↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

146/175

第5章 第146話 警察から見たNOX

 パトカーは、黒いNOXのSUVから少し離れた路肩へ停まった。


 午後の中央地区は人通りが多く、買い物袋を提げた客や、店先でスマートフォンを見ている若者たちが行き交っている。その中に黒い車二台と警察車両が並べば、それなりに目立った。


 悠斗は持っていた紙袋をナナへ預ける。


「ちょっと行ってくる」


「うん」


 ナナが受け取った袋を抱え直す。


 蓮とアキラはその場に残り、シオンも特に気にした様子を見せなかった。カナメも悠斗を止めず、少し離れたところから様子を見ている。


 悠斗がパトカーの方へ向かうと、アリサも助手席から降りた。


「ここでいいですか?」


「ええ。別に署まで連れていくわけじゃないから」


「よかったです」


「今ので安心するのもどうなの?」


 アリサは呆れたように言いながら、パトカーから少し離れた歩道脇へ移動した。


 悠斗もその後についていく。


 通行人の邪魔にならない場所まで来ると、アリサが改めて悠斗を見る。


「久我くん、水城くん、御影くんも一緒なのね」


「はい」


 アリサの視線が、少し離れたところで待っている四人へ向く。


「もう一人いるけど、あの子は?」


「雨宮ナナです。俺たちと一緒にいる仲間です」


「雨宮さんね」


 名前を確認しただけで、それ以上は聞かなかった。


 視線がそのまま奥へ移る。


「それに早乙女カナメ」


 悠斗は少しだけ目を見開いた。


「知らないと思った?」


「いや……そこまでは」


「NOXのアンダーボスよ。警察が知らないわけないでしょ」


「ですよね」


 街第2位のギャングで、そのアンダーボスともなれば警察に顔を知られていて当然だ。


 アリサは一度だけ黒いNOX車へ目を向け、それから悠斗へ戻した。


「それで?」


「はい」


「NOX、入ったの?」


 思った以上に直球だった。


 だが、隠す必要もない。


「入りました。五人で」


 アリサの眉がわずかに上がる。


「あの雨宮さんも?」


「はい」


「……そう」


 少し驚いているようだったが、そこで何かを決めつけることはしなかった。


「出てきたばかりよね」


「はい」


「それでもうNOX?」


 悠斗は苦笑する。


「俺も、こんなに早いとは思ってませんでした」


「もうちょっと大人しくしてる期間とかないの?」


「一応、大人しくしてますよ」


 アリサが黒いSUVを見る。


「第2位のギャングに入って?」


「加入しただけです」


「それはそうなんだけど」


 小さく息を吐いたあと、表情が少し引き締まる。


「神谷くんたち四人は、今は仮出所中なんだからね」


「分かってます」


「また犯罪で捕まったら、前みたいには済まないよ」


 冗談ではなく、警察官としての警告だった。


 悠斗も笑わずに頷く。


「はい。前よりは、ずっと分かってるつもりです」


 銀行強盗。


 銃撃戦。


 病院。


 刑務所。


 どれももう、画面の向こうで見るだけの出来事ではない。


 夢だったギャングにはなれた。


 だからこそ、今まで以上に考えて動かなければならない。


 アリサは数秒だけ悠斗の顔を見たあと、肩の力を少し抜いた。


「ならいいけど」


 腕を組み直す。


「NOXでは何してるの?」


「今のところは、車の確認とか、倉庫の整理とか、荷物運んだりですね」


「……地味ね」


「俺も思いました」


「そこは否定しないんだ」


「まだ入ったばかりなんで」


「まあ、いきなり好き勝手やらせる組織なら、あそこまで大きくなってないか」


 悠斗は少し意外そうにアリサを見る。


「警察から見ても、そうなんですか?」


「嫌でも見ることになるからね」


 アリサは肩をすくめた。


「NOXだからって、全員が四六時中撃ち合ってるわけじゃないのは知ってる。でも、NOXはNOX。そこは忘れないで」


「はい」


「あなたたちが何もしてなくても、周りからは看板込みで見られるから」


 悠斗は黒いSUVに入った白いNOXのロゴへ目を向けた。


 これまでは、自分たちだけの名前で動いていた。


