第5章 第151話 港からの荷物
港湾地区へ向かう道路は、中央地区とはまるで景色が違った。
高層ビルの代わりに巨大な倉庫やコンテナヤードが並び、片側三車線の道路を大型トラックが絶え間なく行き交っている。遠くでは貨物船のそばに巨大なクレーンが何本も伸び、潮の匂いに排気ガスと油の臭いが混ざっていた。
悠斗たちは、全体会議で着ていた正式スーツから、届いたばかりの黒いロンTへ着替えている。
拠点には、五人がそれぞれ考えた五種類のデザインが全員分揃っていた。その中から、それぞれ好きな一枚を選んでいる。
悠斗が着ているのは、左胸に小さなNOXの文字ロゴだけが入った、一番シンプルなシオンデザイン。
助手席のアキラも同じものだった。
「かぶったな」
信号待ちでアキラが悠斗の胸元を見る。
「結局これが一番着やすそうだった」
「俺も同じこと思った」
後部座席からナナが笑った。
「五種類あるのに、二人ともシオンの選ぶんだ」
ナナは自分で考えた、正式ロゴを大きく使ったデザインを着ている。
その隣のシオンが選んだのは悠斗デザインだった。前から見れば左胸に小さな文字ロゴだけだが、背中には大きくNOXの文字ロゴが入っている。
「シオン、自分の着ないんだな」
アキラが振り返る。
「これでいい」
「それ悠斗のだけど」
「知ってる」
それ以上の理由はなさそうだった。
前を走る黒いバンには蓮とユウキが乗っている。
蓮は当然のように、自分で考えたデザインを選んでいた。前面に大きなNOXの文字ロゴを置き、その周囲に派手な意匠を加えた、五種類の中でもかなり目立つ一枚だ。
『悠斗、トラック二台入った』
無線から蓮の声が入る。
「見えてる。このまま行く。次の信号で追いつく」
『了解』
二台の間には大型トレーラーが入り込んでいたが、悠斗は無理に追い越さない。
前方の流れを見ながら一定の速度を保つ。
青信号を二つ越えたところでトレーラーが別方向へ曲がり、再び黒いバンが見えた。
「ちゃんと隊列っぽくなってきたね」
ナナが言う。
「前よりは」
「蓮が勝手に曲がらなくなったしな」
アキラが笑う。
『全部聞こえてるぞ』
「聞こえるように言ってる」
『ひどくない?』
無線の向こうでユウキが笑った。
◇
指定された倉庫は、港の奥まった一角にあった。
二台を荷役の邪魔にならない位置へ停めると、ユウキが先に降りる。
「木箱六つ、ケース四つ。番号合わせて積むぞ」
「中身は?」
蓮が聞く。
「車両用の部品と工具」
「思ったより普通ですね」
「港なら毎回怪しい荷物が出てくると思うなよ」
「そこまで言ってないですって」
倉庫のシャッターが上がり、中からフォークリフトが木箱を順番に運んでくる。
パレットが床へ下ろされるたび、広い倉庫の中に鈍い音が響いた。
ナナが伝票を受け取り、箱の側面に記された番号を一つずつ確認していく。
「A-17、A-18……」
蓮とシオンはバンの荷室に入り、荷物を置く位置を調整していた。
「それ奥」
シオンが木箱を見ながら言う。
「これ重いぞ」
「持つ」
「いや、台車あるから」
「持てる」
「持てるかどうかじゃない」
ユウキがすぐに止める。
「腰やったらその後使い物にならないだろ。台車使え」
「分かった」
シオンは素直に手を離した。
悠斗が小さなケースを運んでいると、ナナが声を上げる。
「待って」
フォークリフトが止まった。
「これ違う」
ナナが一つの木箱を指差す。
伝票には《A-22》。
箱の側面は《A-27》。
「本当だ」
悠斗も横から確認する。
ユウキが倉庫の担当者を呼ぶと、作業員は伝票を見るなり顔をしかめた。
「あー、すみません。それ隣の便です」
「危な」
蓮が荷室から顔を出す。
「持って帰ってたらどうなるんです?」
「俺らがまた来る」
「絶対嫌だ」
「じゃあ確認したナナに感謝しろ」
ナナが少し得意そうに顎を上げる。
「聞いた?」
「ありがとうございます、ナナ様」
「よろしい」
「そこまでやる?」
悠斗が笑った。
