第2章 第103話 お揃いのステッカー
翌日の午後。
悠斗が白いヴェローチェで街を走っていると、スマートフォンへカイからメッセージが届いた。
『四枚できた』
昨日頼んだ《placeholder》の追加分だ。
ちょうど赤信号で停まっていた悠斗は、そのまま五人のグループへ送る。
『ステッカーできたって』
返事はすぐだった。
『行く』
蓮。
『俺も』
アキラ。
少し遅れてシオンからも、
『行く』
と返ってくる。
最後にナナから届いたのは、少し違う内容だった。
『ごめん、今日は無理』
続けて、もう一通。
『今日、二輪の免許取りに来てる』
「今日だったんだ」
悠斗は少し驚いた。
ナナが二輪免許を取るつもりなのは聞いていたが、今日行くとは知らなかった。
『今日で取れるの?』
『受かればね』
この街では二輪免許の講習と試験を一日で受けられる。問題なく合格すれば、その日のうちに免許が発行される仕組みだった。
『私の分、悠斗受け取っといて』
『分かった』
『なくさないでね』
『なくさないよ』
『ほんとに?』
『そんな信用ない?』
『ステッカーに関してはある』
『じゃあ大丈夫じゃん』
笑っている顔のスタンプが送られてくる。
悠斗も小さく笑った。
数日前まで中古バイクを眺めていただけだったのに、もう免許を取りに行っている。
思ったより行動が早い。
信号が青へ変わり、悠斗はスマートフォンを置いてヴェローチェを発進させた。
◇
カイが働く整備工場へ着いた時には、すでに青いレイザーが停まっていた。
蓮は車の後ろで腕を組み、リアガラスを真剣な顔で見つめている。
「何してるの?」
「位置決め」
「まだステッカーないじゃん」
「だから先に決めてんの」
「そんな悩む?」
「大事だろ」
昨日まで悠斗がヴェローチェの塗装やら何やらにこだわっているのを笑っていた人間とは思えない。
「蓮も同じじゃん」
「何が?」
「いや、いい」
「なんだよ」
少しして、アキラの黒いクーペも工場へ入ってきた。
助手席からシオンが降りる。
「ナナは?」
アキラが聞いた。
「今日、二輪の免許取りに行ってるって」
「今日?」
「うん。さっき聞いた」
「早っ」
蓮が振り返った。
「この前まで見るだけじゃなかった?」
「欲しくなったんじゃない?」
「ナナ、そういうとこ行動早いよな」
「ステッカーは俺が預かることになった」
「バイク用?」
「たぶん」
話していると、工場の奥からカイが出てきた。
「今日は四人か」
「ナナは免許取りに行ってる」
「二輪?」
「うん」
「ついにか」
カイは笑いながら、小さな紙袋を持ち上げた。
「ほら、四枚」
中には昨日悠斗のヴェローチェへ貼ったものと同じステッカーが入っていた。
鋭く四方向へ伸びる星形のエンブレム。その後ろに掠れた円が重なり、右へ流れるように《placeholder》の文字が入っている。
「じゃあ100ドルな」
「うん」
悠斗はプール金から100ドルを支払った。
「まず俺」
蓮が一枚を取る。
「ここ」
指したのはレイザーのリアガラス左下だった。
「悠斗と反対じゃん」
アキラが言う。
「同じ場所じゃ面白くないだろ」
「昨日、位置揃えるとか言ってなかった?」
「俺じゃない」
「お前だった気がするけど」
「記憶にない」
「昨日だぞ」
カイが苦笑しながら、蓮の指定した位置へステッカーを合わせる。
蓮は横から何度も角度を確認した。
「もうちょい左」
「これくらい?」
「ちょい上」
「細けえな」
「貼った後に気になったら嫌だろ」
位置が決まり、カイが丁寧に貼り付ける。
青い車体と黒いリアガラスに白いロゴが加わると、想像以上によく目立った。
「おお……いいじゃん」
蓮は数歩下がり、今度は少ししゃがんで眺める。
「そこまで見る?」
「見るだろ」
「満足?」
「めっちゃ満足」
「分かりやすいな」
次はアキラだった。
「俺は右上」
「悠斗と同じ?」
「黒いクーペならここが一番綺麗だろ」