 今は違う。


 自分たちが何をするかだけではなく、どこの人間として見られるかまで変わっている。


「分かりました」


 アリサもそれ以上、説教を続けようとはしなかった。


「今日は何してたの?」


「スーツの採寸と、服を買ってました」


「スーツ?」


「NOXの正式なやつです」


「ああ、あれ」


「知ってるんですか?」


「何度も見てるからね」


 アリサが少し離れたカナメを見る。


「むしろ、ああいうのをきっちり揃えるところがNOXらしいんじゃない?」


「俺も今日知りました」


「神谷くん、本当に入ったばっかりなのね」


「はい」


 少しだけ空気が緩んだ。


 大通りを一台のスポーツカーが低い排気音を響かせて走り抜ける。


 その後ろを配送バンが追うように通り過ぎ、信号の向こうでは観光客らしい集団が横断歩道を渡っていた。


 街は、悠斗とアリサが話している間も普段通りに動いている。


「神谷くん」


 アリサがもう一度名前を呼ぶ。


「はい」


「NOXに入ったこと自体は、私が止められることじゃない」


 少し間を置く。


「でも、また病院か刑務所で会うのは勘弁して」


 悠斗は一瞬だけ目を見開いた。


 警察官としての言葉というより、昔から顔を合わせてきたアリサ自身の言葉に聞こえた。


 だから、素直に頷く。


「気をつけます」


「犯罪者が警察に言う台詞としては変だけどね」


「それは……まあ」


「まあ、いいわ」


 アリサは小さく笑った。


「じゃあ、私は行くから」


「はい」


「久我くんたちにも、仮出所中なの忘れないように言っといて」


「分かりました」


 アリサはパトカーへ戻る。


 助手席へ乗り込み、ドアを閉めた。


 運転席の警察官が車を発進させ、パトカーはゆっくりと通りへ戻っていく。


 悠斗はそれを見送ってから、四人とカナメのところへ戻った。


「何だった?」


 最初に聞いたのはアキラだった。


「NOXに入ったのかって」


「やっぱそれか」


 蓮が黒い車を見る。


「まあ、これ見たら分かるよな」


「早乙女さんもいるしね」


 ナナが言う。


「私のことも聞かれた?」


「うん。名前だけ教えた」


「そっか」


 ナナは特に気にした様子もなく頷いた。


 そこでカナメが悠斗を見る。


「加入したことは話したのか?」


「はい。五人で入ったって」


「それでいい」


 悠斗は少し迷ってから聞く。


「加入したことくらいは、普通に話していいんですね」


「構わん。ただし仕事の中身は別だ」


 カナメの声が少し低くなる。


「誰と何をした。何を運んだ。どこへ行った。そういう話を外で勝手にするな」


「はい」


「どこまで話していいか分からなければ先に聞け」


 四人も一緒に頷く。


 それを確認して、カナメは黒いSUVへ向かった。


「帰るぞ」


「拠点ですか?」


 アキラが聞く。


「ああ。今日買った服は一度持ち帰れ。ロゴを入れる物は後でまとめて預かる」


 蓮が自分の紙袋を見る。


「じゃあ、デザインも考えとかないとな」


「まず下書きだろ」


 アキラが言う。


「分かってるって」


「みんなが着るんだから、本当にちゃんと考えてよね」


 ナナまで念を押す。


「なんで俺だけ信用ないんだよ」


「日頃の行い」


「ひどくね?」


 悠斗は思わず笑った。


 さっきまで警察に釘を刺されていたことなど関係なく、四人の会話はいつも通りだ。


 カナメが振り返る。


「置いていくぞ」


「今行きます!」


 蓮が慌てて車へ向かい、アキラたちもその後を追う。


 悠斗はナナから紙袋を受け取り、最後にもう一度、パトカーが消えていった通りを見る。


 警察から見れば、今の自分たちはもう単なる半グレではない。


 NOXの一員だ。


 けれど、だからといって毎日が急に派手になるわけでもなかった。


 服を買い、警察に声をかけられ、仲間とくだらない話をしながら拠点へ戻る。


 そういう時間も全部含めて、今の生活なのだろう。


 悠斗は黒いSUVのドアを開け、仲間たちの声がする車内へ乗り込んだ。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。