第314話 ポーラ島にただいま
ポーラ島に戻ってきたジェイ達。彼等がまずした事は、方々への帰還の報告だった。
周防風騎委員長を始めとする学園関係者達。冷泉宰相を始めとする宮廷、騎士団関係者達。特にエラは、内都で顔が広いため連絡するところが多い。
「モニカ、支店の方はどうする?」
「ん~……顔を出しとこうかな、買い物もあるし」
忍軍の一部を留守番に残していたが、一気に人数が増えるとなると買い出しが必要となる。
シルバーバーグの支店は商店街にあるので、買い出しと顔出しを一緒にやってしまおうという事になった。
エラはしばらく手が放せそうにないため、ジェイ、明日香、モニカ、アメリアで行く事になった。もちろん護衛も一緒だ。忍軍と明日香の侍女を一人ずつ連れて行く。
アメリアが一緒にいるのは、本人が離れたがらないから……だけではない。
高城家の名で借りていた家は使えなくなるが、風魔家の名で新たに借りる事ができる。
しかし、今の彼女は従者を用意する事ができない。家に戻れば一人である。
彼女が今もジェイ預かりになっているのは、その状況で放り出す事はできないという事情もあった。
「パパ~、お菓子買って~♪」
「はいはい、支店に行ってからな」
「やりぃ♪」
なおアメリアはこの状況に甘んじて、このまま居座る気満々である。
ジェイの方も特に気にしている様子は無さそうだ。
「……まぁ、危険だからしょうがないよね」
これに対し、モニカは何も言えない。このまま帰す訳にはいかないという点については、彼女も同意見だから。
「危険? 何が?」
「あ、これガチで分かってないわ」
しばし考えたモニカは、これは知らないままなのもまずいだろうと彼女を取り巻く現状を教えておく事にする。
「魔法使いが、更に希少になるっていうのは分かる?」
「『純血派』がいなくなるから?」
「そうそう」
アメリアとしては、おかげで自由になれたという有難い話だ。しかし世間一般では反応が異なる。
ただでさえ少ない魔法使いが更に減った。
それだけでなく百魔夜行との戦いで、魔法使いの有用性が改めて示された。
こうなると我が家にも魔法使いの血をと言い出す家が現れるのは自然な流れと言えるだろう。
そこにお出しされるのが、家人もいない家に一人でいる魔法使いの少女。
しかも華族としては常識知らずであり、モニカの目には結構チョロく見える。
「最悪、家に男が襲撃してくるかも……」
「そこまでヒドいかなぁ!? この町の治安!!」
思わず大声を上げてしまうアメリア。彼女が比較対象としているのは、幼い頃から生きてきたタルバのスラムなので、基準としてはあまり当てにならない。
「人間、追い詰められると何するか分かんないよ?」
「そう?」
「その結果が高城家というか、タルバの『純血派』じゃないか?」
「おぉぅ……」
ここでジェイが口を挟んだ。
確かに今回の『純血派』の叛乱は、魔法使いの衰退により彼等が追い詰められていた事が大きな要因と言えるだろう。
「この町がそこまで治安が悪いかはともかく、自衛もしてなかったらやらかす側のハードルが下がるのは確かだろうな」
更にジェイは、そう付け足した。
『アーマガルトの守護者』がおり、彼が率いるアーマガルト忍軍が守る家。そこに安易に攻め込めるかという話だ。
「そんな事言っても、守ってくれる人の当てなんて……」
ここで「家臣」や「従者」といった言葉が出てこない辺り、まだ一家の当主になった自覚が芽生えていないのだろう。
「だからウチにいていいって事だ」
そう言って、ジェイはアメリアの頭を撫でた。
「う……うん!」
目を輝かせてジェイを見るアメリア。
学園では同学年の二人だが、実はアメリアの方が三歳年下であると先日判明したばかりである。
「あれは……」
「娘になっちゃうのも、しょうがないですねっ!」
その様子を眺めていたモニカと明日香は、アメリアの態度も納得だと思わざるを得なかった。
「ジェイ、ジェイ! あたしも撫でてください!」
「じゃあ、アメリアはこっち。ボクと手をつなごっか」
なお、ここで自分も娘になろうとするのが明日香であり、母になろうとするのがモニカである。
という訳で、四人と護衛とで久しぶりの商店街を歩く。
流石にこの辺りまでは百魔夜行の被害は届かなかったようで、町並みはさほど変わらない。
ただ、自由騎士らしき者達の姿が多い。彼等は剣よりも比較的安価な槍を持つ者が多いのが特徴だ。
「ジェイ、ジェイ、繁華街の方で復興工事が進められているそうですよ」
「じゃあ、それに雇われている人達か」
明日香が仲良しな店の女将から話を聞いてきた。
今繁華街の方は、瓦礫の撤去に、掃除、そして工事とより取り見取りらしい。
ただ人が集まり過ぎて混雑しているようで、こちらまで来て休む人が増えてきたとか。
繁華街の被害を考えると、この賑わいもしばらく続くだろう。商店街的には客が増えるのでこの動きを歓迎しているそうだ。
そして支店に到着した一行。
こちらはポーラ島に戻ってきたと報せるのがメインなのだが、それ以外にもアメリアの装備を新調するための注文も行った。
「いいの?」
「自慢じゃないが、アーマガルト製の方が性能が良い」
これまでのアメリアの装備はタルバ製である。
アーマガルトの職人でも整備できなくはないが、それに整備費を注ぎ込むぐらいならアーマガルト製に買い替えた方が良いのだ。
これは同時に「今後もアメリアの面倒を見る」という宣言でもあるのだが、当のアメリアは全く気付いていない。
ただパパのプレゼントだと喜び、はしゃぎ回るばかりだった。
その後支店での用事を終えた一行は、買い出しのために商店街を歩く。
約束通りお菓子を買ってもらえるので、今度は明日香とアメリアが二人で店頭に並ぶ品々を見て回り、ジェイの隣はモニカが確保していた。
そのまま町を歩いていると、明日香がクラスメイトに気付く。
「あ、スケベ君!」
「色部だよっ!!」
どちらも間違いは言っていない。
「どうしたんですか? そんな格好して」
露店で買い食いしていた色部だが、その出で立ちが学園の制服姿ではない。
丈夫そうな上下一体の服。工事現場で使われる作業着だ。
「そりゃもちろん仕事だよ、し・ご・と!」
ジェイも近付いてきて尋ねる。
「繁華街のか?」
「ああ、学生ギルドで斡旋してるぜ」
島では復興作業に自由騎士だけでなく学生騎士も駆り出しているようだ。
それを知った色部は、稼ぎ時だと喜び勇んで仕事を受けまくっていた。ちなみに作業着は仕事先からの借り物である。
「学園はもうしばらく休みみたいだし、それまで稼がせてもらうさ」
「そうなのか?」
「あれ、聞いてねえの? なんか大変みたいだぜ」
仕事を受ける際に学生ギルドに顔を出しているので、学園の空気というのはなんとなく分かるらしい。
「タルバの件で、結構生徒が減るらしくてよ~」
魔法使いの数は少なくとも、魔法使いになれなかった『純血派』は、それなりにいたのだろう。
そういう者達が、家がお取り潰しになった結果退学になったのだと考えられる。
「全部のクラスが再編成になるかも知れないんだと」
「マジか……」
今回の戦い、島の北側までは大きな被害は及ばなかった。
しかし、まったくの影響無しとはいかなかったらしい。
※ ポーラ本人は、代官なのでアルマに残っています。




