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5話 なるがまま②

 開いた口が塞がらずに思わず莉恋ちゃんと楓杜君それぞれをガン見する。


「いや!?軽ぅ〜〜!?というかさっきもこんな感じのやり取り、見た!!」


「まぁ俺達、血が繋がっとるもんで」


 またしても、初対面で全く関係値が紡がれていない筈なのに、見知らぬ身元不明な私を受け入れる茉莉奈さんの懐の深さに、血縁関係に当たる莉恋ちゃん、楓杜君と同じ血を感じた。


「流石茉莉奈ねーちゃん!!分かってくれると思った!」

「話早いね〜」

「いやいやいやいや!!!!」


 喜んだように莉恋ちゃんと楓杜君が声を上げ上品に椅子に座る茉莉奈さんの方へと莉恋ちゃんは駆け寄っていく。


 さっぱり意味が分からない。普通このようなバイト採用然り、パート採用然り。正社員採用で採用試験は愚か、人となりを知るための面接を行わずに採用など前代未聞だ。


 まぁ、この従業員募集というのがアルバイト枠なのかパート枠なのか正社員枠なのか。そもそもその時点からの詳しい詳細を知らずにここで働きたいとほざいている私も私なのだが!!


 いや、それよりもおかしい!!!!!


「そんな!なにも面接を行わずに採用なんてありなんです!?」

「うっふん!だってここは私の花園よ?此処で雇う人は私ですもの」


 何やら自慢げにドヤ顔を披露する茉莉奈さんを見ながらまだ手元の皿に残っているガトーショコラをつついている楓杜君は「よっ流石雇用主」とかほざいている。


「私だって誰でも彼でも雇うわけじゃない。楓ちゃん貴方を雇っても良いと思った理由もちゃんとあるのよ」


 そう言って茉莉奈さんは一度椅子から立ち上がり、壁の方へと歩いていく。その方向は先程私が見とれていた色とりどりの食欲を唆られる美しい写真が飾られたコルクボードの方だった。


 茉莉奈さんが歩いて行く後ろ姿を私達三人が律儀に目で追っていると、コルクボードの前で立ち止まったと思えば写真を刺している紅葉型の画鋲を幾つか抜き再びこちらへと帰ってくる。


「私は食べることが好きな人が好き。食べることとは人間の生命維持として大切な行動原理であるからして必ず行わなければならない。いわば人間社会に生きていく社会人が税金を収めないといけない義務があるのと同義」


 茉莉奈さんはコルクボードから剥がしてきた、美味しそうなエクレアとパンケーキの写真を机上の空いている空間に静かに置く。


「であれば私達人間が生きていくために必要なその義務的な行為を楽しく行うとすれば、なにが一番手っ取り早いとおもう?」

「⋯………楽しく?」


 質問の意図が理解できずに頭をかしげていれば、目の前にいる楓杜は既に答えが分かっているのか何やらうんうんと頷きながら美味しそうに口をもぐもぐと動かしていた。


 同様に茉莉奈さんの椅子の側で立っていた莉恋ちゃんもニッコリと口元に弧を描きうんうんと頷いていた。


 なんだろう、これはこの親戚筋の中では至極当然に分かる謎掛けだとでも言うのだろうか。


「……誰かと一緒に食べるとか?」

「うーんそれも正解じゃけど、今回に関してはそれよりももっと前段階の話じゃね」


 一度考え、口にした解答もあながち間違いではないものの、どうやらまた別の百点満点の正解が隠されているようだった。


 見当がつかず益々脳内に疑問符が大量生産され、最早私の今のボキャブラリーではお手上げという結論に至り、ギブアップを申し出ると茉莉奈さんはゴホンっと咳払いをする。


「正解は、自分自身が体に取り入れる食事を五感で堪能すること」


 その言葉を放った茉莉奈さんの表情は先程と然程変わらない優しいもののはずなのに、室内を照らす橙色の温かな明かりと相まり何故か狂気的ななにかを感じ、ゾクッと背筋に震えが走る。


「そー!ご飯を食べる時に大事なのは人間が備え持つ五つの感覚!」

「まず聴覚で調理されている音を耳で聞いて視覚でその過程を眺め、出来上がりの料理を目で捉える。次に嗅覚で漂ってくる香りを捉えその情報によって脳内にどんな味が今から体に取り入れられるか期待感を持たせる」


