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第319話 各国揃い踏み

「失礼、自分も挨拶よろしいでしょうか?」

 このまま放っておいてもルコが話し続けると判断したのか、様子を窺っていた男子生徒が意を決して話し掛けてきた。

「お初にお目にかかります。私はディラン・メリン、アーロから来ました」

「ほう! 神殿騎士か!」

 真っ先に反応したのはジェイではなくライアン。

 ディランに近付いて無遠慮に見ているが、彼はジェイよりも背が高いため、ライアンが見上げる形になっている。

 長い黒髪をオールバックにして、後ろでシンプルにひとつ結びにしている。凛々しい眉をしているが、顔全体の印象としては温厚そうだ。

 そのため今のディランとライアンの姿は、おとなしい大型犬の周りで小型犬がキャンキャンと吠えて威嚇しているようにも見えた。


 ここでアーロの統治体制について改めて説明しておこう。

 アーロは王家ではなく神殿が統治する宗教国家であり、連合王国の中で唯一華族がいない国だ。ディランに家名が無いのも、華族ではないからである。

 ちなみに「メリン」というのは彼の父親の名前だ。家名を持たない平民が、どこの誰であるかを分かりやすくするため、家長の名前を家名代わりに名乗るというのはアーロに限らず他の国でもよくある話だった。


 では華族でないのに華族学園に入学しているディランは何者なのかというと、ライアンの言う通りアーロの「神殿騎士」と呼ばれる者達だ。

 アーロでは王家の代わりに「大神殿」があり、領主の代わりに「小神殿」があって、神殿長が各地を統治している。そして神殿の下でアーロを守っているのが「神殿騎士団」となる。

 この神殿騎士になるためには、厳しい試験をクリアしなければならない。元服したばかりの華族子女では合格するのは難しいレベルの。

 そう、神殿騎士というのは、華族ではないので家格等は関係無く、実力で選ばれた者達である。

 そのためアーロから入学してくる者達は、元服したばかりの華族子女と比べて少し年上になるのが常であった。ディランも十八歳と、ジェイ達より年上である。

 彼から見れば、ライアンはまだ小さな子供のようなものなのかも知れない。

「こちらこそ、よろしく頼む」

 ジェイもライアンの事は一旦スルーして、ディランに挨拶を返した。

「共に切磋琢磨していきましょう」

 微笑み、そう返すディラン。人当たりも良く、何より真面目そうだ。

 そんなディランは屋内用の制服を着ている。

 騎士団を目指す者、そうでなくても武闘派と呼ばれる者達は、ライアンのように実戦用の制服を選ぶ事が多い。しかし既に本職騎士である彼は、そうではないようだ。

 神殿騎士に選ばれたからには、強さも相応のものを持っているはず。しかし彼は、それをひけらかす気は無いという事だろう。


「エラ姉さん、これって……」

「彼がアーロ代表という事でしょうね」

 マグドク、ニパ、アーロと順番に挨拶に来た事で、モニカもひと足遅れて新しい白兎組の状況に気付いたようだ。

「じゃあ、あの人もアーロの偉い人?」

「アーロでは、華族学園を卒業しておかないと神殿長になれないのよ」

 アーロが連合王国入りして以来、そういう事になっている。華族がいないアーロが、学園に神殿騎士を入学させているのはそれが理由だ。

 つまり華族学園に入学した神殿騎士は、後の神殿長候補。セルツ王国で言うところの領主候補。

「将来のエリートって事かぁ……」

「特に優秀な人を送り込んできているでしょうね」

 神殿騎士は華族ではないので、家格等は判断基準にならない。純粋に実力で選ばれた者が送られてきているのだろう。アーロの期待を背負った人物である事は間違いない。



「え~っと、後はタルバ?」

「そうだけど……来ないわねぇ」

 こうなるとタルバからも挨拶に来るかと考え、エラとモニカは周囲を見渡した。しかし、次に動こうとする者はいない。

「あ、ソックがいるから……とか?」

「ソック君、何か聞いてる?」

 エラに問われたソックは「いえ、特には……」と答えた。

 彼は入学当初から白兎組にいた、数少ないセルツ以外の出身者である。

 家格で言えばライアン達とルコには及ばないが、既に友好関係を築けていると考えれば一歩も二歩もリードできているとも言えるが……。


 王都で叛乱が起きたばかりなため、今回のクラス替えでタルバの有力者をねじ込めなかったというのも考えられる。

 その時は別の手で接触してきそうだとエラが考えていると、始業を報せるチャイムが鳴った。

 さほど間を置かずに教室に入ってくる担任。以前の担任は『純血派』で、先の騒動に関わっていたため新しい先生となる。

 しかし、教壇に立ったのは、ジェイ達にとって見覚えのある先生だった。

「あ~……エラ、早く席に着きなさい。聴講生でもな」

 寝ぐせ混じりの長いボサボサ髪に、地味な色合いのだぼっとしたローブ。

 野暮ったい眼鏡を掛けた二十代半ばの女教師。

「ソフィちゃん!?」

 普段は図書館の主。エラが学生時代から友人だというソフィア=桐本(きりもと)=キノザークが、新担任として白兎組の教壇に立っていた。


「……そういえばあなた、実家はタルバだったわね」

 ソフィアは現在、実家から独立してセルツの騎士爵となっている。

 しかし独立する前は、タルバでも有数の領主華族、桐本家の令嬢だった。

 桐本家は、いわゆる「二国に跨り栄えている家」という訳だ。

「……揃っちゃった」

 呆れ気味に呟くモニカ。

 こうしてマグドク、ニパ、アーロ、そしてタルバの有力者が新白兎組に出揃ったのである。

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― 新着の感想 ―
日本にはソンとかスキーとか名乗る文化が無かったから…… 偏諱もこの世界では伝承されなかったようですし。
神話とか聖書で人物紹介する時、長々と先祖をつらつら並べ立てるけど その系列の名乗り方なんやな父の名を使って名乗るって(明後日の方を見ながら
ディラン君は話しかけるタイミングを見計らっていたようなので、てっきりオドオドタイプかと思ったら結構しっかりした人だったのですね。 しかし最後のタルバ出身者がまさかの先生とはこのリハクの(ry
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