間違っていた木箱が戻され、代わりに正しいA-22が運ばれてくる。
今度は悠斗たちも一緒に番号を確認してから積み込んだ。
◇
荷物を積み終えると、二台は来た時と同じ並びで倉庫を出た。
先頭は蓮の運転する黒いバン。その後ろを悠斗のセダンが走る。
荷物を載せた分、バンは来た時より明らかに加速が重い。
『蓮、いつもより重いからブレーキ早めにな』
助手席のユウキの声が無線に入る。
『分かってます』
前方の信号が黄色へ変わる。
バンのブレーキランプが点灯し、余裕を持って停止した。
アキラが感心したように言う。
「ちゃんと止まった」
『何でそんな驚くんだよ!』
「聞こえてた?」
『聞こえてる!』
ナナが後ろで笑う。
信号が青へ変わり、再び二台が走り出した。
しばらくして、前を走るバンのハザードが点く。
『路肩入る。後ろで音した』
「了解」
蓮が十分に速度を落として道路脇へ寄せる。
悠斗も少し距離を空け、その後ろへセダンを停めた。
全員が車を降りる。
「どんな音?」
「一回、ガタンって」
蓮が後部扉を開ける。
大きく荷崩れはしていなかったが、シオンが手前の木箱へ触れると、わずかに動いた。
「これ緩い」
荷物を固定していたラッシングベルトの一本が、積み込んだ時より緩んでいる。
ユウキが金具と木箱を確認する。
「切れてはいないな。締めが甘かったか、走ってる間に荷が少し馴染んだか」
「俺が締めたやつかも」
蓮が言う。
「誰がやったかはあとでいい。全部確認するぞ」
「はい」
一本だけで済ませず、残りの固定も順番に確かめる。
大型トラックがすぐ横を通過するたび、風圧で黒いロンTの裾が揺れた。
最後の一本を締め直したところで、後方から短くサイレンが鳴る。
全員がそちらを見る。
巡回中らしいパトカーが、悠斗たちのセダンの後ろへ停まった。
「うわ」
蓮が小さく漏らす。
「何もしてないから」
ナナが言う。
「分かってるけどさ」
警察官が一人降りてきた。
「故障?」
「荷物が少し動いたみたいで、固定を確認してました」
悠斗が答える。
警察官は開いている荷室へ目を向けた。
「何運んでるの?」
「車の部品と工具です」
ユウキが伝票を見せる。
警察官はそれを簡単に確認し、荷室にも一度目を通した。
「固定はもう終わった?」
「はい」
「ここ大型車多いから、長く停まってると危ないよ。準備できたら早めに出て」
「分かりました」
それ以上は何も聞かれなかった。
警察官がパトカーへ戻り、そのまま道路へ合流していく。
蓮が遠ざかる車を見送った。
「何もしてなくてもパトカー止まると緊張するな」
「前科持ちだからじゃない?」
ナナがさらっと言う。
「ナナだけ言えるやつじゃん、それ」
「私は前科ないもん」
「ずるくない?」
「何が?」
悠斗も否定できず、苦笑しながら運転席へ戻った。
◇
拠点へ戻ると、バンを倉庫へ入れ、十個の荷物を順番に降ろしていった。
「これで終わり」
ユウキが伝票へ確認を書き込む。
「五人まとめて振られた最初の仕事、どうだった?」
「思ったより普通でした」
蓮が答える。
「普通の仕事も必要なんだよ」
「次はもっと派手なのあります?」
「そのうちな」
蓮は少し残念そうな顔をしたものの、それ以上は聞かなかった。
その横で、シオンが悠斗を見る。
「肉」
「まだ言ってるの?」
「腹減った」
アキラが時計を見る。
「もう昼飯じゃなくて、早めの晩飯だな」
「肉なら何でもいい」
「じゃあ行こっか」
ナナが言うと、蓮が真っ先に反応した。
「行く!」
「さっきまで疲れた顔してたのに」
「飯は別だろ」
悠斗は笑いながら、使ったセダンの鍵をユウキへ返した。
倉庫の奥では、別のNOXメンバーが、ついさっき運び込んだ木箱の封を確認し始めている。
「悠斗、置いてくぞ」
「今行く」
声をかけられ、悠斗は四人の後を追って倉庫を出た。
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