↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/185

第3章 第110話 狙う銀行

 翌日の昼過ぎ。


 蓮の青いレイザーとアキラの黒いクーペが、南部へ向かう大通りを流れに合わせて走っていた。


 レイザーには蓮と悠斗。少し後ろを走る黒いクーペにはアキラ、シオン、ナナが乗っている。


 昨日マカベのところで決めた濃いグレーのセダンは、まだ点検中だ。


 逃走に使う車は決まった。


 今日は、昨日見て回った三軒の銀行の中から、実際に狙う場所を決めるつもりだった。


『三軒目からでいいんだよね?』


 ヘッドセットからナナの声が聞こえる。


「うん。昨日の中だと一番よさそうだったし、今日は中も見たい」


『誰が入る?』


「俺とアキラで行こうと思ってる」


『俺は?』


 すぐ横から蓮が口を挟む。


「今日は車で待ってて」


「なんでだよ」


『下見中に知らない車見つけて銀行忘れそうだからじゃない?』


「忘れないって」


 ナナの声に、後ろの車からアキラの笑い声が重なった。


『昨日、信号待ちで赤いGT見つけた瞬間、真っ先に無線入れてきたの誰だったっけ?』


「あれは良い車だったんだよ」


「理由になってないよ」


 悠斗が笑う。


 蓮は不満そうにハンドルを握り直したが、本気で嫌がっているわけではないらしい。


「まあいいけど。ちゃんと見てこいよ」


「そのつもり」


 アキラを選んだのにも理由がある。


 銀行の中で誰かに声をかけられたとしても、アキラなら普段通りに返せる。悠斗一人で入るより、余計な緊張をしなくて済む。


 とはいえ、今日は何か特別なことをするわけではない。


 ただ銀行へ入り、普通の客として中の雰囲気を見るだけだ。


     ◇


 三軒目の銀行があるのは、中央地区から少し南へ外れた商業地区だった。


 高層ビルが密集する中心街ほど慌ただしくはない。低層のオフィスや飲食店、小さな商業施設が並び、通りには配送車や営業車が行き交っている。


 昼休みのピークを過ぎたせいか、歩道にも多少の余裕があった。


 二台を少し離れた場所に停める。


 悠斗がレイザーから降りると、アキラも黒いクーペから出てきた。


「じゃ、行くか」


「うん」


「顔硬くするなよ」


「まだ何もしてないんだから大丈夫」


「自分に言い聞かせてない?」


「……半分くらい」


 アキラが笑った。


「下見で捕まるようなことしてないんだから普通にしろって」


 その言い方に少しだけ肩の力が抜ける。


 二人は銀行へ向かった。


     ◇


 自動ドアが開くと、冷房の効いた空気と静かな機械音が流れてきた。


 店内には十数人ほどの客がいた。


 窓口で職員と話しているスーツ姿の男性。順番待ちの椅子でスマートフォンを見ている女性。壁際の機械を操作している年配の夫婦。


 職員たちも普段通りに仕事を続けている。


 悠斗とアキラは、備え付けの案内を手に取りながら店内を歩いた。


「思ったより人いるな」


 アキラが声を落とす。


「うん。でも一軒目よりは全然少ない」


「雰囲気もこっちの方が落ち着いてるな」


 悠斗は小さく頷いた。


 外から見ていた時より、銀行そのものがずっと現実的に感じられる。


 窓口の向こうで笑っている職員も、順番を待っている客も、普段通りの一日を過ごしているだけだ。


 自分たちが本当にここを選べば、その日常の中へ踏み込むことになる。


 その事実は、計画表の上で「三軒目」と呼んでいた時より重かった。


「悠斗」


「ん?」


「そろそろ出る?」


「ああ」


 二人はそのまま銀行を出た。


 外の空気に触れた瞬間、悠斗は無意識に息を吐いた。


「やっぱ緊張してたじゃん」


 アキラが笑う。


「そりゃするよ。ここを本当にやるかもしれないと思って入ってるんだから」


「まあ、それは俺も少し変な感じした」


「アキラでも?」


「俺を何だと思ってんだよ」


 二人で笑いながら車へ戻った。


     ◇


 ところが、レイザーのところまで戻ると、蓮が知らない男と話していた。


 男の横には、低く構えた古いスポーツカーが停まっている。


「……何してるの?」


 悠斗が聞く。


「いや、この車珍しいなと思って」


「銀行見て待っててって言ったよね?」


「見てたよ。そのあとこの人来たから」


 スポーツカーの持ち主らしい男が笑う。


「こいつ、停めた瞬間に話しかけてきたぞ」


「ほら」


