第317話 白兎組の三新人
教室を見渡したジェイ。まず目についたのは、女子が集まる人だかりだ。
よく見ると、席に着いた一人の少女を取り囲んでいる。
といっても剣呑な雰囲気という訳ではない。その少女が着るロングコートが可愛いと盛り上がっているようだ。
その中心にいた少女はジェイ達に気付くと、彼女を囲む輪から少し離れた所にいた少年の手を引いてくる。
更に少年の近くにいた黒髪の少女も続き、三人で近付いてきた。
馴染みのあるクラスメイトならともかく、その三人とは初顔合わせだ。モニカはさっとジェイの背に隠れる。
「あんたが『アーマガルトの守護者』ね?」
少女は不敵な笑みを浮かべて問い掛けてきた。ジェイも彼女に視線を向ける。
「ああ、そうだ」
「ふふん、やっぱり! アタシはロゼッタ=小寺=アナイスよ」
燃えるような赤い髪を編み込んだ三つ編みの少女、ロゼッタ。
背丈はアメリアより少し高く、モニカより少し低い。いずれにしても小柄である。
その体格とは裏腹に、彼女が着るロングコートは大きめだった。袖も裾も長く、袖の方は指先がちょこんと出る程度だ。裾から覗く足首も細く、本人はかなり細身なのではないかと窺える。
しかし、その眼光は鋭い。顔立ちも整っており特に目はまつ毛も長く華やかだが、その無遠慮な視線は、ジェイを値踏みしているように感じられた。
「ああ、これ? アタシ親が騎士だからこんな格好させられてるけど、剣って苦手なのよね~」
コートをピラリとめくって見せたのは、腰に佩いたショートソード。派手な柄は、まるでおもちゃのように見えた。
剣だけではない、コートもそうだ。胸元には薔薇をモチーフにしたアクセサリーが付けられ、防具として使えるかどうか以前に派手。儀礼用とはまた別の、見た目重視の装備と思われた。
「確か小寺といえば、マグドクの王国騎士団長だったかしら?」
エラの補足に、ジェイはなるほどと頷く。
親が武闘派であれば子も同じように育てられるというのはよくある話だ。親に騎士団長のような立場があれば尚更だ。
しかし、全ての子供がそれに適応できるかと言えば難しいところだろう。
そのような子が、親の意向もあって制服等形だけ……というのはよくある話であった。
むしろ武闘派に見えるのは、ロゼッタが手を引いて連れてきた少年の方だ。
「へえ、姉ちゃん知ってるのグヘェ!?」
「そいつ、冷泉宰相の一族よ!!」
少年の態度が失礼だと、隣のロゼッタが鋭い肘打ちを脇腹に叩き込む。
ロゼッタの言葉づかいも大概なのはご愛敬である。
「オホホホ……紹介しますわ、お姉サマ。こいつは弟のライアン」
「あらあら姉弟なのね。双子かしら?」
「ええ、不肖の愚弟ですわ」
笑って誤魔化すロゼッタ。なお当のエラは、ライアンの発言に対してはにこやかにスルーしており怒ってはいないようだ。
「ま、待て……オレの方が兄……!」
しかし、その声をロゼッタはスルーする。
眉間に皺を寄せているが、それを除けばロゼッタとそっくりな顔立ちだ。彼女と同じく目付きが鋭い。
少年の名はライアン=小寺=アナイス。ロゼッタとは双子である。姉弟か、兄妹かはともかくとして。
二人の背丈は同程度に見えるが、ライアンの方は赤い髪を逆立たせておりまるで炎のような髪型をしている。髪を下ろせばどうなるかについては、触れない方が親切というものだろう。
こちらは実戦用の制服をビシッと着こなしており、その背には彼の背丈よりも長そうな両手持ちの大剣を斜めにして背負っている。
どう見ても軽い物ではない。その状態で普通に動き回れている辺り、その膂力は相当なものだろう。
今はロゼッタの肘打ちで悶絶してうずくまっているが、得てして兄弟姉妹の力関係というのは武芸の腕等とは関係の無いところで決まるものである。
そして三人目の少女はというと、しゃがみ込んでライアンを介抱していた。
