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第303話 アメリアは にげだした!

 エラの伝話は、冷泉家の執事が受けた。その内容が書かれたメモは、冷泉宰相が起床するとすぐに手渡される。就寝したのが早朝であったため、それは昼過ぎの事だった。

「フム……そういう事なら話は早いな」

 メモを読み終えた宰相は、目を細めてニィッと唇の端を上げる。見る者を戦慄させそうな笑みだが、老齢の執事は慣れたものだ。

 アメリアの件は、大きな問題を抱えている。

 まず彼女が魔法使いである事。

 ご存知の通り現在魔法使いは衰退し、著しく数を減らしている。どの国も喉から手が出るほど欲しがる存在だ。

 しかも『純血派』の思想に染まっていない魔法使いとなると、その希少性は更に跳ね上がるだろう。

 アメリアはタルバ華族である高城家の養子であるため、優先権は当然タルバにある訳だが……。

「本人が継ぎたくないと言っているのだから、仕方がないな」

 仕方がないと言いつつ、嬉しそうな冷泉宰相。

 彼女が縁談から逃げていた事は把握している。その相手がタルバの新たな英雄となったオーサであり、彼の祖母が内都で色々と暗躍していた事も。

 何より、今のタルバには魔法使いに対する悪印象が強いだろう。

 あちらで武功を挙げて英雄となったオーサはともかく、何の後ろ盾もない、武功を挙げたのもセルツでというアメリアが戻れば、どのように扱われるか。

 冷泉宰相個人としてはどうでもいい話だが、交渉のカードには使える。

 どうしてくれようかとほくそ笑む剣呑な姿。この家に仕えて長い執事は「そういうところでございます旦那様」という内心をおくびにも出さずに、慣れた手付きで魔草茶を淹れるのだった。



