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『引きこもり高校生、犯罪都市でギャングを始める ~友達ゼロだった俺の成り上がり~  作者: 阿鼻恭介
第2章

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第2章 第104話 五人で走る

 スクエアへ来た時には、悠斗、蓮、アキラ、シオンの四人だった。


 そこへ、二輪免許を取ったばかりのナナが、買ったばかりの黒いバイクで現れた。


 今では、悠斗の白いヴェローチェ、蓮の青いレイザー、アキラの黒いクーペ、ナナの黒いバイクが並んでいる。


 車種も色もばらばらだ。


 けれど、どれにも同じ白い《placeholder》のロゴステッカーが貼られていた。


「こうして並ぶと、結構それっぽいな」


 アキラが少し離れたところから四台を眺める。


「何が?」


「チーム感」


「ステッカー貼っただけだけど」


「そういうのが大事なんだよ」


 蓮が当然のように口を挟んだ。


「貼る位置で一番悩んでたもんね」


「だからだよ。こういうのは細かいところが大事なんだって」


「しつこい」


 シオンが短く切る。


「お前まで!?」


 笑い声が上がった。


 その少し先では、ナナが買ったばかりのバイクをまだ眺めている。


 シートに触れ、車体の横へ回り、最後には後ろへしゃがみ込んで貼ったばかりのステッカーを確認していた。


「そんな気に入った?」


 悠斗が近づくと、ナナは素直に頷く。


「気に入った」


「乗ってみてどうだった?」


「まだ怖い。店からここまで来るだけでも結構緊張した」


「買う時はあんなに早かったのに」


「買うのと乗るのは別でしょ」


「それはそうか」


「でも、この前見たやつより軽いし、足もちゃんと届く。こっちにしてよかった」


 そう言いながらバイクを見る顔は、明らかに嬉しそうだった。


「このあとどうする?」


「走ろうぜ」


 真っ先に答えたのは蓮だった。


「適当に街流して、腹減ったら飯でいいだろ」


「ナナ今日初めてなんだから、山はなしな」


 悠斗が言うと、蓮が眉を上げる。


「さすがに連れてかねえよ」


「蓮だから一応」


「俺の信用どうなってんの?」


「日頃の積み重ね」


 アキラが即答した。


「ひどくね?」


 その横では、シオンがすでにアキラのクーペへ向かおうとしている。


「シオンはまたアキラの?」


「うん。楽だから」


「完全に助手席が定位置だな」


 そんな話をしている時だった。


 スクエアの入口付近で、一人の若い男が立ち尽くしているのが目に入った。


 大きめのバッグを肩に掛け、スマートフォンの画面と周囲を何度も見比べている。


 どうやら土地勘がないらしい。


 そこへ、一人の男が歩み寄った。


「街来たばっか?」


「あ、はい。今日来たばかりで……」


「仕事は?」


「まだ何も決めてなくて」


「なら最初は市民窓口行った方がいい。求人も見られるし、免許とか必要ならそこでも聞ける」


 声をかけた男は二十代半ばくらい。


 仕立てのいい洒落たスーツを着こなし、頭にはつばの短いハットを被っている。会社員というより、夜の店を持っていそうな雰囲気だった。


 男は若者のスマートフォンへ地図を表示させると、慣れた様子で場所を示していく。


「今いるのがここ。市民窓口はこっち」


「ありがとうございます」


「車は?」


「まだ持ってないです」


「なら焦って買わなくていいよ。最初はタクシーでも何とかなる。金貯まってから好きなの選んだ方がいい」


 若者が何度も頷く。


「分かんなくなったら、またスクエア来な。誰かしらいるから。夜なら《ブルームーン》って店に来てもいい。俺の店」


「ありがとうございます!」


 若者は何度も頭を下げ、そのまま教えられた方向へ歩いていった。


 悠斗がその後ろ姿を見送っていると、近くにいたユウキが笑う。


「レイ、また新人の世話してるな」


「困ってたから教えただけだって」


 男がこちらを振り返った。


 ユウキは悠斗たちへ顔を向ける。


「そういや紹介してなかったな。南雲レイ。ブルームーンってバーのオーナー」


 レイもそのままこちらへ歩いてきた。


 途中ですれ違った男が軽く手を上げる。


「レイさん、今日店いる?」


「いるよ。遅い時間からな」


 別の女性からも声をかけられ、レイは慣れた様子で返していた。


