第314話 華族サバイバル
「『純血派』って、そんなにたくさんいたんですか?」
明日香が首を傾げる。
「一年の魔法使いは三人……だよね?」
モニカがアメリアの方を見ながら言うと、見られたアメリアはコクコクと頷いた。
彼女がそれを知っているのは、尚武会に参加した際のブロック分けで魔法使いが集められていたからだ。
もし一年生にもう一人魔法使いがいれば、あの時の対戦相手の獅堂の枠に四人目の魔法使いが入っていただろう。
他学年もそうだ。ひとつの学年にいる魔法使いの数は片手の指で足りる。
「魔法使いじゃない『純血派』が多いのよ……」
答えを言ったのはエラ。彼女が在学中もそうだったが、魔法使いではないが『純血派』というのは意外と多いのだ。
「そういえば、故郷が北に行くほど多かったわ」
「なるほど、タルバ……」
セルツ連合王国に属する国の中で、最北に位置するのがタルバである。
そして北に行く程多いというのは、かつて魔法国が滅んだ際に残党の魔法使い達が南北に逃げたためだろう。そして北に逃げた先でたどり着いたのがタルバなのだ。
なお南に逃げた者達は、途中で脱落した者達がアーロに潜伏して魔王教団となり、逃げ切った者達は『死の島』に渡ったと言われている。
「ってーか、あいつもそうだったらしいぜ」
「あいつ?」
「ほれ、担任の……」
「えっ、マジで?」
色部によると、白兎組の担任教師も「魔法使いではない『純血派』」だったらしい。
「え~……そんな奴、学園で雇ってたの?」
「『純血派』だからダメってなったら、アメリアも入学できないぞ」
「……えっ?」
『純血派』だからと排除されるならば、アメリアもラフィアスも入学していなかっただろう。
今回の叛乱騒動で大問題となっているが、罪として問われているのは叛乱した事であり『純血派』である事自体は罪ではないのだ。
それはともかく、気になる話だったので近くの店に彼を誘って詳しく話を聞いてみる事にする。
「オゴリ?」
「……好きなの頼んでいいぞ」
「よっしゃぁ!」
ジェイとしてはアルマにいた間の事を聞きたかったので、情報料代わりと言ったところか。
店を選んだのは明日香。商店街の一角にある食堂で、ここの女将と親しいらしい。
大きめの丸テーブルを囲んで席に着く一行。色部はここぞとばかりに肉料理を中心にいくつも注文し、明日香とアメリアもそれに続いた。
料理が来るまで時間がありそうなので、その間に色部から話を聞く事にする。
「ところであの人、内都華族じゃなかったのか? 娘紹介されそうになった事あるぞ」
「あ゛っ?」
色部からドスの利いた声が漏れる。
ちなみにジェイ一人を食事に招待して、家族を紹介したいという話だった。その時に娘が会いたがっているという話も聞いた覚えがある。
そのためジェイは、家がポーラ島にあるのだから内都華族だろうと考えていたという訳だ。
「で、で、紹介されたのか?」
「そんな訳ないだろ。入学してすぐの頃だぞ」
つまり明日香達と婚約してすぐの頃である。
その時期に新たに女性を紹介しようというのは、流石に空気が読めていない。
「それって……ジェイを『純血派』に引き込もうとしてたのかな?」
モニカが疑問を口にした。今にして思えば、そういう意図があったのではと考えられる。
しかし、当時のジェイはそこまで考えていなかった。
「何でえ、気付いてなかったのかよ」
「当時は、その手の誘いが多かったからなぁ。そこまで考えてなかった」
まともに相手をしていなかったと言った方が正確だろうか。
当時は「国境から離れられなかった若き英雄『アーマガルトの守護者』が内都に来た」と大騒ぎだったので、接触を図ってきた家はいくつもあったのだから仕方がない。
「ド畜生っ!」
色部は悔しそうだが、これは比較対象にするのが無茶というものである。
