第316話 ラフィアス=虎臥=アーライドの消失
ラフィアスが島に戻ってきていない。
ジェイがその事を聞かされたのはクラス分けを確認した後、教室に移動しようとした時の事だった。虎臥家の家臣だという男が声を掛けてきたのだ。
そのため色部達は、ジェイ達を置いて先に教室に向かっている。
男から話を聞いてみたところ、彼は島で留守を任されていた虎臥家の家臣らしい。
そしてラフィアスが、登校日になっても島に戻ってきていないと言うのだ。
そのため彼は、今日はラフィアスが欠席する旨を学園に伝え、新しいクラス分けを確認しておくために学園を訪れた。
そこでジェイを見かけ、ラフィアスが会いに行くと言っていた事を思い出して声を掛けたという訳だ。
「確かに訪ねてきたが、ダ・バルトの強さについて聞かれたぐらいだぞ?」
とはいえジェイも話せる事はあまり無い。
あえて言うならば、待機を要請されているのにわざわざ聞きに来るような事か?と疑問を抱いたぐらいだろうか。
「他に何かおっしゃられていませんでしたか?」
「いや、特には……遠出するような出で立ちでもなかったとは思うが」
「そのまま里帰りしたのでは? 婚約者がいるんですよね?」
「その、確認しているのですが……」
明日香の問い掛けに、ラフィアスの家臣は口ごもる。
現在、アーライドの方に確認を取っているが、返事がくるのは数日後となるようだ。
「何か気になる事でも?」
「その……婚約者の方達に渡すはずだったお土産が残されておりまして……」
ただ、ラフィアスは婚約者への対応はそつなくこなしていたらしく、それを忘れて行くのは不自然だと家臣は感じているとの事。それだけに不安になってしまっているのだろう。
「ジェイ、ジェイ、伝話で確認できないんですか?」
「アーライドにはつながってないだろ」
「アルマにはつながってたのに?」
「一応あそこ、王都カムートの一部だから」
確かに明日香の言う通り、魔動伝話を使えれば一瞬で確認する事ができる。
しかし、あれはどこにでも連絡できるという物でもないのだ。「伝信柱」を立て「伝線」を張り巡らせる必要がある。
内都とポーラ島であればどこでも通じるだろう。エラの父が代官を務める内都の隣であるダーナ区にもつながっている。
しかし同じカムートでも北側の山の手となると、途端に厳しくなる。アルマは連合王国有数の温泉郷なので優先的に伝線がつなげられたが、それ以外はまだまだ普及が進んでいないのが現状だ。
そこから更に遠く離れたカムートの外となると言わずもがなである。
「アーマガルトにも通じないんだよねぇ、あれ」
「アーマガルトの伝話は、アーマガルト内にしか通じないからな」
むしろアーマガルトのような大きな町の方が、独自に伝線を張っているだろう。実際、アーマガルト内ならば伝話が通じるようになっている。
しかし、それでも内都とはつながっていないのが現状だ。魔獣がいるこの世界では、町と町をつなぐ伝線を維持するのが難しいのである。
「じゃあ、じゃあ、登校日を知らないとか?」
「えっ、テレビでやってなかった? 学園を再開しますって」
『PSニュース』で告知されていたのを、アメリアも覚えていた。
魔動伝話と違い、魔動テレビは連合王国内であればどこでも見る事ができる。
こちらはテレビ局が発する魔素の波を、各国に建てられた「伝波塔」が中継し、魔動テレビで受信して見るため伝線を必要としないのだ。
送受信が必要な伝話と、一方的に送信するだけで済むテレビの違いと言える。
つまりどういう事かと言うと、仮にラフィアスがアーライドに戻っていたとしても、登校日を知れば島に戻ってきているはずなのだ。
しかしそうなっていないという事は、彼がアーライドにもいない可能性が高くなる。
「若、何か事件に巻き込まれてしまったのでは……!」
心配そうな家臣をよそに、ジェイは「その時は自力で解決して戻ってきそう」と考えてしまった。
しかし、口には出さない。確証も無いのに無責任な事は言えないのだ。
「とにかく! また訪ねてこられたら、ご連絡ください!」
「わ、分かった。すぐに連絡するから」
そのためジェイは、手を取りぐぐいっと顔を寄せて頼み込んだ家臣にそう答えるしかなかった。
その後ラフィアスの家臣は、心当たりを探してみると去っていく。じっとしていられないのだろう。
「ラフィアス君、アーライドにいればいいんだけど……」
「返事が来るまで何日か掛かるだろうな」
魔動伝話がつながっていなければ、そんなものである。
彼の魔法使いとしてのストイックさを知るジェイは、学園より修行を優先している。或いは連絡も取れないような所に修行に行っている。この辺りの可能性を考えていた。この時点では。
現状できる事があるとすれば、風騎委員として巡回する際に気を付けておくぐらいだろう。
「話し込んじゃったね、急ごっか」
それより今は、教室に向かわねばならない。
ジェイ達はモニカに促されて、白兎組の教室へと急ぐ。
「そうそう、これはお爺様から聞いた話なんだけど……」
途中、エラの話を聞きながら。
教室に入ると、ジェイ達は出遅れたようで他のクラスメイトは既にそろっていた。
「よー、あのおっさん何の話だったんだ?」
「ちょっとな……」
現時点では下手に話して広める訳にはいかないと、ジェイは言葉を濁した。
席に着く前に教室を見渡してみると、引き続き白兎組なのは全体の半分と少しと言ったところだろうか。三分の二には届いていない。
そしてジェイは、残りの新しいクラスメイト達の顔を見ながら先程の話を思い出す。
冷泉宰相からの情報提供によると、今回のクラス編成には学園外の意志が関わっているらしい。
それは『アーマガルトの守護者』ジェイを巡るものだと言うのだ。
というのもこれまでのクラスメイトは主にセルツ出身者、特に内都華族が多く選ばれていた。
当時は明日香との縁談を通じて、ダイン幕府に引き抜かれる可能性も考えられていたジェイ。
それを阻止するためにセルツ、特に内都華族と縁を深めさせようという意図があった人選だったのだ。
あの時は、それで良かった。若き英雄と言っても、ダイン幕府と直接相対してない国はどこか他人事だったのだろう。
しかし、入学してからのジェイの活躍はご存知の通りである。
そして注目していたところに降ってわいたクラスの再編成。各国がセルツだけで独占するな。自分達も誼を結ばせろと口出ししてくるのは、ある意味当然の流れであった。
こうして選ばれたのが、新顔のクラスメイトである。
ジェイが彼等を見るように、彼等もまたジェイを見ている。
その視線に込められたものは様々だが、ひと波乱を予感させるものであるのは確かだった。
今回のタイトルの元ネタは最近映画が公開されていた小説『涼宮ハルヒの消失』です。




