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第315話 それは運命の分かれ道

 ポーラ華族学園が再開したのは、ジェイ達が島に帰還してから一週間後の事だった。

 事後処理が全て終わった……訳ではない。これ以上引き延ばすと冬休みに突入してしまうための、やむを得ずの暫定処置だ。処理する側の者達は、今年の冬は休めないと嘆いてる事だろう。


 『純血派』の叛乱の件で生徒の数が減ったとは言え、全学年の生徒が一斉に登校する学園は、ジェイ達にとっては入学式を思い出させるような賑わいであった。

 なお今回は、ジェイ達一行の中にアメリアも加わっている。

 結局彼女は、あのままジェイ預かりとなっていた。


 ジェイ達に限らず、皆の関心はやはりクラス分けだろう。

 校門を潜ってすぐのところに新しいクラス表が掲示されており、その場所には多くの生徒が集まっていた。

「あれ? 制服じゃない人がチラホラと……」

「従者じゃないかしら? ほら」

 そう言ってエラが視線を向けた先は、クラス表が掲示されている場所の道を挟んでの向かい側。数は少ないが、木陰で待っている制服姿の者達がいた。

 ジェイ達もそれに倣い、忍軍がクラス表を確認しに行く。

 人混みの間をすり抜けるように進んで行き、そしてささっとメモを取って戻って来た。

「若のクラスは、白兎組のままのようです」

「良かった! クラス名変わらないんですね!」

 兎のクラス旗が気に入っていた明日香はひと安心である。


「多分、ジェイ君は白兎組っていうのが最初に決まったんでしょうねー」

 そう言いつつ近付いてきたのはロマティ=百里=クローブ。

 新聞発行を生業とする百里家の長女であり、彼女自身も放送部員である。

「あ、ロマティ! もう見てきたんですか?」

「いえー、兄が見に行ってるんですよー」

 そう言ってロマティが指差した先には、人混みの中でも目立つ大柄な男の姿があった。ロマティの兄ジムだ。ジェイと明日香にとっては風騎委員の先輩でもある。

 彼は三年生なので、一年生の分と両方を見るために人混みを横断しようと四苦八苦している姿が見えた。

「……手分けして見ればいいのに」

「最近鍛えてるみたいですからー」

 百里家では兄のジムを後継者にと考えているが、当のジムは騎士団入りを目指して放送部には入らず風騎委員に入っている。ジムが鍛えているというのは、その関係での事だろう。

 その後、クラス表を見ようと集まってくる人波に逆らってジムが抜け出てきた。

 その大柄な身体が怖くて、アメリアはサッとジェイの背に隠れる。

「ロマティ、お前は白兎のままだったぞ」

「兄さん、ありがとうございますー」

「やったぁ! ロマティ、また一緒ですねっ!」

 にこやかにお礼を言うロマティに、横から明日香が飛び付いた。


「……ね、ねえ」

 モニカが、ロマティの肩をちょんちょんと突く。

「さっき言ってた、ジェイの白兎組が最初に決まったっていうのは?」

「ああ、あれですか。印象の問題ですよー」

「印象?」

「ほら、ジェイ君はゴーシュでの実習がテレビで放送されましたからー」

「ああ、あれ……」

 アーロのゴーシュで行われた長期実習。それがPEテレの『PSニュース』で注目学生の活躍として特集が組まれて放送されていた。

「ジェイは白兎組って広く知られてるから、変えたくなかったって事ね」

 そうエラは納得するが、モニカ、明日香、アメリアはいまいちピンと来ていない様子だ。

 ジェイも、そもそも全てのクラスが再編成されるのだから、そこは気にしても仕方ないのではと考えている。

 しかし、そうではないのだ。

 そもそも華族学園内部の話は、平民にとっては雲の上の話。悪く言えば他人事である。

 だが、テレビ放送はそうではない。あれは華族以外にも見る人が多い。

 平民でも一家にひとつという程普及している訳ではないが、魔動テレビが置かれている店等に人が集まるというのはよくある話なのだ。

 地方の農村でも、村長の家と寺院にはテレビがあったりする。

 これは魔動テレビが有るのと無いのとでは、都から情報が届くまでの速さが段違いだからというのが大きかった。

 もっとも「持っていると自慢できるから」という理由も小さくはなかったが。

「『白兎組のジェイナス』って、もう知られちゃってるから、それを変えちゃうのは避けたいっていうのが学園側の本音でしょうね」

 あるいは宮廷の、である。

 クラス名を調整するだけで叶うのだから、学園側としては楽な話である。


「……まぁ、クラス名が限られているというのもあるだろうな。俺の二個上の先輩も白兎組だったし」

「そう言えばあったわねぇ、白兎組」

 ジムがうんうんと頷きながら言う。エラから見れば、一年先輩の話であった。

 名前ごとのクラス旗が必要になるため、むやみに増やす事ができないという事情もあった。

 アメリアのクラスだった「青燕組」も、名前はそのまま残っている。

「……ハッ! そういえば私のクラスは!?」

「白兎組でしたよ」

 アメリアの場合は婚約者同士は同じクラスにするというルールに当てはまらないが、ジェイの保護下に入るという事なので白兎組に移されたようだ。

 忍軍はジェイ達以外にもジェイ達と懇意にしていた者達はチェックしていた。

 なんだかんだでジェイとは入学当初から親しくしている色部にオード。

 今回の件で縁ができたソック。

 明日香達と親しいロマティ、エイダ、ビアンカ、シャーロット。

 他にも何人かが、そのまま白兎組に残留している。

「結構残ってるな」

「今日までに結んできたつながりを切らせるような真似はしないんじゃないかしら」

 将来のためのコネ、人脈を構築する。あるいはそのための練習をさせる。それもまた華族学園の目的のひとつだ。

 学園側としても、これまでの生徒の努力を否定する事は避けたのだろう。

 他のクラスでも、親交があったグループは分かれる事なく同じクラスになっている。

「……あ、これウチのお客さんだ」

 他の残留したクラスメイトについても、以前ジェイが紹介したシルバーバーグ商会の支店をそのまま利用し続けている者だった。

 懇意の商会というのは卒業後も継続して使う事になるだろう。これも立派なコネである。

「じゃあ半分以上が残ってるんですねっ!」

「モニカちゃんのおかげね」

「い、いや、これはジェイが……」

 ジェイ達は気付いていないが、白兎組が最もクラスメイトの変動が少ないクラスだった。

 他のクラスに移る事になったのはシルバーバーグ商会を紹介されても利用しなかった者達等だが、学園に言わせれば「チャンスがあったのに掴まなかった者達」であろう。


 そして、もう一人。

「……あれ? そういえばラフィアス君は?」

 新しいクラス表、白兎組の生徒の中に、魔神ダ・バルト相手に共に戦ったラフィアス=虎臥=アーライドの名前は無かった。

「三人しかいない魔法使いがひとつのクラスに集中するのは避けたのかしら……?」

 エラの言葉は、学園側も考えていた事だ。

 現にラフィアスの名前は、別のクラスの所に書かれている。


 しかも授業が始まっても、ラフィアスがそのクラスに姿を表す事は無かった。

 それどころかアルマでジェイと別れて以来、アーライドの実家にも戻っていなかったと判明するのは、それから更に数日後の話である。

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