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がなぶのだお  作者: 三郎
7/12

二つの約束

黒スーツの男は赤い太い杖を持っていた。

それがただの杖でないのは二秒後に分かった。


男はその杖を右手で握り締め、思いっきり、横一文字に払った。

杖がいつの間にか青白く光る日本刀に変わっていた。

仕込み杖だったのだ。



その刀は音羽の両目を襲った。


音羽は目を手で覆いながら悲鳴を上げ、床の上を転げまわった。

目を覆う指の隙間から血があふれているのが見える。


それを呆然と見ていた三人は思わず失禁してしまった。

ズボンが濡れていくのも感じなかったのだろう。

開いた口がワナワナ震え顔は青ざめていた。


男の形相は鬼だった。

目尻は吊り上がり、眉間の縦ジワは二本額の中央まで刻んでいた。ただ、口元は微かに笑みを浮かべている。それが一層不気味に見えた。


「大口、次はお前だ」男は隣に立ち尽くしている学生に言った。


大口は慌ててその場を離れた。

走りながら座っている乗客に助けを求めた。


「誰か助けて!人殺しだ!助けて!」

しかし、乗客達は動かない。まるで皆、蝋人形のように無視だ。


運転車両まで来た大口は運転席のドアを激しく叩き大声を上げた。


「助けて!助けて!死にたくない」


運転手は変速レバーを持ったまま前方を見つめたまま座っている。まるで時間が止まっているように。


「殺しはしない。お前の首を切るだけだ」

黒スーツの男が大口の直ぐ後ろに突然現れた。


大口は振り向いた。

目から涙を流し体を震わせ言った。

「死ぬのは嫌だ…もう、もう悪いことはしません…助けて…」


「安心しろ。殺しはしない。ただ、ちょっと痛いだけだ」

そう言った男は刀を二、三度、素早く振った。


「ギャー」大口は叫びながら床に倒れた。

大口の両手は手首から切り離され、血飛沫がその傷口から噴出した。

が、その血飛沫は空中に放たれると、急にスローモーションのような動きになった。


「両手のない人生をお前にプレゼントだ」


黒スーツの男は、腰を抜かしているモヒカン頭と、鈴木の前に立った。

音羽は相変わらず大声を出して床を転げまわっている。


「お前達二人は大目に見てやる。五体満足の体で過ごすがいい。ただし、二つの事を約束すればだ」


そう言われたモヒカン頭は黒スーツの男を見上げた。


「ひとつは、この事は誰にも言うな。もし言えば再びお前達の前に現れ今度はお前達の首を切り離すぞ…」


モヒカン頭と鈴木は激しく頷いた。


「もう一つは、あの子供だ」

男は椅子に苦しそうな顔で喘いだままの子供を指さして言った。


「あの子供の力になってやれ」


「あのガキ、いえ、あの子の力に?」鈴木は口を震わせ尋ねた。


「そうだ、この二つの約束を必ず守れ」



そう言いながら男は刀の切っ先を二人の首筋に強く押し付けた。

首は微かに切られそこから血がにじみ始めた。


「覚えておけ。わしはいつでもお前達を見ているからな」

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