 かなり顔が広いらしい。


「ユウキの知り合い?」


「さっき知り合った。車見てたら話すようになって」


「なるほど」


 レイは気さくに笑った。


「南雲レイ。よろしく」


「神谷悠斗です」


 悠斗が名乗った瞬間、レイの表情がわずかに変わった。


「……神谷悠斗?」


「はい」


「ああ。お前が神谷か」


 悠斗は思わずレイを見る。


「俺のこと、知ってるんですか?」


「直接は知らないよ。九条と黒瀬から名前を聞いたことがある」


「九条さんと、ジンさんから?」


「ああ。別々の時にな」


 第2位ギャングNOXの九条玲司。


 第5位ギャングEMBERの黒瀬ジン。


 その二人の名前が続けて出てきたことで、蓮たちも少し驚いた顔をした。


「二人ともレイと知り合いなの?」


 ユウキが聞く。


「まあな。長くこの街にいると色々あるんだよ」


 それ以上説明する気はないらしく、レイは軽く肩をすくめた。


 アキラが笑いながら言う。


「バーのオーナーにしては知り合い濃くないですか?」


「客商売してると色んな奴と知り合うんだよ」


「それだけ?」


「どうだろうな」


 レイは笑ってかわした。


 ナナが興味深そうに尋ねる。


「九条さんとジンさんから、悠斗の何を聞いたんですか?」


「大した話じゃないよ」


 レイは悠斗へ目を向ける。


「九条からは、最近ちょっと気になる若い奴がいるって話。黒瀬からは、前に世話した若い奴が街で頑張ってるって話。そのくらい」


「……そうなんだ」


「二人から同じ名前が出たから覚えてただけ。細かいことまで知ってるわけじゃない」


 悠斗は少しだけむず痒くなった。


 自分の知らないところで、九条とジンが自分の名前を出していたらしい。


 蓮たちも順番に名乗った。


「久我蓮」


「水城アキラです」


「御影シオン」


「雨宮ナナです」


「よろしく」


 レイは一度頷くと、悠斗のヴェローチェへ目を向けた。


「それ、ヴェローチェ?」


「はい」


「白、似合ってるな」


「ありがとうございます」


 続いてリアガラスへ視線が移る。


「placeholder?」


「はい」


「チーム名?」


「俺たち五人のチーム名です」


「なるほど」


 レイはレイザー、アキラのクーペ、ナナのバイクへ順番に目を向けた。


「だから全部同じの付けてるのか」


「このステッカー自体は昨日作ってもらったんです」


「そういうことか。いいじゃん、こういうの」


「ですよね?」


 蓮が嬉しそうに食いつく。


「並べた時に揃ってると映える」


「分かってるなあ」


「すぐ調子乗る」


 シオンがぼそりと言い、レイが笑った。


「仲いいな、お前ら」


「まあ……そうですね」


 悠斗もつられて笑う。


「レイさんって、街のこと詳しいんですか?」


 ナナが尋ねた。


「詳しいって言っても色々だぞ」


「情報とか」


「店やってると勝手に入ってくるよ。客って、酒入ると余計なことまで喋るからな」


「じゃあ情報屋みたいな?」


「それは違う」


 レイはすぐに否定した。


「俺はバーの店主。情報売って食ってるわけじゃない」


「でも色々知ってる?」


「人よりはな」


「何でも?」


 レイが口元を緩める。


「何でも知ってるって言う奴は、大体嘘つきだよ」


 ナナは少し考えてから頷いた。


「それは分かる」


「聞いた話は聞いた話。自分で確かめたことは確かな話。そのくらいは分けてる」


「ブルームーン、行ってみたい」


「来ればいいよ。普通のバーだから」


「ギャングばっかりとかじゃなくて?」


「会社帰りの奴も来るし、レーサーもメカニックも来る。ギャングが飲みに来ることもあるし、非番の警官が座ってる時もある」


「本当に普通なんだ」


「普通じゃなきゃ店続かねえよ」


 レイはそう言って笑った。


「まあ、近く来たら寄ってくれ。神谷の顔も覚えたしな」


「はい」


 悠斗は頷いた。


     ◇


 少しして、悠斗たちはスクエアを出た。


 先頭はアキラの黒いクーペ。その後ろにナナのバイク、悠斗のヴェローチェ、最後尾に蓮のレイザー。


 シオンはアキラの助手席だ。


 夕方の中央地区はまだ交通量が多い。


 ナナは前との車間を広めに取り、交差点のかなり手前から慎重に速度を落としていた。


 最初の大きな左折では少し外側へ膨らむ。


 それでも慌てることなく姿勢を戻し、そのまま走った。