アキラもカイの横から位置を確認する。
「そこ。もうほんのちょい上」
「ここ?」
「そうそう」
貼り終えると、アキラもすぐに少し離れた。
「やっぱ俺のが一番似合ってない?」
「それはない」
蓮が即答する。
「お前、さっき自分の見て同じこと思ってただろ」
「思ってるけど?」
「じゃあ人の否定すんなよ」
悠斗は残った二枚を見る。
一枚はナナの分だ。
「ナナのは俺が預かるよ」
「バイク買ったら貼るんだろ?」
カイが聞く。
「そう言ってた」
「じゃあ折んなよ」
「そんな雑に持たないよ」
「悠斗なら大丈夫だろ」
アキラが言った直後、蓮が口を挟んだ。
「ヴェローチェに置いて、そのまま忘れそう」
「しないって」
「一週間後にシートの下から出てきたりして」
「だからしないよ」
悠斗はステッカーを台紙ごと紙袋へ戻し、折れないようヴェローチェの後席へ置いた。
「で、最後はシオン」
カイが残った一枚を差し出す。
シオンは受け取ると、しばらくロゴを眺めた。
「俺の分、テンペストに貼ればいい」
「テンペスト?」
「自分の車ないし。五人で使ってる車だろ」
アキラがすぐに頷く。
「それいいじゃん」
「テンペストにも一枚あった方がいいな」
蓮も賛成した。
「じゃあ後で貼りに行く?」
悠斗が聞く。
「いい」
シオンが短く答える。
カイのところでの用事は、それで終わった。
悠斗がヴェローチェへ戻ろうとしたところで、蓮がレイザーへ寄りかかったまま声をかけてきた。
「このあとスクエア行く?」
「スクエア?」
悠斗は反射的に聞き返した。
「知らない?」
「いや、場所は知ってるよ」
「じゃあ何で聞き返したんだよ」
「行こうって言われたの初めてだから」
蓮が首を傾げる。
「タクシーやってた頃、何回も客を送ったことある」
「じゃあ行ったことあるじゃん」
「中には入ったことない」
アキラが不思議そうに見る。
「なんで?」
「……一人であそこ入るの、ちょっと無理だった」
一瞬だけ間が空いた。
蓮が納得したように頷く。
「ああ」
「何その反応」
「悠斗だなって」
「それで全部納得しないでよ」
アキラが笑った。
「まあ、知り合い一人もいない状態で最初に入るのはちょっと勇気いるけどな」
「だろ?」
「今はいるじゃん」
悠斗も少し笑う。
スクエアの存在は、タクシーを始めた頃から知っていた。
夕方になると車が増え、客を降ろすために近くまで行けば、何人もの人間が駐車場や広場で話しているのが見えた。
生前に見ていた配信にも、よく似た場所があった。
特に用事がなくても人が集まる。
車を並べる。
知らない人間同士で話す。
警察がふらっと顔を出す。
そこから突然レースへ行ったり、何かの仕事が始まったりする。
初めてスクエアを見た時は、この街にもこういう場所があるのかと嬉しくなったくらいだった。
それでも、自分から入ったことはない。
タクシーで客を降ろし、少し気になりながら、そのまま走り去る。
当時の悠斗には、それが限界だった。
今は蓮も、アキラも、シオンもいる。
「……行きたい」
悠斗が言う。
蓮が笑った。
「じゃあ行こうぜ」
「先にテンペストな」
アキラが言う。
「ステッカー貼ってから」
「うん」
◇
三台でテンペストを置いている場所へ向かった。
白いヴェローチェ。
青いレイザー。
黒いクーペ。
シオンはアキラの助手席だ。
テンペストの前へ着くと、四人でリアガラスを眺める。
「後ろだろ」
蓮が言った。
「側面でもよくない?」
アキラが返す。
「目立ちすぎるだろ」
「じゃあ真ん中?」
「真ん中は主張強くない?」
悠斗が二人を見る。
「ステッカー一枚でそんな悩む?」
「こういうのは大事なんだよ」
蓮が真顔で答える。
アキラが笑った。
「お前、自分のレイザーの時もずっと位置見てたもんな」
「だから言ってんだろ。貼った後に気になったらずっと気になるんだよ」
「細かいなあ」
「車は細かいとこ大事なんだよ」
