第307話 パパは子爵さま♪
それからのアメリアは、逃げる事なくポーラの付き人をこなすようになった。
指導も真面目に受けている。これまでを考えると見違えるような態度だ。
「褒められちゃった!」
「偉いぞ、アメリア」
それがポーラに褒められると、ジェイに報告しに行くのだ。それはもう嬉しそうに。
そう、まるで小さな子供が親に褒められたがっているように……。
「マジで?」
件のパパ発言を明日香から聞いたモニカは、呆れ混じりの声で呟いた。
流石に同学年男子の子になりたいというのは、テレビのドラマでも見た事が無い。
「でもでも、あれって……」
「ハッハッハッ、明日香の小さい頃を思い出すな!」
娘を持つ父親から見ても、娘のようであった。
本日は、龍門将軍が領主邸を訪れていた。ジェイが領主の仕事にかまけて会いに行かなかったためである。
なお直後、仕事の邪魔だとポーラによって退場させられている。
ただ、実際ジェイとアメリアのやり取りは、傍から見ていると微笑ましくも見える。
しかし、娘のようにと言うが、それはそれでまずいのではないか。モニカには何故かそう思えてならなかった。
助けを求めるようにエラに視線を向けると、彼女はジェイ達を見て不思議そうに首を傾げている。
「どうしたんですか? エラさん」
「いえ、ちょっと気になったんだけど……」
そう言う彼女の視線は、頭を撫でてとおねだりしているアメリアに向けられている。
「あの子……本当に申告通りの年齢なのかしら?」
「…………えっ?」
身も蓋も無い話ではあるが、アメリアは孤児である。
そのため彼女の経歴は不明な部分が多い。親が魔法使い――『純血派』の華族ではないかと言われているが、手掛かりになるような物は一切無かった。
その後高城家に見つかり、養子となった訳だが……。
「どうしてそんな事を?」
「学園入学が大体十六歳だから、それに合わせて申告したのかも……って思ったのよ」
「えぇ……」
だが、改めて見てみると、アメリアは小柄な少女である。実際の年齢はもう少し下ですと言われれば、素直に信じてしまいそうだ。
「いや、でも……それなら時間掛けて勉強させれば、今こんなに苦労しなくても済んだんじゃ……」
「それは私も思うんだけど……ほら」
「ほら?」
「……蜂起の計画があったからじゃないかなって」
「あ~……」
言われてモニカは納得した。
仮に一年掛けて華族子女として教育するとしても、その一年以内に連合王国そのものをひっくり返すつもりなら無意味になるという事だ。
それよりも他の『純血派』の家を手を結ぶために縁談の駒がいた方がいい。
そのために年齢を誤魔化して、華族学園に入学させた。つまり婚活できる年齢という事にしたというのは十分に考えられる。
もちろん学園を、ひいてはセルツ王家を欺いているのだから、れっきとした罪である。
「という訳で、確認しておきたいんだけど……アメリアってホントは何歳なの?」
「今なら新しい家を興す時に直せるわ」
百魔夜行戦の褒賞で、新しい家を興す事は既に内定していた。
タルバでの蜂起の件で裁かれる事となる高城家と切り離すためでもある。
「じょーじょーしゃくりょーの余地はあるみたいですから、白状しちゃいましょう!」
「いや、アメリアが悪い事した訳じゃないから!」
明日香の天然ボケに、モニカがツッコんだ。
しかし問われたアメリアは、きょとんとした顔だ。
そして彼女は、こう答える。
「……えっ? 私十六歳じゃないの?」
なんと本人も、自身の年齢を把握していなかった。
「……アメリアは本名?」
「流石にそれは覚えてるって」
幼い頃、母親からそう呼ばれていた事は確からしい。
「お母様、年齢を調べる魔法ってありますか?」
「聞いた事ありませんね」
そんな事に魔法を使うなという話である。
魔神に到達すれば、年齢など無意味になるという文化だったのだから尚更だった。
改めて話してみると、やはり年齢を誤魔化しているのではという疑惑が拭えない。
というのも、エラから見れば妹と話しているような感覚。十六歳というには子供っぽいのではと感じられたのだ。
ただ単に精神年齢の問題という可能性もあるので、確証には至らないが。
では、自称同い年に父扱いされている当のジェイはどう考えているのか?
「別にいいんじゃないか?」
なんと、特に気にした様子は無かった。
なんだかんだで真面目になったアメリアを可愛がっている。
「その……気にならないの?」
おずおずと問い掛けたのはモニカ。自分なら気になって仕方がないだろうという思いがある。
ジェイはそんな彼女をじっと見つめ、そして笑みを浮かべる。
どうして笑われたのか分からず戸惑うモニカ。
そんな彼女に、ジェイは笑いながら答えた。
「いや、なぁ……覚えてないか?」
「何を?」
「昔のモニカ、あんな感じだったぞ?」
「……………………え゛っ?」
そう、ジェイは同年代に甘えられるのは経験済みだったのだ。他ならぬ幼い頃のモニカによって。
「そ、そういえば……」
モニカは思い出した。
初めて出会った頃、同い年のジェイがやけに大人びて見えた事を。
幼いながらもジェイに憧れた彼女は、それから彼について回り、そして甘えたのだ。そう、今のアメリアのように。
「……あっ! あああ!」
そして彼女は気付いてしまった。今の娘のように甘えるアメリアをまずいのではないかと思ってしまう理由を。
そう、あの時の自分と重ねてしまうのだ。
無邪気に甘えているように見せて、内心どうすれば仲良くなれるだろうと考え巡らせていた自分と。
まずいと感じてしまうのは、あの頃の自分に下心があったから。無意識の内に、アメリアもそうではないかと考えてしまったのだ。
蘇った記憶が、黒歴史が襲い掛かる。
「あああ、あの時は~~~!!」
突然のショックにモニカは悶絶し、絨毯の上を転げまわるのだった。
なお、今のアメリアにもあの頃のモニカのような下心があるのかどうか。それはジェイ達には分からない。
「いいなぁ、仲良しで……」
もしかしたらそれは、アメリア自身にも分かっていないのかも知れなかった。




