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第308話 パパは16歳、娘も16歳?

「…………あ」

 床を転がっていたモニカが、ピタリと止まった。

 気付いたのだ、自分の魔法『天浄解眼(てんじょうかいがん)』ならばアメリアの年齢が分かるのではないかと。

 彼女の魔法は書面上に書かれた文章の間違っている箇所が、使用者にだけ赤く光って見える。これならばアメリアの年齢の真贋を確かめる事ができるだろう。

 ただし問題もある。たとえば紙にアメリアの名前と十六歳とだけ書いても『天浄解眼』は上手く発動しない。何故ならば、それが何に対する答えなのかが不明瞭だからだ。

「ちょっと待ってて!」

 そう言って部屋を飛び出したモニカは、一枚の書類を手に戻ってきた。息を切らせながら。

「ハァ、ハァ……これ、書いてくれる? この部分だけ、でいいから……!」

「……もうちょっと体力つけたら?」

 呆れつつ受け取るアメリア。ジェイをパパと呼び始めた彼女だが、モニカはママ判定ではないらしい。

 手渡されたのは、シルバーバーグ商会で使われている従業員を管理するための書類。名前、年齢、住所、更には経歴や特技を書く欄もあるが、今は前半部分だけを書いてもらう。

「これでいーい?」

 クイッと眼鏡の位置を直しつつ魔法を発動。魔素の光を宿した瞳で書類を覗き込むと、案の定十六歳と書かれた欄が真っ赤に光っていた。

 更に言うと、名前の欄も「高城」と「フォーサイス」の部分が光っていた。もう彼女にとってそれは正答ではないようだ。

「……年齢、いっこ下げて」

 とりあえず名前に関してはスルーして、年齢部分だけ書き直してもらう。

「……もういっこ……もういっこ……」

「何回やるの?」

「……もういいよ」

 更に二回書き直してもらったところで、赤い光が消えた。

 そこに書かれている年齢は……十三歳。

 モニカは大きくため息をつく。もしやと思っていたが、予想通りの答えが出た。

「ジェイ……この子、十三歳だ」 

「思ってたより……上だな」

「パパひどいっ!!」

 パパと呼び始めてからの言動は、更に下にも思えた。

 その姿は華族子女としてはまだまだ要勉強といったところだ。

 しかしジェイは、彼女が子供時代をやり直しているのではと思えてしまい、どうにも怒る気にはなれなかった。


「……まぁ、そう呼ぶ分には好きにすればいいさ」

「やたっ!」

「ジェイ君、いいの?」

「実際に養子にするかは別問題だけど」

 継承権が絡むため、そこは重要である。

 ジェイの養子になるという事は、昴家の継承権を得るという事。この場合、昴家の持つ爵位の継承権も同時に得る事になる。

 「アルマ子爵」に関してはジェイ個人のものなので彼の裁量次第だが、「アーマガルト辺境伯」に関してはそうはいかない。今その爵位を持っているのは、父カーティスなのだから。

 そのため本気でアメリアを養子にするならば、家族との相談は必須となる。

「パパ~、パパ~♪」

 しかしアメリアは、その辺りは気にしていないようだ。

 パパと呼べる事自体を喜んでいるようで、小躍りしながら歌うようにパパ、パパと連呼している。

「いいのかなぁ……」

「でも、なんだか楽しそうですよ?」

 二人の反応の差は、明日香はとりあえずアメリアが嬉しそうだで終わっているのに対し、モニカがこれにより起きかねないトラブルを考えてしまうからだろう。


 アメリアの立場に関しては、ひとまずこれで落ち着く事となる。

 というのもこの件、ただの書類の不備ではない。タルバ華族の高城家が、華族学園ひいてはセルツ王家を謀ったという事になる。こうなるともう縁談どころではなくなるのだ。

「えっ? なんかまずいの?」

「まずくなるのは高城家だな」

 罪状がひとつ増える事になるだろう。

 タルバ王家への叛乱に加えて、セルツ王家への詐欺。二つの王家に背いた家と考えると、後の歴史書に名前が記される可能性も否定できない。

「だからアメリアが気にする事はない」

「は~い♪」

 アメリアは利用された立場なので、罪に問われる可能性は低い。

「この件は、私が王家と話しておきましょう」

 それを確実にするためにポーラが動いた。

 自分が創設した華族学園に対する不正なので、彼女にとってもこの件は他人事ではないのだ。

「お母様、それでしたら私の祖父と」

「ああ、宰相でしたね。分かりました、会ってみましょう」

「すぐに連絡します」

 エラが魔動伝話でこの件を伝えたところ、タルバの事後処理にも関わってくるためすぐにでも話し合いたいという答えが返ってきた。

 するとポーラは「夕飯までには帰ります」と言うやいなや、壁に魔法で『青の扉』を開いて内都に行ってしまった。後は二人に任せれば、問題無く処理してくれるだろう。

「……あれ? ジェイ、ジェイ、お仕事どうするんですか?」

「あっ……」

 あっという間にいなくなってしまったため、指導する者がいなくなった事にジェイ達が気付くのにしばしの間を要した。


「つまり、今日のお仕事はもう終わり?」

 目を輝かせるアメリア。その隣で明日香も目をキラキラとさせている。

「いや、母上がいなくてもできる事をやるから」

「えー」

「えー」

「何もしてなかったら、それはそれで後が怖くないか?」

 ポーラの厳しめ指導が待っていそう的な意味で。

 二人は不満気だったが、ジェイの言う事ももっともなので反対しにくい。

 しかし、彼の次の言葉で二人の表情は一変する。

「この町を、しっかり把握するぞ。この前は、そんな暇無かったからな」

 領主として、この町を知る。それが次の仕事だ。

 実際に町に出て、見て回る事になるだろう。これはジェイがアーマガルトにいた頃にもやっていた事だ。

「ああ、あれかぁ」

「確かに、それは大事ね」

 真っ先に納得したのはモニカ。エラもすぐに理解した。

 アメリアと明日香はしばし顔を見合わせた後、再び目を輝かせる。

「それってつまり……遊びに行くの!?」

「つまりはデートですねっ!!」

 皆で町に出る事を、そう解釈したようだ。

 二人はジェイに飛び付き、左右から腕を取ってさあ行こう、早く行こうと急かす。


 そんな二人を眺めながら、モニカがポツリと呟いた。

「……どっちかと言うと『探険』だと思うなぁ」

 というのもジェイがアーマガルトで町を見て回ったのは、サルタートの戦いの後の事。

 幕府の隠密部隊がアーマガルトに潜入するようになり、潜伏できそうな場所を把握しておくためだ。

 あの時は、それこそ町の隅から隅まで調べて回った。

 同じように調べるならば大変な事になるだろうなと、モニカは頬を引きつらせる。


「モニカ、行くぞ~」

「あ、は~い」


 しかし、ジェイに呼ばれると彼女はいそいそとついて行く。

 あの時も一緒にいたい一心で、最後までジェイに付き合ったモニカ。

 そんな彼女に、大変そうだからと一人留守番する選択肢は無いのだった。

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― 新着の感想 ―
すっかり家族の一員っぽいですね、アメリア
つまり妹枠かぁ
アメリア13歳か…。 しかし、自分が関知していないことでもウソ発見器(天浄解眼)が発動するのね。
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