結局、シオンが指したリアガラスの中央より少し右へ貼ることになった。
悠斗が位置を合わせる。
「そこ、ちょっと右」
アキラが言う。
「え?」
「いや、やっぱ左」
「どっち?」
「一回離れて見よう」
「まだ貼ってないのに?」
蓮まで横から口を出す。
「あとちょっと右じゃね?」
「蓮、ちょっと静かにして」
「俺だけ!?」
当のシオンは途中から何も言わなくなっていた。
どうにか貼り終える。
黒いテンペストのリアガラスに、白い《placeholder》が浮かんだ。
「いいじゃん」
蓮が満足そうに眺める。
「これで全部同じの付いたな」
「ナナのバイクはまだだけど」
悠斗が言う。
「買ったら貼ればいいだろ」
アキラが答える。
悠斗はテンペストの後ろを撮影し、ナナへ送った。
『シオンの分、テンペストに貼った』
返事はまだ来ない。
講習か試験の途中なのだろう。
「じゃあスクエア行こうぜ」
蓮が言う。
「うん」
今度は悠斗も迷わなかった。
◇
中央地区へ近づくにつれ、交通量が増えていった。
スクエアまでの道は悠斗も知っている。
それでも今日は蓮のレイザーが先頭を走り、その後ろをヴェローチェ、アキラの黒いクーペが続いた。
見覚えのある角を曲がる。
広い公共駐車場と、それに隣接した小さな広場が見えてきた。
周囲にはコンビニや軽食店、ATM、ベンチが並んでいる。
以前なら、この入口付近で客を降ろして終わりだった。
今日は違う。
蓮のレイザーが、そのまま駐車場へ入っていく。
悠斗もヴェローチェで後を追った。
少しだけ緊張する。
平日の夕方なのに、駐車場にはすでに何台もの車が停まっていた。
車高を落としたクーペ。
派手なホイールを履いたスポーツカー。
古いセダン。
大型SUV。
仕事用らしいバン。
車の横で話す若者たち。
ベンチで飲み物を飲んでいる男女。
ボンネットを開け、数人で中を覗き込んでいる者もいる。
少し離れた場所にはバイクが何台か並んでいた。
端には一台のパトカーまで停まっている。
警察官は誰かを取り締まっているわけではなく、窓越しに数人と雑談していた。
「……中から見ると全然違うな」
悠斗は思わず呟いた。
タクシーから眺めていた時より、ずっと人の声が近い。
エンジン音も、笑い声も、缶飲料を開ける小さな音まで聞こえる。
そして何より、その空気が懐かしかった。
生前、配信で何度も眺めていた場所とよく似ている。
建物も車も人間も違う。
それでも、暇だから集まり、誰かが来れば声をかけ、そこから何が始まるか分からない。
その感じだけは同じだった。
「何ニヤニヤしてんの?」
隣へレイザーを停めた蓮が窓を開ける。
「してないよ」
「してた」
「……こういう場所なんだなって思って」
「前から見てただろ」
「外からしか見てないから」
「じゃあ今日はちゃんと中な」
「うん」
三台を並べて停め、車を降りる。
その時、少し離れた濃紺のスポーツセダンの横から、一人の男がこちらへ歩いてきた。
二十代前半くらい。
黒いパーカーにジーンズ。片手には缶コーヒーを持っている。
視線は最初から悠斗のヴェローチェへ向いていた。
「その白いの、見ない車だな」
「あ、最近買ったんです」
「アーデン?」
「はい。ヴェローチェです」
「いいな。白似合うじゃん」
「ありがとうございます」
男はそこで軽く手を上げた。
「俺、相良ユウキ。ここよくいるから、たぶんまた会う」
「あ、神谷悠斗です」
「久我蓮」
「水城アキラ」
シオンも少し遅れて、
「御影シオン」
とだけ名乗る。
「よろしく」
ユウキは四人を見回したあと、ヴェローチェのリアガラスへ目を向けた。
「そのステッカー、後ろの二台にも付いてるよな?」
悠斗も振り返る。
白いヴェローチェ。
青いレイザー。
黒いクーペ。
三台とも《placeholder》のステッカーが貼られている。
「みんなで同じの作ったんです」
「チーム?」
