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閑話 1 揚げ物の気分

 

「どう?美味しかった?」

「うん。やっぱり味は感じなかったけど、でもなんだか味が分かってた時みたいに美味しく感じた」


 もぐもぐとたまごパンを咀嚼しながら問いかけてくる楓杜君は、私のその返答に何やら満足気に頷いた。


 一番最後にたまごパンを焼き、一番最後に食べ始めた莉恋ちゃんちゃんはもう既に食べ終わり食後のヨーグルを食べると言って冷蔵庫を漁っている。


 当の私も今しがた食べ終わり、食器を流し台に持って行きシンクにあるスポンジでお皿を洗おうとする。


「ノンノン。お皿洗いはうちに任せな。楓ちゃんは今日一日疲れたじゃろ?一番風呂入って来なよ」


 まぐまぐと立ちながら冷蔵庫から出したヨーグルトをスプーンで掬って食べている莉恋ちゃんにはしたないぞと楓杜君が野次を飛ばす。


「え、良いの?」

「うん。揚げ物子人シリーズ使ってきな?楓ちゃんが一番に使ってくれたらうちらも入浴剤のお風呂入れるし」


 部屋の移動と共に持ってきていた机に置かれたバスボムを楓杜君が持ち上げ緩く振る。


 もぐもぐと咀嚼しながらその裏パッケージを眺め、「次はオニオンリングも登場せんかな」と独り言を呟いていた。


 反応を見るに、本当に特に何も思ってい無さそうだったので有難く一番風呂を頂くこととした。


「あ、服はうちらと洗濯しても大丈夫そ?」

「うん。私は大丈夫だけど寧ろ二人は大丈夫なの?」


 赤の他人が、双子ちゃんと一緒に生活を共にするということは、二人が一緒に行なっている所に私が割り込む形となる。


 そうなれば、日々の洗濯や食事で使う食器の共有、そしてお風呂の共有。


 その全てを共有する事となる。


「俺、特にその辺こだわりない」

「うちも大丈夫!!じゃったら洗濯物は洗濯機の上に置いとる籠に入れといちゃって!」

「うん」


 まぁ、そこが気になるのであれば、そもそもが初対面の人間にうち来る?などと誘ったりはしないだろう。


 かくいう私も、特にそういった点にこだわりは無いのであまり気にしない質の人間な為この誘いを受けたのだが。


「シャンプーとかはお風呂場の棚の下から二番目にあるうちの使ってええけぇね〜」


 行ってらっしゃーいと二人に手を振られ、一旦着替えを取りに向かうため、私の為にとあてがわれた部屋へ向かう。


 簡易的に敷かれた敷布団と持ってきていたショルダーバックとキャリーケース以外何も無い殺風景な部屋。


 キャリーケースを横倒しにし、チャックを開け持ってきていた下着と寝間着を取り出しお風呂場へと向かう。


 脱衣所で上着から順に、ズボンと下着を脱ぎ、先程持たせてくたれたバスボムを手に持ち、扉を開ける。


 座椅子に座り、頭を洗う為浴槽に張られたお湯を一度、湯桶で掬い頭からかける。


「…………はぁ〜……」


 熱々のお湯が頭から全身に滴り落ち、その温かさが体の芯に染み渡り自然と吐息が漏れる。


 目の前の鏡の右側に設置された小棚に目をやり、先程莉恋ちゃんから教えてもらった下から二番目のシャンプーリンス、ボディソープを棚から下ろす。


 ワシワシとシャンプーで髪の毛を泡立て、リンスをするりと髪につける。


 シャワーで流すのを待っている間にボディーソープを手に取り、流石にボディタオルを共用で使うのは不味いと思い、自らの手で頑張って泡立て自身の体をくまなく洗う。


 シャワーで全身を洗い流せば、なんだか悪い物も一緒に落ちたのかと言うように清々しい気分に陥った。


「よし………」


 今日一日の汚れを洗い流し、ピカピカになったところで、早速二人が持たせてくれたバスボムと共に入浴タイムだ。


 お風呂場に持って入っていたバスボムの封を開け、中に入っている白と黄色のマーブル模様の球体を手に持つ。


 楓杜君曰くこのバスボムがシュワシュワとお湯に溶けていく時にお湯に浸かっていれば、揚げ物の気分を味わえると言う。


 一度ゴクリと唾を飲み込み、意を決して手に持ったバスボムと同時に湯船へと直行!!