 楓杜君は自身の目元を指差し、準じて鼻先をトントンと軽くつつく。


「そんで、嗅覚で香り立つ香ばしい香りじゃったり、甘くまろやかな香りとかををキャッチする。更に!味覚で甘味・酸味・塩味・苦味・旨味を味わって、触覚で温度感と痛覚による辛味を感じる。仕上げに!その食べ物の食感を口の中で感じて噛む音を耳で聞き取る!」


 続いて莉恋ちゃんは自らの舌をべっと出しそこへ指を指す。


「これら全てを隅から隅まで堪能することによって一つ一つの料理がぜ〜〜〜んぶ!!美味しく食べられて楽しく食べられる!!!」

「よく世間は『食事は何を食べるかより、誰と食べるか』なんて言われとるけど、俺達彩羽家は『美味しい食事は楽しい空間で』がモットーなのです」


 堰が切れたかのように双子である二人は息ピッタリにその華麗なる話術で、私を力説するかの如く食事の楽しさと、その楽さを堪能するための五感の役割を交互に掛け合う。


 よく言えましたと言わんばかりに、薔薇ジャムボンボンを頬張る茉莉奈さんは満足げな表情を浮かべていた。


「何も舌で感じる味覚だけが味覚じゃない!視覚情報で感じる見た目の美味しさも、聴覚情報で聞くお肉が焼かれる音も、噛んで感じる食べ物の食感も!全部が立派な味覚!」


「見た目が悪い料理を見たって食欲が失せるだけじゃろ?じゃあその反対は食欲促進……それじゃったら食べたくもなるし、よりいっそう美味しく感じて幸福感を感じる」

「そう。だからこそ、心の調子が整って楓ちゃんの五感全てが元通りになるお手伝いがしたいのよ。それが私が貴方を雇いたい理由よ」


 そう言ってふんわりと笑った茉莉奈さんは、その表情に似合わず快活そうに、左手の親指を立てグッジョブポーズをとる。


 やはりこの親族達。


 食に関する事に対しては、度を越すほどのお人好し。


 彼女らが行う食事とは、ただ体へと栄養を補給するための行為ではなく、人生を彩る為の一つの手段である。


 それをモットーとして生きているが故に、食事の楽しさを忘れてしまった私を偶然見つけ、手助けしてくれると言う。


「心躍る食事には、味覚がなくとも美味しさが伴う!ついでに美味しいものを食べたら本能的にストレス発散になって、味覚が戻るかもしれんし……じゃけぇ……」


「「取り敢えず騙されたと思って食べてみて!!」」


 爛々と輝くその笑顔で私に目の前の美味しさの塊であるガトーショコラを食べさせようと、二人が身を乗り出す。


 私の鼻には漂ってこないはずのチョコの風味が漂ってくるような気がして、思わず目を見張る。


 視覚情報から得られる、キラキラとした薔薇ジャムときめ細かい断面をした程よい焼き色のガトーショコラの美味しさ。


 こんなにも、私を思い手助けしたいと手を差し出してくれる人達が今までに居ただろうか。


 味を感じず、美味しいものを美味しいと言えない可能性が高い筈なのに、それなのに。


 それでも自分達が食べて美味しいと思い、感じた幸福を少しでも共有したいと言う願うその真剣な熱量を浴びてしまえば。


 それは私にとって眩しい光に見え、迷惑をかけているかもと肩肘張っていた意地が何だか馬鹿らしく感じてきた。


 だってこの場に居る誰一人として、私に対しての嫌悪感を抱いている様子が一切無いのだから。


「ま、負けました……」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべたのは、この場にいる私以外の三人。