「はい。半グレ仲間でいつも一緒に動いてます」
「なるほど」
ユウキがステッカーを読む。
「Placeholder?」
「はい。それがチーム名です」
「へえ。覚えやすいな」
蓮がすぐに口を挟んだ。
「俺のレイザーが一番似合ってるんで」
「聞いてねえよ」
アキラが即座に返す。
「なんで全員俺に厳しいんだよ」
ユウキが笑う。
「仲いいな、お前ら」
「こいつが勝手に張り合ってくるだけです」
「アキラも自分のが一番って言ってただろ」
「言ってない」
「言った」
「記憶にない」
「さっきの俺の真似すんなよ」
初対面の相手がいるのに、自然に笑いが出る。
以前の悠斗なら、知らない人間が一人混じっただけで何を話せばいいのか分からなくなっていただろう。
「俺はギャングとか入ってないから、ここで車見たり、たまにレース行ったりしてるだけ」
ユウキは自分の濃紺のセダンを親指で指した。
蓮がすぐ反応する。
「何いじってる?」
「足とブレーキ。エンジンはまだ」
「見ていい?」
「いいよ」
蓮はもう歩き出していた。
「早いな」
悠斗が苦笑する。
「車の話になると大体あんな感じ」
ユウキも笑った。
「スクエアじゃ普通だよ。車持ってきたら誰かしら見に来るから」
周囲を見れば、確かにあちこちで似たようなことが起きている。
初対面らしい二人がホイールについて話し、その横では三人ほどがボンネットの中を覗き込んでいる。
誰かと知り合うための決まった手順なんてない。
気になる車があれば話しかける。
名前を知る。
次に会えば挨拶する。
それだけなのだ。
タクシーの中から眺めていた時には分からなかった。
実際に入ってみると、思っていたよりずっと気楽な場所だった。
◇
しばらく車を見ながら話していると、悠斗のスマートフォンが震えた。
ナナからだった。
『免許取れた!』
「お」
「ナナ?」
アキラが覗き込む。
「取れたって」
「早かったな」
続けて、発行されたばかりの二輪免許証を手に持った写真が届く。
『おめでとう』
『ありがと』
『テンペストのステッカー見た』
『私のもちゃんと持ってる?』
『持ってるよ』
『ならよし』
さらに、
『今どこ?』
と届いた。
『スクエア』
返事はすぐだった。
『そこいるんだ』
『うん』
『私も行く』
悠斗は少しだけ首を傾げた。
『もう終わったの?』
『終わった』
『じゃあ待ってる』
『了解』
それだけだった。
「ナナも来るって」
「じゃあしばらくいるか」
蓮が言った。
「どうせここいたら暇しないし」
ユウキも頷く。
「夕方からもうちょい増えるぞ」
それから十数分ほど経った頃だった。
スクエアの入口から、一台のバイクが入ってきた。
黒を基調にした小柄なネイキッドタイプ。
大型車ほど威圧感はないが、引き締まった車体に短めのテール、街中でも扱いやすそうなサイズだった。
「お、あれいいな」
蓮が何気なく入口へ顔を向ける。
「軽そう」
アキラも見る。
悠斗もつられて視線を向けた。
バイクはゆっくり駐車場へ入り、そのままこちらへ近づいてくる。
「……こっち来るな」
蓮が言う。
「知り合い?」
「俺は知らない」
アキラが答えた。
バイクはヴェローチェの近くまで来ると停まり、エンジン音が消えた。
ライダーが片足を地面へつく。
黒いジャケットに細身のパンツ。
フルフェイスのヘルメット。
悠斗は何となくその姿を見ていた。
ライダーが顎のあたりへ手をかけ、ヘルメットを外す。
中から長い髪が落ちた。
「お待たせ」
「……え?」
悠斗は一瞬、本当に理解できなかった。
蓮が目を丸くする。
「ナナ?」
「うん」
ナナは普通の顔で答えた。
アキラがバイクとナナを交互に見る。
「ちょっと待って。何それ」
「バイク」
「それは分かる」
蓮が前へ出る。
「買ったの?」
「うん」
「今日?」
「今日」
「今日免許取ったんだよな?」
「そうだけど」
「そのまま買ったの!?」