 再び宰相から連絡が来たのは、それから数日後の事だった。

 国同士の交渉が間に挟まったと考えると、かなり早い返事だと言える。

「という訳で……アメリアは百魔夜行撃退の功により、セルツで騎士に叙爵される事になった」

「決まった事!?」

 アメリアは思わずソファから腰を上げた。

 こういう褒賞はどうかという確認ではなく、決定事項の通達であった。

「普通はそんなものよ。宮廷側が気をつかうような一部を除いて」

 そう言うエラの隣に座るジェイが、その一部である。

 向かい合う形にアメリアは、再びソファに腰を下ろしジト目をジェイに向けた。

「その目付き……お前、分かってないな。宮廷の配慮を」

「分かるわけないじゃん。見てみる? この前の私のテストを」

 自信満々の態度で鼻を鳴らすアメリア。見なくてもよろしくない点数である事は分かった。

「じゃあ、順番に説明するけど……」

 エラが諭すように話す。

「まず何もしなければ、あなたはタルバに帰らないといけないの」

「なんで!?」

「あなたがタルバ華族だからよ」

 養子でも高城家の一員である事は変わらない。

「いや、あいつら叛乱起こしてたんでしょ? もう無くなるんじゃないの? 高城家」

 高城家が無くなる事については何とも思っていない様子だ。

 むしろ追っ手を出すところがひとつ無くなるとでも考えているのかも知れない。

「アメリアの功績を相殺して、今の当主は隠居。アメリアを新当主にして終わりじゃないか」

「だから、それはイヤって言ったよね!?」

 実際このままでは、ジェイの言う通りになっていただろう。

 タルバとしても困った話なのだ。叛乱に参加した高城家はお取り潰しにしたいが、セルツで武功を挙げたアメリアもまとめて処罰するのは問題となる。

「だから宮廷は配慮して、セルツに残れるようにしてくれたんだよ」

「宮廷って、セルツの?」

「多分タルバも」

 筋の上では、アメリアはタルバに戻らなくてはいけない。 

 しかし、そうするとタルバはここで潰しておきたい『純血派』の家を残してしまう事になる。

 『アーマガルトの守護者』のクラスメイトというコネを持つソック。

 ガチガチの『純血派』であった祖母ヤマツに逆らいタルバの新たな英雄となったオーサ。

 この兄弟が当主となる家ならば、叛乱を起こした『純血派』のようにはならない。残党に利用される事も無いだろうと信用できる。

 しかし「当主アメリア」は、そうはいかない。

 今の彼女を見れば分かるだろう。アメリアでは、彼女を利用しようと近付いてきた者達に対処できない。

 当主の座を放り出して、出奔してくれればまだマシ。それが今の彼女の評価である。

「後見人がいれば、なんとかなったかも知れないが……」

「コウケンニン? どこで手に入るの?」

 この調子なので、高城家も元々後見人を用意していたのではないだろうか。

 もっとも高城家の関係者から選ぶと、おのずと『純血派』になるため、もういなくなっている、あるいはこれからいなくなる可能性が高いが。

「今から戻った場合は、そうねえ……タルバの宮廷が信用できる後見人をつけるんじゃないかしら?」

 王家が後見人を用意する事で、近付く残党があれば即座に対処できる態勢を作る。これしかないだろう。

「その時はアメリアは監視下に置かれて、自由は無くなるだろうな」

 当然、後見人は監視役だ。残党だけでなくアメリアも見張られる事になる。

「その時は逃げて……」

「そんな事したら軟禁されるぞ」

「なんで!?」

 脅すような物言いのジェイだが、でたらめを言っている訳ではない。

 魔法使いの血は、それだけ希少なのだ。それが行方知れずになってしまう事はなんとしても避けなければならない。

「そりゃあ……魔法使いがいなくなったら、次にどこで生まれるか分かったもんじゃないからな」

「うっ……」

 他ならぬアメリア自身が、その証拠である。

 なにせ彼女も、ストリートチルドレンの中から目覚めた魔法使いであり、親がどこから来た誰なのかは分からないのだから。


 繰り返すが、筋の上ではアメリアはタルバに戻らなければいけない。

 しかしタルバの本音としては、戻ってきてほしくない。

 今のタルバは、魔法使いの印象がすこぶる悪くなっている。安全確保という意味でも厳しいのが現状なのだ。

 セルツ、主に冷泉宰相との交渉がスムーズに進んだ背景には、このような事情があった。


「で、セルツで騎士になった場合なんだが……その時は俺が後見人になる」

「……ジェイが?」

 縁談から逃げたアメリアを匿った縁、というのが表向きの理由だ。

「それって学生でもなれるもんなの?」

「アルマ子爵の寄騎って扱いだそうだ」

 ジェイは学生でありながら子爵家当主でもあるため可能となった荒業だ。

 王家から見た場合、ジェイは貴重な『純血派』の影響を受けていない魔法使い。その保護下におく事で、アメリアにもそうなって欲しいという思いがあるのだろう。

「う~ん……」

 そんな裏事情を全く理解していないアメリアはというと……。

「……ま、いっか。それなら」

 現状と大して変わらないと判断した。

 実際、今の彼女に役目を任せられるかと言われると否なので、大して変わらないというのは間違いではない。

「じゃあ、改めてよろしく!」

「……こちらこそ」

 友達と握手するように手を差し出すアメリア。

 ジェイは少し間を置いて、その手を握る。

「まずは礼法からだな」

「…………え゛っ?」

 変わる事があるとすれば、それは立派な騎士になるために学ばなければならない事が押し寄せてくる事だろう。


 アメリアは逃げ出そうとした。

 しかし、ジェイが握った手を離す事は無かった。

 しかし まわりこまれてしまった!


 今回のタイトルは、ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズの逃げ出した時のメッセージです。

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― 新着の感想 ―
アメリア、教師がジェイ達からで済んでる間に諦めないと母上様(と書いてスパルタ教師と読むモード)が初手から出てきてグチる余裕すら無くなると思うよ。
やっぱりアメリアも嫁になる(させられる?)んじゃないかな。
しかし、魔王からは逃げられない。
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