「………うわぁああ〜〜………あったかぁ〜〜」


 入った瞬間の足先から全身へと広がる調度良い湯船の温度感に、抑えきれない声と共に天を仰ぐ様に悦に入る。


 このお風呂に入った時の何とも言えない多幸感。


 湯船に浸かる文化のある日本人なら誰しもが分かるであろうこの感覚。


 この瞬間は何物にも代えがたい一種の心のケアの様なそんな効果があると言っても過言では無いだろう。


「………お、……お、お?」


 浸かった湯船に視線を落としてみれば、透けて見えていたお湯が徐々に徐々に白く泡立っていきやがて湯船全体がシュワシュワと泡で覆われ始めた。


 色も、段々と薄黄色に着色されていき、下から上へと立ち上って行く泡を全身で浴びればまるで自身が油であげられている感覚に陥らされる。


 肩まで浸かりその湧き出す炭酸泡を眼前に見つめていれば、揚げられているエビフライの気持ちになる。


 体制的にも、頭がエビフライのしっぽのよう。


「………フッw」


 油で揚げられるエビフライを思い浮かべ、その姿とこの状況を脳内で比較し、思わず吹き出す。


 一度右手を湯船から上げ、つつっと辿ってみれば、その肌はツルスベ肌と化していた。


 シュワシュワとした泡が段々と落ち着いてきたと思えば、足元の方から水面に小さくなったバスボムが浮かび上がってくる。


『カキフライが出んくてさ』


 先程の部屋紹介の時に言っていた楓杜君の言葉を思い出し、その浮かんできたバスボムに飛び付くように掴む。


 白と黄色のマーブル模様のバスボムの欠片を今一度お湯に浸け少しずつ手で解していく。


 あわよくばカキフライが出ないかとソワソワしながら、見えない湯船の中で手探りに形を確認する。


「…………これは…」


 全てのバスボムが溶け終わり、右手に握りしめたフィギュアを眼前に持ってこさせゆっくりと掌を開く。


 そこにあったのは、黄金色の小麦に身を包まれ、ひょこっと顔を出す赤橙のしっぽが特徴なエビフライのフィギュアだった。


「あちゃあ……私の格好がエビフライみたいって思ったからかな…………」


 物欲センサーが働いたのか、どうやら私もカキフライを当てることは叶わなかった。


「………んでも、やっぱ可愛いな」


 お風呂内の室内灯に照らされるよう天井に向けて掲げ、光に照らされるエビフライのフィギュアを見る。


 意外と繊細な作りになっていて、リアルに見えつつも、揚げ物小人シリーズというタイトルに違わぬ、程よいデフォルメ加減を再現していた。


 このリアルなエビフライにデフォルメの小っちゃい手足が小さき命っぽくて非常に胸を擽られる。


 確かにこれは、コレクション魂に火がつく理由も分かる。だってこんなにも可愛くて美味しそうなんだもの。


 シュワシュワとした炭酸泡が落ち着いた湯船に再び肩からゆっくりと浸かり、プリプリとした食感とサクサクとした衣のエビフライに思いを馳せる。


「エビフライ食べたくなってきた………」


 味が分からなくとも、食感だけでも充分楽しめそうだなと、思いに耽る。


 以前までは味覚以外で食事を楽しく行えると考えていなかった私が。


 自然とそんな思考回路になっていた事に自分自身でも心底驚き、また一人で静かに笑ったのだった。

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