 にんまりと微笑んだ表情のまま、席を立っていた莉恋ちゃんが再び私の隣へと着席する。


 ここまで言われてしまえば、私ももう引き下がれない。


 一旦、本当に就職するかどうかという事項を頭の隅に置いておき、目下の目的である目の前のガトーショコラと再び相見える。


 ゴクリと生唾を飲み込み、用意されていたフォークを手に取る。


 クンクンと匂いを嗅いでみるものの、やはり私の嗅覚はお休み中なようで、体内に入ってくるのは無味の空気のみ。


 意を決してフォークをガトーショコラの表面へ滑らせ、ゆっくりと上から下へ切り込み、一口サイズに分ける。


「ほらほら、この薔薇ジャムもつけて食べてご覧よ」

「………うん」


 最後の一口をフォークに突き刺した楓杜君が、私の腕を誘導するかのようにガトーショコラの上部にかけられている薔薇ジャムを指さす。


 切り分けた一欠片をフォークに刺し、言われるがままに赤い宝石のようなジャムを拭い取り見事なチョコレート色をしたガトーショコラに鮮やかな赤色のジャムと花弁が絡まる。


「…………ん、あ、……あぐ」


 何故か妙に緊張し、咀嚼する際に喃語のようなものが零れながらもガトーショコラを一口頬張る。


 外側のサクッとした表面の生地が内側のしっとりとした生チョコのような舌触りが広がる。


 噛んでいくうちにガトーショコラとはまた違うジェルの様な冷たさが舌を転がり喉奥へと飲み込まれる。


「舌に残るチョコレートの風味が〜薔薇ジャムに合わさって濃厚なのに鼻から抜けるのは薔薇の香水のような香り」

「意外と薔薇ジャムが甘酸っぱくて、甘いチョコの味をスッキリさせてくれるんよ」


 いつも通り味がせず、その申し訳なさに段々と下がっていっていた気分を打ち消すかの如く莉恋ちゃんと楓杜君により事細かな味の感想を述べられる。


 驚いて、二人を交互に観れば、もう一口食べるように催促され先程と同じく一口分を切り分け、薔薇ジャムを絡ませる。


「そう、そのまま口の中に入った瞬間にチョコレートの甘さが口に広がる」

「ねっとりとした生地が舌に絡み付いて、一緒についてきた薔薇ジャムが少しの酸味を加えるのさ」


「………!」


 あ、と口を開け口に含んだと思えば、二人は今度はそれと同時に私の動きに合わせて食レポを行う。


 嗅覚情報と味覚情報を遮断された他の三感でしか食事を味わえない私の体は、現在正常な香りと味を認識出来ない。


 その筈なのに。


 二人の食レポから得る情報は私が味を感じていないと脳で分かっていても、自然と口内に滞在するガトーショコラの風味が口いっぱいに広がっていると錯覚させた。


 視覚で目の前の美味しそうなガトーショコラを捉え、聴覚で味の情報を聞き、触覚で口内に広がる温度感と食感を感じ、響く音を聴覚が拾う。


 噛む度に咀嚼音が耳に響き、段々と噛む速度が落ちていく。


 それに気づいた時には、私はポロポロと両方の瞳から涙が流れ落ちていた。


 この空間の居心地の良さと、久々に体験した食べ物に対して期待感を持てたという嬉しさ。


 加えて、二人の優しげな声色で告げられる、チクチクとした言葉では無い、私に寄り添うような、意志を確認してくれるような。


 そんな優しさが胸に染み入り、じんわりと私の涙腺を刺激し自然と涙が生成される。


 すると自然に喉奥から嗚咽が込み上げてくるのを感じ、押さえ込もうと身を縮めれば莉恋ちゃんが背に手を回し赤子をあやすかのように背筋をポンポンと優しく摩り始めた。


「ふふん、流石俺の食レポ力。俺にかかれば味覚なぞ無くとも美味しさを感じさせることが出来るんじゃ」


 勝ち誇ったように、ドヤ顔を晒し、それを見た莉恋ちゃんはそれに対抗するかのように、頬をプクっと膨らませ楓杜君の方をジトっと見つめる。


「はぁ〜〜??いやうちじゃし。うちのが完璧じゃったし」

「いいや、俺じゃね。俺はお前の抽象的な表現を現実的表現に直したんじゃけぇ」

「いやいや抽象的表現の方が想像力が掻き立てられて美味しくなるんですぅ〜〜」

「い〜や俺じゃね」

「うちじゃ!」

「まぁ、まぁ、二人とも落ち着きなさいな」


 何やら私の涙が止まらず、まともに喋ることの出来ない現状で、莉恋ちゃんと楓杜君はどちらが私の味覚を刺激できたかを言い争い始めた。