真っ直ぐな黒髪を肩のあたりで揃えており、木でできた細工物の髪飾りを着けている。
こちらも実戦用の制服を身に着けているが、その甲斐甲斐しい振る舞いは従者か侍女のようだ。
双子が騎士団長の子女ならば、彼女も親が騎士団関係者ではないかと考えられる。
「そちらの子は?」
「あ、はい! キャミィ=久枝葉=ホルトと申します!」
ジェイはロゼッタに尋ねたつもりだったが、キャミィ本人が立ち上がって答えた。
背筋をピンと伸ばし、緊張しているのが見て取れる。
ロゼッタ達より少し背が高い。飛び抜けて美人という訳ではないが、垂れ目気味で愛嬌のある顔立ちだ。
真面目そうではあるが、武闘派の雰囲気は無い。実戦用制服に着られている感もある。
「『アーマガルトの守護者』に、お会いできて光栄ですっ!!」
「お、おう……」
「あ~、このパターンかぁ……」
いわゆるファンである。ジェイとモニカにしてみれば見慣れた手合いだ。
そんなキャミィの反応に、ライアンが顔を上げて敵を見るような目でジェイを睨み付けている。これまたジェイにとっては見慣れたものだった。
「ねえねえ、お兄サ~ン♪」
ロゼッタが近付いてきた。それはもう楽しそうに、にんまりとした笑みを浮かべて。
「アタシ達ねぇ~、実はぁ、十四歳なのぉ~♪」
「……そうなのか?」
脈絡の無い話に、呆気にとられるジェイ。
ただ連合王国の華族は十五歳で元服する者がほとんどのため、それ以下の年齢は珍しい。
十三歳のアメリアもそうだが、何かしらの事情があると考えていいだろう。
一番多いのは、当主の急死等で早く家督を継げるようにならないといけない場合だが……。
「ライアンがねぇ~、今年入学のキャミィを、一人で学園に行かせたくないってねぇ~♪」
「ロゼッタあぁぁぁぁぁッ!!」
声を張り上げるが、もう遅い。他のクラスメイトもジェイ達のやり取りに注目しており、ロゼッタの話は皆に知られてしまった。
特に女子達が目を輝かせてきゃあきゃあ言っている。その中に明日香の姿もあった。
女子達の反応にライアンは更に奇声を発し、それを見てロゼッタはケラケラと笑っている。
そしてジェイも納得した。本来ならば来年入学だった二人は、キャミィの入学に合わせるために一年元服を早めたのだろう。どちらが望んだかは言うまでもない。
「ゲホッ、ゲホッ」
「もうライアンったら、急に大声出しちゃダメじゃない」
むせてしまうライアン。それを甲斐甲斐しく世話をするキャミィ。
その様は、顔は似ていないのにロゼッタと並ぶよりも姉弟のように見えてしまう。
クラスメイトは察した。マグドクから来たこの三人の関係性を。
「クゥ! 泣けるぜ……!」
それは色部すらも同情してしまう光景であった。
「あ~、楽しぃ~♪」
そしてひとしきり笑ったロゼッタは、ふとジェイの隣に立つアメリアを見る。
視線に気付いたアメリアは警戒する素振りを見せたが、ロゼッタにしてみれば白兎組では数少ない自分よりも背が低い子だ。
ロゼッタは近付き、アメリアの肩に腕を回す。
「アメリアだっけ? 仲良くしましょ♪」
「あ、うん……」
戸惑いながら返事をするアメリア。
これは強く出られる相手だ。そう感じたロゼッタはニマニマした顔でアメリアを見て、そして気付いた。
自分より背が低いアメリアを、肩越しに見下ろした先に、確かに存在するふくらみを。
「…………あんたも、十五歳?」
「えっ、ああ、十三歳らしいよ」
ロゼッタより一歳年下である。
「らしい」ってなんだとツッコむ余裕は無い。
「あんた……敵ね」
「なんでっ!?」
ロゼッタ=小寺=アナイス、十四歳。
そのゆったりオーバーサイズのコートの中は、スラリと細く、そして実になだらかであった。
今回のタイトルの元ネタは、映画『隠し砦の三悪人』です。
なお新しいクラスメイトは他にもおりますが、そちらは続きをお待ちください。