ここで料理が次々に運び込まれてきた。
色部はやけ食いだと言わんばかりに勢いよくかき込むが、食べている内に機嫌が直っていく。
明日香とアメリアも料理に夢中だ。ここからは食事をしながらの話となった。
「あの先生は、独立する際にセルツの爵位を得たんじゃないかしら?」
エラによると、華族学園の教師に多いらしい。
優秀な人材を引き込む事は国にとって有益なので、華族学園の教師になれる人材ならば叙爵の話が通りやすいと言い換えてもいいだろう。
そもそも後継者以外の子女が独立する際、騎士爵を叙爵して新たに家を興すというのは、それなりにある話だ。相応のお金を積む必要があるため、どの家でも……とはいかないのが現実だが。
なお、その際に連合王国内の別の国で叙爵というのもそれなりにある話だったりする。
何故なら独立して別の家になっても、氏は同じままだからだ。「我が○○氏は複数の国に跨り繁栄している」と言えるようになるのは、独立させた側にとっても名誉なのである。
中でも華族学園で教職に就いて独立というのは、結構なエリートコースだろう。
ジェイ達の担任の場合、実家はタルバ華族だったが、華族学園で教師をするため独立する際にセルツの騎士爵に叙されている。
それが叛乱計画の一環だったのかどうかは、今となっては分からないが……。
「というか、叛乱に参加してたのか?」
「こっちでなんかやってたらしいぜ~。詳しくは知らねえけど」
色部もそこまで詳しくは知らなかったが、ジェイが魔神ロン・ティールと戦っていた際に、ポーラ島の方で起きていた暴動事件。その裏で『純血派』が暗躍していた可能性が高いと現在調査中である。
「クラスの再編成は避けられないか……」
ここまで話を聞くと、再編成もやむ無しという結論にならざるを得ない。
「皆とバラバラになるのかなぁ……」
フォークをくわえながら呟く明日香。
早々に食事を終えていたエラは、小さく微笑んで明日香の頬に付いていた食べカスを取ってあげる。
「大丈夫よ、明日香ちゃん。クラスを再編成するにしても、仲の良い子を引き離すような事はしないわ」
「そうなんですか?」
「ええ」
力強く頷くエラ。これは慰めで言っている訳ではない。
というのも、華族学園の目的のひとつに「将来のためのコネ作り」というものがある。
そのため、既に築き上げられた関係を崩すような真似は学園側も慎むはずなのだ。
「でもさ、家の方が潰れちゃったら退学っスよね?」
「ええ……でも、抜け道が無い訳じゃないわ」
「たとえば?」
「そうね……」
興味を持ったのか食いついて来る色部に、エラはしばし考えてから答える。
「……爵位を買って、家を興すのが一番簡単な方法かしら」
「…………簡単?」
「お金があれば、ね」
あとは宮廷に話を通すためのコネが必要になるが、今ならばそこは学園がフォローしてくれるだろう。
そのためエラの言う通り、お金さえあれば一番簡単な方法だと言える。
なお、エラは口にしなかったが、抜け道はもうひとつある。
それは……華族と婚約する事。商人の娘であるモニカが、華族学園に入学した方法だ。
こちらはお金が無い場合の、一番簡単な方法と言える。
実際のところ今回の件では、実家の没落に巻き込まれて退学は免れないが『純血派』の思想に染まっている訳ではないという生徒が一定数存在していた。
『純血派』の衰退が、子供達の考え方にも影響を及ぼしたと考えられる。
学園としても、そういう退学者は少しでも減らしたい。そのためにできる現実的な方法と言えるだろう。
「また、別の意味で騒がしくなりそうね……」
それでも百魔夜行の襲来よりは平和な騒ぎだ。
そう思いつつエラは、食後の魔草茶を飲むのだった。
タイトルの「サバイバル」は、漢字で「生存闘争」と書いても良かったかも。