 割と低い次元での言い争いのような物言いが少し可笑しく感じ、軽く喉を鳴らして笑う。


「あ、ほら俺が楓ちゃんを笑わせれたぜ」

「いーーや!!うちや!!」

「………フフ…いや、どっちもだよ」


 これ以上放置していれば双子の二人は、息ぴったりなまま言い争いを続けてしまうと思い、自らの手で涙を拭いその会話に割って入る。


「ありがとう莉恋ちゃん、楓杜君。味は、やっぱり感じなかったけど、でも………」



「こんなに心地良くて、美味しそうだって思って優しい人の声を聞きながら食べ物を食べたのは久しぶりだよ」


 会社に務め、仕事終わりに帰る社員寮。


 部屋こそ一人部屋であったものの、少々壁の薄かった集合住宅は、同じ女性社員である私が苦手意識を持ってしまっていた社員さんと部屋が近かった。


 勿論、部屋の環境音等が全て相手に筒抜けという訳ではなかったが、常に近場に肩肘張る相手が居ると思えば、とてもじゃ無いが心が休まる時間など無いにも等しかった。


 毎日の職場で会うのは勿論の事、時間帯が被れば諸に社員寮の食堂で食事を同じ空間で共にすることなどざらにあった。


 そんな環境下の中で明日も明後日も明明後日も。


 逃げられない緊張感と恐怖感、焦燥感等の全ての負の感情が私の感覚全てに負荷をかけ何時しか食欲を失い、気力を失い、瞳からの光を失っていた。


 そこから考えれば、今の私のこの心持ちは本当に久々なのだ。


「んふ!喜んでくれて何よりよ。さぁもっと食べて?」


 茉莉奈さんに促され、私はもう一度手に持ったフォークを握り直しガトーショコラを食す。


 もう、私の味覚には味がないと分かりきっているはずなのに。


 先程の莉恋ちゃんと楓杜君の言葉が脳に刷り込まれ目で見て、食感を楽しみ耳で聞き、ふと周りを見ればニコニコと穏やかな雰囲気の三人が見守ってくれている。


 それだけでもう、私の心は幸せいっぱいに溢れていた。


「あ、そーだ楓ちゃん。LINE交換しよ」


 一口、ガトーショコラを頬張り、もぐもぐと咀嚼していると、思い出したかのように莉恋ちゃんがそう提案する。


 そういえば、私は、今日からこの広島の土地で莉恋ちゃんと楓杜君が住む二人の家へと間借りさせてもらう事となっていた。


 しかし、これから勤めてみたいと思った就業先がここで、その店主であり雇用主である茉莉奈さんは有難いことに既に私を雇ってくれる気満々のよう。


 一応もう一度それが本当なのか確かめる為に口を開く。


「私はここで働いても良いんでしょうか?」

「えぇ、勿論よ!未経験者歓迎!優しい莉恋ちゃんと楓杜君が手とり足とり教えてくれるわ。あ、もちろん私もね」


 そう言ってウィンクをかましてきた茉莉奈さんに続き、莉恋ちゃんは「じゃあ間借りじゃなくて同居じゃね!」と嬉しそうにはしゃいでいた。


 となれば、一時的な同居人ではなく、私がこの職場を辞めない限りは関係値が続く間柄になるだろう。


 その相手と連絡先も知らずに一緒に住むとはなんともおかしな関係性になってしまう。


 そう、勝手に一人納得し、背もたれにかけたショルダーバックから自らのスマートフォンを取り出しアプリ画面を開く。


「じゃ、俺もー」

「私も貰おうかな。雇用主だし」


 ガトーショコラをつついていた手を止め、楓杜君と茉莉奈さんもつられて自らのスマートフォンを取り出し始める。

 莉恋ちゃんからの提案にほぼ脳死状態かのごとく、言われるがままに自らのショルダーバックに入っているスマートフォンを取り出しアプリを開く。


「じゃあうちらがコード出すけぇ一人ずつ読み込んでって」

「うん分かった」


 机上に置かれたそれぞれのQRコードを表示したスマートフォンを莉恋ちゃんから順に読み取っていく。


 一つ、QRコードを読み取れば、画面に"りこ"と書かれた名前が表示され、そのアイコンは美味しそうな卵かけご飯の写真だった。


 もう一つ読み込めば、画面に"かいと"と書かれた名前が表示され、こちらは親子丼のアイコンが表示された。


 最後に一つ、茉莉奈さんのコードを読み込めば"茉莉奈"と書かれた名前が表示されそのアイコン、背景共に自らのお店である此処カフェ紅亞の外観と、美味しそうなエクレアと共に取られた店内の写真が設定されていた。


