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第309話 アルマの休日

「……あれ?」

 明日香が軽い足取りで領主邸を出ると、そこには屋敷に仕える面々が集まっていた。執事、使用人、侍女、庭師もいる。

 何かあったのかと面食らっていると、アメリアと手をつないだジェイが出てくる。

 そして空いた方の手で合図を送ると、彼等は散り散りになって町に向かって行った。

「……あ、忍軍の皆さんですか」

 皆がいなくなったところで明日香が気付いた。学生街の家にいる忍軍とは顔ぶれが違ったため、一瞬分からなかった。


「あ、皆に調べてもらうの?」

 ジェイがやろうとしている事に、真っ先に気付くのはやはりモニカだ。

「ああ、細かいところはな」

「いいんじゃない? 今は目立っちゃうだろうし」

 これから出掛けるのはデート……ではなく、アルマの町を把握するため。そのため町全体を実際に見て回る。

 しかし、今のジェイは「領主の息子」だったあの頃と違い、この地の領主だ。行く先々でその地区の代表が駆け付けてきて騒ぎになるのが目に見える。

 だから忍軍に任せるのだ。普段の彼等は、領主邸に仕える家臣として振る舞っている。

 それを利用してちょっとした仕事、あるいは私用で出掛けているという体で町を見て回る。これも忍者らしい役割と言えるだろう。

「ま、細かいところは後でこっそり見て回るよ」

「影からだね」

 普通に行けば騒ぎになるなら、影世界で見て回ればいい。ジェイだからできる事であった。


「あら? じゃあ、今から行くのは?」

「デートっ!」

「表向きのアピールだな」

 疑問を口にするエラに、ぴょんぴょん跳ねてアピールするアメリア。ジェイは頭を撫でつつ押さえて、その動きを止めた。

 確かにこれからする事は、町を知るという点においてはそれほど大きくはない。

 忍軍がひと通り調べ、その後影世界から見て回る方が隅々まで把握できるからだ。

 そのためこれから町に出向くのは、領民に対するアピールという面が大きい。

「デート~、デート~♪」

「デート~、デート~♪」

 嬉しそうな明日香とアメリア。モニカとエラは流石に一緒に歌い出さないが、こちらも楽しそうだ。

 やはりこれは、家族サービスとしての面が大きいのであろう。



 こうして一行が向かったのは、アルマのメインストリートである大通り。ここは観光客向けの店が軒を連ねている。

 みやげもの屋に並ぶお菓子の数々に、明日香達は目を輝かせた。

「ジェイ、ジェイ、美味しそうですよっ!」

「ひとつもらおうか。ここで食べて行けるか?」

「こちらの席に」

 もっぱら食べたい物を選ぶのは明日香とアメリア。甘いお菓子が中心だ。

 エラは、お菓子に合わせているという魔草茶を主に見ている。

 そしてモニカはというと……そういう定番商品から外れた物にあえて注目していた。

 どうせなら新しい物を発掘したいという商人の娘ならではの視点である。


「……美味いな。これ領主邸の方にひと箱届けてくれ」

「あ、お父様が泊っている宿にも十箱ほど!」

「そっちの料金も、領主邸に回してくれればいい」

「しょ、承知いたしました」

 ジェイは店に立ち寄ると、最後に一番気に入った物をひとつ注文する。

 これは新領主として、領民との関係を築くためだ。領主御用達になるという事で店側にもメリットのある話と言える。

 なお注文するのは、明日香達が選んだ物がそのまま……という事が多い。

 明日香、エラ、モニカは、それぞれに見る目があるようだ。

 特に明日香は、お菓子の趣味は思いのほか上品だ。

 普段はなんでも美味しく楽しく食べられるタイプなのだが、やはり幕府の姫であるのは伊達ではないという事か。

 同じようなノリではしゃいでいるアメリアの方は、結構な子供舌なようなので違いが顕著である。

 ただ彼女は明日香達が選ばないような物を選ぶので、これはこれで需要がありそうなのは確かであった。主に子供向けとして。

 おそらく町の人達からも、アメリアは子供として見られているだろう。

 ジェイ達の同級生というフィルタを外してしまえば、そう見えるのは彼女の姿を最も正確に捉えた結果と言えた。



 それから一行は遊べる所、休める所、様々な場所を見て回る。

 流石にアルマ各所にある公衆浴場には入れなかったが、足湯は堪能する事ができた。

「良い町ね~」

 しみじみと言うエラ。

 観光客としての感想だ。呟いた彼女自身、自覚がある。

 アルマ子爵夫人となるならば、これが故郷の町に対する思いにならなければならない。

 しかし、焦る事はない。おそらくジェイも、アーマガルトはともかくアルマに対して今はそこまでの思い入れは無いだろう。

 これから一緒に歩んでいける。そう考えると、それも悪くないと思えた。

「それにしても……」

「どうしたんですか、エラ姉さん」

「今頃お爺様は宮廷で苦労していると思うと……こうやってのんびりしているのは悪い気がするわね」

 そう考えてしまうエラ。今はまだ、彼女は「宮廷華族の娘」であった。

 今回のタイトルの元ネタは、映画『ローマの休日』です。

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― 新着の感想 ―
厄介な客人の相手が良いか戦後処理が良いかの2択を迫るのもどうかと思うよ?(スットボケ
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