第318話 黒ギャルがあらわれた!
「あんた……敵ね」
「なんでっ!?」
そして始まるロゼッタとアメリアの言い争い……いやじゃれ合い。
その様は、まるで子猫と子犬が威嚇しあっているかのように見えた。なお、アメリアの方が子犬である。
これは放っておいても問題ないだろうと、ジェイ達は教室の中へと進む。
「そういえば席は?」
「今日のところは出席番号順らしいぞ」
ジェイの疑問に答えたのはオードだった。
半分以上のクラスメイトがそのまま白兎組に残っている。そのため元々使っていた席がある訳だが、その辺りはクラス替えを機にリセットになるようだ。
入学した時もそうだったなと思い返しつつ、ジェイは自分の席がある方へと目を向ける。
「おーい、ちょっといい?」
その時、一人の女子が声を掛けてきた。
振り返ってみると、そこに立っていたのはロゼッタとは打って変わって大柄の少女。
ゆるやかに波打つ金色の髪をポニーテールに結んでいるため余計に背が高く見えるというのもあるが、それを抜きにしても相当な高身長だろう。
健康的に日焼けした肌。太目の眉と、少し垂れ目気味の目が印象に残る。
エラと同じ屋内用の制服だが、スカート丈をかなり短くしており、スラリと伸びた脚の長さを際立たせていた。
その出で立ちから「ギャル」という前世の言葉がジェイの脳裏に浮かぶ。
「あーしは、ルコ=篠波=マーテル。よろしくぅ♪」
「あ、ああ、ジェイナス=昴=アーマガルトだ。後ろに隠れてるのがモニカで……」
「よろしくね~」
にこやかに手を振るルコ。モニカに合わせて屈んだ彼女のブラウスは、胸元が大きく開いていた。
それが視界に入った瞬間、ジェイは慌てて視線を逸らす。モニカ以上、明日香並みの双丘が深い谷間を形作っていた。
ジェイは咳払いしつつ、明日香、エラと順に紹介していく。
「……あそこでじゃれあってるのがアメリアだ」
「ん、おっけー」
そして最後にアメリアを紹介した瞬間、クラスメイトがざわめいた。
こういう場面で紹介するというのは、身内である事を示す意味もある。つまりジェイは、この場でアメリアを身内として紹介したのだ。
どうしてアメリアがジェイ達と一緒に登校してきたのか、気になっていた面々が驚くのも当然であろう。
一方ルコは、それを気にした様子は無い。それ以上に気になっている事があるようで、興味津々な様子で目を輝かせて尋ねてきた。
「でさぁ、ちょっと聞きたいんだけど……あの高山牛、キミのだよね?」
「…………はい?」
予想外の質問に、呆気に取られるジェイ。
高山牛というのは、魔獣の一種だ。読んで字の如く牛に似た姿をしている。
この世界には、かつて召喚された武士達が元の世界の動物に似た生き物を「元の世界の名前」で呼び始め、そのまま定着した種というのがそれなりにいる。高山「牛」もその一種だ。
元々はタルバの山岳地帯に棲息していた長い毛が特徴の魔獣で、今では家畜として連合王国の各地で飼育されている種である。
「……あ、ああ、確かに高山牛だが」
確かにルコの言う通り、ジェイの騎獣は高山牛である。
農地を耕したり、荷車を曳く役牛。それだけでなく乳牛、肉牛と幅広く活躍している高山牛だが、特に身体の大きいものは騎獣としても重宝されている。
「あれ、どこ牛!?」
「いや、野生の」
「マジで!?」
特に肉牛としては、飼育された産地によって「カムート牛」「タルバ牛」といった具合にブランド化されている。そのため「どこ牛?」という質問が成立するのだ。
なおジェイの騎獣は、野生の魔獣を捕まえたものなので産地は不明である。どこかの牧場から逃げ出したものが大きく育ったというのは有り得る話だが。
捕まえた時に一緒だったモニカが、ジェイの背に隠れながらうんうんと頷いている。
「実はあーしの家、ニパ牛育ててるんだよね~」
何故そんな事を尋ねてきたのかというと、ルコの家は牧畜を家業としている家なのだ。
そう言われて改めて見てみると、ルコは大柄だが、その肉付きの良い手足は戦う者のそれではない事に気付く。
かと言って手弱女という訳ではない。むしろ健康的で力強い。
「ニパ牛を育ててる」という言葉も、華族的な「我が家の領地で育てている」という意味ではなくもっと直接的なものだろう。そういう体付きをしている。
そう、ルコは普段から太陽の下、牧場の仕事を手伝っているのだ。
そんな彼女だからこそ、自分が育てている牛達よりはるかに大きな身体を持つジェイの騎獣が気になったのだろう。
「あら……」
一方エラは、ルコの言葉に別の意味で反応した。
前述の通り特に品質の良い肉牛はブランド牛として地名を冠している。『ニパ牛』もそのひとつだ。
国の名を冠するブランド牛を育てる牧場、その管理を任されている。この意味は思いのほか大きい。ニパは農業と牧畜が盛んな国なので尚更だ。
「実は、あーしも二頭連れて来てるんだ~」
「ああ、海側の通りの……」
「そうそう!」
無邪気そうな笑顔で矢継ぎ早に話すルコ。彼女の家は、ニパでも相応に重要な家と考えていいだろう。
ライアンとロゼッタは、マグドクの王国騎士団長家の子女。
そしてルコは、ニパでも有数の牧場を管理する家の子女。
白兎組は元々『アーマガルトの守護者』との縁を深めるため、セルツの宮廷が意図的に内都華族が多く集められていたという。
それが今回のクラス替えで、他国の有力華族家が新たなクラスメイトとなった。これはセルツ宮廷以外の意図が入り込んでいると見て間違いない。
エラとしては、それだけ注目を集める婚約者を誇りに思うが……。
「この様子だと……」
小声で呟くエラ。チラリと教室の奥に視線を向けると、そこにはいつ話し掛けようかとタイミングを窺う男子の姿があった。
アーロか、あるいはタルバか。新たなクラスメイトは、まだ控えているようだ。
宮廷は白兎組を連合国の縮図にするつもりなのか。エラは小さくため息をつくのだった。