ナナはヘルメットを抱えたまま、少しだけ得意そうに笑った。
「欲しかったから」
「行動早すぎるだろ」
アキラが笑う。
悠斗も驚きながらバイクを見る。
「この前見てた大きいやつじゃないね」
「うん。あれは実際に跨がったら大きかったからやめた」
ナナは自分のバイクのシートへ軽く手を置く。
「もっと軽いの探してたら、これ見つけた」
「中古?」
「そう。免許取った後に見に行って、状態も悪くなかったから買った」
「即決?」
蓮が聞く。
「一応ちゃんと見たよ」
「一応なんだ」
「失礼だな」
ユウキが少し離れたところから笑っていた。
「友達?」
「あ、はい」
悠斗が答える。
「雨宮ナナです」
ナナが軽く頭を下げる。
「相良ユウキ。よろしく」
「よろしく」
蓮はそれどころではないらしく、バイクの周囲を一周している。
「いいじゃん。これ街乗りしやすそう」
「でしょ?」
「色も黒だし、ステッカー似合うんじゃね?」
その一言で、悠斗も思い出した。
「あ」
ヴェローチェの後席に置いた紙袋を取りに行く。
戻ってきて、中からナナのステッカーを取り出した。
「これ」
ナナの表情が明るくなる。
「ちゃんと持ってた」
「だから持ってるって言ったじゃん」
「じゃあ貼ろ」
「今?」
「今」
即答だった。
「位置どうする?」
蓮が急に真剣な顔になる。
「お前が決めるなよ」
アキラが笑う。
「バイクならどこだ?」
「リアの横とか?」
「タンクは?」
「そこは違う」
「ナナが決めるだろ」
四人が好き勝手に言い始める。
ナナは少し考えてから、車体後部の小さなカウルを指した。
「ここがいい」
「見える?」
悠斗が少し屈んで確認する。
「後ろ斜めからなら結構見える」
「じゃあそこ」
紙袋に残っていた台紙を使いながら位置を合わせる。
「曲がってない?」
「もうちょい前」
「いや、今のでいい」
「蓮は黙ってて」
「なんで今日はずっと俺だけ!?」
ユウキが横で笑っていた。
ナナ自身が最後に位置を確認し、ステッカーを貼る。
黒い車体に、白い《placeholder》の文字とエンブレムが浮かび上がった。
ナナが少し離れて眺める。
「いいじゃん」
「似合ってる」
悠斗も素直に言った。
「これで本当に全員分だな」
アキラが言う。
悠斗は周囲を見る。
白いヴェローチェ。
青いレイザー。
黒いクーペ。
少し離れた場所にあるテンペスト。
そして今日増えた、ナナの黒いバイク。
全部に同じ《placeholder》が付いた。
最初は、自分の車に何か格好いいステッカーを貼りたいと思っただけだった。
それがいつの間にか五人全員の印になっている。
「写真撮ろうぜ」
蓮がスマートフォンを取り出した。
「全部は無理だろ。テンペストここにないし」
「じゃあ今日は四台」
「シオンの車ないだろ」
「シオンはテンペスト担当」
シオンが静かに言う。
「それでいい」
「本人がいいならいいけど」
四人の車とバイクを少し並べ直す。
スクエアの駐車場で、悠斗たちは何枚か写真を撮った。
知らない人たちの話し声。
車のエンジン音。
遠くで笑う警察官。
また一台、新しい車が入口から入ってくる。
特別な事件は何も起きていない。
それでも悠斗は楽しかった。
昔は、タクシーの窓越しにこの場所を眺めていただけだった。
今日は自分の車で入り、知らない相手と名前を交換し、仲間と車を並べている。
「悠斗」
ナナがバイクの横から呼んだ。
「何?」
「今度、一緒に走ろ」
「バイクと車で?」
「うん」
「置いていかれそう」
「まだそんな速く走れないよ」
「今日免許取ったばっかだもんな」
蓮が笑う。
「じゃあ俺が教えてやるよ」
「蓮は嫌」
「即答!?」
また笑い声が上がる。
悠斗もその輪の中で笑った。
もう、外から見ているだけではなかった。
お読みいただきありがとうございます。
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