 どこで撮ったのか周囲を見渡してみれば、その特徴的な背景は、カウンターキッチンの一角で撮られたものだと直ぐ様把握した。


 なんともオシャレな写真だろう。


 しかし、三人揃って食べ物の写真がアイコンに入っているとは。


 本当に食べる事が大好きで彼女達にとって何よりも大切な行為なんだと改めて実感する。


「あ〜楓ちゃんの背景紅葉じゃん!」


 まじまじと追加したばかりの三人のアイコンを眺めていれば、私と同様追加したばかりの私のアイコンを見た莉恋ちゃんが声を上げる。


「うん。秋だし、名前が楓だから」


 秋晴れに映える赤や橙に色付いた紅葉は、秋の風物詩。


 楓と紅葉は見た目が少し違えど、英語ではこれら二つはメープルと総称される為、植物学上の違いはほとんど無い。


 それ故、自らの名前が楓というのもあり、紅葉には思い入れがある。


「それなら俺も()()で楓って文字があるけぇオソロやん」

「……確かに!」


 これまた、偶然出会った男の子と使われている漢字がお揃いという何とも運命の様な奇跡。


 少し仲間が出来たようで心が浮き立つ。


「えぇ〜うちはなんもオソロじゃないじゃーん!!」

「俺だけ〜」

「ずるいぃ〜!!!」


 ぶーと口を尖らせ、仲間外れになった莉恋ちゃんが抗議すれば、何故か煽る様に楓杜君が莉恋ちゃんを弄くり回す。


 何かを考え込んでいた茉莉奈さんが何かを思い出したかのように閃くと、スマートフォンの画面をなにやら操作する。


「ん〜?そうでもないわよ?」

「どゆこと?茉莉奈ねーちゃん」


「ほら見てみ?」


 そう言って、こちらへと差し出されてきた画面にはとあるサイトで検索された紅葉の画像が表示されていた。


「…………え!」


 少し視線を下げ見てみれば、この紅葉の名前が表示されておりその名前に驚き、声を漏らす。


「実はね紅葉は紅葉でも"伊呂波紅葉"っていう種類のものがあってね」

「!!!いろは!!彩羽じゃん!!」


 興奮したようにあらゆる方向に視線を行かせる莉恋ちゃんが勢い余って私の腕を取る。


「そ〜私達三人漢字は違えど、紅葉を冠した家名みたいなのよね〜」

「わーお、奇跡」

「ほら見ろ!うちもオソロじゃ!」

「いーや家名に加えて俺は名前も一緒じゃ。」

「苗字は一緒じゃないけどねぇ」

「でも意味合いが紅葉じゃん!」


「まぁ、まぁ、まぁ、そんな熱くならないで……」


「いや、だって楓杜が言うようにほんまに奇跡じゃん!!」


 確かに違う土地で生まれ育ち、偶然出会った場所で同じ意味合いの苗字や名前を持つ相手と出逢えた。


 もし仮に今日の私がもう少しお腹が空いている事に気付くのが遅かったら、この土地へは下車して居ない。


 そうすれば莉恋ちゃんにも、楓杜君にも出逢わず、本当の一人で自分が暮らす家も、働く先も見つけなければならなかったのだ。


「それにさ、"瀬戸楓"って。瀬戸内海に面したこの広島の為の名前じゃん」

「もーう!此処に住むべくして生まれたようなもんじゃん!」


「「出逢うべくして出逢ったじゃん!!」」

「運命ねぇ〜」


 息の揃った二人の言葉に、穏やかな声色で茉莉奈さんが続ける。


 出逢うべくして出逢った。


 そう言われてもおかしくないほどこの出会いは、私の人生を大きく変えていく一つの選択肢だったのだと実感するのは、もう少し後の話なのだった。

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