 次の赤信号で四台が停まる。


 最後尾のレイザーが少し横へ寄り、蓮が窓を開けた。


「初心者感あるな!」


「聞こえてるから!」


「今ちょっと膨らんだだろ!」


「初日なんだからいいでしょ!」


 先頭のアキラまで窓を開けた。


「ナナ、ウインカーついたまま」


「え?」


 ナナがメーターを見る。


「……ほんとだ」


 方向指示器の点滅が消える。


 蓮が耐えきれず笑った。


「初心者だ!」


「この前警察に止められた人に言われたくない!」


「それ関係なくね!?」


 信号が青へ変わる。


 悠斗は笑いながらアクセルを踏み、ナナの後ろへ続いた。


 目的地はない。


 中央地区を抜け、そのまま海沿いへ向かう。


 夕日を反射した海を横目に、四台でゆっくり流していく。


 先頭のアキラはナナが無理なくついてこられる速度を保ち、蓮も今日は最後尾から大人しくついていた。


 一度だけナナが曲がる場所を通り過ぎそうになり、アキラが少し先でハザードを点けて待つ。


 一時間ほど走る頃には、ナナの肩から最初の硬さも少し抜けていた。


     ◇


 その後、五人はいつものダイナーへ入った。


 駐車場へ着くと、ナナはバイクを停め、一度降りてから少し離れて車体を眺める。


「曲がってる?」


「ちょっとだけ」


 アキラが答える。


「やっぱり?」


「そのくらいいいだろ」


 蓮が言う。


「嫌」


 ナナはもう一度跨がり、少しだけ位置を直した。


「悠斗二号だな」


「何が?」


「自分の乗り物に急に細かくなるところ」


「俺そんな細かくないよ」


 蓮、アキラ、ナナの三人から同時に見られる。


「……何?」


「自覚ないんだ」


 ナナが笑った。


 店へ入り、料理を待っている間も、ナナは何度か窓の外へ目を向けていた。


 その先には、買ったばかりの黒いバイクがある。


「盗られないって」


「分かってる」


「じゃあなんで見るの?」


「見たいから」


「それ悠斗と一緒じゃん」


「だから俺そんな見てないって」


「見てた」


 シオンまで加わる。


「シオンまで?」


 料理が運ばれてくると、話題はそのまま車やバイクへ移った。


 蓮が向かいに座るシオンを見る。


「そういやシオンは車買わないの?」


「欲しいのはある」


「あるんじゃん。何?」


「ヴァルカン・レンジャー」


 アキラが顔を上げた。


「あのデカい軍用車?」


「うん」


「ホロ付いてるやつだろ?」


「外せる。オープンにもできる」


「シオン、意外とそういうの好きなんだな」


 シオンは平然と答えた。


「オープンなら、乗りながら銃撃てる」


「……そっち?」


「あと、撃たれても潰れにくい」


 一瞬だけテーブルが静かになる。


 蓮が呆れたようにシオンを見る。


「車選ぶ基準が完全に戦闘なんだよ」


「便利だから」


「見た目とかは?」


「見た目も好き」


「そこも好きなんだ」


 悠斗は思わず笑った。


「じゃあ買えばいいじゃん」


「探してる。でも、いいのが見つからない」


「状態いいの少ないの?」


「うん。古いのばっかり」


 そこで悠斗は、さっき会ったレイを思い出した。


「南雲さんなら、そういう車の話も知ってるかな」


「ブルームーンの人?」


 ナナが聞く。


「うん。店にも色んな人が来るって言ってたし、かなり顔広そうだったから」


「聞いてみれば?」


 シオンは少し考え、


「聞く」


 と答えた。


「カイにも聞こうぜ」


 蓮が言う。


「普通に探して見つかんないなら、知り合いに聞いた方が早そうだし」


「見つかったらみんなで見に行こう」


 アキラも乗ってくる。


 シオンは断らなかった。


「食ったらどうする?」


 蓮が聞いた。


 ナナはまた窓の外へ目を向ける。


「もうちょっと乗りたい」


「まだ走るの?」


「せっかく買ったし」


「じゃあ、もう一周するか」


 アキラが笑う。


「今度はもう少し交通量少ない方な」


「それならいい」


 悠斗も頷いた。


 今日は仕事もない。


 急いで帰る理由もない。


 食事を終えたら、また適当に街を走ればいい。


 そんな予定の決まっていない夜を、五人とも当たり前のように楽しんでいた。

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