの表情がようやくいつもの調子へ戻る。


 それから五人の服を見比べた。


「でも、全員同じじゃないんだ」


「五種類作ったの。全員が全部持ってる」


 ナナが答える。


「へえ。じゃあ今日は好きなの選んだんだ」


「そう」


 ミオが悠斗とアキラを見る。


「なのに二人かぶったの?」


「それ、もう言われた」


 悠斗が苦笑した。


「これが一番着やすいんだよ」


 アキラが言う。


 二人が選んだのは、左胸に小さな文字ロゴだけが入った、一番シンプルなシオンのデザインだった。


「俺の方がよくない?」


 蓮が自分の胸を指差す。


 ミオが数秒眺めた。


「一番うるさい」


「服にうるさいってある?」


「ある」


 ナナが即答する。


「二人ともセンス分かってないな」


「じゃあアキラに聞いてみれば?」


 蓮がアキラを見る。


「どう?」


 アキラは改めて蓮のロンTを眺めた。


「蓮には似合ってる」


「それ褒めてる?」


「普通に褒めてる。俺が今日着るならシオンの方選ぶけど」


「ほら結局そっちじゃん」


「好みの問題だろ」


「俺のも今度着ろよ」


「着る着る」


「適当だな!」


 ナナとミオが笑った。


「はいはい。いつもの席空いてるよ」


     ◇


 ボックス席へ座ると、シオンはメニューを開いてすぐ肉料理のページを見つけた。


「ステーキある」


「よかったな」


「これ」


 指差したのは、一番大きいサイズだった。


「迷わないねえ」


 ナナはハンバーガー、蓮はチキンステーキ、アキラはパスタ。悠斗はハンバーグを選ぶ。


 注文を取りに来たミオが、シオンの指した料理を見る。


「これ結構大きいよ?」


「大丈夫」


「パンとライス、どっち?」


「両方」


「……両方?」


「食べる」


「じゃあ止めないけど」


 料理が届くと、シオンの前には大きなステーキと山盛りのポテト、それにライスとパンまで並んだ。


「思ったよりでかいな」


 蓮が覗き込む。


「うまそう」


「今日一番嬉しそうじゃん」


 ナナが笑う。


 シオンは答えず、早速ナイフを取った。


 しばらくして、シオンのスマートフォンが震えた。


 画面を見たシオンが手を止める。


「ソウ」


 蓮がすぐ顔を上げる。


「レンジャー?」


「多分」


 シオンが通話へ出た。


「もしもし」


 しばらく相手の話を聞く。


「うん」


 少し間が空いた。


「レンジャー?」


 さらに聞いてから、


「四ドア?」


 また少し黙る。


「幌は?」


 蓮が身を乗り出しかけ、ナナに腕を押された。


「静かに」


「黒?」


 最後まで聞いたシオンが、


「分かった。見たい」


 と答えて通話を切った。


「どうだった?」


 蓮がすぐに聞く。


「レンジャーが一台あるって」


「売り物?」


 アキラが聞く。


 シオンが首を少し傾ける。


「まだ分からない」


「どういうこと?」


「ソウの知り合いの、知り合い」


「遠いな」


 蓮が笑う。


「その人の知ってる老人が持ってる」


「さらに一人増えた」


 ナナも笑った。


「今は使ってないらしい」


「眠ってる車か」


 悠斗が言う。


「黒で、四ドア。幌も付いてる」


 条件だけなら、シオンが探していたものにかなり近い。


「状態は?」


 アキラが尋ねる。


「外は傷が多いって」


「中は?」


「まだ分からない。ソウが先に見に行く」


 前に見たレンジャーは、外見こそ綺麗だったが、中身は問題だらけだった。


 それだけに、今回は見た目だけで判断する気には誰もならない。


「そのおじいさん、売ってくれるの?」


 ナナが聞く。


「そこもまだ」


「じゃあ、本当に情報が来ただけか」


「うん」


 シオンはそれでも少し嬉しそうだった。


「ソウが見て、話も聞いてくれるって」


「それがいいな」


 悠斗が頷く。


「俺も見たい」


 蓮が言う。


「まずソウが確認してからでしょ」


「分かってるって」


 アキラが笑いながら蓮を見る。


「お前はその前にレイザーの方も進めないとな」


「それも分かってる」


「青いの気に入ってるから先延ばししてない?」


 ナナが言う。


「それはちょっとある」


 蓮は素直に認めた。


「でもNOXで使うなら黒にする。Placeholderのステッカーも外すよ」


 そう言って、窓の外に停まる青いレイザーを見る。


「ただ、どうせやるなら格好よくしたいんだよな」


「ロゴでしょ?」


「それも」


「絶対でかくする」


「まだ決めてないだろ」


「蓮ならする」


 悠斗が言うと、蓮が不満そうにこちらを見る。


「悠斗まで?」


 その横では、シオンがすでにステーキへ戻っていた。


「シオン」


「ん?」


「レンジャーの話終わった途端、肉に戻るの早すぎない?」


「ソウが見てからだから」


「切り替え早いな」


 シオンは気にした様子もなく、一口食べた。


「うまい」


 今度ははっきり満足そうだった。


 悠斗は笑いながら、自分のハンバーグへフォークを入れる。


 窓の外には、まだ青いレイザーが停まっている。


 そしてどこかには、長い間使われずに眠っているレンジャーが一台あるらしい。


 それがどんな車なのかは、まだ誰にも分からなかった。

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