六天魔王
急に静かになった。
音羽 博は周りの音が突然無くなったのに驚いた。
小学生の首を絞めていた手の力を抜き辺りを見回し始めた。
「急に静かになったけど、電車止まったのか」
そう言ったのは、隣にいる大口 正二だ。
「止まる時の衝撃は無かった。何かおかしい」
そう言いながら後ろを見た博は首をかしげた。
今まで自分達が座っていた座席に見慣れない中年の男が座っているのだ。
「あんな奴いたっけ?」
「うわー、やばいよ、これ」
子供のランドセルをひっくり返した鈴木が大声で叫んだ。
「なんだ、急に喚くな」音羽は怒鳴った。
「ハエが止まってる」
「ハエ?ハエが止まっているだけでそんなに大声出すのかよ。こいつの虫嫌いにも程があるぜ」
大口はあざ笑った。
「違うよ、見ろよ。このハエを見ろよ」
鈴木は目の前の空中に指差した。
その指先には、子バエがいた。
子バエは空中で羽を広げて静止していた。
時間が止まったようにそのハエは、動かずにいるのだ。
いや正確に言えば動いている。
スローモーションのように少しづつ羽を動かしているのだが
それは、フィルムを極端に遅くコマ送りしているように動いているので一瞬止まっているように見えるのだ。
「どうなってんだよ」
音羽は周りの仲間に尋ねた。
「どうもなってない。ただ時間が少しユックリ動いているだけだ。わし達以外はな」
そう言いながら黒スーツの男が椅子から立ち上がった。
「どうだ、モヒカン頭。空耳じゃ無いことがわかったろう」
黒スーツの男は床で腰を抜かしている男に言った。
腰を抜かしているモヒカン刈りの中学生は中年男が話す、今までの会話を全て聞いていた。
「なんだ、クソ爺!痴呆症で気でも狂ったか」
音羽は黒スーツの中年男に怒鳴りつけた。
「わしはまだ五十前だ。爺じゃない。ましてクソでもないぞ!」
「お前なんか地獄に片足を突っ込んだクソ爺だ。俺が地獄に送ってやろうか」
音羽は黒スーツの男を罵った。
「地獄も味わったことの無い奴が地獄という言葉を使うな。
まあ、直ぐにお前に地獄を見せてやるがな。
ところで、音羽、お前の行った罪をここで神に変わって暴露してやる。
夜中に浮浪者の集まるところに行って金属バットでお前とその横に立っている男、二人で襲っていたな。
お前達のせいで半身不随になった人間が五人。死んだ人間が二人。警察はお前達に目を付けたが証拠不十分で
お咎めなしだ。神は見過ごしてもこの六天魔王のわしはお見通しだわ」
「な、何で俺の名前を?」
「全て知っているさ。これからお前が味わう地獄の苦痛もナ」