 ナナが黒いクーペから降りながら指を差した。


「絶対こうなると思った」


「暇だったんだからいいだろ」


 アキラがスポーツカーを一度見てから、蓮の肩を叩いた。


「あとでやれ。今銀行」


「分かってるって」


 蓮は持ち主へ「また今度」と声をかけ、ようやく戻ってきた。


 五人は近くのテイクアウト店で飲み物を買い、そのまま店先のベンチへ移動した。


「で、中どうだった?」


 ナナがストローを差しながら聞く。


「候補から外す感じではなかった」


 悠斗が答える。


「思ってたより客はいたけど、一軒目ほどじゃない」


「俺も三軒目でいいと思う」


 アキラが続ける。


 蓮が紙コップを片手に尋ねた。


「二軒目は?」


「俺は嫌」


 シオンが即答する。


「道が窮屈」


「俺もあそこは好きじゃない」


 蓮も頷いた。


 一軒目は周囲が慌ただしすぎる。


 二軒目は五人の感覚として動きづらい。


 三軒目にも不安がないわけではないが、昨日から今日まで見た三軒の中では、最も自分たちが動く姿を想像しやすかった。


「ナナは?」


 悠斗が聞く。


「私も三軒目かな。周辺のことも見たけど、今のところ候補から外すようなものはなかったよ」


「蓮は?」


「三軒目」


「シオン」


「同じ」


「アキラはもう聞いたか」


「満場一致だな」


 四人の視線が悠斗へ集まる。


 悠斗は少しだけ銀行のある方向を見た。


 完璧だから選ぶわけではない。


 そもそも、そんな場所があるとは思っていない。


 三軒を実際に見て、五人で話し合った上で、自分たちが一番やれそうだと思えた場所。


「……じゃあ、ここにしよう」


 声に出した瞬間、空気が少し変わった。


 さっきまで車の話をしていた蓮も黙る。


 ナナも笑みを消し、紙コップを膝の上に置いた。


「決まったね」


「うん」


 銀行強盗をやろう、と言っていた時とは違う。


 今、実際に一つの銀行を選んだ。


 その違いは悠斗にもはっきり分かった。


「じゃあ次は役割詰める?」


 アキラが言う。


「今日は一回整理してからでいいと思う」


 悠斗が答える。


「逃走車もまだ受け取ってないし」


「じゃあ飯?」


 アキラがすぐに切り替える。


「切り替え早すぎない?」


 ナナが呆れる。


 その横でシオンが立ち上がった。


「肉」


「また?」


「腹減った」


「この前ステーキ食ったばっかじゃん」


「今日も食える」


 蓮が吹き出した。


「そこだけ全然ブレないな」


 結局、銀行を決めた直後なのに、五人はどこで食べるかで数分揉めることになった。


 蓮はハンバーガー。


 アキラはタコス。


 シオンは肉。


「肉って店名じゃないからね?」


 ナナの指摘にも、シオンは真顔だった。


     ◇


 ようやく店を決めて二台で走り出してから十分ほど経った頃、悠斗のスマートフォンが震えた。


 信号待ちで画面を見る。


 表示された名前は、昨日ようやく知ったばかりのものだった。


 マカベ。


 メッセージを開く。


『セダン、見直した。問題なし。明日渡せる』


「お」


「何?」


 蓮が横を見る。


「マカベさん。セダン、明日受け取れるって」


「マジ?」


 さっきまで銀行の話をしていた時より明らかに声が明るい。


『何が?』


 ヘッドセットからアキラの声が入った。


「セダン、明日いけるって」


『早いね』


 ナナが言う。


 悠斗がもう一度画面を見ると、続けてメッセージが届いた。


『置き場所も一台分空いてる。詳しくは明日』


「保管場所も見つかったみたい」


『順調じゃん』


「うん」


 信号が青へ変わる。


 蓮がレイザーをゆっくり発進させた。


「じゃあ明日は、まずセダン取りに行く?」


「そうしよう。そのあとみんなで役割決めよう」


『了解』


 アキラが返す。


 少し間を置いて、シオンの声が聞こえた。


『今日は肉』


「まだ言ってんの?」


 ナナが笑う。


『店、肉あるだろ』


「あるよ」


『ならいい』


 ヘッドセットにまた笑い声が重なった。


 狙う銀行は決まった。


 明日には逃走車も手に入る。


 まだ準備しなければならないことはいくつも残っている。


 それでも、銀行強盗はもう「いつかやってみたい犯罪」ではなかった。


 五人が実際にやる、次の仕事になり始めていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。