第302話 話が違う!!
ラフィアスが訪ねてきてから数日後。
ジェイが朝目を覚ますと、隣で眠っていたはずのエラの姿が無い。
何かあったのかと起床し姿を探してみると、魔動伝話で話す彼女の姿を見つけた。
「おはよう、エラ。何かあったのか?」
通話が終わったのを見計らって声を掛ける。
「あら、起こしちゃいました? お爺様からの連絡よ。論功行賞の進み具合について」
「こんな時間に?」
まだ早朝と呼べる時間帯だ。
「……これから就寝するそうです、お爺様」
「そ、そうか……」
そんな時間まで働かざるを得ない人もいる訳だが。
それはともかく、内都の方は順調に戦後処理が進んでいるようだ。処理する量が多過ぎるだけで。
戦死者・負傷者への手当てが終わり、今はタルバとの協議が進められているらしい。
今回のセルツを狙った魔神ダ・バルトの陰謀。タルバ華族である『純血派』は共謀していた立場となる。
タルバ王家も被害者だが、まったく責任が無いとは言い難い。
この件の落としどころをどうするかを協議しているらしい。
冷泉宰相がどうしてそのような話を伝えてきたかと言うと、その件はジェイ達も無関係ではないからだ。
「……アメリア?」
「アメリア」
具体的には、現在彼等の保護下にある魔法使いの少女、アメリア。
彼女は『純血派』のタルバ華族である高城家の養子であり、その家は叛乱側としてタルバ王家に処罰されようとしているのだ。
では、アメリアはどうするのか? それについて現在保護しているジェイの意向を窺おうとしたのが先程の伝話だったのだろう。
今から二度寝という雰囲気でもない。二人は居間に移り、話を続ける事にした。
既に起きていた彼女の侍女に、魔草茶を用意してもらう。
ソファに並んで腰掛け、魔動テレビのスイッチを入れる。丁度「ポーラ・スチューデント・ニュース」略して『PSニュース』が始まったところだ。
「あら、ロマティちゃん」
画面に映ったクラスメイトの姿に、エラは思わず顔をほころばせる。
「レポーター任されるようになったのね」
「危険がある場所に送り込める人は限られているだろうからなぁ……」
ロマティは、尚武会に出場して勝利した経験もあるので適任なのだろう。
と言っても、彼女がレポートしているのは繁華街の被害状況なので、あまり微笑ましい内容ではない。
今日も『PSニュース』の話題は、百魔夜行と魔神襲来の件が中心のようだ。
やがてロマティのレポートが終わり、画面がスタジオに戻る。
今回の百魔夜行とタルバの叛乱、その関係についての専門家による解説が始まった。
その専門家は、叛乱を防げなかったタルバ王家の責任についても言及している。
間違った事は言っていないのだが、このままタルバを責める流れが生まれてしまうのは少々まずい。宮廷が協議を急いでいるのは、この辺りにも理由がありそうだ。
その一環としてアメリアを、ひいては高城家をどうするかという話になるのだろうが……。
「と言っても、アメリアはこちら側で百魔夜行と戦ったんだから、褒美をもらうならともかく罰せられる理由は無いだろう?」
「それを理由に、高城家を免罪するかが問題なんじゃないかしら?」
「ああ、そっちか……」
難しい問題である。これを機に『純血派』の勢力は削れるだけ削りたい。それはセルツ王家、タルバ王家に共通する思いだろう。
アメリアの武功をもって高城家に恩赦を与えて生き残らせた場合、それが後顧の憂いにならないかと危惧しているのだ。
「それは虎臥家も同じじゃないか?」
ラフィアスの家である。こちらは領主華族であり『純血派』の中でも指折りの大物だ。高城家とは比べ物にならない。
そもそも魔法使いが数を減らした『純血派』の中から、嫡男ラフィアスに三人の婚約者を用意できるのだから、派閥内の立場の強さも察する事ができるというものだ。
「魔神と戦った功績もあるし、実質的な当主交代の方向で調整するんじゃないかしら?」
「卒業はまだ先だが」
華族学園を卒業しなければ華族家当主になれない。これはタルバも同じである。
「だから実質的、よ」
「……なるほど」
実際に当主交代するのはまだ先だとしても、今の当主から権限を剥奪しておくという事だ。穏便な判断だと言えるだろう。
ならば高城家も同じようにするかとなると……これがまた難しい。
何故なら、ラフィアスならば今すぐ当主を任せてもやれるだけの能力を備えているが、孤児育ちでまだまだ教育も足りないアメリアはそうもいかないのだ。
更に言えば、虎臥家で生まれ育ったラフィアスならば家をまとめる事もできるだろう。反抗する者がいたとしても、自力でどうとでもできるはずだ。
しかし、養子になったばかりのアメリアではそうはいかない。彼女一人では、反抗する者を押さえる事もできないだろう。
「強い後見人でもいたら話は別でしょうけど」
「それって……」
「お爺様は、それが知りたかったんだと思うわ」
後見人候補となるのがジェイだ。彼自身がアルマ子爵であるため、その資格はある。
と言うより他に候補がいない。アメリアに華族の知人など学園関係者ぐらいしかいないのだから。
もしジェイが断るというのであれば、他の後見人を用意する必要がある。そのため冷泉宰相は、早急に確認しておく必要があったのだろう。
「それで、どうなの?」
「どうって言われてもなぁ……」
その件について考えるならば、ジェイ達にも確認しておかねばならない事があった。
「そもそもあいつ、当主になる気あるのか?」
そう、アメリア自身がどう考えているかである。
「えっ? 嫌ですけど? むしろ縁切りたいんですけど?」
なお、起きてきたアメリアに直接尋ねてみたところ、眠そうだった目をカッと見開いて返してきた答えがこれである。
一連の出来事で散々振り回された彼女は、むしろタルバに戻りたくないとさえ考えていたのだ。
「ていうか、それが褒美!? かなり罰ゲームだよ、それ!!」
これからの『純血派』の扱いがどうなるかと考えると、割と正確な分析と言える。
「何それ!? 絶対受けなきゃいけないの!?」
「いや、まだ決まった訳じゃない」
「決めなくていいーーーーーっ!!」
朝早くからの大絶叫である。本気の嫌がりであった。
その様子を見たエラは、すぐ実家に伝えなければと伝話するために席を立つのだった。
今回のタイトルは、この件に関しては各方面が言いたくなりそうだな……と。




